日本最大級の映像クリエイター向けイベント『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズ・トーキョー)』が、2022年6月10日(金)、11(土)の2日間にかけて、渋谷ヒカリエで開催されます。
3年ぶりのリアルでの開催を記念して、Vook編集部では今回登壇されるクリエイターやVGTと所縁のある方々へのインタビューを実施しました。
この記事では、長きにわたり第一線で活躍を続けるCMディレクター 中島信也さんに、コロナ禍における制作体制、隆盛するWeb CMへの対応、スマホユーザーのニーズの理解など、CM映像の制作現場の最新動向とこれからの取り組みについて話を聞きました。
6月10日(金)から始まる 『VIDEOGRAPHERS TOKYO 2022』 の詳細については、こちらから。 VGT2022特設サイト
「刺激」から「共感」へ移り変わったCM表現
──コロナ禍が継続中ですが、コロナ前と現在とで、日本のCM映像表現にはどのような変化がありましたか?
CMディレクター 中島信也氏(以下、中島):
基本的にはテレビCMは、不特定多数の人に見てもらうものなので、みんなの気持ちを汲まなければならない。表現で言えば、「明日も元気でみんなで集まって飲もうぜ」みたいなことを言えなくなってしまったわけです。
そして、これについてはコロナ禍以前からの傾向ですが、最近は派手な表現、過激な表現よりも、視聴者に寄り添って共感を得るようなCMが増えています。コロナ禍になってよりその傾向が強まったという感じです。
中島信也/Shinya Nakajima
東北新社 代表取締役社長/CMディレクター。1959年福岡県生まれ大阪育ちの江戸っ子。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒。
’83演出デビュー。デジタルを駆使した娯楽性の高いCMで受賞多数。日清食品カップヌードル「hungry?」(’93カンヌグランプリ)、サントリー「燃焼系アミノ式」、「伊右衛門」、Airペイ「オダギリジョーシリーズ」などを演出。時代ごとに代表作を輩出し、60代の今もなお、第一線で撮り続けている業界でも稀有な存在である。
後進の育成にも注力しており、武蔵野美術大学客員教授(視覚伝達デザイン学科・デザイン情報学科)、金沢工業大学客員教授(メディア情報学科)を務める。劇場用映画『ウルトラマンゼアス』(’96)『矢島美容室』(’10)監督。
東北新社 公式サイト
中島:
バブルの頃はイケイケな感じで、表現もどんどん過激な方向に進んでいった記憶があります。
広告表現とモノが売れることが直接結びついていなくて、ブランド広告のようなものが量産されていました。例えば、西武百貨店の「不思議、大好き。」というキャッチコピーなんて、何を買えばよいのかわからない。でも、百貨店という場所が盛り上がっていて、色んなものが売れる状況だった。
それが不況になってから、特に2008年のリーマンショック以降、見る人のマインドも大きく変わっていったと感じます。
もうちょっとわかりやすい表現を好むようになったというか。とにかく刺激を与えて人々を消費へ引っ張っていくというよりも、寄り添って共感させるというムーブメントは、長引く不況から生まれたコミュニケーションだったと思います。
中島:
コロナ禍になってから表現する対象が狭まって、自分の生活圏から半径1キロ以内くらいになっています。昔であれば、夏シーズンに備えて全員がハワイやサイパン、グアムなんかへ撮影に出かけました。だから、清涼飲料水のコマーシャルには必ず青い海、白い砂浜が広がっていました。
一方、今は自宅や学校、会社が舞台になっています。自分がリアルに実感できる場所に表現の舞台が変化したという感じがしています。
そうした表現の変化はありますが、僕自身の演出スタイルは変わらないですね。
ただ、当然感染症対策はしていますから、前日や当日に抗原検査をする点は大きな変化です。
検温とか手指消毒は当たり前ですが、ちゃんと検査をして、メディカルスタッフを入れて、一定時間経過すると室内を換気します。
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無駄を削ぎ落す作業こそが、良いCMへの近道
──テレビで流すCMは15秒、30秒といった短いものが基本だと思います。Web向けCM企画の場合は、長尺の作品を手がけることもありますか?
中島:
テレビCMの15秒というフォーマットは、とてもよくできていると思っています。たしかに、Web向けCMの場合は5分以上の長尺作品も増えてきましたが、個人的には3分以上、見る人の関心を持続させるには、相当面白くないと駄目だと思っています。だから、長ければいいということではないと思うのです。
海外の広告祭では、数分という長尺の作品が受賞することがありますが、そうしたアワードと、テレビCMを何気なく見るのでは視聴する環境が異なります。そうした意味でも、15秒という枠はよくできているのです。
僕自身は15秒のCMがすごく好きですね。 凝縮されてるし、無駄がない。削るのが好きなんです。最近はYouTubeとかの6秒のパンパー広告という枠もあるのですが、6秒も好きですね。
6秒動画ってスキップできないじゃないですか。だから、これはめちゃめちゃクオリティーを上げないといけないと思ってます。6秒やから絶対みんなスキップせえへんからって思って、そこに甘えて作ってたら嫌われますからね。
▲ 中島さんが演出を手がけるAirペイTVCMシリーズの一篇。 Airペイ『スイーツ店篇』15秒
中島:
俳句は五七五という、17文字という制約がある。そこに季語が加わることで、読み手は想像をふくらませていきます。CM映像も俳句に通じるものがあると思っています。あれもこれも言いたいけども、絞らざるを得ないという条件でつくっていくことが好きなのです。
──コロナ禍への対応として、CMの制作現場でもリモートワークの導入が進んだと思います。リモートワークのメリットとデメリットをお聞かせください。
中島:
連絡事項の確認についてはリモートですることもあります。移動する時間も要らないし、各自で仕事ができるからありがたいと感じています。それぞれの進捗状況を確認しよう、現場でやることを確認しようといった内容の打ち合わせは、リモートが便利だと思います。
一方で、各自のアイデアを出し合うなど、問題を解決するために話し合う場合は、リアルに集まる必要があると思います。 そこに出てくるひとつのアイデアを生み出す波動というか、雰囲気はリアルでなければ生まれませんね。例えば、企画を考えるとか、ちょっと難しい撮影で知恵絞らなければならないときには、リアルな場に人が集まった方が良い。
あとはクライアント試写は本当はリアルに集まって行いたいですね。コロナ禍になって、全ての関係者の方に一堂に会して見てもらうのは難しい状況が続いているため、チェック用の動画ファイルを送って確認してもらうことが増えましたが、試写室で見てもらうのとはちがうなと感じます。
最適な音量、映像の位置、座る位置を全部整えて、クライアントさんをお招きして観てもらいたい。 その場で初めて作品をご覧になってもらって、リアルな場で感動を共有したい。個別に映像を見てしまっては、同時に感動を共有できないのです。
密を避けるべき状況が続いているため、編集室にお呼びできる人数が限られてます。そのため、現状はリアルとリモートのハイブリッドで行わざるをえないことを残念に思います。
メタバースの可能性は未知数。だけど、フレームに収めた映像表現の良さは変わりない
──昨今、メタバースという概念が一般メディアでも使われるようになりました。東北新社さんは、「メタバース プロダクション」に参画されています。CM映像の演出家として、バーチャルプロダクションに対して期待すること、導入を進めていく上で課題に感じていることをお聞かせください。
▲ 【DEMO】Metaverse Production デモ映像
中島:
「メタバース プロダクション」に期待することとしては、1つは環境問題ですよね。撮影によって出る、不要になった大道具などの膨大なゴミ処理は大きな課題でした。1回建ててしまったセットは、後に全部廃棄処分となるため、これを何とかする必要があった。
もう1つ期待することは、新しい表現の探求です。コンピューターグラフィックスの描写能力が高まったこともあり、リアルではできない表現に期待を寄せています。人やオブジェクトを全てデータの中に置き、リアルタイムで書き出していくとなると、GPUなどのマシンパワーがよっぽど発達しないとできないことです。
プロジェクトに携わっている人たちに言わせると、バーチャルセットをLEDウォールに適切に表示するための調整をはじめ膨大な準備が必要だとのことですが、ポスプロ工程に要する時間は確実に短くできますね。
その意味ではCMなどの短尺案件で使っていくのが良いのか、あるいはTVドラマなど長尺の案件に向いているのか。どういうコンテンツがふさわしいかはこれから検討していくつもりです。
──メタバースからのながれでVRやAR、最近はXRも注目されていますが、これらについてはどのような印象ですか?
中島:
体験する分には面白いですよね。でも、僕は古い人間だから 額縁の中で楽しみたい という思いがあります。
額縁の中の名画でありたいと。誰もゴッホの『ひまわり』が3Dになっても喜びませんよね。異次元空間の中にあって、額縁の中に描かれる世界に自分のイメージを投入していくという意味で、自分の想像の余地は奪われます。
バーチャル世界のそのまま全てを体験しているわけだから、その先どうなっているのか、この先でどういうことが起こるのかというイマジネーションは意外と減退してしまうのではと思っています。
──先ほどメタバースの話の中で、環境への配慮についてのお話が出たと思います。クリエイターさんはなかなかそういうことを話す人が少ないと感じているのですが、中島監督はどういう観点から環境への配慮という視点を持つようになったのでしょうか?
中島:
1本何千万という製作費でコマーシャルを制作している中で、自分たちが処理できる量以上のゴミを出していくことには常に疑問を抱いていました。僕だけではなく、撮影所でやっている誰もが感じていると思いますよ。絵の具の使いすぎや弁当の廃棄は見ていて心苦しいですね。とても早いサイクルで仕事が進む映像制作の現場だからこそ、環境負荷に意識を向けるべきだと思います。
映像を制作する側の人間にとっては、環境を含めた社会問題をジャーナリスティックな映像作品で人々に伝えていくことで、自分たちにも身近な問題としてリアリティを感じられるでしょうね。
──とても面白い話を聞かせていただきました。ありがとうございました。
VGT2022の1日目には、中島信也さんによる講演 「映像制作者って、40歳、50歳になったらどうなるの?」 が行われます。
こちらの講演では、ひとりの映像クリエイターとして、40年近くにわたり第一線で活動されてきた中島監督だからこそ語ることができるキャリアの築き方へのアドバイスが聞ける予定なので、お見逃しなく!
「映像制作者って、40歳、50歳になったらどうなるの?」
日時:6月10日(金)17:50〜19:10 @RED STAGE
登壇者:中島信也(東北新社代表取締役社長/CMディレクター)、河尻亨一(編集者、銀河ライター主宰)
講演の概要
「VIDEOGRAPHERS TOKYO 2022」 では、2日間にわたって約50もの講演が催されます。
アンケートに回答いただくと無料で入場できるので、まずは特設サイトをチェックしてみてください!
INTERVIEW_沼倉有人 / Arihito Numakrua(Vook編集部)
TEXT_江連良介 / Ryosuke Ezure
PHOTO_加藤雄太 / Yuta Kato
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