2022年6月10日(金)と11日(土)の2日間、VIDEOGRAPHERTOKYO 2022が渋谷ヒカリエにて開催された。映像制作に関わる方はもちろん、ビデオグラファー志望の方や動画制作に興味を持っている方も対象とする、映像の未来へ向けたイベントである。
この記事では、初日のGREEN STAGEで行われたワークショップ『広げて、まとめて、取り出そう! 企画・演出のためのマインドマップ情報整理術』の様子をお届けする。
「マインドマップ」とは、中央に置いたテーマから連想する事柄を、枝葉のように伸ばして描いていく思考整理術のこと。もともとは1枚の紙に色付きペンで描くものが主流であったが、デジタルデバイスの普及により様々なアプリケーションも開発されている。
2007年にリリースされた「MindMeister」はWebベースのマインドマップ作成サービスだ。ゲスト講師を務めた星子旋風脚氏は2022年4月より、このサービスの公式アンバサダーに認定されている。
今回のワークショップでは、MindMeisterの使い方そのものというよりは、Webページのスクリーンショットを用いながら、マインドマップの描き方、活用の仕方を中心に、MCの熊田勇真氏からの質問を交えて進められた。
- アニメーション監督/モーションデザイナー 星子旋風脚
アニメーション監督、モーションデザイナー。米国メリーランド州生まれ、慶応義塾大学総合政策学部卒。 Merry Men Inc.代表。モーションデザイナーとしてCMなどのディレクションと制作を行い、2018年アニメ『SNSポリス』でアニメーション監督デビュー。制作プロセスの構築から研究・開発し、新技術を取り入れながら柔軟で斬新な手法での映像制作を得意とする。MindMeister公式アンバサダー。https://merrymeninc.com/
- ビデオグラファー熊田勇真
ビデオグラファー。1988年生まれ、埼玉県出身。大阪芸術大学卒業後、制作会社を経てフリーランスビデオグラファーとして活躍。WEBプロモーション、音楽イベントを中心に活動し、2017年から株式会社メルカリのクリエイティブチーム第一号社員として動画制作を始める。「なるべくアーリーアダプター」をモットーに、新技術をより早く取り入れるのが得意。3児の父。名前にちなんで、毎日クマの服を着ている。https://twitter.com/chan_kuma_90
マインドマップ きほんのき
映像制作をする上で、考えることは無限にある。頭の中に散らばったアイデアをまとめられず苦労した経験は、誰にでもあるのではないだろうか。例えば、企画出しのアイデア出し、演出方法、ミーティングでのコンセプト決め、プレゼンテーション、構成案など、映像制作を進める過程で、決めていかなければならない事柄をまとめるのに最適なツールがマインドマップだ。
情報の整理はスプレッドシートやメモ帳に箇条書きすることも多い。そうではなく、敢えてマインドマップを使うポイントが3つある。
箇条書きでは把握しきれない全体像が、マインドマップでは把握しやすい。また、それまでの過程を振り返ることができるのもマインドマップの強みの1つだ。「ひと目で分かりやすいということは、整理した情報を脳の外に蓄積することで記憶にとどめておく必要がなくなる」と星子氏は語る。
星子氏が考えるマインドマップのタイプ
ここまでの基本的なマインドマップの考え方を踏まえて、「あくまでも、いちユーザーの立場から」と前置きしたうえで、星子氏が独自に提唱している3つの分類を紹介している。
1つ目は「発想出力型」。とにかくたくさんのアイデアを出しながらまとめ、最終的に組み合わせたり分類したりすることで、新しい発想が生まれるというもの。これは大事なポイントで、今回のタイトルでもある「広げる、まとめる、取り出す」という3つの段階に分けられる。
とにかく多く出したアイデアの中から最終的に1つに絞らなければならない。そのためには、特に気になる選択肢の中からメリットとデメリットを書き出し、全体的に俯瞰した後で、最終的にはメリットに注目して1つに絞り決定する。今回のワークショップのお題はこの分類が使われた。
2つ目は「意思決定型」。発想出力型とは考える順序が少し異なり、複数の意見や情報を比較検討するもの。例えば、「社内で様々な意見が出ているが、最終的にどの意見を採用するのか」といった場面では、それらの意見の根拠を踏まえて、最終的に総論をまとめることが重要となる。中でも特に重要なのは、ロジックがきちんと通っているかということ。それぞれの意見を広げて、根拠と反論を並べ、洗い出された総論から結論を導く。
例えば星子氏の今までの経験からいうと、クライアントに作業データを譲渡するかどうかというテーマでは、渡したくない理由、渡してもいい理由、渡してほしい理由など、受注側とクライアント側それぞれの立場でのトピックを洗い出し、分かったことや決まったことをまとめていくといった手順になる。
3つ目は「情報整理型」。頭の中にとにかくたくさんの情報があったり、どんどんアイデアが出てきたりする時に、階層構造で全体を眺めるというもの。これは勉強する時や分析をする時にもオススメで、それぞれの抽象度が大事な型である。階層構造を作って全体を眺めるということで、それぞれの小さい項目をグループ化したり、バラしたりすることができる。
階層が上下2つに分かれているのは、見方が2パターンあるためだ。1つは抽象的なアイデアから具体化していくパターン。もう1つはその逆で、具体的なアイデアを分類して抽象化し、それぞれの共通部分、最大公約数的な部分をまとめるパターン。始まりはどちらであっても、実際にはこの2つのアプローチを織り交ぜて、抽象から具体、具体から抽象の2つのチャンネルを使い分けてまとめていくことになる。
「漏れなくダブりなく」が重要
このように、マインドマップはあらゆる場面で活用することができる。もちろん、アニメーション制作の過程でも活用可能で、漏れなくダブりなく要素を並べることによって、ここにはないものを生み出せる可能性がある。そういう意味でも、「漏れなくダブりなく」が重要なポイントとなるのだ。
ここまでの解説で、基本の使い方は1つ目の発想出力型だと感じるが、2つ目の意思決定型は夫婦関係にも使えそうだと、感想を述べる熊田氏。実際に星子氏は、引っ越しのタイミングをマインドマップを使って決めたそうだ。夫婦そろって画面に向かい、ライフイベントごとのシミュレーションをする上で、複数のパターンを比較できるのはすごく便利だったようだ。
ワークショップのテーマ、大切なのは「とにかくたくさん書き出す」
ここからは参加者に3つのお題が出され、実際にマインドマップを作ってみる時間となる。
①「ショートフィルムの登場人物4人の設定を考えよう」
登場人物それぞれの性格、職業、能力など、ストーリーが膨らみそうな魅了的な個性を考えてみる。中心となる人物やジャンルは自由で、『スタンド・バイ・ミー』的なものでもいいし、『ストレンジャー・シングス』のようなものでもよい。
『ドラえもん』のようなものでもよいが、どこかで見たことあるようなものは止めておいた方がよい。最終的に4人であればよいので、たくさん出して絞っていくのもありだ。名前は時間を使いすぎてしまうので省略してもよい。
②「大手IT起業の社内向けVP企画」
社員たちのモチベーションが低いという課題を解決するため、停滞している社員のモチベーションアップが目的のお題。どんな構成、内容にするのか、キーとなるシーン、所長的なシーンは何か。予算は一旦考えなくてもよいし、ハリウッド的な爆発が起きてもよい。特に重要なのは、お客様に「なぜそうするのか」という説明ができるように考えていくこと。
③「失恋ソングのミュージックビデオ制作」
サビパートのみで、一番盛り上がる場面の演出を考えてみる。どんなシーンなのか、映像の手法は実写なのかアニメーションなのか、どんな演出を入れるのか、ギミックのアイデアはどんなものがあるか。予算は潤沢に、大物歌手の規模で考えてよい。
参加者はこの3つの中から好きなお題を選び、広げる時間10分、まとめる時間5分、取り出す時間5分を目安に作業を始めた。「ワークショップの時間が25分なので、あまり熟慮する時間はないと思います。時間内に出し切れなければ、終わってから続けても大丈夫です。とにかくいける所までぜひやってみてください」と星子氏からアドバイスが伝えられた。
繰り返すが、大切なのは「とにかくたくさん書き出す」ことだ。自分の中の考えを整理する時や、見せるタイプなら議事録として使うこともできる。「広げる」段階では「決めないことを決める」ことが肝なのではないかと熊田氏。今回のお題で言うと、1つ目のショートフィルムの登場人物を考える設定では名前は省略可能であること、2つ目の社内向けVRの企画では予算は考えないことなど、アイデアを広げすぎないために、うまくブレーキをかけることも必要のようだ。
書き出しが終わってまとめる段階になっても、まだアイデアが出てくることがあるかもしれない。そんな時は迷わずに戻って見直しができるのもマインドマップの良いところだ。完璧なものに仕上げる必要はなく、取り出したアイデアを基に企画書を作るなど、企画の根拠や裏付けになるものという位置づけだ。
「MindMeister」ってどんなサービス?
2007年にリリースされ、デザイナー、マーケター開発者など、世界27万人のユーザーに活用されている(公式サイトより)。シンプルで直感的に操作ができ、GoogleドキュメントやGoogleスプレッドシートのように、オンライン上で複数人で編集することが可能。オンライン会議でもスムーズに議論ができ、作ったマップはそのまま議事録になる。
無料のアカウント登録をすればマインドマップを3つまで作成することができる。また有料プランは3つあり、作れるマップは無制限、様々なファイル形式にエクスポートも可能となるなど、用途に合わせて選ぶことができるので、個人だけでなく企業でも使いやすいツールだ。気になる方はぜひ、下記URLから公式サイトをチェック。
MindMeister 公式サイト https://mindmeister.jp/
ワークショップの最後には、席の近い参加者同士で活発に意見交換が行われた。発表の時間も設けられ、素晴らしいアイデアが紹介された。登場人物の設定だけでなく、短い時間の中でストーリー展開まで練られていて、すぐにでもショートフィルムが撮れそうなほどだった。
VIDEOGRAPHERTOKYOは映像業界に携わる様々な職種の方が参加している。もし、ここで出たアイデアを作品にしたいと思えばスタッフを集めることもできるのは、このイベントならでは。
ワークショップを終えて、「やったからこそ分かることが、たぶんいっぱいあると思うんですよね。意外と広げるのには、元々のインプットが必要だなとか、まとめるには先の形が見えてないといけないなとか」と熊田氏。参加者のみなさんの中にも、同じように感じた方がいるのではないだろうか。使えば使うほど、自分のものになっていくのがマインドマップ。1度やってみれば感覚がつかめるので、いつもの箇条書きからマインドマップへ、ちょっと趣向を変えてみてはいかがだろうか。
TEXT_しばたゆうこ / Yuko shibata
EDIT_菅井泰樹 / Taiki Sugai(Vook編集部)
PHOTO_梅田幸太 / Kota Umeda
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
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