一度きりのクリエイター人生。最大限に有意義なものにするために作るべき、「人生計画書」のススメ | VGT2022

2022年6月10日(金)から11日(土)にかけて開催された、日本最大級の映像クリエイター向けイベント『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズ・トーキョー)』。

この記事では1日目(10日)に行われたセッション『クリエイターの目標設計 なりたい姿に辿りつくための人生計画書』の様子をお届けする。

本セッションでは、ハリウッド映画やNetflix作品などのタイトルシーケンスを多く手がける佐藤隆之氏が、逆境に負けず市場や自身を深く分析することでクリエイターとしての「芯」を育んだ過程を紹介。

佐藤隆之氏の想いが詰まった「人生計画書」を紐解きながら、目標設計の組み立て方から自己スキル対策まで解説していった。

聞き手・MCは河尻亨一氏が務めた。

  • アートディレクター / モーションデザイナー 佐藤隆之

    都内のスタジオで映像とデザインの経験を積み2004年LAに渡米、米国の美大などでモーショングラフィックスを学んだあと、2009年にモーショングラフィック界の大手プロローグ・フィルムズに入社。 「アイアンマン2」や「トロン・レガシー」「バトルシップ」「オブリビオン」などを含む数々のハリウッド映画のタイトルシーケンスやVFX、TVCM、TV番組のタイトルアニメーション制作などに携わる。2013年に日本に帰国後も国内外問わず、ショートフィルム「The Moment of Beauty」「Beyond the Moment of Beauty」「Kendo」「Portal」の制作、映画「スター・トレック BEYOND」「ブレードランナー2049」「アクアマン」「キャプテン・マーベル」「MIB:インターナショナル」のタイトルシーケンス制作等に携わる。携わったプロジェクトの中にはEmmy賞、英国アカデミー賞などを受賞した作品も含まれる。

  • 編集者、銀河ライター主宰 河尻亨一

    編集者、銀河ライター主宰。1974年大阪市生まれ。雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する数々の特集を手がけ、国内外の多くのクリエイター、キーパーソンにインタビューを行う。現在は取材・執筆からイベントの司会、企業コンテンツの企画制作ほか、広告とジャーナリズムを繋ぐ活動を展開。カンヌ国際クリエイティビティフェスティバルを15年間現地取材するなど、海外の動向にも詳しい。『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』で第75回毎日出版文化賞受賞(文学芸術部門)。訳書に『CREATIVE SUPERPOWERS』がある。

人生計画書を作ろうと思ったきっかけ


佐藤氏が人生計画書を作るきっかけになったのは、アメリカ留学における言葉の壁での挫折と、これからどのように進んでいくべきなのか先が見えにくくなったことだった。

留学前に十分に英語を学習していなかったため、コミュニケーションが取れず初めの3ヶ月は毎日が地獄だったという。留学前に、日本で6年間クリエイターとしてキャリアを積んでいたにも関わらず、留学先で18、19歳の英語が話せる子たちに対して語学面での劣等感や焦りを感じる日々。

もがく日々が半年ほど経ち、少しリスニング力がついてきたところで、コミュニティカレッジへと進んだ。ようやくある程度の英語力がついたと感じたのは、アメリカに来て既に1年半が経過した頃。

佐藤隆之(以下、佐藤):英語がわかるようにはなったものの、1年半自分は何をしていたんだろうって思うわけです。当時27〜28歳で、キャリアとして大切な時期なのに全く前が見えない状況。何にもない日々の中で何かをするには、心を整理するためにもいったん書くしかないなと思い、「人生計画書」の前身である「knowing myself」という手書きのノートを作ったのが始まりです。


その後、アメリカで美大に入学し4年間過ごすか、仕事をするかで悩んでいたタイミングで日本に一時帰国。多方面の知人に、どちらを選択すべきか意見を求める中で、信頼している先輩のポスプロのエディターから「今から大学なんか行くな。ちゃんともうこのキャリアで立ち位置で築いてきたんだから、本気でその道を行け」と言われ、一気に仕事をする方向に傾いたという。

こうした揺り戻しがあったため、今度はより具体的に現在と未来予測を棚卸しし、お金、夢、スキル、ビジネス、制作環境などについて詳細に記した「人生計画書」を書くことにした。

なお、日本人がアメリカのクリエイティブ企業に就職するためには特殊技能職ビザ(H-1Bビザ)が必要だ。しかし佐藤氏は専門学校卒であったため、コミュニティカレッジ卒業資格などと合わせて4年制大学卒業と同等の評価を得て、同ビザを取得。

佐藤氏は「結局のところ、何ごとにも助かったのはリサーチする習慣でした。自分で調べていくしか本当に道がないこともあるので、リサーチ力は大切です」とアドバイスした。

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2005年の人生計画書

河尻亨一(以下、河尻):今、何か壁にぶち当たっていて、その先のキャリアを思い描きづらいと感じている。そんな人にとって、人生計画書を書くことは非常にオススメできるということで、実際に佐藤さんがそれをどうやって作っていったのかを、まずは2005年に書かれた現物から一部を抜粋して見ていきます。

佐藤:皆さんにもこういう書式・テーマで絶対に書いてほしいという話ではないので、ご自身なりの自由な書き方で作っていくための1つの参考程度にしてくださいね。

仕事を選べば年収400万円×4年間で1,600万円の収入があるところ、大学進学を選べば4年間で最低1,600万円かかると仮定し、算定した。佐藤氏は「その差額3,200万円を見たときに、年齢的にも甘いことは言ってられないし、本当にちゃんと考えないと、と身が引き締まりました」と当時を振り返った。

自身の夢について

夢について綴ったページには、「自分が日本のモーショングラフィックスシーンを動かしていく」という、モーショングラフィックスに対する強い思いが綴られている。

佐藤:15年前の自分は、本当にシーンを動かしたいと思っていましたし、自分だったらできるんじゃないかと思っていて、これはすごく真剣に書きました。モーショングラフィックスが本当に好きだったんだなと思いますし、これを書いてる時って、ダダッと自然と頭に言葉が浮かんでくるので、そのぐらいの気持ちの強さがあったのだと思います。

河尻:不思議なんですけど、やはりこうして文字に起こすと、「実現していこう!」と、そっちの方向に自分を持っていきやすくなるんじゃないかなと思いますね。

自身のスキルをレーダーチャートで自己評価し、強みと弱みを把握する

スキル分析のページは、「この市場でやっていくために必要な、自分のスキルがどの程度なのかをグラフで客観視」したもの。このスキル分析は全3ページあり、上図は1ページ目。2ページ目では分析結果からどうやって各スキルを高めるかを考察し、3ページ目では具体的に何を、または何から学ぶかを決定している。

また、佐藤氏は書いた2年後に、改めてスキル分析をやり直すことで、2年間で自身がどこでスキルアップができたか、できなかったかという効果測定を行なっている。

オリジナリティについて

仕事における直接的・間接的な強みを書き出してある

クリエイティブにおけるオリジナリティはとても重要な要素だが、佐藤氏はオリジナリティ獲得には、ある程度社会に揉まれる経験も大切だと考えている。

佐藤:クリエイターとしてのキャリアを考えた場合、古くさい考えかもしれませんが、まずどこかに就職して修行を積んでいくのが良いと思っています。最初から全て自由にやるのではなくて、まずはある程度の壁や天井が設けられたところでやって結果を出す。そして、壁や天井を突き抜けていく方法を掴むというのがオリジナリティに繋がる場合も多いと考えています。

特に、ここ数年のコロナ禍でそれを強く感じているという。

佐藤:このコロナ禍では、将来についてどうしても迷いやすくなり、どうしても周りの環境に左右されてしまう。しかし、そういった状況下でも自分の考えをしっかりと持っていると、ある程度の不安が軽減されて、これからどうしていくべきか考えられるようになります。自分の芯を保つためにも、オリジナリティは必要だと強く感じています。

2016年の人生計画書

2005年の人生計画書を経て2009年にプロローグ・フィルムズに入社した佐藤氏は、多数のビッグプロジェクトで経験を積み、2016年にまた改めて人生計画書を作成した。

帰国してしばらく経ち、改めて自分の次のステップは何か、そして”自分らしさ”(自分が得意な表現、したい表現、身に着けていきたい表現)は何かを確認し、自問自答するために書き始めたものだという。

2016年に作成した人生計画書の目次

改めて定めたビジョンと目標を明確に記している

河尻:自分らしさを追求する次のステージへ進む状況で、ビジョンを定めて準備や計画をしたり、”未来はこうなる”とか、そのためにはこういう手段を取るべきとかを書くんですね。海外でのモーショングラフィックスの経験を活かし、今後は自分らしさを確立することが重要で、さらにその自分らしさと共に世の中に貢献していこうと意識が固まっていった、と。

定めたビジョンと目標を実現するために「最も重要な心構え」として下記の5項目が挙げられた。

佐藤:”自分の芯”みたいな部分を持っていないと、どうしても振り回されていくというのは自分でもよく感じるんです。環境によって振り回される事もありますし、他の作品を見て振り回される事もありますし。
オリジナリティや心構えがあると、インスピレーションを受けても振り回されるのではなく、それを吸収して次に活かす事ができるし、自分の今後を考えていく時に常に軸を持ち続けられると思います。

人生計画書について佐藤氏は、書いて行動してというのを繰り返すことで、ようやく自分軸が見えてくると語る。

佐藤氏が人生計画書を書き始めた、どうしたら良いかわからず前に進めなかった留学時の状況。そして先に触れたコロナ禍は将来への不安が漂う状況で、どちらも逆境に近い状況である。

佐藤:そういう状況になってしまった時に落ち込んだり怖くなってしまう気持ちは僕も経験したのでよくわかります。ただ、そういう時こそ前に進むことやできることを考えたり、計画を立てたりすることで、それが去った時に一皮むけた自分になれるはずです。ネガティブなシチュエーションは逆にチャンスになる場合もあると考えています。

最後に、悩めるクリエイター諸氏にエールを贈った。

佐藤:上手くいっている人には共通点があります。20歳でも30歳でも40歳でも50歳でも60歳でも、常に勉強したいという気持ちを持っている人たち、勉強している人たちです。そういう人たちはやっぱり笑顔で生活していますし、物事を前向きに捉えて動いています。常に学びたいという気持ちは、人生において持ち続けていってほしいと思います

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以上が、VGT2022 カンファレンスセッション『クリエイターの目標設計 なりたい姿に辿りつくための人生計画書』セッションレポートとなります。

他のセッションの様子は下記リンクから。

【河津太郎 × 今村圭佑】「撮影監督」トークセッション。撮り方からキャリアパスまで、幅広く語り合う。|VGT2022

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TEXT_kagaya(ハリんち
EDIT_山北麻衣 / Mai Yamakita(Vook編集部)
PHOTO_加藤雄太 / Yuta Kato

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