2022.09.01 (最終更新日: 2022.09.21)

プリビズをフル活用して、実写プレートと3DCGを一体化させる。|EXILE×三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE『VIRTUAL LOVE』MVメイキング

2021年12月20日(月)にYouTubeで公開された、LDHを代表するダンス&ボーカルグループEXILEと、三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEが初めてコラボレーションした楽曲『VIRTUAL LOVE』のMVは、全編VFXで描かれた "バーチャルトリップMV" である。

これまでLDHが描いてきた「願いの塔」、「超東京」、「METOROPOLIZ」、「NEOTOKYO」といった独立した世界観が、本作の描くメタバース『VIRTUAL TOKYO』のどこかで繋がっているというコンセプトを、卓越したVFXで描き出している。

メンバーのアクションに連動してインタラクティブに組み上がるバーチャル世界、洗練されたSci-Fi世界のライブステージで繰り広げられるパフォーマンスは、ファンならずとも目が離せない。

全カットにCG・VFXワークが施された大作であり、ショットワークとアセット制作に参加したCGプロダクションとデジタルアーティストは、総勢12組に達した。

今回は、監督、CGプロデューサー、そしてプリビズ・スーパーバイザーという3役を兼務した東 弘明氏、撮影監督 井村宣昭氏、エグゼクティブ・プロデューサー 小野田行宏氏へのインタビューを実施。企画の経緯から一連のプロダクションワークについて、前後編にわたって解説する。

EXILE×三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE
『VIRTUAL LOVE』MV

Client:avex+LDH JAPAN Inc.
Director / CG Producer / Previz Supervisor:Hiroaki Higashi (stoicsense Inc.)
Director of Photography:Nobuaki Imura(IMURA OFFICE INC.)、Hiromitsu Uemura(IMURA OFFICE INC.)/Lighting Director:Koji Yoshino(LightNix inc.)/Grip Operation:NKL Inc./Matchmove Artist:Yasuhiro Kato/Colorist:Haruka Okutsu(IMURA OFFICE INC.)/Offline Editor:Akiha Midoh(VIXI)、TCM U2(and GRANT)/Online Editor:Manami Kishi/Producer:Takashi Tsujii(GEEK PICTURES INC.)/Executive Producer:Yukihiro Onoda(Development LLC)
Production:Development LLC

3DCGを駆使して、観たことがない"TOKYO"を描く

本企画は、2021年8月すぐに、エグゼクティブ・プロデューサーを務めた小野田行宏氏(Development)が東 弘明監督(stoicsense)に企画を打診したところからスタート。

監督 / CGプロデューサー / プリビズ・スーパーバイザー 東弘明氏(以下、東監督):
最初から提示されていたのは、EXILEと三代目 J SOUL BROTHERSがコラボして、最終的に18人ものメンバーが登場するということ。そして、様々なバーチャル空間を渡り歩いていくということでした。

エグゼクティブ・プロデューサー 小野田行宏氏(以下、小野田):
すでに曲名と仮歌は上がってきてはいました。全編3DCGベースのバーチャル空間を描くという物量が求められる一方で制作期間は約3ヶ月ということで、どうやって成り立たせるのか、すごく悩みました(苦笑)

▲ 左から、撮影監督 井村宣昭氏(井村事務所)、エグゼクティブ・プロデューサー 小野田行宏氏(Development)、ディレクター / CGプロデューサー / プリビズ・スーパーバイザー 東 弘明氏(stoicsense)
【お知らせ】
Developmentでは現在、スタッフを募集中です。詳しくは、こちら

『VIRTUAL LOVE』という曲名に込められた思いのひとつとして、揺れに揺れた東京オリンピック、コロナ禍による緊急事態宣言、ライブイベントの開催自粛という背景がある。

リアルなライブを開催できない現状を受けて、ファンに対して「(離れていても)心は近くにある」というメッセージを伝えるため、「バーチャル」という言葉を選んだという。

そして、バーチャル=3DCG表現ということから、これまでにも多くのLDH作品の監督を務め、なおかつ3DCG表現を得意とする東監督に白羽の矢が立てられたわけだ。

東監督はまず、EXILEと三代目 J SOUL BROTHERSの全メンバー18人を登場させるためには、どういった構成にするか、アイデアを練り上げていく。

そこで考えついたのが、メタバース内で様々なシチュエーションを渡り歩き旅をしていく中で、各メンバーやチームにしっかりとスポットが当たるプラン。同時に、王道のダンスMVのフォーマットではなく、起承転結のある(ストーリー性のある)MVに仕上げたい、という思いもあった。

東監督:
プランの大枠が見えたところで、EXILE HIROさん(LDH JAPAN代表取締役 会長)にプレゼンテーションを行いました。その際、HIROさんから 「観たことがない"TOKYO"を描いてほしい」、という主旨のリクエストをいただきました。

そんなリクエストの背景には、先述したライブイベントが実施できない状況下であっても、色あせない「TOKYO」の魅力を映像作品を通じて表現したいという気持ち、TOKYOのポップカルチャーを世界に向けて発信していこうという意思、そして3DCGを積極的に用いることで誰も観たことがないビジュアルインパクトのあるTOKYOを描いてほしいといった思いが窺える。

東監督はこの「TOKYO」というキーワードと、これまで小野田氏と共に手がけてきたEXILEをはじめとするLDH所属アーティストのMVやライブ映像、そして本作における「TOKYO」というシチュエーションの必然性について考えた。

そして導き出されたのが、過去作で登場してきた「願いの塔」、「超東京」、「METOROPOLIZ」で描かれた東京、「NEOTOKYO」など、それぞれが点で存在していた世界観をひとつのLDHユニバースとして線で繋ぐというアイデアである。

これまでに、MVやライブ映像を通して描いてきた様々なTOKYOの姿は、メタバース内で変幻する未来。LDHユニバースに存在する未来のビジョンを本作で一貫して体験できるというわけだ。

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プリビズに忠実に、実写撮影を行う

演出コンテおよびビデオコンテの作成に約2週間。その後のプリビズ作成には約1ヶ月と、かなり入念に作り込まれた。さらにプリビズ作成は、東監督自身でMayaを使い仕上げられた。

東監督:
作業期間はコンテに約5日、ビデオコンテに約1週間ぐらいでした。都度、小野田さんにチェックしてもらいながら、Vコンテ作業からシームレスにプリビズ制作に入っています。

絵コンテをベースとするビデオコンテではなく、最初から3DCGでプリビズを作成してしまった方が早いシーンも多かったのでこのようなワークフローになりました。

本作のワークフローで要となったのが、プリビズの構図やカメラワークを忠実に、実写撮影を行なったことである。

これまで小野田氏が手がけてきたEXILEや三代目 J SOUL BROTHERSのMV制作では、実写撮影時はメンバーたちに自由にパフォーマンスしてもらい、その実写プレートにマッチムーブ処理を施した上で、3DCG・VFX作業を進めるというながれが王道であった。

一方、今回のMVは、3DCG・VFXワークがかなりの物量になることがわかっており、撮影後にオフライン編集を行い、クライアントの確認が取れてからマッチムーブ作業を行なったのではスケジュールが収まらない可能性が高かった。

小野田氏:
さらに、「このカットでは、メンバーの〇〇さんもフレームインしている必要がある」的なアーティストサイドからのオーダーに応える必要もありました。

総勢18人ものメンバーが登場するので、かなり綿密にカット割りや演出を詰める必要がありましたが、東監督にプリビズを作り込んでいただくことで、撮影前にアーティストサイドから了承を得ることができました。

ビデオコンテからシームレスにプリビズ作成へ
▲ 本記事向けに東弘明監督が提供してくれた、ビデオコンテ(左下)、プリビズ(右下)、完成形(右上)を比較した映像。「コンテとVコンはラフに仕上げ、その分プリビズの作成に時間を割きました。プリビズのダンスシーンは、アーティストサイドから提供された振付ビデオを参考に人物モデルをレイアウト。モーションはmixamoのフリーデータを利用しています」(東監督)。カメラワークなど、複雑な表現を伴うカットやシーンについては最初からプリビズ作成に着手することで、思い描いたイメージを効率良く映像化して、スタッフやアーティストサイドと共有することが徹底された

本作の撮影監督を務めたのは、井村宣昭氏。東監督とは、15年来のパートナーである。

撮影監督 井村宣昭氏(以下、井村氏):
昔から無茶なフルグリーンバックとかクロマキーのものとか、想像しにくいものが多いんですよ(笑)

でも、僕は東さんとずっとやってきたので、東さんが思い描いたイメージをほかのスタッフに伝えて、具現化できるようになりました。撮影時は、ステージ全体がグリーンバックで覆われた状態ですが『このカットは次元境界線のシーンで、床面は水面なんだ』といった感じで、説明することから始めました。

昔は絵コンテから東監督イメージを汲み取る必要がありましたが、今回は細密なプリビズがあったのでその面では助けられました。ですが、その分、難易度が上がりましたけど(笑)。いつも挑戦させてくれるチームなので、すごくやりがいがあります。

後工程でルックを作り変えられるように撮影する

一連の撮影は、日活撮影所で行われた。

総勢18名という全メンバーが登場するカットの撮影では、ステージの面積やカメラの可動域などに制約もあったそうだが、東監督と井村氏の長い信頼関係の下、前日のアングルチェックをかなり入念に行うことで、わずか2日間で全カットを撮りきったそうだ。

プリビズモデルの寸法を基に、美術を作成
▲ 首都高シーンのスタジオセット
▲ アングルチェックの様子。スタンドインを入れて全てのカットを前日にテストした上で、本番撮影に臨んだ
▲ 撮影に用いる美術は、プリビズ上のCGモデルの寸法に基づき作成された

撮影カメラは、RED GEMINI(RED RANGER with GEMINU 5K S35)が採用された。

井村氏:
全編にわたって、速い動きのカメラワークが求められました。また、最終的なルックがかなりハイコントラストになるのに加え、撮影時に色が乗ったムービングライトを当てることにしたため、低照度で撮影することでライティングの自由度をできるだけ確保する必要がありました。

そこで、デュアルISOの機能を搭載しているため低照度の現場でも明るく映せるGEMINIを選択しました。 REDは、フルサイズ(スーパー35mm相当)のセンサーサイズのカメラなのにコンパクトだから、速い動きの撮影にも対応しやすいです。また、RAWデータで収録できることも後処理でルックをつくる上では重要でした。

ただREDの場合、クロマキー撮影時は色情報をできるだけセンターに持っていかないと変な偏りが出やすい暴れ馬みたいなところがあるので、ARRIで撮影したデータの方が色設計をやりやすいというのが正直なところでもあります(苦笑)

セットに関しては、プリビズと撮影時の整合性、3DCGにまかせる部分などをカットごとに決めていった。

東監督:
全カットにVFX処理を施すことが前提になるため、本来は撮影ステージの高さを上げて撮影するのが望ましいのですが、セットチェンジの手間をできるだけ簡略にするためにあえて底上げしませんでした。

接地面などのちょっとしたズレはVFXで対応すると決めたことで、撮影効率を高めることができました。

例えば、序盤(16秒目あたり)に登場するメンバーたちが鏡面状態の水面に立つカット。プリビズでは地面スレスレのカメラワークになっているが、撮影にあたっては現場で20cm下げるのか、後処理で下げるのか、どちらが良いのか検討し、後処理で調整することを選択した。

東監督:
現場で仮合成をしてみて、「なんとかいけそう!」と、すごく安心した記憶があります(笑)

限られた条件下で、できるだけ最良な選択を心がけました。様々な制約がありましたが、制約があったからこそ新しいアイデアが生まれるんだと改めて思いましたね。

撮影現場でのカットの管理は、オフライン・エディターの御堂亜希巴氏(VIXI)が担当。Premiere Proを使い、プリビズと目合わせで仮合成することで、撮ったその場でOKテイクかどうかを判断、撮影終了時にはオフラインがほぼ完成していたという。

井村氏:
御堂さんの編集センスが素晴らしくて、仮合成もトラッキングも施されていない状態でも、オフライン編集に近い感覚で、移動距離が足りないねとか、この構図だとトリミングできないねといったことを、撮影しながら決めていけたのは大きかったですね。

CG・VFXトピック【Part.1】

冒頭に述べた通り、本作には総勢12組のCGプロダクションとアーティストがアセット制作とショットワークに参加した。そこで、ショットワークに参加したデジタルアーティストたちの画づくりについて、登場シーン順に紹介していきたい。

なお、一部のアセット制作については、過去作品の3DCGを手がけたKhakiクラフタースタジオビジュアルマントウキョーが元データをリファインする要領で担当した。

<1>DRAWIZ

冒頭から、スタッフ間で「次元境界面」と呼ばれたシーンのショットワークを担当したのは、DRAWIZだ。

Q1.担当された作業内容を教えてください

DRAWIZ:
水平線に薄い水の膜が張られていて、上空に地球が浮かんでいる次元境界面のシーンを担当させていただきました。

そのシーンに付随する冒頭の鳥が飛んでいるトンネルや、アーティストの転送エフェクトも担当しています。

具体的には、プリビズ、マッチムーブデータ、実写プレートを提供していただき、一連カットのエフェクト・ライティング・コンポジットの作業を行いました。

Behind the scenes<次元境界面>
▲ 次元境界面カットの3ds Maxシーンファイル。雲はOpenVDBでレイアウトしており、水面は事前にシミュレーションしたものをマップ化して配置している。
以下、本カットのブレイクダウン
<STEP 1> 空と水面のレイヤーをレンダリングした状態
<STEP 2> 地球のレイヤーを追加
<STEP 3> 雲のレイヤーを追加
<STEP 4> アーティストの実写プレートを合成した、CG・VFXとしての完成形

Q2.制作する上でチャレンジとなったことを教えてください。

DRAWIZ:
CG要素としては、そこまで難易度の高いものではありませんでしたが、スケールの異なる雲や、地球が真上にある中で地面を含めて昼のような明るさのシーンということで、ライティングの難しさや背景が晴天のような明るさの上での地球の大気表現がどのように見えるのかなど、現実には存在しない画づくりが求められました。そのため、落としどころが悩ましかったです。

Behind the scenes<転送エフェクト>
▲ 転送エフェクトカットの3ds Maxシーンファイル。エフェクト作成には、tyFlowを使用。
以下、本カットのブレイクダウン
<STEP 1> 空と水面のレイヤーをレンダリングした状態
<STEP 2> 画面奥の雲とアーティストの実写プレート、そして転送エフェクトのレイヤーを合成した状態
<STEP 3> 画面手前の実写プレートをパーティクル化させたレイヤーを追加
<STEP 4> 発光処理などを加えて、ルックを整えたCG・VFXとしての完成形

Q3.制作時のこぼれ話を教えてください。

DRAWIZ:
スタッフが新型コロナウイルスのワクチン接種を受ける時期と集中して被ってしまったため、当初は作業ペースがなかなか上がらず少し焦りました(苦笑)

<2>佐藤隆之

「次元境界面」シーンの後に続く、原宿と地下鉄シーンのショットワークを担当したのは、OTAS.TVこと、佐藤隆之氏である。

Q1.担当された作業内容を教えてください

佐藤隆之:
前半に登場する原宿の街並みから地下鉄シーンを担当しました。具体的には、世界観のデザイン、モデリング、テクスチャリング、ライティング、UIデザイン&アニメーション、流体シミュレーション、3Dアニメーション、レンダリング、ファイナルコンプ前の仮コンプを担当しました。

モデリングの一部(トレイン、エレベーター)は、よく手伝っていただいているデジタルアーティストのGo Aoyamaさんにお願いしました。

Cinema 4Dによる3DCGワーク
<A>未来の原宿
<A1> 未来原宿シーンのベースデザイン。モブはAnimaProを使用し、町のにぎわいを追加。地面など一部のホログラムは一緒にレンダリングする
<A2> C4D+Octane Renderによるレンダリングで一発出しのサンプル。街+MOB、ホログラム、ワープリングの3要素に分けている
 
<B>地下鉄シーン
<B1> 地下鉄シーンのベース。地下鉄シーン前半に、地下鉄が構築されていく個所があるので、地面の下などにもディテールを加え、構築されていく過程を描いた
<B2> 地下鉄シーンに表示されるホログラム素材。AE上である程度ディテールを加えたアニメーションを作成し、C4D内でアニメーションテクスチャとして使用
 
<C>次の世界へつながるエレベーター
<C1> エレベーターシーンのホログラム素材。自然な木々は緑系の色で、ホログラムの木々はピンク色を用いて認識しやすいようバランスをとった
<C2> 他のホログラム素材もC4D内でMoGraphを用いて生成。RandomやShaderにNoiseを足すなどして、立体的に常に動いているように工夫
<C3> 原宿、地下鉄、エレベーターとシーンが段階的に構築されていく。そこでMoGraphのVoronoi FractureとFieldを組み合わせることで、これを表現した
<C4> ほとんどの建物や構造物が徐々に構築されていくようにしたため、ファイルの読み込みやレンダリングはそれなりに時間がかかったという

Q2.制作する上でチャレンジとなったことを教えてください。

佐藤隆之:
オファーをいただいたときに別件が2件ほど動いていたのですが、本作のコンセプトがとても好きだったので、なんとかスケジュールを調整して(調整できると信じて)引き受けますとお伝えしました。

オファーをいただいた時点でコンセプトとテーマは決まっていましたが、具体的なビジュアルはまだ定まっていませんでしたし、素材も揃っていませんでした。プリビズ動画をいただいてから、素材集めやモデリングから始めて約1ヶ月でデザイン、アニメーション、レンダリング、そして仮コンプという一連の作業を仕上げるというのは、なかなかのチャレンジでした。

中盤までは別件も続いたため、久しぶりにPrologue Filmsに在籍していた頃のようなスケジュールとリスク管理の緊張感がありました。その時の経験を活かしながら計画的に奇跡を起こしていくような工夫をしつつ、作業を進めていきました。

具体的にはどの作業が必要で、どの作業はしなくても良いかを、作業を進めながら常に判断していくことや、1日1日の進める内容が重要になってくるので、寝る前、食事の時、お風呂の時など常に頭の中で計画の改善と作業のシミュレーションをくり返していました。

あとは自宅に揃えているレンダリングマシンたちにも助けられました。GeForce RTX 3090を搭載したマシンを3~4台ずつ、3つのグループに分けて、Cinema 4DやX-Particlesのライセンスを3グループ分、短期間サブスクで用意しました。レンダリング用シーンがある程度用意できてからは、ショットワーク作業を行いながら常に2~3グループはレンダリングをさせている状態でした。

もうひとつ助けられたのは、作業を開始したタイミングで、トラッキングデータ(各シーンのカメラデータ)が既に用意されていたことです。作業を開始した時点ですでにスケジュールがギリギリという状況だったのでとても助かりました。

もしプリビズが存在せず、トラッキング作業から始める必要があったとしたら、デザインワークに費やす時間を十分に確保できずに自分が得意とする作業に集中できなかったかもしれません。

そうした意味でも、本プロジェクトは分業がしっかりとされており、最初に一連の資料や管理されたデータを見たときに「すごい!」と、思いました。

それと同時に、「これらの膨大なデータとカット数を、東監督が自分自身で全て管理しているのか!」と感心させられたことを今でも覚えています。

After Effectsによるコンポジットワーク
次のバーチャル空間へ転移するエレベーターシーンより。
<1> 最奧の背景素材。最終的には、ほとんど見えない部分になるが奥行き感を出すためにしっかりと作成された
<2> 中景素材。木々はC4DのプラグインForesterで生成。水はXparticlesで生成したものをAlembicで書き出して、タイミングやアングルを変えたものを複数配置している
<3> 高所に存在する空間を視覚的に演出するために雲を追加。雲素材はOpenVDBデータを読み込んで使用
<4> ホログラム素材を合成した状態
<5> ホログラムレイヤーのみを表示した状態。ホログラム素材の多くはC4Dにて、主にMoGraphとフィールドを使って生成

Q3.制作時のこぼれ話を教えてください。

佐藤隆之:
担当したシーンは、ファイナルのコンプ以外、私自身が8~9割近い作業を行なったこともあり、比較的自由に進めてしまったのですが、いつも手伝ってくれる青山さんとは阿吽の呼吸みたいなものがあるので、良きタイミングで良い感じのアセットを用意してくださったことに助けられました。

Prologue Films時代も少しの間手伝ってもらっていた友人でもあるので、付き合いが長いこともコラボしやすい理由のひとつだと思います。

東監督とは今回が初めてでしたが、話がとても楽しくて、初めての打ち合わせで仕事以外のことや3DCGの未来、ビジュアルワークに関する話でもけっこう盛り上がってしまいました。

お互いに「そろそろこの辺でストップしましょうか」と何度か言い合わないと、打ち合わせを終えられなかったです(笑)

東監督が管理されていたカット数がかなり多かったはずなので、そうした雑談を交えてお話しする時間を設けていただけたことに感謝しています。大変でしたが、とてもやり甲斐があって、制作中は終始とても楽しかったです。

大変と思うのか、楽しいと思うのかは人によって異なるので、短期間でここまでの作業を行うのは普通に考えると大変な案件かもしれません。ですが、ひさしぶりにPrologue Filmsや、そのほかのLAに拠点をかまえるプロダクションのハードなプロジェクトに近い環境と素材、コンセプト、クオリティで制作することができて、そして東監督とのビジョンや考えの共有がスムーズだったので、私は楽しかったです。

▲ OTAS.TVこと、佐藤隆之氏がショットワークをリードした、原宿〜地下鉄シーンのブレイクダウン

<3>CyberHuman Productions

続く、バックヤード空間から「ランドマーク」とスタッフ間で呼ばれていたシーンのショットワークを担当したのは、CyberHuman Productions(以下、CHP)だ。CHPを代表して、CGディレクター 児玉秀行氏に回答してもらった。

Q1.担当された作業内容を教えてください

CHP:
バックヤード空間の3DCGワーク。そして、「ランドマーク」と呼ばれた架空のビルについてはデザインと3DCGワークを担当しました。3DCGワークとは具体的に、モデリング、ライティング、レンダリング、演者の実写プレートと3DCG素材の仮コンポジット作業になります。

Q2.制作する上でチャレンジとなったことを教えてください。

CHP:
バックヤード空間をどのように表現するのかが少し悩ましかったです。東監督から提供されたリファレンスを元に、少しずつビジュアル化していきました。

バックヤード空間のモニターグラフィックス
<A> MayaのMASHを使い、ベーストなるモニターグラフィックス素材を生成
<B> MASHで作成した素材をNukeに読み込み、Nukeの3D空間にレイアウト
<C> <B>のカメラビュー

Q3.制作時のこぼれ話を教えてください。

CHP:
東監督からオフラインのムービーファイルを元に、ここからどのようにCG・VFXワークを施していくのかわかりやすく説明していただけましたし、細かなデザインまで詳細にイメージを伝えていただけたので基本的には迷わず制作を進めることができました。

バックヤード空間のブレイクダウン
<STEP 1> 東監督が作成した3Dレイアウト(※後編にて解説)に実写プレートを重ねた状態
<STEP 2> MASHで生成したモニターグラフィックス素材(ビューポート表示)
<STEP 3> MASHで生成したモニターグラフィックス素材(レンダリングイメージ)
<STEP 4> 演者の実写プレート
<STEP 5> 実写プレートをキーイングした状態
<STEP 6> 背景となる3DCG素材を合成した状態
<STEP 7> カラーコレクションを施した状態
<STEP 8> Nukeで生成した3Dオブジェクトを追加し、一連のコンポジットを施した3DCGワークとしての完成形

<4>木村俊幸&中澤正浩

01:06辺りからくり広げられる「原宿シティ」と呼ばれたシーンについては、コンセプトアートを木村俊幸氏が率いるLOOP HOLEが担当。そして、3DCGワークは、中澤正浩氏(crate) が担当した。ここでは、木村氏にコンセプトアート制作をふりかえってもらった。

LOOP HOLE 木村俊幸氏(以下、木村):
東監督が求めた「原宿シティ」のコンセプトを制作するにあたり、”EDEN IN THE SKY"(空中庭園)的な世界を描くことは当初から決まってはいました。

ある意味、監督作の持ち味でもある寓話的な未来構想は僕も大好物(笑)でもあるのですが、「では、どうやってそれを描くか?」において、制作期間との戦いになることがわかっていたし、逆にそれを逆手に取るような判断をしなくては、東監督作品の超絶な異空間の持ち味を出しきれないだろう……というのが頭にありました。

そこで、コンセプト画の在り方をそのままVFXコンセプトデザインに適応できるように、できるだけのことをしようと思っていましたが……やはりこちらの想像をはるかに超えてくるのもEXILEチームであり、東監督でした(苦笑) 

刺激的な焦りと、高揚感のあふれる時間を味わいました。

作業としては、まず初期設定としてエンバイロンメントのベースとなるCGIのビルやその環境のインフラと空中庭園の構造をCinema 4D(以下、C4D)で作成して、それを2Dのコンセプトデザイン作業のベース<A> にしました。

<A> 空中庭園のベースとなった3DCGモデルの一部

木村:
3Dの素晴らしいところは、僕たちのような絵描きにとっては助手のような役目も担ってくれることです。

僕が苦手なパースやパターンの作成でC4Dが力を発揮しました。
ドイツ製だけあって落ちにくいことも魅力です。こちらは眠くて落ちましたが(笑)

描きだした2Dの街並みに植林をしたり、ライティングを施していく過程で、僕の場合はそのグルーブをもっと、絵画の世界に引き込んでいくために、あえて積極的にパースを壊していくのですが、実はその辺りでその後のショットワークに支障を来すことも理解はしつつ、絵画としての魅力をできるだけ画面に残したいという願望があります。

それゆえに、東監督はVFXや3DCGに詳しいので頭を掻きむしる羽目になったことは容易に想像できました。

ですが、やはり監督は絵が好きなので、3DCGから逸脱した世界観を受容することを選択する、数少ない映像作家だと信じて作業しました。

しかし、今回の難易度は実は、未来の空中庭園の制作だけではなく、その世界に味付けされた原宿のポップな多彩な色というものが、一体、どういうものをモノとして存在して、原宿という町が機能しているものなのか? というキーワードの発見に依るところが実は最も難題でした。

それが解決しないと、コンセプトワークにならないというのがコンセプトデザイナーの運命でもあります。つまり、「描いても先が見えない!」という、巨大な穴を埋めて、何か種を蒔いて育てる……。これが大変な仕事でもあるのです。

まずは、僕の唯一のスタッフでもあるLOOP HOLEのコンセプトアートディレクター 原 満陽子と、この世界のキーワードを探り、絞り続けました。原は持ち前の色彩力と把握力に桁外れの能力があるために、途中からこの難題に取り組んでもらいブレストした結果、ひとつのキーワードを探し当ててくれました。そのキーワードが、

ディスコテックな原宿

……でした。70年代や80年代のディスコソングのレコードジャケットの影響が僕等の根底にあったのも救いでした。

東監督もすぐにこの提案を受容してくださって、やはり僕等の時代でもあるんですよね(笑)

それらは、「ダンスをするステージでもあり、色調が都市の人々と共鳴して、自由に変化してゆく、転調してゆく都市」というコンセプトを編み上げ、見た目に反映させました<B>。監督とこの有機的な都市に関して随分盛り上がれたのは幸いでした。

<B> ディスコテックな原宿をキーワードに完成した「原宿シティ」のコンセプトデザイン

木村:
それらをコンセプトマットという僕なりの解釈で描き出し、ショットワークにダイレクトにつなげていくというワークフローが、やはり今回の大きな役目だったと後で実感しました。

「原宿シティ」のコンセプトアート
完成したコンセプトアート
ステージなどの近景オブジェクトを非表示にした状態

「原宿シティ」のブレイクダウン
▲「原宿シティ」の3ds Maxシーンファイル。
以下は、ブレイクダウン
<STEP 1> 3DCGで作成した建造物のみの状態
<STEP 2> 遠景にマットペイントを合成した状態
<STEP 3> 立体感を演出する雲や空気感の素材を合成した状態
<STEP 4> ステージの仮素材を合成した状態

続く後編では、東監督自身が作成した3Dレイアウト作業をはじめとするポストプロダクションについて解説する。

それに加えて、後半パートのショットワークを担当したCGプロダクション各社の取り組みも紹介していく。

実写プレートにCGを合わせるのではなく、3Dレイアウトに実写を合わせる。|EXILE×三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE『VIRTUAL LOVE』MVメイキング

2021年12月20日(月)にYouTubeで公開された、EXILEと三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE『VIRTUAL LOVE』MV。全編にわたり重厚な...

INTERVIEW_沼倉有人 / Arihito Numakura(Vook編集部)
TEXT_kagaya(ハリんち
PHOTO_加藤雄太 / Yuta Kato

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