日本最大級の映像クリエイターカンファレンス『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズ・トーキョー)』が、2022年6月10日(金)、11(土)の2日間にかけて開催される。
Vookが2019年より主催してきた本カンファレンス。第3回となる本年は、テーマを「映像に、新しいキャリアと可能性を。」とし、錚々たるクリエイターとともに、映像の新たな可能性を模索していく。
VGT開催にあたり、今回は登壇者の1組であるYouTubeチャンネル「テレビ朝日映像撮影部」の立ち上げ・運営を手がける、森岡佑介氏にインタビューを敢行した。
テレビ朝日映像撮影部は、テレビカメラマン歴20年以上のベテラン現役カメラマンたちが、その撮影・照明・音声収録ノウハウや、現場の裏話を発信するYouTubeチャンネル。2021年3月に立ち上げ、すでに4万8000人を超える。
配信者がテレビ制作会社のプロカメラマンという、業界でも数少ない現場のリアルな声が聞ける同チャンネル。立ち上げのきっかけや、配信のコツ、制作のこだわりを大いに語ってもらった。
「現場力」の正体をつかめ! 冴えわたるカメラワークの極意
日時:6月10日(金)13:50〜15:10
※詳細は、こちら
*編集部注)よく勘違いされるそうだが、「テレビ朝日映像撮影部」はテレビ朝日映像が立ち上げたチャンネルであって、テレビ朝日の「撮影部」ではない。
また「テレビ朝日映像撮影部」はあくまでYouTubeチャンネル名としての名称であり、テレビ朝日映像の部署名ではないことを留意したい。
- テレビ朝日映像撮影部森岡 佑介
テレビ朝日映像の現役カメラマンが、カメラの使い方や撮影のテクニック・テレビ番組の撮影現場の裏話などを発信するYouTubeチャンネル「テレビ朝日映像撮影部」。2021年3月に開設し、現在チャンネル登録者数は4.8万人(2022年5月時点)。
個の時代に「プロの強み」を活かす
——YouTubeチャンネルは、どのようなきっかけで始めたのでしょうか。
森岡:いまの時代は、組織に蓄積されてきたノウハウを内部にとどめておくべきではありません。僕自身、以前からそんな考えがありました。
テレビ朝日映像には、技術部があり、テレビ朝日グループに限らず、フジテレビさんやテレビ東京さんなど外部からの依頼も受けて、ロケーション撮影や、法人への機材レンタルなどを行っています。
一方で僕は、技術部とは別のデジタルソリューション部で、他のYouTubeチャンネル立ち上げに携わってきたため、YouTubeチャンネル運営のノウハウがありました。
そこで、新たなクリエイターを集める意味もこめて、「やってみますか」と何気ない会話からチャンネル立ち上げに至ったのです。
しかも調べると、撮影や編集技術を発信しているアカウントは個人がほとんど。そこに法人で蓄積したノウハウを体系立てて発信することには、一定の価値があるとも考えました。
▲特に動画の投稿本数も多いSONY α7Ⅲの初期設定を解説している。個人ではなくプロのテレビカメラマンが解説することで、他チャンネルとの差別化となっている。
「希少価値」がファンを作る
——2021年3月の立ち上げから、すでにチャンネル登録者数は4万8000人を超えていますね。
森岡:想像以上に伸びています。
画角の中におじさん2人なので、いっても1年で1万人程度を想定していました。ですが毎回、過去動画の人気を超えつつ安定的に再生回数・チャンネル登録者を獲得できました。
——安定獲得の要因は何だったのでしょうか。
森岡:結果からいえば、一つひとつの動画でファンを作れてきたということだと思います。
当初の狙い通り、個人のYouTuberでは「真似できない」、そして「他では見られない」情報を発信できているからこそ、右肩上がりで伸び続けているのだと思います。
ただ、登録者数がさらに伸びるにはもう少し時間がかかると思っていました。そうした中で特に大きく視聴数を伸ばしたのが、及川奈央さんとのコラボ回です。
——女優の及川奈央さんを被写体とした照明テクニックを解説した動画ですね。
森岡:そうです。こうした撮影ノウハウを発信するチャンネルは、女性だとフォトグラファーの、もろんのんさんなどが知られていますが、得てして男性が多い。
こうしたコンテンツに女性が携わるだけでも、ギャップが生まれ「希少価値」になる。そうした思いから女性にも多く参加してほしいと思っていたところに、及川奈央さんから、コラボしませんかとお話をいただいたのです。
登録者増加の直接的要因とは言い切れませんが、実際この回は10万再生以上、それまでの2〜3倍の視聴数を獲得しました。
▲2021年10月1日に公開したこの動画は、2022年5月現在、13万回再生されており、投稿されている動画の中でも特に再生回数が多い。
——現在までYouTubeチャンネルを運営してきて、どのような反響がありますか。
森岡:もともと取材や企業案件を受けることも見据えて始めたのですが、思ったより早くチャンネルが成長した実感があります。
動画には、テレビ朝日映像のカメラマンである長﨑と清原が出演しているのですが、実際、2人とも仕事につながっており、また弊社が運営しているバーチャルスタジオで成約が決まったりしています。特に企業様からいただくPR案件が最も多いですね。
予想を上回るスピードで副次的な反響を数多くいただいています。
凝りすぎず、わかりやすく
——動画制作では、どのようなこだわりがありますか。
森岡:こだわりというより、むしろ編集に力を入れすぎないようにしていますね。
テレビ番組のディレクターなどの場合、1本に対して非常に力を入れます。YouTube動画でも、工夫して編集しようと思えばできますが、カメラ台数が増えたり、テロップやBGMにこだわりすぎたりすると、それだけ時間がかかる。しかし、僕らの動画の価値は凝った演出ではなく「情報」 です。
すると、見やすく編集できることの方が重要になってきます。たとえば、テロップはフルテロップではなく、しゃべり言葉やキーワードだけを起こす。音楽はいつも一緒にする。カメラ台数は極力増やさない。YouTubeではよく使われているジャンプカットも、テレビ業界人にはこだわる人が多いですが、僕はそこにこだわりません。
どちらかといえば速度重視。情報として見やすくすることを心掛けています。
——あえて、凝った編集をしないようにしていると。
森岡:これは、過去に立ち上げた他チャンネルの反省から来ています。
立ち上げ当初のコンテンツは非常にシンプルでしたが、徐々にテロップや音楽でどんどん飾りを付けて盛り立てていきました。一見クオリティが上がって良さそうですが、一度そうすると、実はあとから元に戻すのがとても難しい。リッチなテレビ的編集に視聴者も慣れてくるからです。
これが正しいかどうかはわかりませんが、こうした学びから、僕らの動画ではクオリティを上げすぎないことを意識しているのです。
——チャンネル登録者を伸ばす上では、どのようなコツが必要になりますか。
森岡:まず、やり続けることはもちろん大事です。そこは前提として、特に初期段階では、YouTubeの「検索」からどれだけ獲得できるかを重視しています。
YouTubeからのおすすめや関連動画などは、自分たちでコントロールできるものではありません。しかし、検索の場合、動画タイトルにロングテールなワードを入れるなど、工夫次第で流入を増やせるのです。
しかも検索から流入してくるのは、能動的な興味を持っているユーザーです。つまり、YouTubeからのおすすめや関連動画から入ってくる人より、僕らのコアファンになる確率が高い。
立ち上げ当初は、そうした検索からの流入をいかに獲得するかを意識したコンテンツ作りをしていました。
ネタは「身近な疑問」から生まれる
——チャンネルは、動画に出演しているカメラマンの清原さん、長﨑さんと3人で運営されていますが、ネタ作りは誰が行っているのですか。
森岡:最初は3人で話しながら考えていたのですが、動画制作を進めていると、次第に気になることが出てくるんです。
たとえば、ロケでは出演者にピンマイクを付けますよね。長﨑と清原の2人は技術系の人間なのでスムーズに付けられますが、僕はも入社以来制作側なので、うまく付けられなくてグチャグチャになっちゃうんです。
こうした、ふと「これってどうやってるの?」と疑問に思ったことが、そのまま企画になったりするのです。
物撮りの方法、台車のうまい使い方、カメラ機材やおすすめアイテム......。僕に限らず、清原が知っていて、長﨑が疑問に思うこともあれば、その逆もあり得ます。
及川奈央さんとコラボしたときも、「片付けまで撮っちゃいましょう」と言ってそのまま動画のネタにしました。「8の字巻き」というサムネイルで、プロが現場でどう素早く片付けているのかをレクチャーする動画になっています。
自分が当たり前だと思っていることでも、別の人にとっては気になることだったりする。
技術にまつわる話は2人に聞くことが多いですが、それぞれの疑問や聞きたいことをうまく組み合わせていくことで、意外なところからネタが生まれています。
▲放送業界で「8の字巻き」は「鉛筆で文字を書く」と同義としてもいい程、当たり前として扱われる技術であるが、この動画では丁寧に解説が行われている。当たり前なのだが、撮影現場で使われている技術だからこそ、発信するべきことなのかもしれない。
——今後、コンテンツの方向性は変化していくのでしょうか。
森岡:いまのところ、方向性を変えるつもりはまったくありません。当面は、チャンネル登録者数10万人くらいを目指して、ネタが尽きるまではこのテイストでやっていきます。
ただ、ニッチな領域で攻め続けているため、安定した再生数は取れても爆発力に欠ける傾向が出てきています。そこでもう少し幅を広げたい。
たとえば、少し一般的な視点に移して、プロカメラマンがiPhoneで綺麗に撮るとか、長﨑と清原が女性を美しく撮る対決企画といったものも良いでしょうね。
とはいえ、3人とも本業の傍らでやっていることなので、「毎週金曜19時」の更新頻度は固定しつつ、まずはできる範囲で挑戦していきます。
上述の通り、VGT2022の1日目には、テレビ朝日映像撮影部による講演 【「現場力」の正体をつかめ! 冴えわたるカメラワークの極意】 が行われます。
テレビ業界の最前線で活躍し続けているテレビ朝日映像撮影部と一緒に、カメラワークを実践的に学ぶワークショップです。
映像クリエイターにとって、制作のヒントが込められているので、ぜひご参加ください!
「現場力」の正体をつかめ! 冴えわたるカメラワークの極意
日時:6月10日(金)13:50〜15:10
※詳細は、こちら
「VIDEOGRAPHERS TOKYO 2022」では、2日間にわたって約50の講演が催されます。
アンケートに回答いただくと無料で入場可能です。
まずは特設サイトをチェックしてみてください!
INTERVIEW・EDIT_菅井泰樹 / Taiki Sugai(Vook編集部)
TEXT_金藤良秀 / Yoshihide Kanefuji
VGT2022連動企画、他の方のインタビューはこちら!
中高年クリエイターだからこそ応えられるニーズとは?株式会社フィジカルアイ代表取締役・石水修司氏インタビュー
日本最大級の映像クリエイターカンファレンス『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズトーキョー)』が、2022年6月10日(金)、11(土)の2日間にかけて開催される。...
駆け抜けた先に見つけた“XRライブ”の表現。ゼネラリストの集団「flapper3」が持つ強みとは
日本最大級の映像クリエイターカンファレンス『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズ・トーキョー)』が、2022年6月10日(金)、11(土)の2日間にかけて開催される...
時代に流されない価値を生む集団・bird and insect のチーム作りとは_shuntaroさんインタビュー
日本最大級の映像クリエイターカンファレンス『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズトーキョー)』が、2022年6月10日(金)、11(土)の2日間にかけて開催される。...
いわぶりさん(UNDEFINED)の個人創作、3DCGを活かしたピクセルアートにみる、表現と技量を豊かにする秘訣とは?
日本最大級の映像クリエイター向けイベント『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズ・トーキョー)』が、2022年6月10日(金)、11(土)の2日間にかけて、渋谷ヒカリ...
CMディレクター 中島信也さんに聞く、コマーシャル映像制作の現状とこれから|VGT2022開催記念
日本最大級の映像クリエイター向けイベント『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズ・トーキョー)』が、2022年6月10日(金)、11(土)の2日間にかけて、渋谷ヒカリ...
「本当にツラいと思いながらやってきた謎の筋トレが、自分の作風に活きている。」映画監督 長久 允|VGT2022開催記念
日本最大級の映像クリエイター向けイベント『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズ・トーキョー)』が、2022年6月10日(金)、11(土)の2日間にわたって、渋谷ヒカ...
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
コメントする