2022年6月10日(金)から11日(土)にかけて、「VIDEOGRAPHERS TOKYO 2022」が行われた。
本イベントは映像関係者、映像作家、ビデオグラファー志望者、動画に興味ある人に向け、制作ノウハウやキャリア形成について講演が行われている。
今記事では数ある講演の中から6月10日行われたカンファレンスセッション『~人生グラフから読み解くキャリアの積み上げ方〜Ren Takeuchi 篇』をレポートする。
- ビデオグラファー / 映像ディレクターRen Takeuchi
1997年京都生まれ。高校卒業後にビデオグラファーとして活動し、2019年にフリーランスの映像ディレクターとして独立。TVCM、WebPV、PV、企業VP、MVなど様々な制作を手掛ける。現在はチームで活動をし、主にカラーグレーディングを得意とし、企画・ディレクション・撮影・編集をワンストップで行う。 https://www.instagram.com/grove_glas/?hl=ja
山あり谷ありの人生グラフ―独学で映像制作を学び、法人化でようやくスタートラインに
今回登壇したのは、映像ディレクターであり株式会社GLAS 代表取締役のRen Takeuchi氏。ビデオグラファーの経験もあるため、企画、撮影、編集までワンストップで進めることが多いという。
ディレクション業務はカラーグレーディングが中心。仕事は企業のプロモーションやウェブCMが多い。
Takeuchi氏は16歳でNHK高校生映像コンクールにノミネートされるなど、早くから才能を発揮している。映像制作をはじめたきっかけについて、Takeuchi氏は次のように振り返った。
「高校では放送部のような組織がありました。そこでは、新入生が絶対に映像制作をやらないといけない文化があり、自分でディレクション、撮影、編集して納品していました。半年ぐらいで退部したのですが、後で『NHKのコンクールにノミネートしていたよ』と部員から聞き、そこからキャリアが始まりました」(Takeuchi氏)。
Ren Takeuchi氏の人生グラフ。中心の線は「0」を表す。
Takeuchi氏が描いた人生グラフでは、高校生の時期だけがプラスで、そこからはほとんどマイナスになっている。このことについて聞かれるとTakeuchi氏は、「高校3年間はほぼ音楽に人生をささげていました。そこから18歳の高校卒業と同時に、やりたくもない料理人の道に進んでしまい、挫折して映像制作の道に進みだしたんです」と語った。
しかし、映像制作への道も簡単だったわけではない。はじめは地方の制作会社を中心に雇用先を探したが、Adobe製品の使用経験や映像制作会社での就業経験を理由に断られてしまう。そこでTakeuchi氏は、すべて独学で映像制作を学ぶことになった。
「基本的にマイナスなんですよ、ずっと。映像の専門学校などに通っている方は、基本的に僕よりも明らかに技術も知識もあると認識をしていたので、素直に誰よりも頑張らないといけないと思っていました」(Takeuchi氏)。
独学を重ねた彼は、20歳でウェディング業界の映像制作に携わり、21歳でフリーランスになる。そこでLUMIXのGH5を購入したことが、現在のキャリアにつながっているという。
「これぞLUMIXだという感じでした。それまでは撮影したものを編集する際にカラーコレクションという作業があるのですが、いつもそこで赤みを消す作業をしていました。しかし、カメラによってはこの工程は必要ないのではと考えるようになり、持っていたカメラをすべて売り払って自分に合ったカメラを探しました。そんなときに出会ったのがGH5で、機材を一式購入して同時にフリーランスになったんです」(Takeuchi氏)。
今年4月には法人化し、Takeuchi氏は「ようやくスタートラインに立てた」と語る。法人化をきっかけに、これまでの映像制作を続けるだけでなく、若い世代をできるだけ受け入れ、次の世代に映像を残すためのさまざまな事業を手がけるつもりだ。
自己投資のために時間とお金を投じることを惜しまない
法人化をきっかけに新たな一歩を歩みだしたTakeuchi氏に仕事をする上で大事にしていることを聞いた。
自己理念の根幹は「自分を信じること」。具体的には、「自己投資」、「行動力」、「インプットを増やす」の3つを意識しているという。
1つ目の「自己投資」は、時間とお金には限りがあるため、必要ならばどんどんそれらを自己投資に回すという考えだ。
Takeuchi氏がこのような価値観を持つようになった背景には、尊敬しているディレクターからの言葉があった。
「お金と時間は有限で、それを何に費やすかによって人生が変わると言われました。それを聞いてからは、必要ならお金を惜しみなく使うようにしています。例えば、新しい機材が100万円でも、その100万円をすぐに回収できるビジネスをつくってしまえば問題はない。僕は今20代なので、お金と時間はすべて映像につぎ込むくらいのことは考えています」(Takeuchi氏)。
2つ目の「行動力」は、フットワークの軽さを指す。京都が拠点だが、映像のイベントがあれば、例え府外でも足を運ぶ。
3つ目の「インプットを増やす」は、常にアンテナを張り、映像に関する学びを続けることを指す。
「何歳になってもインプットは絶対に止めてはいけないと思っています。ある程度キャリアを積むと、どうしてもこれを止めてしまう人が多いはずです。人間も機械と同じようなところがあって、iPhoneのように人間も情報をアップデートしていかないと、固い人間になっちゃって面白くないと思いますね。特に、クリエイティブ業界にいる人は、常にアンテナを張って新しいものを求め、今までにないものをつくっていく必要があるので、インプットは大事だと考えています」(Takeuchi氏)。
GH6はフォーサーズでも現場で十分戦える。自分にとって最高のカメラを見つけた
努力を続けるTakeuchi氏にとってLUMIXは自分のクリエイティブを発揮するために欠かせないという。実際、LUMIXのカメラを購入してから、カラーグレーディングやカラーコレクションに対しての興味が湧いたそうだ。
また、最新機であるGH6について聞かれると、Takeuchi氏は次のように語った。
「僕はGH5やS1Hも買っていますが、正直、とんでもないカメラが現れたと思っています。みなさんの中には、『フルサイズは無敵だ』と考えている人も多いはずです。しかし、GH5が出てからはその固定観念が消え去りました。フォーサーズで十分現場で戦えるというイメージを持っています。
GH6ではカラーサイエンスが大きく変わっていて、発色や再現度が特に美しかった。今回色々なパナライカのシリーズ・レンズを持って来ていますが、特にLEICA DG NOCTICRON 42.5mm / F1.2とGH6の組み合わせが一番綺麗ですね。今では、違う焦点距離を使うと自分の絵が出せなくなるぐらいの感覚があります」(Takeuchi氏)。
続いて、Takeuchi氏がGH6を使って撮影する映像が流された。GH6はファームウェアバージョン2.0がリリースされ、もともとProRes、5.7Kの30pで収録可能だったものが、ファームアップにより4K、60pで収録可能となった。
Takeuchi氏によると、ProResのフォーマットは非常に動作が軽く、自身が使っているメモリ16GBのノートパソコンでサクサクノンリニア編集ができるという。
ハンディによる撮影風景
動画編集風景
講演で紹介された映像は、どれぐらい制作の仕事がスマートになっているのか表したものだ。ビデオグラファーが1日をかけて撮影に足を運び、移動中に編集作業をする。夜には自宅に戻り、クライアントに納品しているという一連の作業の流れが表現されている。
自分に合ったフォーマットは必ずあるービデオグラファーは思考錯誤しながら答えを見つけてほしい
映像の最後には、「Work smart with ProRes」という表記が見られる。もともとAppleには「Apple ProRes」と「ProRes RAW」という2種類のコーデックがある。
Apple ProResはビデオ制作やポストプロダクションでよく使われているコーデックの1つで、Final Cut Pro で使用されることを前提としたApple開発のコーデックテクノロジーだ。
一方で、ProRes RAWはRAW ビデオの柔軟性にProResのパフォーマンスが融合した、HDR(ハイダイナミックレンジ)制作に適したコーデックになっている。
本映像はApple ProRes、動画編集ソフトとして「DaVinci Resolve」が使われているが、スピーディーな作業ができたという。
「今回はApple ProResを使っていますが、ProRes RAWまでいくとハードディスクの容量を圧迫してしまうので、今回ビデオグラファーが描くものとしては最適だと思います」(Takeuchi氏)。
撮影の際は、GH6と各種レンズだけのことが多く、時折ジンバルを使う程度の軽装備だ。GH6は手ブレ補正が強力で、ジンバルを使わずハンディだけで十分だったという。
さらに、BRAW(Blackmagic RAW)収録との違いについてはこう語る。
「グレーディングなどでBRAW収録されている方もいますが、それだとDaVinciの画面でフローが1つ増えるので、結局デコードしなければなりません。もともとの解像度でクリップとして選択するなどいろいろなストレスが生じるので、僕は使っていません。今回のProResであれば、そのままタイムラインでカット編集して、あとはグレーディングで一気に完成まで持っていけるのが良い点です」(Takeuchi氏)。
操作画面で示される多数のフォーマット
加えて、Takeuchi氏はGH6の魅力について、次のように語った。
「GH6では、操作画面でたくさんのフォーマットが表示され、好きなものを選択することができます。みなさんの制作に合ったフォーマット、コーデックが必ずあるので、ぜひ使ってもらいたいですね」
自分とキャリアを共にするカメラとの出会いで大きく一歩前進することもある。Takeuchi氏が大きくキャリアを切り開いたように相棒となるカメラを模索してみるのも良いだろう。
本イベントだけでなく、LUMIXではワークショップを随時開催している。
次回のワークショップは本記事で紹介したRen Takeuchi氏に加え、たかさわけーすけ氏、AKIYA氏によるキャリアについての座談会や質問・相談が直接できる時間も用意されている。
ぜひこの機会にLUMIX BASE TOKYOへ足を運んでみてほしい。
Career Consulting Seminar My career with LUMIX 〜若手クリエイターのキャリアの積み上げ方〜
開催日時:2022年7月10日(日)
ゲスト:Ren Takeuchiさん、たかさわけーすけさん、AKIYAさん
詳細URL:https://lumix-base.jpn.panasonic.com/workshop/detail/?id=84
TEXT_江連良介 / RyosukeEzure
EDIT_古川恵梨 / Eri Furukawa(Vook編集部)
Photographer:大竹大也 / Daiya Otake(D-STUDIO)
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
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