MV超色分解Vol.8は元ちとせが14年ぶりにリリースするオリジナルアルバムから『暁の瞳』のMVをピックアップ!
Vol.8:元ちとせ『暁の瞳』
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MV解説
『暁の鐘』は、元ちとせが7月にリリースする14年ぶりのオリジナルアルバムからの先行配信楽曲の第3弾。
月9ドラマ『朝顔』の主題歌を担当したことでも知られる折坂悠太が、元ちとせの平和への思いを歌ったカバーアルバム『平和元年』(2015年発売)から着想して作詞・作曲・編曲を手掛けたものです。
カラーパレット
印象的なシーンのカラーパレットを生成してみました!
※後ほど生成したカラーパレットのカラー詳細はお伝えします。
それでは見ていきましょう!
配色解説
悲しい過去、僅かな希望の光を「BLUE」と「ORANGE」で表現
画像出典:元ちとせ「暁の鐘」(Music Video) <折坂悠太 プロデュース>https://youtu.be/8FSjbeSekbk
歌いだしは夜明け前のカットから始まりました。
『暁の鐘』という楽曲だけに言葉の意味を前面にだして「夜明けを告げる鐘」というイメージにマッチさせています。夜明け前のカット故に全体的な暗いトーンとコントラストがカッコいいですね。
配色解説に入る前に、凄く気になったのが人物が右側からフレームインをする際の全体的な配色です。
人物のスキントーンを出しておらず、カラーでメッセージを強く伝えたいのかなと感じました。
本来なら人物に照明を当ててスキントーンを出すと思うのですが、この作品では照明を焚いておらず、人物にも光が当たっていません。ただ、背後の海の向こうにはぼんやりと灯りがともっていて、希望や明るい未来を演出しているような気がします。
歌詞を詳しく見てみましょう。
このままここで 光の中で
あなたのそばで 眠っていたい
迫る夜の向こうから
そんな私を起こすもの
在りし日の鐘が鳴る
在りし日の鐘が鳴る頃に
ふと目を開ける
私は黙らない
引用先:https://www.uta-net.com/song/319649/
歌詞を読むと、なにか悲しい過去があり、親しい人が亡くなったりして過去を未だに抱いているように感じます。そのような忘れられない過去から決して目を逸らさないというメッセージ性や、今を強く生きるというメッセージをこの映像から感じました。
今作で使用頻度の高いカラー、いわゆるキーカラーは「BLUE」です。
今作の 「BLUE」の意味は「平和」「精神的」「冷静」「保守的」などの意味を持つと思いました。配色パターンは補色が使用されています。
「BLUE」×「ORANGE」なのですが、人物には「BLUE」があたり、背景には「ORANGE」というルックの作り方。
俗にいう「ティール&オレンジ」なのですが、普通は人物のスキントーンが「ORANGE」なので、背景に「TEAL」カラーをあてるのですが、この作品では人物と背景が逆になっているのが特徴的です。
手前の人物を「影」として認識して、希望や光がなく、暗い気持ちを指していて、背景のほのかに明るい景色をわずかな希望として「ハイライト」しているのではないでしょうか。
今を生きている登場人物は辛い現実の中にいて、明け方の背景は明るい未来を象徴しているようにも思います。
そして後半に掛けて、アーティストが海沿いまで歩いて行った所で少しルックが変わり始めました。
映像であまり使われない配色「MAGENTA」、「PURPLE」、「BLUE」
先ほどまでは補色で「BLUE」×「ORANGE」が使用されていましたが、このシーンからは「ORANGE」のカラーが見えなくなりました。
では歌詞を見てみましょう。
在りし日の鐘が鳴る
在りし日の鐘が鳴る頃に
そぞろの雨に 旅立つ船よ
知らせてほしい
私はここだよと
引用先:https://www.uta-net.com/song/319649/
歌詞のなかで「旅立つ船よ」とあるので、誰か(何か)に別れを告げているような内容だと感じます。
映像に使われている色は単純なグラデーションの印象を受けると思いますが、「MAGENTA」、「PURPLE」、「BLUE」の3色で、「アナロジー」配色が使用されています。
※赤と紫の混色で「MAGENTA」になるので、人によっては2色に見えるかもしれません。
「アナロジー」配色とは色相環で隣接している色相で色を組み合わせる事をいいます。ただ、単純に隣接している色相を使用すると、単調で物凄く浅く見えてしまうので、コントラストを大幅につけると印象がガラッと変わる配色になります。
こういう配色は明るい色がなく、沈んだ色なのであまり映像では使われません。それを敢えて使っているのが特徴です。
色のイメージは「PURPLE」が「神秘的」、「神聖」、「高貴」。
「MAGENTA」のイメージは「見えざる色」、「超越した宇宙の愛」、「慈愛」、「神聖」などで、この色を見ることで自分の中の「好き」や「嫌い」などの感情を想起させる色だと言われています。
そしてキーカラーの「BLUE」。
色使いから考えても、生きている人への別れではなく、もういない、亡くなった人への別れやメッセージを告げるシーンのような気がします。
なので、背景には「PURPLE×MAGENTA」の配色を使い、誰に向かってメッセージを向けているかを表現し、手前は「BLUE」の配色で人物の思いを伝えているように感じました。
一貫して人物の色は「BLUE」の配色を使い、登場人物の感情は変わらず、背景の色が移り変わっていくことで状況の変化を表しているのではないでしょうか。
その変化は、MVで登場人物が歩き続け、海沿いまでたどり着く景色の変化でも感じることができます。
特に最後、海沿いにたどり着いた瞬間に広がる
神秘的な「PURPLE×MAGENTA」の配色を歌詞の内容を考えながら、ぜひじっくり見てみてください。
元ちとせ『暁の鐘』<折坂悠太 プロデュース>MV超色分解まとめ
いかがでしたでしょうか?
歌詞に込められた想いを具現化して耳から目を通して伝わるミュージックビデオでした。
皆さんも自分が好きなミュージックビデオを超色分解してみてはいかがでしょうか!
次回もお楽しみに!
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MV映像超色分解とは?
最新MV、人気MVの中から特に色の視点で際立った作品を
Ren Takeuchiさんがピックアップ。
MV内でなぜその色が使われるのか、どのような感情を表現しているのか、細かく解説していただきます。
大好きなMVを違った視点で理解するもよし、今後のカラーグレーディングの参考にするもよし、カラーリファレンスとして使えるように毎回お届けいたします。
著者プロフィール
- ビデオグラファー / 映像ディレクターRen Takeuchi
1997年京都生まれ。高校卒業後にビデオグラファーとして活動し、2019年にフリーランスの映像ディレクターとして独立。TVCM、WebPV、PV、企業VP、MVなど様々な制作を手掛ける。現在はチームで活動をし、主にカラーグレーディングを得意とし、企画・ディレクション・撮影・編集をワンストップで行う。 https://www.instagram.com/grove_glas/?hl=ja
- Edit:古川恵梨 / Eri Furukawa(Vook編集部)
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