日本最大級の映像クリエイターカンファレンス『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズトーキョー)』が、2022年6月10日(金)、11(土)の2日間にかけて開催される。
Vookが2019年より主催してきた本カンファレンス。第3回となる本年は、テーマを「映像に、新しいキャリアと可能性を。」とし、錚々たるクリエイターとともに、映像の新たな可能性を模索していく。
VGT開催にあたり、50代を迎えた今もCG制作の分野で活躍を続ける株式会社フィジカルアイ代表取締役・石水修司氏さんにインタビュー。
今回は、石水さんが執筆されたコラム「中年クリエイターの現在地」を踏まえ、20代30代からできる中高年クリエイター時代への備え方についてお話いただきました。
6月10日から始まるVGT詳細についてはこちらから
- 株式会社フィジカルアイ代表取締役石水修司
大学卒業後に食品メーカーの研究員として就職。マーケティング関連部署に異動後、愛媛の映像制作会社にCG制作を行える会社がないことから、自らCG制作を学び、社内のCG作品を手掛ける。
45歳で独立後は、CG制作、映像制作、写真撮影、Web制作を幅広く手掛けるフリーランスとして活動。その後CG制作需要の高まりを受け、2年後に株式会社フィジカルアイを設立。現在は緻密な流体表現を得意とするCG制作会社として、医療系・機械系企業のCG作品を多く手掛けている。
年齢は関係なし!中高年でもやりたい仕事を選べる
Vook:2022年4月12日、ご自身のブログにて「中年クリエイターの現在地」というタイトルのコラムを発表されていました。
非常に反響が大きかったと思われますが、どうしてこのテーマのコラムを発表しようと思われたのでしょうか。
▼中年クリエイターの現在地
https://physical-i.jp/workstyle/middlecreater_future/
石水:Vookさんでも活躍されている映像講師の山下大輔さんがTwitterでつぶやかれていたお話を見たのがきっかけです。
https://twitter.com/ymrun_jp/status/1513376976848900096
東京方面、大阪方面に映像クリエイターの知り合いは結構いるのですが、皆さん私よりも若い方が多いんですね。年齢だけでいうと私が一番先を行っているので、私が感じている現象や不安、気持ちを記録で残しておいてあげると、若い方々の不安が幾分紛れてくれるんじゃないかと思い、あのコラムを執筆しました。
私は小学生の頃からパソコンが大好きだったのですが、職業として考えると何歳になってもできるものではないと考えていました。そのため仕事はパソコン関連でない分野の会社に就職しましたが、結局45歳で独立し、自分がやりたい仕事を選んでいます。
「プログラマー35歳定年説」なんていう俗説がありますが、結局本人のやる気次第で定年説なんて関係ないと思っています。昔は50歳なんて年寄りだと思っていましたけど、自分自身がなってみると若い頃と気持ちはそれほど変わりません。
もちろんできなくなることはありますけれど、一方でできることが増えたり、できなかった考え方を身につけたりというプラスの変化もたくさんあります。
年齢は過ごしてきた時間でしかなく、今の自分は積み重ねた経験や身につけた考え方によって形作られています。今20代30代の皆さんが将来どうなりたいか、どんな働き方をしたいかという理想に向かって準備をしていけば、何歳になってもずっと現役でいられるのではないかと私は思っています。
Vook:ブログ記事への反響はありましたでしょうか?
石水:知り合いからどうこうといった話はありませんね。いろいろ検索してみたりしましたが、悪いように受け取られてはいないようでした。「そういう風になるんだ」「気になっていた」という感想が多かったように思えます。
一方で、有名なクリエイターの方の中には「僕は常に最前線だから年齢なんて関係ない」とおっしゃられる方もいまして。私自身も「それはそうだよな」と同感なんですけど、圧倒的大多数の皆さんはやっぱり将来に不安を感じているんだな、と記事を書いて思いました。
企業側のニーズに変化あり。時代に順応できる勉強への取り組み方
Vook:一昔前の映像制作は機器やツールが非常に高価でプロ向けが中心でした。近年ではAdobeがサブスクに変わったり、さまざまなツールが基本利用はオープンソースで無料になったりと環境が大きく変化しています。
それにともないクリエイターが増加し、いい意味で一般化してきたというという背景もあり、キャリアの悩みを抱える人が増えてきたと感じます。
一方で、需要があるからクリエイターが増えるというところもあります。クライアント側の需要に何か変化は感じますか?
石水:以前クラウドソーシングの「ランサーズ」を利用していました。その時に感じたのは、企業にとってみたらクリエイターの出来・不出来はあまり重要ではないケースが圧倒的に増えたという点です。予算内で作品を作ってくれる人がいればとにかく欲しい、という案件が多いなという印象を持っています。
一方で、どのクリエイターを選んだらいいのか、企業側が選ぶ基準を持っていないのかなとも思います。以前のように広告代理店を通さなくても、クラウドソーシングなどで企業が直接クリエイターを探せるようになりました。
しかし副業でやられている方、始めたばかりの方、映画のVFX等を制作するようなハイレベルの方など、さまざまなクリエイターさんがいて、それぞれに値段がついていて。いろいろな層のクリエイターがいるのはいいことだと思いますが、それだけにどういう人を選んで、何から手をつけたらいいのか分からないと頭を悩ませる企業は多いと思います。
Vook:そういった企業向けのセミナーは需要ありそうですね。何か企業向けのアプローチは考えていますか?
石水:弊社のブログにはCGの値段の考え方のような記事があり、結構読んでいただいているんです。こういった映像制作会社に発注しようと思っている企業に必要な知識や考え方を掘り下げた記事を増やしていくのがいいのかなと考えています。
3DCGの見積もりを依頼する際に必要な情報
https://physical-i.jp/cg/3dcg_price_requesting_6pices/
CG制作のコスト要因をまとめてみました
https://physical-i.jp/cg/cgwork_cost_202005/
そういった何かを教える記事は、若い人よりも私のような年齢を重ねたクリエイターが書いたほうが受け入れられやすいでしょう。需要の増加にともなって、教育的な役割の需要は今後ますます増えていくと思っています。
Vook:年齢を重ねたクリエイターがと仰いましたが、ご自身が年齢を重ねていてよかったと思う時はありますか?
石水:教育記事の話もそうですが、年齢相応の感覚が活きると感じる時はありますね。若い人には若い人の感性があり、それは私たちの年代にはわからないものがあります。
一方で我々が求める感覚は、若い人には分からない場合もあるんです。そういった一定の年齢層以上に向けた制作は、同年代の我々がやるとマッチするのかなとは思います。
Vook:一方で、3DCGの分野では続々と新しいテクノロジーが誕生しており、若いクリエイターがどんどん順応しています。そうした新技術に対応するためのインプットはどのようにされていますか?
石水:勉強の時間はスケジューラーに全て組み込んで確保しています。あらかじめ時間を決めておかないと、やっぱりやれないんですよね。仕事に集中してしまうと「時間に融通がきく勉強は後回しだ」となってしまうので、基本的には時間単位で区切ったスケジュールを厳守するように動いています。
勉強や読書、人に会う時間で自分の脳に刺激を与えていかないと、今知っている範囲だけで対応しようとしてしまいますので、今後のためにも勉強の時間は大切にしなければならないと考えています。
私は地域で剣道の指導をしていますが、現在の段位で満足して指導をおこなってしまっていると子ども達に教える内容に深みがなくなってしまうように思っています。
より高い質の指導をするためにも、私自身の上達が必要不可欠です。更に上位の先生に稽古をつけて頂き更に上の段位を目指して精進する、それを行ってこそ知識が深まり、子ども達に教えられる内容も幅広く丁寧になっていきます。
仕事もそれと同じ。要求されるものは今の知識でも作れますが、新しい刺激を受けていかないと、表現方法や時間短縮、コストダウンといった取り組みが私の中から湧いてこなくなってしまうんです。
だからこそ、新しい知識を得るために勉強をする、読書をする、他の分野の人に会うといった時間は積極的に作っていかないといけないと思っています。
Vook:フットワークを軽くし、固定観念にとらわれないようにしたいという意識がとても伝わってきます。ちなみに、どのようなツールや手段を使ってスケジュールを管理していますか?
石水:もっぱらGoogleカレンダーですね。パソコンやスマホ、タブレットなど全て連携させています。2010年以前から使っていると思います。いくつかツールは試しましたが、やはり連携のしやすさという点からGoogle系のツールが一番使い勝手がいいですね。
フリー素材は「自分が使いたいと思うものを作る」
Vook:フィジカルアイのホームページでは、かなりの数のフリー素材を公開されています。どういった狙いでフリー素材提供のサービスをされているのでしょうか。
フリー素材ページ
https://physical-i.jp/category/free/
石水:一番は映像制作をされる方のためという気持ちがあります。私が映像制作をしている中で、単にモノトーンのテロップを出して終わりではさみしいなと感じまして。
静止画を入れても、それだけではまだ味気ない。画が動いている方がほうがいいなと思い、有料の素材を買って組み込んでいました。それでも同じものばかり使うと飽きてしまいますし、当時各所で公開されていたフリー素材はクオリティもイマイチで。
それならば映像制作の人に使ってもらえるような素材を自分で作ってしまおうと思い、フリー素材の作成と公開を始めました。たしかフィジカルアイのサイトを立ち上げた直後くらいからスタートしたと思います。
Vook:フリー素材は海外が強く、洋風の素材が多く出回っています。日本発のフリー素材として気をつけているポイントはありますか?
石水:一番大切なのは、私が使いたいと思うものを作ることです。あとは尺のバリエーションを作ってみたり、フィックスをちゃんといれてみたり。全部ではないですが、ループしやすいものも用意しています。
またPremiere Proで使われる方が多いと思いますので、Premiere Proで使う時の注意点をまとめた記事へのリンクもつけるといったサポートもしています。
Vook:現在公開されているフリー素材が作成した公開用素材の全てですか?
石水:過去のフリー素材の一部はMotion ElementsやAdobe Stockで有償公開しています。なお、弊社の重要なお客様はパートナー様としてフリー素材だけでなく有償素材も全て自由にお使いいただける、サブスクリプションのようなサービスも展開しています。
いろいろな素材を自由に使っていただいて、評判がよければCGのご発注をいただけるかな、という思いもあって、今もどんどん追加している最中です。
人生のテーマは「どんな影響を残せるか」
Vook:石水さんは限界説にとらわれず、年齢と上手に付き合われているように思えます。今後より幅広い視点でチャレンジしてみたいこと、取り組んでいくプロジェクトなどはございますか?
石水:やってみたいことは実は何個かありまして。私の命が尽きるまでにできるかはわかりませんが(笑)
一つめは「エンディングメッセージビデオ」。今のエンディングビデオは、撮影しておいた映像をお葬式で流すようなものが一般的です。
私がやりたいのは、*自分の寿命が尽きてから数年後に家族にメッセージを伝えられるようなビデオ*です。たとえば自分の寿命があと1年といわれ、15歳の息子の成人まで生きていられないとします。
そこで生前に制作したビデオを預かっておき、成人時や結婚を迎えたときなど、その方の人生の節目に映像をお届けするサービス作りたいと思っています。
二つめは3Dの分野になりますが、3Dプリンタを使ったカスタム義手を作るプラットフォームの設立です。
今の義手はプラスチック製で、いかにも義手っぽい義手しかないんです。そういう”いかにも”というものではなく、3Dプリンタのような3D出力によって作られたパーツを組み合わせるカスタマイズ義手を作れるようなプラットフォームを作りたいと思います。
義手を隠すのではなく、ちょっと極端かもしれませんがおしゃれの一環として見せる義手・義足というように考えられるきっかけが出来ればと、障害を負い目に感じて生きるのではなく、前向きに生きていけるきっかけになれないかなと思うんです。
これらのサービスはとても私ひとりでは実現できませんので、いろいろなクリエイターさんの協力が必要です。今はその実現のための資金を貯めている最中。私が生きている間に実現したいですね。
また義手の話に繋がりますが、AIを使った節電義手の開発にも興味があります。腕や足の断面にある神経素子から電気信号を受け取って、手を開いたり閉じたりできる義手を作れないかなと。これは私が生きている間には無理かもしれませんが(笑)
Vook:エンディングメッセージや義手・義足といった、人生や生活のサポートに取り組みたいという思いは、やはりキャリアを重ねてきたからこそ生まれたものなんでしょうか?
石水:そう思います。若い頃はこういった考えは全くありませんでしたから。年を重ねてある程度欲望もなくなって。
今後は間違いなく死に向かっていくわけじゃないですか。その過程において、周囲の人にどんな影響を残せるか、どんなサポートをできるかというテーマは考えるようになりました。
”自分が自分が”と自己主張ばかりをするのではなく「あなたがいてくれてよかった」と思ってもらえるか。極端に言えば、自分がそう思われなくてもいいんですよ。
「こういうものがあってよかった」とか、「生きていく活力になった」という何かを作る人への手助けを通じて、そういった影響を残せる方法は追い求めていきます。
そのためにも、誰かとふれ合ったり、少し運動をしたり、新しい習い事をしたりして、年齢に負けない自分自身の活力を作り続けなければいけませんね。まだまだ老いぼれてはいられませんよ。
常に成長し続けようと意欲的に取り組む姿勢を見習っていきたいですよね!
VGT2022でも、キャリア形成や働き方をテーマにしたセッションが複数予定いされているので、ぜひチェックしてみてください。
クリエイターの目標設計 なりたい姿に辿りつくための人生計画書
日時:6月10日(金)13:00~14:20
詳細:https://vook.vc/vgt/session/c01-01
「稼ぐ」を考える。仕事がなくなるビデオグラファー
日時:6月11日(土)11:20~12:10
詳細:https://vook.vc/vgt/session/r02-02
こころの消耗を考える クリエイターのためのメンタルヘルスケア講座
日時:6月11日(土)10:30~12:00
詳細:https://vook.vc/vgt/session/c02-01
「VIDEOGRAPHERS TOKYO 2022」では、2日間にわたって約50の講演が催されます。
アンケートに回答いただくと無料で入場可能です。
まずは特設サイトをチェックしてみてください!
INTERVIEW_沼倉有人 / Arihito Numakrua(Vook編集部)
TEXT_手塚 裕之 / Hiroyuki Tezuka
EDIT_古川恵梨 / Eri Furukawa(Vook編集部)
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Vook編集部@Vook_editor
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