実写から3DCGアニメーションへ。ショートアニメ『HIMA:HIMA~地球征服の日までヒマで~』森田と純平監督インタビュー

2022.07.26 (最終更新日: 2022.07.26)

森田と純平監督の最新LINEアニメ『HIMA:HIMA~地球征服の日までヒマで~』(以下=HIMA:HIMA)。

作品は1分程度のショートアニメで、少女と宇宙人の小気味いい掛け合いをLINE VOOM上で視聴することができる。

実写の映像制作からキャリアをスタートさせ、最近では3DCGを駆使したアニメーションを数多く生み出す森田と純平氏に、制作の経緯や苦労について詳しく聞いた。

ⒸStory Effect Co.Ltd.

LINEアニメ『HIMA:HIMA~地球征服の日までヒマで~』第1話
https://linevoom.line.me/post/1164490480407060704

  • 映像作家森田と純平

    実写映画の助監督などを経て、その後はテレビドラマの脚本・監督やバラエティ、ドキュメンタリー、ミュージックビデオなど幅広く手がける映像作家。アニメ作品の原作、シリーズ構成、監督も務めている。

『HIMA:HIMA~地球征服の日までヒマで~』に行き着くまで

──HIMA:HIMAの企画がはじまったのはいつ頃からですか? キャスティングの背景や意図なども教えてください。

森田氏:企画がはじまったのは2021年の夏頃になります。そこからキャラクターの制作を始め、年明けからレコーディングを開始しました。

キャスティングは完全に僕のイメージで進めています。宇宙人パパールのCVを演じていただいた石川界人さんは、僕がシリーズ構成と脚本を務めたテレビアニメ『オカルティック・ナイン』にも出演してもらっていて、演技も上手でその場の空気に合わせてアドリブができる人ということでお願いしました。

一方、パパールにさらわれてしまう寝町カホのCVを演じていただいた宮本侑芽さんは、以前から演技がナチュラルで好きな芝居をする方でしたね。今作は掛け合いをナチュラルにしたかったので、こちらからお願いしました。

『HIMA:HIMA~地球征服の日までヒマで~』 (ⒸStory Effect Co.Ltd.)

──この作品を制作することになった経緯をお願いします。

森田氏:けっこう前からUnityでアニメを作ることを実験的にやっていたことが背景にあります。自分が手がけたNetflixの作品『LOST SONG』では3DCGを一部で使っていましたが、シーンによってはPre-Visualization(以下=プリビズ)で、Unityを使ってカットを作っていました。

そのときはまったくの素人だったので、エンジニアが動かしているのを見て感心しているだけでしたが、次第に「自分でできたら早いのではないか」と考えるようになっていきました。

森田氏:コロナになって、自分の仕事が全部止まってしまったとき、仲の良い声優たちと『ノクターンブギ』という作品を作りました。この作品は全てUnityで制作しましたが、知識がないので止まっているキャラクターをカメラだけ動かして見せるというレベルでしたね。この頃はまだモーションキャプチャは導入しておらず、Unityを使って1人で手作業で動きを付けていました。

その後、『キミとフィットボクシング』を制作する際には、他社スタジオさんと協力してモーションキャプチャを導入しました。

そこからさらに知識を深めていたところ、LINEさんからオリジナルアニメをやらないかとお声がけいただき、HIMA:HIMAを作ることになったという流れになります。

──1話はどのくらいの日数で制作されているのでしょうか?

森田氏:HIMA:HIMAは1話約1分の短尺作品ですが、準備に半年近くかかっています。純粋にアニメーション付けだけの作業でいうと、最初の方は大体3日程度かかりました。慣れてくると、2日弱で1話分が完成するようになりましたが、ポスプロを含めると4~5日くらいはかかる計算になりますね。

宇宙人のパパールは、キャラクター設定書と三面図を作って、3DCG制作会社にモデリングをお願いしています。寝町カホはpixivさんの無料モデリングソフト「VRoid Studio」を使用してベースモデル(素体や表情など)を自分で作り、衣装やUnityにおけるファイル形式変換などのセットアップは他の方にお願いしています。


▲カホ・パパールの完成モデル(ⒸStory Effect Co.Ltd.)

──今作は1分という短い作品ですが、制作する上で一番苦労したことを教えてください。

森田氏:やはり手付けのアニメーション部分だと思います。ただ座っているように見えて、ちょっとしたリアクション部分も全て手作業で動きをつけているので、やってもやっても終わらないなという感覚でした。

今回はプレスコアリングで撮影しているので、声のお芝居を先に収録して、後からアニメーションを付けています。

当初、キャラクターは座ったまま話が進んでいく予定でしたが、声優さんの豊かな演技を聞くうちにイマジネーションが膨らみ、この掛け合いに動きを付けることにしました。結果として、画的にもテンポが良い作品になったかと思います。ただ、作業量的には、自分の首を絞めてしまった感じですがね(笑)

▲1話のワンシーン。作品自体が1分と短尺だが、テンポの良さと非常に細かいところまでキャラクターが動いており、見ていても飽きない作りになっている(ⒸStory Effect Co.Ltd.)

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新しい技術を得るたびに、表現の幅が広がる

──スケジュールの厳しい中で作品を作りあげることができたのは、ツールの存在も大きかったですか?

森田氏:そうですね。今作では、Unityのアセット「UMotion Pro」を初めて使ったので、操作に慣れるのにとても苦労しましたが、非常に使い心地の良いツールでした。

▲「UMotion Pro」は主にPose Editerウィンドウ(モデルのポーズや挙動の設定など)とClip Editerウィンドウ(キーフレームを制御してアニメーションを付ける)で作業(ⒸStory Effect Co.Ltd.)

森田氏:アニメーションツールでは、「Very Animation」と「UMotion Pro」の2つが有名ですが、僕にはUMotion Proが合っていました。

一番の理由として、UMotion Proにはタイムラインで全ての要素をリンクさせつつ作業ができる機能があるからです。映像制作をする上で重要なのは「芝居(アニメーション)」と「音」と「カメラワーク」がリアルタイムでリンクしていること。

今まではそれぞれ別々の作業工程となっていたのが、UMotion Proのアニメーションを作る専用タイムラインと、Unity本体の音、カメラ、その他項目を制御するタイムラインとを完全にリンクさせられることで、圧倒的に作業効率が高まりました。

Very Animationでもアニメーション制作はできるのですが、僕のような映像の作り方をする場合はUMotion Proが合っていました。

▲画面下部のTimelineタブで「音声」「モデルのアニメーション」「カメラワーク」「ポスト処理」を制御。画面上部のClip Editerタブの赤文字「Sync」機能により、UMotion ProとUnityのタイムラインが同期され、カット素材を作る上での全ての要素がリアルタイムでリンクする(ⒸStory Effect Co.Ltd.)

森田氏:また、3DCGでは「インバース・キネマティクス(IK)(※)」というものがあります。UMotion Proはこの点でもパワフルな機能があって、逆運動学に従ってある部分が動くと他の部分も追従して動いてくれるので、人間のリアルな動きを再現することができるのですが、各部位にピン留めをして動かし方を自由に制御させられるんです。

▲キャラクターの手首・足首にIKをセットアップすることでポーズ作りやアニメーションを「人間らしく」設定することができる。また、それぞれの部位を接地部にピン留めすることで制御が楽になる。
例)足首を床と接地状態でピン留めすると、アニメーションさせても地面にめり込むことなく動かすことができる(ⒸStory Effect Co.Ltd.)

※インバース・キネマティクス=階層構造をもつオブジェクトの下位オブジェクトのターゲット位置を指定すると、逆運動アルゴリズムによって各ジョイントの回転角度や上位オブジェクトの位置を計算するもの。人物モデルの手の先を指定すると、肩までの各関節が連携するような動きに用いる。引用=CGWORLD.jp

キャリアのスタートは実写、依頼をきっかけにアニメを撮るようになった

──そもそものアニメ作品を手がけられるようになったきっかけは、ご自身がデザインに精通していたからですか?

森田氏:いえ、全く精通していませんでした(笑)

実は、一番最初は実写映画の助監督からキャリアをスタートさせています。その後、テレビのディレクターやドキュメンタリーやドラマの監督をしたり、自分で脚本を書くこともありました。

森田氏:アニメ作品に関わるきっかけとなったのが、フジテレビの開局55周年記念アニメ『信長協奏曲』です。当時、この作品は「ロトスコープ」(※)という方法でアニメを制作することが決まっていました。

ロトスコープで制作するとなると、まずは実写の映像を撮影しなければならない。さらに、アニメにもフレキシブルに対応できる監督が必要だとなりました。そこで実写に精通していた僕に白羽の矢が立ったのです。

ロトスコープ=アニメーション手法のひとつ。モデルの動きをカメラで撮影し、その映像からトレースを行いアニメーションにする手法

森田氏:信長協奏曲の後、「アニメをやりませんか?」というお誘いが来るようになり、『オカルティック・ナイン』のシリーズ構成と脚本を任されました。

そしたら今度は、「物語が書けるなら原作から作る監督を」という話になり、Netflixに『LOST SONG』を持って行ったら見事に話が通って、そこから原作、脚本、シリーズ構成、音響監督...…と、何役もやるようになったんですよね(笑)

アニメはある意味「嘘の連続」、あらゆる手法を駆使して視聴者に制約を感じさせない

──実写からアニメへとご自身の制作環境が目まぐるしく移り変わっていったかと思います。その変化の中で、何か苦悩はありましたか?

森田氏:そうですね。悩むことは多々ありました。

実写もアニメも「映像制作」という大きい枠の中では同じものなのに、制作の方法が違ったり、文化の違いにも悩まされましたね。特にアニメのコンテが実写とまったく違うという点が大きかったです。

僕自身、ドラマなどで監督を務める際は絵コンテを描いていたのですが、ラフに描くことが多かったんですよね。きっちり描いても、現場で「コンテはあるけど、やっぱりこちらの角度の方が良い画が撮れるから、こっちから撮ろう」ということも多々ありましたし。

だけど、アニメでもラフな気持ちで絵コンテをあげたら「こんなコンテではアニメは作れない!」と全部やり直しになったことがありました。

実写だと、晴れの天気が必要なら晴れの日に撮れば良いのですが、アニメではその晴れですら誰かが描かなければならないし、風は吹いているか、雲はどの程度の速度で動いているか…など、天気ひとつでも詳細な指示が必要になります。

アニメではコンテを何ヶ月も掛けて綿密に作り込むものというのは、実写との差を大きく実感した出来事の1つですね。

──アニメの制作では、それほどコンテが重要ということですね。

森田氏:そうですね。アニメの場合、すべての打ち合わせをコンテを元に行います。

背景美術の担当は背景に描かれた情報をもとに、演出担当はキャラクターの表情や動きの情報をもとにそれぞれ質問をしてきます。

最初は人の動きを矢印で描いたりもしていましたが、「何歩進むのか指示しないと分からない」と指摘されることもありました。こういった実写とのギャップを感じながら、アニメの常識を学んでいったのです。

──制作工程の他にも何かギャップを感じたことはありますか?

森田氏実写とアニメで得意とする表現が異なるということも痛感しました。

例えば、アニメは「回り込む」カメラワークが苦手です。実写では人物を中心にカメラを動かせばいいのですが、アニメの場合は背景も周り込んだように描く必要があるため、時間が掛かってしまいます。そのため、定点やカット割りの方が無難になってきます。

ただ、映像を表現する上での制約を感じていましたが、逆にその制約を視聴者にバレないように表現することの面白さも感じました。

アニメはある意味「嘘の連続」で、背景は広角で撮っていても、キャラクターは望遠で撮っているということがよくあります。アニメは記号的であるとよく表現されますが、特に日本はリミテッド・アニメ(※)という止め絵で作っていくという伝統的な流れがあります。

実写は情報量が多いので、役者が動かずにいる様を撮っているだけでも被写体の変化が見てとれますが、アニメは絵が止まると間が持たない。だから、キャラクターに喋らせたり、動かす必要が出てきます。

リミテッド・アニメ=アニメーション手法のひとつ。簡略化された抽象的な動作を表現するために、動きを簡略化しセル画の枚数を減らす表現手法

──多くのギャップを感じ、さらに3DCGに関するロジカルな理解が求められる。新しいことを学習する上でもストレスを感じたかと思います。

森田氏:最初は本当に何も分からなかったので、正直苦痛でしたね。

だけど、まずは自分で触ってみることを意識して、『ノクターンブギ』のときは動かない、口パクもしない、カメラワークと声優の演技だけの作品を作っていました。自分で作品を作っていると、前にレクチャーを受けた箇所を肌感覚で理解できるようになり、少しずつ技術を自分のものにできるようにしていきました。

▲今作では、キャラクターの表情や動作が細かいところまで作り込まれている(ⒸStory Effect Co.Ltd.)

森田氏:自分が技術を身に付けていくと、今までできないと思っていたことが工夫ひとつで表現できることに気が付きます。それが嬉しかったりもします。

──最後に、今後チャレンジしてみたいことを教えてください。

森田氏:僕は実写とアニメのどちらも経験しているので、それぞれの表現の良さを感じてきました。

ハリウッドや国内の大作では、従来のグリーンバックに合成という3DCGのスタイルではない撮影方法も取り入れられるようになっています。例えば、『マンダロリアン』では、スタジオに巨大パネルを置いてゲームエンジンで3DCGの岩山をリアルタイムで動かして撮影している。

3DCGの知識と役者が演じる情報量の多い芝居を融合させた作品を作ってみたい、今の段階ではふんわりとそんなことを考えています。

INTERVIEW_菅井泰樹 / Taiki Sugai(Vook編集部)
TEXT_江連良介 / Ryosuke Ezure
PHOTO_大竹大也 / Daiya Otake

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