【河津太郎 × 今村圭佑】「撮影監督」トークセッション。撮り方からキャリアパスまで、幅広く語り合う。|VGT2022

2022.08.08 (最終更新日: 2022.08.10)

2022年6月10日(金)から11日(土)にかけて開催された、日本最大級の映像クリエイター向けイベント『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズ・トーキョー)』。

この記事では2日目(11日)に行われたセッション『撮る。』の様子をお届けする。

本セッションは日本を代表する撮影監督(DP、DoP、Director of Photography)、河津太郎氏と今村圭佑氏による初対談。撮影監督は、カメラワークとライティングを同時に設計するという、アメリカや韓国ではすでに一般化しつつあるシステムだ。

日本ではまだ撮影部と照明部が分かれているケースが多く、まさにこれからグローバルスタンダードに合わせて変わっていくという変革期を迎えつつある。

そこで本セッションでは、両名の撮影監督の仕事に焦点を当て、DPとしての撮り方、キャリアパス、作家性、グレーディング、そして若い世代へのメッセージまで、幅広く語り合った。
MCはVook CCOの曽根隼人氏が務めた。

  • 撮影監督 河津太郎

    1969年生まれ。東京出身。武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業。学生時代より佐藤信介氏や永井聡氏らと共に多くの自主映画制作を行い、佐藤と映像制作レーベル、アングルピクチャーズを立ち上げ。ライティングも自分で設計する撮影監督スタイルをモットーとして数多くの劇映画、CF、MVに関わる。 劇場作品:『GANTZ』シリーズ、『図書館戦争』シリーズ、『アイアムアヒーロー』、『いぬやしき』、(いずれも佐藤信介監督)ほか。 『キングダム』(佐藤信介監督)にて第43回日本アカデミー賞最優秀撮影賞受賞。 『今際の国のアリスシーズン2』が今年12月に全世界配信予定。

  • 撮影監督今村圭佑

    1988年生まれ。富山県出身。日本大学芸術学部映画学科撮影・録音コース卒業。大学在学中より藤井道人氏と自主映画を制作。卒業後はKIYO(清川耕史)氏のもとで約2年アシスタントを務めたのち、24歳で撮影技師としてデビュー。映画・CM・MVのカメラマン、撮影監督として活動。2020年には映画「燕 Yan」で長編監督デビューを果たす。

  • 映像ディレクター / ビデオグラファー / 株式会社Vook CCO 曽根隼人

    演出・撮影・編集からグレーディングまで担当するスタイルで広告映像やMVを制作。無印良品のパリでのプロモーション映像“TOKYO PEN PIXEL”では世界三大広告祭の一つONE SHOWや、アジア最大の広告祭ADFEST、Spikes Asiaをはじめ数多くのタイトルを受賞。Eテレ「テクネ 映像の教室」では、プロデューサーを、TVドラマ「乃木坂シネマズ」「封刃師」では監督を担当。

撮影監督の「撮り方」とは

日本における撮影監督システムの採用事例はまだ少ないが、河津氏も今村氏も、従来のやり方にこだわらず、両名にとってやりやすいやり方が結果的に撮影監督という形だったと口を揃える。自らカメラを覗いてライティングを考え、カメラのオペレーションを人に任せることはしない。これが根幹である。

このやり方にたどり着いた理由として、今村氏は「機材の変革期だということがすごく大きい」と語る。今後さらに進化して、また違うスタイルが生まれてくると考えている。

なお、河津氏は今村氏の仕事ぶりについて、映像を感覚的に理解しているクリエイターだと絶賛。


河津太郎(以下、河津):コッポラが『地獄の黙示録』(1979)を撮っているときに奥さん(エレノア・コッポラ)が回していたドキュメンタリー『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』で言っているんです。

“これからどんどん撮影機材が小さくなっていって、こんな大きなフィルムカメラから、片手で撮れる、誰でも撮れる時代になっていくだろう。そのときに、ピアノがあったら、モーツァルトが誰に教わることもなく奏でてしまうような、感覚で映像を理解した人が出てくるはずだ”と。

まさに今がそのときで、映像のやり方がどんどん変わっていくだろうと思います。

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特化型プロフェッショナルの道もある

従来の撮影部システムは分業制で、チームメンバーといえども各々が別々の作業を行う。しかし一方で、テクノロジーの進化、安価な機材の拡充、SNSの普及などにより、コストを抑えながらひとりで映像作品を制作することもできるようになった。

そして今村氏は現在、アシスタントを経ずにカメラマンになる方がキャリアパスとして”良い”とされている風潮に懸念を抱いている

今村圭佑(以下、今村):僕や河津さんのようにアシスタントせずにカメラマンになれる人もいますが、そういう人たちだけがカメラマンになれる状況にしてはいけないと思っています。もちろん、アシスタントを経てきた人がカメラマンになれること、アシスタントのプロとして仕事が成り立つような環境を整えることを、僕は立場的にしていかなくてはと思っています。

河津:徒弟制の良し悪しで、撮影部がどんどんプロフェッショナル化していくのは、僕は悪いことではないと思います。アシスタントとカメラマンが切り離されていて、撮影助手を付けなければならない仕事の場合は、アシスタントのプロに来てもらうということはあると思いますし。

アメリカだと60歳くらいのすごいフォーカスプラー(ピントを合わせることに特化したカメラアシスタント、1st AC)が来て、大金を稼いで行きます。ただ、絶対にぼかさない。こいつが来たら大丈夫だ、っていう人です。

このように河津氏は、特化型プロの一例を紹介。フォーカスプラーは作品を理解した上でミリ秒単位で繊細にフォーカスを操る、撮影監督の右腕である。

自分らしさはにじみ出るもの

撮影監督という立場は、「自分らしい画」というものをどう考えているのだろうか。河津氏は、シネマトグラファーという立場はディレクターあってこその存在、と話す。

河津:基本的に監督の画を撮って、自分の画も撮るという感覚です。シネマトグラファーの場合、僕は自分らしさがにじみ出てしまうものだと思っています。それが映画に対してプラスになるか、プラスにならないか。

続けて河津氏は、市川準監督作品のカメラマンとして有名で、自身が尊敬している小林達比古氏の言葉を挙げる。

河津:カメラマンというのは基本『撮り人しらず』(万葉集の『よみ人しらず』から)だと。誰が詠んだかわからないけれど、いい和歌だねという意味です。それがずっと頭の中にあります。でも、どうしても自分の我も出ます。それで映画がもっと良くなっているなら万々歳です。

今村:(自分らしさについて)自分の好きなものが何なのかをちゃんと知ることが、自分らしい画という表現に繋がるのかなと思います」と話す。また、「我が強いのかもしれないですけど」と前置きしつつ、「自分が好きなものをみんなが好きになればいいと思っているところがあると思います。

グレーディングに頼りすぎない

カラーグレーディングに関しては、「決してポスプロを軽んじているわけではないですが、語弊を恐れずに言うと、あまり好きじゃないです」と語る今村氏。

本来トーンはライティングや現場で作るものであり、グレーディングでトーンを作る行為には画を汚す側面があると考えている。基本的には自分が見ていた画を基準として、それが成立しなかったカットに対してのみ、グレーディングで補正をしていくのが正しいということだ。

河津氏も「柔らかい感じが欲しければ、ライティングで柔らかくすればいい。トーンは現場でだいたい完成しておかないと、グレーディングで痛い目を見ます」と同意した。

これからの「撮る」世代へ

セッションの締めくくりに、これから「撮る」職業を目指す若い世代に向けて、両名がアドバイスをくれた。

河津:映画は観てほしいですね。インターネットのおかげで簡単に観られるので。今村さんはレンタルビデオ店に並んでいる作品を邦画の『あ』から『わ』棚まで片っ端から見ていったということで、もうそこは宝の山なんですよ。ヒントがたくさん埋まっていますから、古典と思わず観てほしいです。

今村氏は、今後さらに時代の変革期が訪れ、その時代らしいトーンも出てくるが、技術レベルで解決できるものは何とでもなると語る。

今村:僕がいいなと思うものは、カメラマンが撮っている瞬間が見えるような画。そういう瞬間が見えると、見ていて単純に面白くて、良いなと思います。

両名の熱い語りであっという間に予定時間を過ぎ、約5分押して終了した本セッション。プロアマ問わず、撮影に関わる全クリエイターの心に響いたはずだ。

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以上が、VGT2022 カンファレンスセッション『撮る』セッションレポートとなります。

他のセッションの様子は下記リンクから。

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TEXT_kagaya(ハリんち
EDIT_山北麻衣 / Mai Yamakita(Vook編集部)
PHOTO_山﨑悠次 / Yuji Yamazaki

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