2022年6月10日(金)から11日(土)にかけて、日本最大級の映像クリエイター向けイベント『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズ・トーキョー)』が3年ぶりにリアルで開催された。
本稿では、2日目(11日)に行われた『表現の幅を格段に広げる、Adobe Stockの世界』を振り返る。
Adobe Stockには3億点を超えるプロ向けの写真・動画・イラストなどがある。プロのクリエイターたちは、これらをどのように活用しているのだろうか。
本セッションでは、ノンフィクション・ビデオグラファーの伊納達也氏が進行役となり、モーションデザイナーの白戸裕也氏、アドビの大木慧氏を迎えて、実際に使う目線でAdobe Stockの世界を紐解いていった。
- アドビ株式会社 大木 慧
デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部 GTMマネージャー。米国のストック素材会社にてAPAC及び日本の代理店営業、法人営業に従事した後、2022年1月にアドビに入社。Adobe StockのBtoC戦略を担当。
- Motion Designer / Editor白戸 裕也
大手制作会社にて、テレビCM・WebCM制作等を経験。2016年よりABEMA、2019年より6秒企画に参加。モーションデザイナーをはじめ、エディター、コンポジターを務める。映像系イベントにも多数登壇、記事も執筆している。
- inaho Film代表 / ビデオグラファー 伊納 達也
東映シーエム株式会社で制作進行として勤務後、2014年から株式会社umariにて様々なソーシャルプロジェクトの映像ディレクションを担当。その後inaho Filmを設立し、2019年からは栃木県鹿沼市にスタジオを移して活動中。
クリエイターを熟知するアドビならではのストックサービス
まず大木氏は、近年、映像業界におけるストック素材の需要が増えていることを踏まえ、映像業界を取り巻くストック使用のトレンドについて説明した。
1.環境の変化:コロナ禍で撮影が減った
2.プロクリエイター以外の動画制作者:動画内製化、ソーシャル動画
3.5G時代の到来:動画コンテンツの消費の増加
続いて大木氏は、Adobe Stockについて3つの大きな特徴を紹介。
1.ロイヤリティフリーかつ商用利用可能な素材が3億点以上用意されており、ビデオや写真に限らず、ベクター、オーディオ、モーショングラフィックス、テンプレート、3Dモデルなども提供。
2.アドビのAI技術「Adobe Sensei」を使ったスマートな検索システムによって、3億点超の素材の中から効率良く選択できる。
3.Adobe Creative Cloudとの連携がスムーズで、アプリから直接ストック素材を検索・プレビューしたり、ライセンスを取得したりできるため、制作プロセスをシンプルにできる。
また、毎週約110万点の素材が追加されるため、常にフレッシュでトレンドに合う素材が利用できる。
▲高品質なコンテンツを大量に届けるために、業界をリードするパートナーから提供を受けている
Adobe Stockの場合、日本で事業を行なっているパートナーからも素材提供を受けていることから、伊納氏と白戸氏は「一般的にストックサービスの人物素材は日本人が少ないが、Adobe Stockでは必要な素材を見つけやすい」と評価する。
ビデオグラファーにAdobe Stockを勧める理由
ここで大木氏は、ビデオグラファーがAdobe Stockを使うメリットを5点挙げた。
1.動画制作に必要な素材がワンストップで揃う
2.オーディオ素材含め、全ての素材を許可取りなしで使用可能
3.あらゆる素材を1つのサブスクでダウンロードできる
4.サブスクでは、使わなかった月の分は最大1年間繰り越せる
5.Adobe Creative Cloudとの連携
プロとして仕事をする上で、気になるのがライセンスだ。伊納氏、白戸氏も「一番気になるところ」と口を揃える。
Adobe Stockはすべてロイヤリティフリーで、ダウンロード後は全世界で期間の制限なく使用できる。万が一、著作権上の問題が発生した場合でも、免責補償が付いているので安心だ。
▲Adobe Stockのライセンス体系
複数のストックサービスを使うと、素材を探すのに加えてライセンスの確認作業が発生する。また、Web向けに作った動画を、テレビやデジタルサイネージで展開することになった場合、その際に改めてライセンスの確認が必要となり新たな負担が生じる。
こうした課題がある中、Adobe Stockはライセンスが明瞭なためクリエイターにとって扱いやすいだろう。
▲利用点数に合わせて選びやすい購入プランが用意されている
クリエイターはどのようにストック素材を活用しているのか
Adobe Stockのストック素材を実際にどう活用しているのか、白戸氏が実例を踏まえて解説した。
実写の素材以外にテクスチャを入れたいとき、自分で作るとなると結構な時間がかかる。例えば、文字を光らせたいときや質感を出したいとき、紙のテクスチャを背景にして優しい映像にしたいときに、ストック素材を試してみて、合うと思うものがあればそのまま使っているという。
白戸氏は、コロナ禍で撮影ができなかったときにAdobe Stockを利用して作成したという、デザインカンファレンス「Design Ship 2021」の作品を例に紹介した。上空からの俯瞰映像も使用しており、「もしドローンで撮影するとなれば、制約があり許可を取るのも容易ではない。素材のおかげで良い感じに作れた」と振り返る。
▲大部分にAdobe Stockの素材を使用。ムービーだけではなく、静止画をズームしてムービーのように見せるなど、ストック素材を加工して使用している
白戸氏はもう1本、Vookのウェビナー『音声編集環境論』用に作った整音の教材を紹介。
▲Vook代表取締役の写真以外、背景素材やリボン素材もAdobe Stockを利用。AIデータの素材については必要に応じてバラして手を加えられるため、イチから作るより大幅なスピードアップを図れる
白戸氏は「真面目なものからネタ系のものまで、いろいろ使えるのがAdobe Stockです。本当にバラエティ豊かな素材が揃っているので、いろいろなストーリーを組み立てられます」と評する。
伊納氏もAdobe Stockを使った映像を紹介。母校である関西学院大学のプロモーション映像だ。「総合政策学部という社会問題を考える学部なので、何をインサートするか難しいのですが、こういう素材があるとスケール感を表現できるようになりますね」とストック素材を活用した背景を説明する。
▲撮影が難しい空撮映像も手軽に利用でき、表現の幅を広げられる
インスピレーションを得るために、ストック素材を活用
白戸氏は編集そのものだけでなく、リファレンス(参考素材)を集める用途でもAdobe Stockを活用しているという。
例えば、モーションを作るときに扱うジオメトリと呼んでいる図形は、他のサイトで探すとなかなか思い通りのものが見つからないが、Adobe Stockでは、「こんな表現もあるんだな」とインスピレーションやリファレンスになるものが見つかるという。イラストやベクターなどの種類や色で、絞り込むことで、より近しいリファレンスが発見できる。
伊納氏は、企画書やプリプロダクションの段階でクライアントに提出する資料作りでもAdobe Stockの素材を利用している。
▲「この素材はどこから持ってきたんですか」といった話が後から来るのを避けるため、資料の段階でもライセンスのしっかりしたストック素材を使いたい、と話す伊納氏
オーディオ素材も! 欲しい素材を効率よく探すコツ
膨大な素材の中から狙い通りの素材を探すために、何かコツはあるのだろうか。白戸氏の実体験での疑問を基に、大木氏が解決のメソッドを解説した。
白戸氏は、英語と日本語のどちらを入力すべきか迷うことがあるという。
そこで、大木氏は、「旅行 日本」と「Travel Japan」を入力した場合の検索結果の違いを例示。
▲「旅行 日本」で検索した場合の結果
▲「Travel Japan」で検索した場合の結果
日本語で検索したときは、日本人が連想するようなものが最初に出てくる。一方で、英語で検索したときに出てくるものは、外国人が連想するであろう若干ビビッドな素材がトップに来る。
日本国内向けのプロジェクトで使うときは日本語で検索し、外国人向けのプロジェクトでは英語で検索してみるといった使い分けが可能だ。
また、このとき[ダウンロードの多い順]で並べ替えると、万人受けするものを選ぶのに便利だ。
次に大木氏は、オーディオ素材の検索方法についても説明。オーディオを探すとき、一つひとつ聞いてイメージに合うものを選ぶのは骨が折れる。また、イメージを言葉にして検索ワードにするのも難しい。
その煩わしさを軽減する機能が「オーディオで検索」だ。既に持っているオーディオ素材と同じような音や雰囲気のものを探したいとき、[ファイルをドロップ] > [範囲を選択] > [類似を検索] とすることで、同じようなオーディオを簡単に探すことができる。
ダウンロードしたオーディオ素材は、もちろん別途許可取りする必要なく使用できる。PremiereやAuditionで長さやリミックスなど調整しても問題ない。
最後に大木氏は、Premiere上でストック素材探しから編集まで完結できること、そしてライセンス管理上の扱いやすさについて、改めて強調して締め括った。
まだAdobe Stockを利用したことがない人も、まずはインスピレーションを得る用途で使い始めてみてはどうだろうか。
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以上が、VGT2022 カンファレンスセッション『表現の幅を格段に広げる、Adobe Stockの世界』セッションレポートとなります。
他のセッションの様子は下記リンクから。
"リモートで映像編集を共有”する、Frame.io 活用術。ビデオグラファーの映像制作はより円滑に|VGT2022
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TEXT_加藤学宏 / Norihiro Kato
EDIT_山北麻衣 / Mai Yamakita(Vook編集部)
PHOTO_加藤雄太 / Yuta Kato
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
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