2022年6月10日(金)から11日(土)にかけて、日本最大級の映像クリエイター向けイベント『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズ・トーキョー)』が3年ぶりにリアル開催された。
この記事では2日目(11日)に行われたカンファレンスセッション『Premiere Proって、もっと色々出来るの知ってます?Premiere Pro研究会』の様子をお届けする。
このセッションでは、映像作家の市井義彦氏によって、Premiere Proの最新バージョンで導入された新インターフェースの変更点が紹介された。
また、エディターでAdobeアプリの講師も務めるRyohei Yamawaki氏によって、実践で使えるPremiere Proの便利な機能や、作業を効率化するショートカットなど、少しコアなものまで解説された。
- 映像作家市井 義彦
映像作家。株式会社Command C 代表取締役。関西の制作会社を経て、2014年にCommand Cを設立。テレビを中心に番組・CMなどの、ディレクター・撮影・編集を手がける。Adobe Community Evangelist。プレミアノート(YouTube)の発信なども行う。
- エディターRyohei Yamawaki
エディター。地方局のCG制作部に所属した後、ラジオ局のミキサー、YouTubeの動画編集などを経て、都内ポストプロダクションにて4KHDRやVRコンテンツの制作を担当。テレビ番組のオンライン編集、学生向けのAdobeアプリケーションのレクチャーも行う。
Premiere Proの新しくなったインターフェース
初めに市井氏が、2022年4月にアップデートされたPremiere Pro 22.3(2022年4月リリース)の新しいインターフェースを紹介した。
2021年4月に今までベータ版として公開されていたインターフェースが本実装され、
- 読み込み
- 編集
- 書き出し
の3つの項目からなるヘッダーバーが導入された。
「読み込み」は、今回新たに導入されたページだ。
これまでの「メディアブラウザ」が大きくなって独立したものだと考えるとわかりやすい。画面左に並んでいるフォルダから場所を指定し、素材を選択して簡単に読み込むことができる。
より初心者のユーザーにも分かりやすい画面構成になったと言える。
また、この読み込みページは、新規プロジェクトを作成するときにも表示される。 一般的に[プロジェクトの作成] > [素材の読み込み] > [シーケンスの作成]は、一連の流れで行われるため、一括してしまおうという意図だ。
新規シーケンスを作成すると、選択した素材をタイムラインに並べるところまで、自動で行なってくれる。
もちろん、これまで通りファイルやメディアブラウザから素材を読み込むことも可能だ。
「編集」ページでは、これまで上部にあった「カラー」「エフェクト」「オーディオ」などのレイアウト配置をプリセットした項目がなくなり、画面右上のプルダウンメニューに集約された。
しかし、「メニューを開いて、選択する」というように2工程になり不便だ、との声が多かったため、[ワークスペースタブを表示]を選ぶことで、これまでのように上部にタブを並べることもできるようになった。
「書き出し」ページには、これまで書き出しウインドウにあった要素が移行された。
変更点は、「形式」と「プリセット」の並び順が逆になったこと。これまでは形式を選んでからプリセットを選ぶ、という流れだったが、先にプリセットを選ぶことで、形式やその他の設定などが既に決められたものを簡単に選べるようになった。
また画面左側にはYouTube、Vimeoなどの各種SNSのスイッチが配置された。
Premiere Pro上でそれぞれのSNSにサインインしてスイッチをONにしておくと、ファイルの書き出しと同時に、SNSにも投稿される。
また市井氏は、メディアファイルの書き出しの複製機能をピックアップした。
これは、1つの動画を別々の設定で同時に複数書き出せる機能だ。例えば「H.264」と「QuickTime」のように、完パケ用とチェック用を同時に書き出せる。改めて[Media Encoder]を使う必要がなくなった。
一方、以前は「場所」を選択して、ウィンドウ内にある他のファイルの名前を選択すると、ファイル名を参照させることができた。既存のファイル名を少し変えて書き出したいときに便利な仕様だったが、これが新バージョンではできなくなった。
この件は、ベータ版ではユーザーの声を受けて改善されており、将来的に修正される見込みだ。
シーン編集の検出
続いてYamawaki氏から、Premiere Pro 2020で搭載された「シーン編集の検出」機能が紹介された。ひと言で表現するなら「複数のシーンで構成された1本の素材を、カットごとに自動で分けてくれる」便利な機能だ。
例えばライブ配信でスイッチングアウトした映像のように、複数のカメラで撮影した1本の素材を、カットごとに個別に編集したい場合。これまでは、映像の境目を自分で探し手動でカットしていく必要があったが、この新機能によって、ワンクリックで、しかも、人が行うよりも正確にできるようになった。
方法は簡単で、[クリップの上で右クリック] > [シーン編集の検出を選択]するだけ。カット以外にも、編集点やマーカーを追加することも可能だ。
今回Yamawaki氏がサンプルとして用意した2分弱の動画では、約30秒でシーンごとのカットが自動で完了した。
また、この機能を応用した、色飛びやノイズをチェックする方法も紹介された。
例えば、編集が完了したシーケンスと、そのシーケンスから書き出した素材を上下に並べ、上のクリップ(書き出した素材)の描画モードを[差の絶対値]に設定する。
[差の絶対値]では、上下のクリップの輝度差がある部分のみ差分が表示され、全く同じ部分は黒く塗りつぶされる。
そして、この2つのクリップをネスト化した上で、シーン編集の検出を行なってみる。
本来、この2つのクリップが全く同じものであれば、クリップ全体が黒く塗りつぶされるため、シーン編集の検出は機能しないはずだ。
しかし今回のデモでは、数フレームではあるが差異が見つかり、それらを調べてみると、該当部分が緑色に飛んでしまっていることが分かった。
このように、書き出した動画の最終チェックにおいても、シーン編集の検出機能を活用できる。特に、数十分から1時間を超えるような長尺動画のチェックを行う際は、ぜひ取り入れてみてほしい。
ありがとうレガシータイトル、さようならレガシータイトル
「レガシータイトル」はPremiere Pro上でテロップを追加する主要な方法として、長年利用されてきたが、2022年の後半には廃止されることが発表され、より高度なテロップが作成できる「エッセンシャルグラフィックス」への移行を促している。
しかし、これまでレガシータイトルに慣れ親しんでいたユーザーが、なかなか乗り換えられずにいるのも事実。そこで市井氏は、エッセンシャルグラフィックスを利用するメリットを紹介した。
まずエッセンシャルグラフィックスでは、複数のテロップを一括で変更することができる。これはレガシータイトルにはなかった便利な機能だ。
これまでのエッセンシャルグラフィックスで作るテロップは、最低限の装飾しか施すことができなかったが、境界線やシャドウを追加して二重にしたり、テキストの塗りにグラデーションがつけられるようになった。
さらに6月のアップデートでは、シャドウにグラデーションを付けることもできるようになっている。
これによって、エッセンシャルグラフィックスでも、レガシータイトルのように豊かな表現のテロップを作れるようになる。
レガシータイトルの廃止は決定事項であるため、できるだけ早めにエッセンシャルグラフィックスに移行しておきたい。
知っておきたいショートカットとカスタマイズのコツ
続いてYamawaki氏からは「知っておきたいショートカット機能」が紹介された。
以下では、一部をピックアップして紹介する。
[選択範囲をマーク]は、一部のクリップだけ書き出したいときに便利だ。これまでは書き出したい部分にイン点、アウト点を打っていたが、クリップを選んでショートカットを実行するだけでOK。
複数クリップをまとめてマークすることもできる。
[オリジナル編集]は、例えば動画内に入れたPhotoshopで作ったロゴやテロップを修正するときに、直接編集ファイルにアクセスできる。
[プログラムモニターで直接操作を有効にする]も便利な機能だ。例えば、テロップやロゴの位置を調整したいとき、通常は[対象のテロップ/ロゴを選択] > エフェクトコントロールのモーション]をクリックしてから移動させる必要があったが、クリップを選択してショートカットを実行するだけで、プログラムモニター上で移動できるようになる。
[フレーム保持を追加]は画を止めたいときに使える。他のソフトでは、止めたい箇所を画像に書き出す方法が一般的だが、シーケンス上に画像データが増えてしまうデメリットがある。しかし、この機能を使えば、画像を書き出すことなく、再生ヘッドを置いた場所で映像を止めることができる。
作業中に全体を確認したいときは、[シーケンスに合わせてズーム]を選択するだけで俯瞰できる。
また、この機能はスイッチになっており、もう一度[ショートカット]を押すと、先程と同じ倍率に戻ることも可能だ。特定の場所に移動したいときに[シーケンスに合わせてズーム]で全体を表示し、再生ヘッドを動かして、再び[シーケンスに合わせてズーム]でズームインすると作業が捗る。
ところで、Premiere Proは自分でショートカットをカスタマイズできることが大きなメリットだ。ここでYamawaki氏はカスタマイズする際に意識していることとして、
- よく使用するものは修飾キーを外す
- なるべくマウスから手を離さない配置
- 意味付けをして覚えやすくする
の3点を挙げた。
例えば「編集点の追加」(Win:Ctrl+K / Mac:Cmd+K)のような多用されるショートカットは、CtrlやCmdキーの押下を不要にすると、作業が楽になる。Yamawaki氏は「C」キー単体に編集点の追加を割り当てているそうだ。
また、Premiere Proで効率よく作業するためには、いかに右手をマウスから離さないかも重要だ。そのためには、本来は右手でカバーするショートカットを左手で操作できるようにすると良い。
カーソルキーを使っていた再生ヘッドの移動をA、Sに割り当てたり、デフォルトではI(アイ)、Oに割り振られているイン/アウトのマークをQ、W辺りに設定するのも一案だ。
これらのショートカットは、特に初めのうちはなかなか覚えられないものだ。そのため、「フレームを書き出し」はP(Print)などの意味付けをすることも有効である。
新バージョンへは早めの移行を
市井氏は冒頭で紹介した新しいインターフェースについて、「できることはこれまでとほぼ変わらず、慣れの問題だ」とした。
今回のアップデートでは、全体的に、これからPremiere Proを使い始める初心者ユーザーに優しいインターフェースに変わったと言える。
別セッションで紹介された「Frame.io」など、今後新しく追加される機能は最新バージョンでのみ提供されるため、既存のユーザーも早めに移行して慣れておくと良いだろう。
他セッションの様子は下記リンクから。
"リモートで映像編集を共有”する、Frame.io 活用術。ビデオグラファーの映像制作はより円滑に|VGT2022
2022年6月10日(金)から11日(土)にかけて、日本最大級の映像クリエイター向けイベント『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズ・トーキョー)』が3年ぶりにリアル...
TEXT_水野龍一 / Ryuichi Mizuno
EDIT_山北麻衣 / Mai Yamakita(Vook編集部)
PHOTO_山﨑悠次 / Yuji Yamazaki
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
コメントする