【あるごめとりい:インタビュー】歴史的事件に“100万人”が注目。テレビの世界を見据えた「あるご構想」とは

2022.08.01 (最終更新日: 2023.03.13)

事件などをきっかけに世界史などの歴史を学ぶ教養YouTubeチャンネル『あるごめとりい』が、2022年7月に登録者数100万人の大台に到達しました。

YouTubeではあまり見られない、まるでテレビ番組のような構成と映像美、こだわり抜かれたスタジオセット。これらはまるでプロの所業です。

ただ、それもそのはず。あるごめとりいを運営する株式会社pamxyの西江健司さんは、かつてTBSでバラエティを制作していた元テレビマン。超大手企業を退職してYouTubeに転身した異色の経歴をお持ちなのです。

今回はチャンネルに自ら出演している西江さん(けんちゃん)と病み子さんのお二人に、テレビ局出身ならではのコンテンツ制作へのこだわりや、テレビとYouTubeの違いなど、詳しく伺いました。

Profile

西江 健司(写真=右)
株式会社pamxy代表。新卒で入社したTBSではバラエティ制作に携わり、退社後は動画制作の傍らで起業し、IP、SNSマーケティング、コマース事業を手掛ける。代表チャンネル『あるごめとりい』では「けんちゃん」として自らMCを務める。登録者数は100万人(2022年7月現在)
 
闇 病み子(写真=左)
『あるごめとりい』MC。2019年、ダークネス星からYouTubeをするために地球にやってきた。その同時期にチャンネルを降板したpamxyの共同創設者・斉藤正直氏との関係は未だに謎のまま。
 
『あるごめとりい』チャンネル
https://www.youtube.com/c/Algometry

バラエティ制作からYouTubeへ

Vook:けんさん、病み子さん、本日はよろしくお願いします!

けんちゃん:よろしくお願いします。

病み子:よろしくね!

Vook:早速ですが、けんさんは、もともとテレビ局にいらっしゃったと伺いました。

けんちゃん:はい、TBSでバラエティ制作をしていました。企画書を作ってはボツになる毎日だったのですが、実はそこで通らなかったものを自分で作ろうと始めたのが、このチャンネルだったんです。

企画内容は、終電を逃した人にインタビューしたり……。色々やって、ことごとくスベってましたね。

そうやって試行錯誤する中で、2019年に投稿した「ミステリーボックス」の動画が伸びたことをきっかけに、事件や都市伝説に絞って動画を作るようになりました。

Vook:そうなんですね。『あるごめとりい』が軌道に乗ったので、会社を辞められたんだと思っていました。

けんちゃん:むしろ当初は、エンジニアになろうと、プログラミングスクールに通いながら動画を作っていたくらいです。YouTubeが伸びなかったら食べていけない、という切羽詰まった状況ではなかったので、そこまで辛くはありませんでしたね。

クリエイターとして「副業」という言葉は使いたくありませんが、リスクを最小限に始めたことは良かったと思います。

病み子:私が地球に来たのもその頃で、四谷のシェアハウスでYouTubeしつつ、色々やってたわよね。

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目指したのは「YouTubeとテレビのハイブリッド」

Vook:テレビからYouTuberへの転身ということで、戸惑われた部分はありませんでしたか?

けんちゃん:TBSではプロとしてコンテンツを作っていた自負があったのですが...最初はそのスキルをYouTubeでほとんど活かせませんでした。

Vook:と、言うと?

けんちゃん:その理由として大きかったのは、YouTubeとテレビの「テンポや間の違い」です。

YouTubeはジャンプカットに代表されるように、トントンと進んでいくテンポの速さが特徴ですが、それに対してテレビは、ナレーションやカットの間が、かなりゆっくりです。

そこでYouTubeとテレビの良いとこ取りをして、ハイブリッドで作っていこうと考えました。

映像が流れるナレーションパートの部分はゆっくりと間を残して怖さを演出し、一方でスタジオカットは、本編の流れを遮らないように間を詰めています。

病み子:確かに昔と比べて、スタジオの時間はかなり短くなってるわよね。スタジオが長かった頃は「あの紫のキノコ頭、要る?」ってコメントがたくさん来てたわね(笑)

けんちゃん:僕らの話がおもしろくなくて、カットしまくっていたら、ほとんど尺がなくなってしまった……というウラ事情もあったりしますが(笑)

病み子:そうなの?(笑)

けんちゃん:さらにテレビ以上のクオリティのテロップや映像を取り入れようと試みて、たどり着いたのが今のスタイルです。

Vook:テロップや映像も、相当作り込まれていることが伝わってきます。事件映像はどのように作られているんですか?

▲冒頭部分の地球が回る映像や、テロップの付け方が印象的

けんちゃん:事件の解説部分は、有料サイトの素材を使っています。ArtgridStoryBlocksMotionElements など、わりと有名どころのものばかりです。

ただ、テレビの再現VTRと違い、素材サイトには同一人物の映像がありません。なので、いかに違う人物の素材を同じ人に見えるように編集するか、ということには、かなり時間をかけています。動画の没入感に関わる、重要な部分だと考えてます。

例えば「目より下を切り取る」ことも、同一人物に見せるテクニックとして有効です。

病み子:そこまで言っちゃって大丈夫? あるごみたいなチャンネルが50個くらい増えちゃうんじゃない?(笑)

Vook:その手間が大変ですからね。誰にでもできることではないと思います。

プロップ(小道具)やスタジオについても教えてください。YouTuberさんで、ここまで凝ってやられている方は少ないかと。

けんちゃん:サイバーパンクの世界観が好きで、それを部屋の中に再現しようというコンセプトです。原色を取り入れたり、抜け感を出すことを意識しています。

Vook:背景の主張が弱かったらお二人のキャラクターが前に出すぎてしまいますし、絶妙なバランス感ですよね。

けんちゃん:ありがとうございます。僕たち自身の紫、赤といった色も含めて、トンマナが統一された「ひとつの画」になることを目指しています。

僕らは芸能人ではなく、見た目で視聴者さんを惹きつけることはできませんので、それ以外の使えるものはすべて使おうと。キャラクター、色味、小道具……非日常感を印象づけて、また見に来たいと思ってもらえるように工夫しています。

病み子:取り扱う話題にあまり興味が湧かない視聴者の方にも、二人を細かく登場させることで、サブリミナル効果的に私たちのことを好きになってもらいたいわよね。

けんちゃん:「事件」を入り口にして「アイツらが出ているから見るか」と思ってもらえることは、大事ですよね。

▲スタジオにはファンから贈られたオリジナルの「あるごめとりいグッズ」が並んでいた

あるごが「学び」を提供する理由

Vook:テンポ、映像、色味……。ここまでは技術的な部分でのお話、いわゆる「ハード」面のこだわりを伺ってきましたが、コンテンツの中身、いわゆる「ソフト」面で意識されていることはありますか?

けんちゃん:特に大切にしているのは「学び」です。

Vook:「学び」ですか?

けんちゃん:そうです。例えば土曜日の朝に布団から出られなくて、気づいたら15時くらいまでYouTubeを見てしまったとします。罪悪感で自分を責めてしまいそうになるところですが、動画から少しでも得るものがあれば、そんな自分を許してあげられるのではないでしょうか。なので「ダラダラしながら学びたい」というニーズって、わりとあるのではないかと思っています。

そこで、難しい用語を動画内で「めとらーキーワード」として解説したり、動画の最後でクイズを出したりして、学びや気付きを提供できるように意識しています。

Vook:なるほど、チャンネルの立ち上げ当初から狙っていたのですか?

けんちゃん:正直、最初は考えていませんでしたが、登録者数が10万、50万と節目に到達するごとに、「僕たちは、なぜ動画を創っているんだろうか?」という社会的な意義を考えるようになりました。

それで立ち返ったときに、意外とチャンネルを通じて「勉強になりました!」というコメントが多いことに気づいて、僕たちが提供できるインサイトって、そこなのかな、と。

また軸ができたことで、意思決定も早くなりましたね。コンテンツを企画する際、「これは学びになるか、ならないか」で瞬時に判断できるようになりました。

病み子:あと、私たちが当初から意識していたのは、事件の犯人の心理に寄り添うこと。犯人はそれが正義だと思い込んで犯行に及んでいるわけで、なぜそのような思考に至ってしまったのか、生い立ちにまで遡って解説するように、けんちゃんはしているわね。

けんちゃん:そもそも法律を含めて、善悪って人間の主観でしかないですからね。また、視聴者さんには動画から何らかの気づきを得てもらって、自分の周りの人にやさしくしたり、子育てに活かしてもらったり……。このチャンネルには、そういった社会的な意義もあると信じています。

病み子:ただ「第一に動画としての面白さがあり、プラスアルファで学びがある」というニュアンスが大事よね。現にそういう動画の方が、視聴者さんからの反響もいいからね。

世界を意識した「あるご構想」

Vook:今後のチャンネル、そして会社としての展望をお聞かせください。

けんちゃん:コンテンツは学びという軸をぶらすことなく、他のチャンネルを展開していきたいです。そこで意識したいのが、チャンネル同士の繋がりです。

例えば、あるごのスタジオの背景には、僕たちがやっているもう1つのアニメチャンネル『ミッドナイトムーン』の動画が流れていたり、ミッドナイトムーンの登場キャラクターの名前が「ケン」と「ヤミリ」だったり……。

けんちゃん:チャンネル同士が裏でさり気なく繋がっていて、知っているとさらに楽しめる、まるでMARVELのようなあるごめとりいを中心とした「ワールド」を創りたいという構想があります。

あとは、昼は撮影ができて、夜はシーシャバーを営業できるスタジオへの移転を考えていたり、動画で育ったキャラクターたちを活用したIP事業としてアパレルなどにも本格的に取り組んでいきたいです。

Vook:最近ではYouTubeチャンネルを越えて、ビジネスに結びつけるケースも増えています。

けんちゃん:そうですね。今はコンテンツからビジネスを派生させやすい環境になってきています。ECサイトはShopifyで簡単に作れますし、僕たちの場合は、グッズのOEM先は外国語ができるメンバーが、代理店を挟まずに現地のメーカーとやり取りをして本当に質の良いモノだけを創っています。

視聴者さんには本当に良いと思えるものを買ってほしいので。

これまでのクリエイターさんは、事務所を通してこのような横展開をすることが多かったですが、僕はクリエイターこそ起業したり、自分で会社をやった方が良いと思っています。

自分たちでやることでビジネスリテラシーも高まりますし、他のクリエイターさんの活動をサポートできるようにもなります。

Vook:(取材時の7月上旬時点)チャンネルの登録者数は100万人目前ですが、その先の目指すところは?

けんちゃん:登録者数は2,000万人を目指しています。ただ海外展開も考えないといけません。せっかく良いコンテンツを創るんだったら、世界に出さないともったいないですし。

海外では、例えばYouTuberがNetflixにコンテンツを提供している例も出てきています。実績とクオリティを高めた際には、そういった展開も期待できるかもしれませんね。

Vook:では最後に、これからYouTubeを始める読者の皆さんに、一言いただけますか?

病み子:動画編集ソフトって、ぱっと見だと、とっつきにくいと思うじゃない? でも実際に使ってみると、意外と覚えられたりするものなのよ。

月並みだけど、何でもいいからまずは作ってみると、1つできることが増えて、また新しいことに挑戦して……って、良いサイクルが生まれるわ。

それが積み重なって、気づいたら、いろんなことができるようになっているのが、動画編集のいいところよ。

けんちゃん:やけに詳しいな(笑)

病み子:って、前にけんちゃんが言ってたわ(笑)

けんちゃん:ここ数年で動画編集の意味合いが大きく変わりました。YouTubeがない時代は、動画を編集しても、身内で楽しんで終わりでした。

ただ今は、創ったものを世界に公開できます。

高度な編集ソフト、高速なネット回線などのツールが揃っている時代です。

確かに動画編集は難しいですが、そのスキルを獲得することは、自分の人生の可能性を大きく広げてくれます。正に僕らも、YouTubeを始めなかったら会社もやっていなかったし、こういう取材を受けることもありませんでした。

そこに投資する価値は、十分にあると思います。

Vookが目指す「映像クリエイターを無敵に。」のコンセプトボードをけんちゃんと病み子さんのお二人に持っていただきました。


テレビ局の社員という安定を投げ捨て、YouTubeでコツコツとクオリティの高い動画を積み重ねることで、チャンネル登録100万人に到達した「あるごめとりい」。

テレビ出身の強みを活かしつつ、自分たちにできることは何かを考え抜いて出した「学び」を軸としたコンテンツは、これからも視聴者の人生を豊かにしてくれるはずです。

目標を世界に見定めたけんちゃんと病み子の2人の挑戦は、まだ始まったばかりです。

そんな「あるごめとりい」では、一緒に動画制作をする仲間を募っているとのこと。
気になる方は、下記の画像からチェックしてみてください。


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