YouTubeは、今やレッドオーシャン。登録者数100万人「だいにぐるーぷ」の生き残り戦略とは?|VGT2022

2023.02.09 (最終更新日: 2023.03.09)

ニーズが激しく移り変わるYouTube業界において、求められる映像の「質」とは何なのか。

2022年6月11日12日の2日間にわたって開催した「VGT2022」における講演「伸び悩まない、YouTuber! 再生数のその先へー。」では、登録者数90万人超え(※1)の大人気YouTuberだいにぐるーぷの中心的な人物である岩田涼太氏と西尾和之氏が、YouTube業界の荒波で彼らどのように戦ってきたのかが披露された。

※1:本イベントの開催時点。2022年12月に、100万人を突破している。
https://youtu.be/okH9-ZCXAg0

だいにぐるーぷ
中学の同級生で結成された6人組YouTuber。「アメリカ全土で1週間鬼ごっこ」や「無人島からの脱出」など、子供の頃に一度はやってみたかった壮大なスケールの企画を、自分たちの納得いくまで、こだわって制作している。

変わりつつある、YouTuber事情

▲だいにぐるーぷ 岩田涼太氏(左)と、西尾和之氏(右)

開始すぐに司会進行のダストマン氏が本題に切り込んだ。

だいにぐるーぷのリーダーであり、企画を担当する岩田氏に、「5年近く活動する中で、ここ最近のYouTubeの世界がどのように変わったきたか」と質問する。

すると、岩田氏は「今は大変。正直、自分たちも伸び悩んでいる」とこぼしつつも、自身を取り巻く状況を冷静に分析した。

だいにぐるーぷ 岩田涼太氏(以下、岩田):
TikTokに多分、肌感3割ぐらいのユーザー取っていかれたというのと、あと、純粋にYouTuberの数が増えましたね。

ダストマンさんがYouTubeを始めたときって、多分、映像系ほぼ独占状態だったんじゃないですか?

ダストマン氏(以下、敬称略):
ブルーオーシャンでした。

岩田:
今は、どのジャンルもレッドオーシャン。
あと、例えばコミュニティ系の映像だったら、釣りだったら釣り、みたいな各分野の専門家として活動してきたバックグラウンドをもつYouTuberも乱立している。

そうした方々は、数字が伸びなくてもベースを確立されているのでどうにかなるんだと思います。

けっこう、YouTubeをマーケティングの武器として使っている人は多いと思うし。

▲司会進行を務めた、ダストマン氏。広島の限界集落の廃校に事務所をかまえる映像クリエイターであり、だいにぐるーぷのAfter Effects技術における師匠でもある。自身の運営するYouTubeチャンネル『ダストマンTips』では、After Effectsをはじめとするソフトウェアのチュートリアル動画を公開している

また、動画が再生された回数だけが評価される「再生回数至上主義」的な考え方も変化しつつあるようだ。

岩田氏は「再生回数よりもコアファンの数とか、より熱心なファンがどれぐらいいるのかみたいな方が重要になってきている」と話す。

岩田:
YouTube的に、再生回数の広告収入で元を取ろうと思ったら、規模の大きな企画はむしろ難しいという実状があるんです。

でも、そこでコアファンになってくれた人が、グッズとか、メンバーシップとかでお金を落としてくれてるからこそ、メインチャンネルに赤字覚悟で企画が打てるんです。

プロのビデオグラファーを目指す学校、はじまる。入学生募集中。

PR:Vook School

なぜ、シリーズ企画を投稿し続けるのか?

だいにぐるーぷと言えば、『無人島からの脱出』をはじめとした壮大なスケールの企画や、アニメーションや3DCGを活用した編集が際立ったハイクオリティな作品が特徴だ。

配信動画の切り抜きやショート動画が流行する昨今のYouTube業界において、1本の動画を長尺にして、さらに『1週間逃亡生活』に代表される7日間連日公開されるシリーズを投稿し続ける彼らを、ダストマン氏は「時代の逆向いて全力疾走している」と評する。

岩田氏は、そんなだいにぐるーぷの活動について、次のように語った。

岩田:
動画を1シリーズ観終わったときに、観た人の中に何かしら起こってほしいんです。

化学反応が起きてほしいと思っているのですが、短尺、縦型って、残るというよりも消化していくというか。そうしたトレンドに抗っているつもりです。

今の時代は、1本の映画を観ることの敷居が高くなってきていて、昔で言う本を読むぐらい、1本の映画を観るのって重い腰上げないといけないじゃないですか?

でも、僕らは本とか、映画とかが好きで始めたってのもあるんで、そこは曲げたくないと思っています。

だいにぐるーぷの撮影はどのように変わってきたか。

だいにぐるーぷの人気企画として『無人島からの脱出』シリーズが挙げられる。

メンバー6人が無人島に解き放たれ、ミッションをクリアしながら物資を手に入れることで無人島からの脱出を目指す大型企画だ。

▲だいにぐるーぷの無人島企画第1弾。ほかのYouTuberとは一線を画す規模の撮影で、当時話題を呼んだ 
だいにぐるーぷ『無人島からの脱出』

2019年に投稿された1作目『無人島からの脱出』から、2022年に投稿された近作『無人島からの脱出2』に至るまでの3年間で、彼らはどのような進化を遂げてきたのだろうか。

1作目の映像をふり返りながら、岩田氏は当時メンバー6人それぞれがカメラマンとして撮影していたことを明かす。

岩田:
全部自分たちで撮って、片付けのときにインストラクターの人がいたんですけど、「おまえら全員来い!」って、ブチ切れられましたね。

ダストマン:
それは何で?

岩田:
若かったっていうのもあるんですけど、けっこうむちゃくちゃなことをやったり、言ったりしてたんで(苦笑)

ダストマン:
多分、僕と岩田さんが初めてお話しさせていただいたのがこの後ぐらいですかね?

岩田:
そうですね。この年の年末ぐらいにご飯行かせていただいて。

ダストマン:
確かこのときに悩みを抱えられてて、自分たちでカメラをやったりとか、そろそろプロの力を俺たちは入れた方が良いんじゃないかみたいな相談を受けて、「どう思いますか?」みたいな相談をされましたよね。

▲無人島企画の第2弾。「無人島バトルロワイヤル」のオープニング。CGによるヘリコプターが異彩を放っている
無人島バトルロワイヤル

それからだいにぐるーぷがプロフェッショナルの力を積極的に取り入れ始めた2021年の「無人島バトルロワイヤル」について話が広がる。

岩田:
これはUNDEFINEDという、昨日(VGT2022で)登壇してたんですけど(※2)、CGクリエーター集団に作ってもらって。

※2:UNDEFINEDは、VGT2022にて「僕らがUNDEFINEDに集う理由」に登壇した

ダストマン:
一気にですよね。

岩田:
一気にクオリティが上がりましたね。

これがさっきの無人島から2年後とかだったんで、多分、一番編集に時間もかけたし、規模もめちゃくちゃでかくて。

ダストマン:
カメラの台数とかもすさまじく入れてましたよね?

岩田:
全部ソニーのシネマカメラを使って、めっちゃクオリティも上げて、ドローンも飛ばしてみたいな。

半年近くの制作時間をかけて作られた『無人島バトルロワイヤル』だったが、苦労と葛藤も絶えなかったという。

そうした経験をふまえ、2022年3月から全7編が順次公開された『無人島からの脱出2』の制作はどうだったのだろうか。

▲ 原点回帰となる2022年3月から公開された『無人島からの脱出2』。前作とちがい、本作では派手なCGは使用されていない
無人島からの脱出2

ダストマン:
撮る画のキレも良くなってますよね、機材の進化と共に。

岩田:
さっきの無人島のバトルロワイヤルからはもうちょっと戻って、もうちょいバラエティーの要素を入れようっていうので、第1弾のグレードアップバみたいな感じで制作しました。

ダストマン:
それは、『無人島バトルロワイヤル』がキツ過ぎたから?

岩田:
そうですね。キツ過ぎたわりに、数字としてはあまり(良い)結果が出ませんでした。

ダストマン:
それは、多分、西尾さんたちがやりたいっていうものが視聴者に全部伝わるかっていうと、そういうわけではなかったってことですか?

岩田:
作りたいものをひたすら極めていって作れたものが『無人島バトルロワイヤル』だとしたら、『無人島からの脱出2』はわりと自分たちの作りたいものと、観たい人の意見を半々ぐらいでバランス良く取り入れることができたと思っています。

だいにぐるーぷの編集はどのように変わったか

技術のクオリティを高めれば、視聴者がついてくるわけではない。

その線引きの中で葛藤しながらも、常に技術の「質」を高めてきただいにぐるーぷだが、彼らのクリエイティブな面や編集での裏話について、これまで詳しく明かされてはいない。

そこを掘り下げるためにもう一度2019年最初の無人島企画に戻って、編集を担当している西尾氏が話し始める。

だいにぐるーぷ 西尾和之氏(以下、西尾):
このとき(2019年に公開したⅠ作目の『無人島からの脱出』)、ちょうどAfter Effectsを勉強してたのもあったので、モーショングラフィックステンプレートという、AEで書き込んだデータをPremiereに読み込んで使えるという機能を使って、基本的に動くテロップに仕上げました。

静止画のスライドだとわかりづらいのですが、テロップにアニメーション付けたりしながら、より凝った表現を目指しました。

2019年の時点では、テレビ番組の編集を参考にしていたと語る西尾氏だが、2021年に公開した『無人島バトルロワイヤル』では、Netflixで配信されているドラマを参考にしながら、CG技術を向上するための勉強を重ねたという。

▲『無人島バトルロワイヤル』では、銃を発砲する際の火花や、狙いを定めるスコープなどを加工することで映像への没入感を高めている。『荒野行動』を参考にしたというUIも秀逸

西尾:
そこで、自分が今できるCGでどんなのができるかなってことで、いろいろバトルロワイヤルという世界観に合わせて、銃の説明をしたいってときに、CGを使うとより世界観の中で没入感が生まれるのかなというアプローチで作業を進めていきましたね。

ここら辺から今までけっこうイラストとかで、平面図に上から乗せたりとか、元の映像にけっこう雑に平面的な乗せ方をしてたのを、映像を加工するスタイルへと変わっていきました。

また、作中に登場する銃を説明する映像を作る際に、ダストマン氏から西尾氏へのアドバイスもあったそうだ。

ダストマン:
「グリーンバックの前で、糸で銃つるして、回して、後で背景消せばいけるよ」って教えてあげたら、「あっ、そんなことが」と言ってた。

西尾:
実際、抜いたときもまったく違和感なくて。

岩田:
むちゃくちゃキレイですよね、これ。

そこから話題はさらに、YouTubeの動画では欠かせないテロップのフォントについて発展する。

『無人島からの脱出2』では、特にフォントについてのこだわりがあったのだという。

西尾:
今まではテレビの使ってたテロップのフォントをほぼ真似して使っていたんですけど、ここら辺から企画ごとに自分たちで有料フォントを探っていこうと。

ほかの人があまり使ってないもので、なおかつ、企画に合うのフォントを自分たちで探すようになりましたね。

その上で、一辺倒のテロップが多かったなと、テレビの真似事のせいもあったんですけど、表現が乏しかったと。

動画には動画に合った表現があるんじゃないかってことで、そこら辺がオリジナルテロップということで、ここだけじゃなくてけっこうこんな感じで、シーンに合わせていきました。

さらに『無人島からの脱出2』では、本編への干渉を抑えた補足的なCGが活用されたことについてダストマン氏が激賞した。

ダストマン:
これが本当に良かった。

バラエティ感もちゃんと残しつつのCGの質感というか、ちょっとセル画のアニメーションみたいな感じの説明になって、これ、Blenderですか?

西尾:
Blenderです。無料の(オープンソースの)ソフトでここまでできるんだ、っていう。

ダストマン:
これもイチから勉強して?

西尾:
そうですね。コロナ禍になって、時間もあったので。

最後に、だいにぐるーぷの今後の展望をダストマン氏が岩田氏に問いかけて締めくくられた。

岩田:
「観てもらえないと意味がない」という大前提に立ち返りつつ、もっと企画に力を入れていきたいと思っています。

編集に関しては、多分、今回のやつ(『無人島からの脱出2』)がわりと見やすくて、自分たちとしてもわかりやすくて面白かった。

これからも2年に1回ぐらいペースで“自己満足のバトロワ”みたいな企画をやっていけたらと思います。

TEXT_桝本力丸 / Rikimaru Masumoto
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(Vook編集部)
PHOTO_加藤雄太 / Yuta Kato

コメントする

  • まだコメントはありません
Vook_editor

Vook編集部@Vook_editor

「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。

Vook編集部さんの
他の記事をみる
記事特集一覧をみる