2022年4月13日にリリースされたUNISON SQUARE GARDEN(以下、ユニゾン)の17枚目のシングル『kaleido proud fiesta』。そのミュージックビデオは、ほぼ全編がiPhoneで撮影されたことで、公開前から話題となりました。
今回はカメラマンを担当したぞのさんっに、撮影に参加した経緯や、iPhoneで撮影するメリットや苦労、各シーンの現場での裏話をお伺いしました。
- 映像クリエイターぞのさんっ
映像クリエイター兼インフルエンサー集団「Creatorʼs Campus」代表。一級建築士として大手企業で勤務、独立して宿泊事業を経験した後に、本格的にSNS・動画制作を始める。スマホ撮影のTipsを紹介するTikTokのフォロワーは250万人(2022年5月現在)。URL:https://www.tiktok.com/@zono.sann
初めてのミュージックビデオ撮影の経緯
──今回、ミュージックビデオの制作にアサインされた経緯と、企画の内容、深津昌和監督からの要望などを教えてください。
ぞのさんっ:今回は映像プロダクションCOLORS.を通して、深津監督からカメラマンとしてお声掛けをいただきました。深津監督の中には「動きのある、テンポの良い、面白いものを撮りたい」 という構想があったようです。
ミュージックビデオは、一定以上の高価な機材を使って撮影すると、どれも似たような作品になってしまいがちです。なので、僕が普段からやっているiPhoneならではの見せ方を存分にやってほしいとの要望でした。
深津監督は僕のインスタやTikTokをたくさん見て下さっていたので、「ここで◯◯の表現を使ってみたらどうでしょう?」という提案をたくさんいただきました。そのため、カメラマンという立場ではあったのですが、MVの内容を一緒に考える「共同監督」に近い形で携わらせていただきました。
──これまで、TikTokのような短い映像の撮影がメインでしたが、MVの撮影をされたご経験はあったのでしょうか?
ぞのさんっ:今回が初めてでしたね。正直な話をすると、とても難しい撮影でした。1月末の寒い気候の中、丸2日間タイトなスケジュールで撮影したのは大変でした。
撮影において、僕が普段から力を入れているトランジションを多用したので、その調整にとても時間が掛かりました。例えば、MVにおいて歌は肝になりますよね。前後のカットで口の動きが合っていないと違和感に繋がります。ボーカルの斎藤宏介さんには撮影中「もう少し、口を大きく開けてください!」と、指示を出したりととてもシビアな調整をしました。
今回は、様々な動きや表現を取り入れること自体が作品のテーマだったので後悔はしていませんが、普通に撮影した方が絶対に楽だと思いましたね。
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ポケットにiPhone 13 Pro Max、AirDropで撮りながら編集
──通常、規模の大きい撮影では、機材車に機材を積み込んで運ぶのですが、iPhoneで撮影する場合の機材はどの程度になるものですか?
ぞのさんっ:今回、現場にはリュック1つで向かいました。極論、iPhoneだけならポケットにも入ります。もちろん、照明機材などは別で必要ですが、カメラに関しては機材はほとんどないと言っても良いかもしれません。
──今回の撮影機材、設定などを詳しくお聞かせください。
ぞのさんっ:今回使ったのはiPhone 13 Pro Maxです。
iPhone 13 Pro Max
https://www.apple.com/jp/iphone-13-pro/
iPhone 13 Pro Max のカメラ設定
・Apple ProRes
・4K/30fps
・10bit
・HDR撮影
ぞのさんっ:iPhone 13 Pro Maxのカメラは0.5倍の超広角、1倍の広角、3倍の望遠で撮影できます。
今回は一部のシーン以外は、0.5倍の超広角で撮影しています。0.5倍だと手ブレには強いのですが、ノイズが乗りやすくて、多少、画質が落ちるというデメリットがあります。
最後の屋上はライトをしっかりと炊いたので、そこまでノイズは出ませんでしたが、本編MV 2:33 あたりの屋外の階段の場面は、非常に気を使いました。
──ジンバルもほとんど使っていないと伺いました。
ぞのさんっ:ジンバルは使わないというよりは、僕の撮影には不要なんです。0.5倍の超広角にすれば、そもそも揺れないですし、回転させたり、左右や下に振ったりといったことは、手持ちでなければできません。編集でもほぼ撮って出しで、ワープスタビライザーも使っていません。
ぞのさんっ:CMの現場でも同じだと思うのですが、撮影した素材をその場ですぐに取り込み、前後のカットが繫がっているかを確認する作業があります。
iPhoneで撮影すると、AirDropでMacに直接転送できます。撮影した素材はその場でMacに送り、編集ソフトのタイムラインに並べて、同時並行で作品を組み上げました。これはiPhoneだからできることであって、他の撮影現場ではここまでスムーズにはいかないと思います。
360度カメラ、3分割、釣り竿……各シーンの裏側
──MVの開始から、たくさんのトランジションが使われているように思います。各シーンの撮影方法についてお聞かせください。
ぞのさんっ:そうですね。深津監督とは「最初はとにかくたくさん入れたい」とお話をしていました。と言うのも、冒頭で多くのトランディションを使用し、動きのある画を見せることで「何だ、これ?」と思わせ、そのまま最後まで見てもらうという狙いがありました。
──目を引く画ということでは、本編MV 0:47 あたりのシーンはiPhoneではなく360度カメラを使っているかと思います。
ぞのさんっ:今回、使ったのは「Insta360 ONE X2」です。こちらは5.7Kで撮影しています。
Insta360 ONE X2
https://www.insta360.com/jp/product/insta360-onex2
ぞのさんっ360度カメラは、長回しをすると止まってしまったり、スマホと離れると接続が切れたりして、現場で使うには少しリスクが高いです。
──360度カメラは、なぜInsta360を選ばれたのですか?
ぞのさんっ: 普段、Insta360を使用していることもあり今回も撮影もInsta360で撮影をしました。現状、360度カメラはGoPro、THETA、Insta360が選択肢に入ってきます。海外のTikTokやInstagramのトップクリエイターは、Insta360を使っている人が多いのですが、僕が使い始めた当時は、日本のユーザーはあまりいませんでした。きっかけとしては「日本のその席を取りに行こう」と考えて、Insta360を使い始めた。
──本編MV 2:48 からの螺旋階段のシーンでも、360度カメラを使ったと思います。
ぞのさんっ:はい。この時は、釣り竿に「Insta360 ONE R」を括り付けて、斎藤さんが階段を上がってくるタイミングに合わせて、巻き上げています。
Insta360 ONE R
https://www.insta360.com/jp/product/insta360-oner_1inch-edition
ぞのさんっ:ここはロケハンでも練習をしておらず、一発撮りでした。どうしてもカメラが回転してしまったり、速度を一定に巻き上げられなかったのですが、その場に立ち会わせた釣りが趣味のスタッフさんに助けていただきながら撮りました。
また、このシーンで釣り竿を使ったのは、メイキング映像としても面白いものが撮れそうだったから、という狙いもありました。
──その他のシーンで、使用した機材などはありますか?
ぞのさんっ:本編MV 1:30 の斎藤さんの周りを回るシーンでは、1倍の画角で「DJI OM5」のアクティブトラックモードを使って撮影しています。斎藤さんを中心に12時、3時、6時、9時の位置にバミ(目印となるテープ)を貼ってから撮影しています。
DJI OM5
https://www.dji.com/jp/om-5
このシーンと最後の屋上だけは1倍の広角カメラで、「DJI OM5」を使っています。
──スマホの画面から画面へ入り込むシーンは、どのように撮影したのでしょうか?
ぞのさんっ:このスマホにはグリーンの画像を表示して、後の編集で切り抜けるようにしました。エッジ部分にグリーンの縁が残らないように編集で1フレームずつ抜いているので、編集作業がとても大変だったかと思います。
──今回、メンバー3人を三分割が映し出したシーンが印象的でした。
ぞのさんっ:このシーンの撮影はとにかく大変でした。
説明が難しいのですが、三分割した画面はそれぞれ違う場所で撮影しています。画面間を移動する際に、音楽に合わせて足の方向やタイミングなどを合わせて撮影しなければいけません。
ここをしっかりと撮影しなければ、編集した際に画面間の移動に違和感が残ってしまいます。辻褄を合わせて完璧に撮影しなければいけなかったため、何度も撮影を行いました。これをメンバーの3人分撮影したので、時間と気力をかなり使いましたね。
自分の頭の中にしかない表現を共有することの難しさ
──今回の制作を振り返って、大変だったことはありますか?
ぞのさんっ:演者さんや現場のスタッフさんと、トランジションのイメージを共有することは難しかったです。「こういう動きをして、背中に当てて、外に行くので、ちょっと驚いた感じでお願いします」というように、言葉で説明するのには限界がありますから。
ロケハンをしているので「ここではトランジション」「ここでは釣り竿」とある程度は決まっているのですが、細かいことは僕の頭の中にしかありません。映像ならすぐに伝わることも、言葉だけで伝えるのは大変でした。
──iPhoneで撮影するデメリットがあればお聞かせ下さい。
ぞのさんっ:今回、iPhoneのフレームレートは23.98fpsで撮影したのですが、ミュージックビデオは30fpsなので、そのままだと、少しずつ長くなっていきます。最終的には調整が必要でした。
またiPhoneのカメラは強い光が入ると、ゴースト(緑色の球体)が現れることがあります。編集で消していただいたのですが、これがひっきりなしに出ていると編集作業が大変かとお思います。
HDRで撮った後の処理にも時間が掛かるかと思います。一旦LUTを乗せ、HDR2のHLGからRec.709 SDRに変換すると、色が戻って来ますが、そこからのカラコレが難しいです。HDRで撮影すると、モニター出しの色も少し変わってしまいますし、これはiPhoneで撮影する際のデメリットと言えるかもしれません。
──ありがとうございます。最後に撮影全体の感想をお聞かせください。
ぞのさんっ:朝から晩まで、2日間まるっと撮影したのは、今回が初めての経験でした。
今回のMVでは、僕とUNISON SQUARE GARDENさんのTikTokで、公開前に撮影の裏側を見せることにしました。「え、スマホで撮ってるの?」「今回のMVどうなるんだろう?」という期待感を煽ることができたのではないでしょうか。
自分でも 、色々なことに挑戦できたと思いますし、本当に僕の好きなように撮らせていただけました。UNISON SQUARE GARDENのお三方をはじめ、現場の皆さんに感謝しています。
INTERVIEW・EDIT_菅井泰樹 / Taiki Sugai(Vook編集部)
TEXT_水野龍一 / Ryuichi Mizuno
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
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