【VFX】監督自身がBlenderで画づくりできる強みを活かす!『デジモンプロジェクトムービー』|Wacom Cintiq × Blender

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2022.08.26 (最終更新日: 2022.12.23)

Blenderユーザーのなかでも実写VFXを主に手がけているデジタルアーティストのひとりが、EPOCHの荒船泰廣氏である。

Vookでは先日、荒船氏が監督とVFXディレクターを兼務したAimer『残響散歌』のメイキング記事を掲載したが、同作における映像演出とCG・VFXワークをシームレスに行う荒船氏の創作スタイルは、1つのツール内で幅広いニーズに応えることを目指すBlenderと絶妙にマッチしていることを実感した。

そんな荒船氏が監督を務めている『DIGIMON PROJECT』シリーズでは、PDトウキョウとタッグを組むことで、ハイエンドな3DCGキャラクターアニメーションと実写VFXを創り出している。

今回は、「Wacom Cintiq × Blender」 企画として、昨年に公開された『DIGIMON PROJECT 2021』(全4編)の画づくりについて、荒船監督へのインタビューが実現。

荒船監督自らBlenderを使うことによって可能となった、実写と3DCGを一体化させるテクニックを紹介する。

荒船泰廣/Yasuhiro Arafune
1984年生まれ、埼玉県出身。日本大学藝術学部写真学科出身。
学生時代よりフリーの映像ディレクターとして活動を始め、2012年に株式会社KEYAKI WORKSに所属する。2018年に独立し、EPOCH Inc.へ所属。VFXを用いたスケール感のある演出を得意とし、SFやホラー、格闘アクションといったサブカルチャー由来のモチーフをベースに、メジャー感のあるポップな映像として仕上げる手腕に定評がある。
"可愛いものはより可愛く、カッコいいものはよりカッコよく" がモットー。
www.epoch-inc.jp/member/arafune/

デジモンを現実世界に登場させる

2021年3月13日(土)に第1弾が発売された、人気IP『デジタルモンスター(以下、デジモン)』のウェアラブル端末型玩具「VITAL BRACELET」(バイタルブレス)。

心拍数や歩数の計測、NFCの活用、専用スマートフォンアプリとのリンクなどを駆使してデジモンの育成・進化が行えるデバイスである。

▲ 【Recap:VITAL BRACELET】DIGIMON PROJECT 2021/デジモンプロジェクト2021 。本稿でメイキング解説する全4編の総集編的なムービー。リンク先の概要説明欄から全てのエピソードが視聴可能だ

『デジモン』は1997年、バンダイが携帯ゲーム『デジタルモンスター』を発売し、1999年にはTVアニメ『デジモンアドベンチャー』で国内のみならず海外にまでファン層を広げ、以降ビデオゲーム、劇場版アニメ、トレーディングカードゲームなどへと派生。現在も根強い人気を誇るIPだ。

「バイタルブレス」発売に伴い、2020年中ごろから『デジモンプロジェクト2021』が企画され、2020年12月〜2021年6月にかけて、YouTubeのバンダイ公式チャンネルで4エピソードからなるプロモーションビデオが公開された。

一連の映像制作をリードしているのが、EPOCHの荒船泰廣監督と、PDトウキョウである。

EPOCH 荒船泰廣監督(以下、荒船監督):
『デジモン』は、これまでに7本ほど担当させてもらいました。最初に制作したのが、2020年1月に公開された『デジモンプロジェクト』のトレイラーだったのですが、この映像が好評だったことからシリーズとしての展開が続いています。

▲【WELCOME TO DIGIMON WORLD】 デジモンプロジェクトムービー/DIGIMON PROJECT TRAILER

このトレイラーは、実写の世界に懐かしいデジモンたちがやってきて、新しい冒険が始まるというコンセプトで制作したもの。

3DCGで描かれた懐かしのデジモンたちが、1999年発売の液晶玩具「デジヴァイス」やトレーディングカードゲームなどと共に現実世界でバトルを繰り広げる。

この作品が好評を博し、「バイタルブレス」でも同様のコンセプトでプロモーションビデオを、しかも4エピソードで構成してつくろうということになった。

©本郷あきよし・東映アニメーション ©BANDAI

『デジモン』は国内のみならず、北米を中心に海外での人気も高い。

そのため荒船監督は、本作に限らずデジモン関連のムービー制作では、海外の方にも伝わるものをつくろうと意識して制作を行なっている(事実、本作4エピソードの公開後、SNSでは海外からの反応も多いそうだ)。

制作の座組としては、監督を荒船氏、実写撮影の制作を19 -juke-が、そして全体の制作とCGアニメーションをPDトウキョウが担当している。

大まかなスケジュールとしては、2020年9月頃に企画がスタートし、年末までに4エピソードにわたるストーリーが決定。そして、同年12月にEP1、翌年3月にEP2、4月にEP3、6月にEP4と順次公開されていった。1エピソードあたりの作業期間は2ヶ月ほどだったそうだ。

演出コンテについては、EP1とEP4は荒船監督が自身で描き、EP2とEP3はコンテマンに発注することで、各話ごとにメリハリのある画づくりが志向された。

荒船監督は2020年頃から絵コンテをデジタルで描くようになったそうだが(ツールはProcreateを使用)、デジタルで描くようになったのを機に、プリビズも自身で作成することが増えたという。

荒船監督:
コンテのコマを並べてVコンにして尺感を決めたり、複雑なカメラワークの箇所も静止画や口頭で説明するようにも実際に動きを付けてしまった方がスタッフ間でイメージが共有しやすいので自分でプリビズを作る機会が増えたと思います。

背景のビジュアルもなるべく実写撮影前に大まかなものでも作成しておくことで、撮影時の照明の精度も上がってきます。

クライアントの方々や役者さんにもプリビズを見てもらった方が最終的な仕上がりや、必要な演技を理解していただけると思うので。

▲ 荒船監督の作業スペース。モニタは3面構成で、向かって左をプレビュー用、中央をDCCツールのオペレーション用、そして右をパラメータ等のサブ的なパネルの表示やその他ツールの表示に用いている

本作では実写ロケベースのカットとは別に、クロマキーの実写素材に対して3DCGの背景を使用するカットがある。

その中で、カメラワークが激しいデジモンたちのバトルシーン、実写背景を3DCGでダイナミックに見せたいシーンについては、BlenderでフルCGに置き換えてしまっている。

ワークフローとしては、まず荒船監督がMegascansや市販のフォトグラメトリデータを活用するなどして、自らBlenderでレイアウトを仕上げている。

それに対してPDトウキョウが、キャラクターアニメーションとカメラワークを作成した後、荒船監督が調整を施しプリビズに仕上げる。その映像を撮影スタッフに共有して、実写撮影に臨んでいるとのこと。

撮影後には、再び荒船監督が自身でBlenderを使い、実写プレートをPlaneに貼り付け、デジモンのキャラクター素材もインポートし、質感をブラッシュアップしていき、最終的なレンダリングまで行なっているというから驚きだ。

荒船監督:
複雑なエフェクト表現などは、ベースとなるものをPDトウキョウさんにお渡しして作り込んでもらっています。

僕はBlenderを使っていますが、PDトウキョウさんは3ds Maxを使われているのでデータの受け渡しはFBX形式を利用しています。

両ツールで3次元情報などの扱い方やデータの親子付けなどが異なることもあり、当初はデータ変換が上手くいかず試行錯誤しましたが、現在は書き出す際の設定を工夫することで問題なく連携できるようになりました。

©本郷あきよし・東映アニメーション ©BANDAI

リアルタイムビューポートレンダラとしてEeveeを活用

ここからは、いくつかのカットを例に、具体的に荒船監督の画づくりを紹介していく。

まずは、EP4の冒頭から50秒あたりに登場する女の子が右手に持つスマホにバイタルブレスを近づけると、スマホの画面からブラックウォーグレイモンが飛び出す真俯瞰のカット(下図)について。

©本郷あきよし・東映アニメーション ©BANDAI

このカットでは実写背景からフル3DCGへとシームレスに切り替わるため、両者の境界線が馴染むように現場で撮影したスチールを3Dシーンにテクスチャとして貼り付けた。

これにより、リアリティを保った実写とフルCGの中間のようなカットができ、その後のフルCGの世界へとスムーズに移行させている。

エンバイロンメントのレンダリングに「Eevee(イーヴィ)」を利用
EP1に登場する荒野のシーンでは、エンバイロンメントのレンダリングをEeveeで行うことによって、背景を構成するアセットをレイアウトしながら、岩肌などの質感やライティングをリアルタイムで確認しながら調整することを可能にした。
<A> ショットワークを進めるのに先立ち、Cycles Xを用いて作成されたコンセプトアートの例
<B> カメラビュー的な構図で作成したコンセプトアートの例
<C> Blenderのシーンファイル。レンダラはEeveeを用いることで、レイアウト作業を進めながら質感とライティングもリアルタイムで確認しながらシーンが構築されていった
<D> Blenderシーンを実際に操作した様子を収めたムービー
<E> 後半に登場するメラモン登場カットの実写プレート
<F> 完成したカット。実写と3DCGが見事に一体化されている

プリビズで、画づくりの方向性を明示する
EP4に登場する、バウトモンに進化するシーンの制作では、背景がフルCGという特性を活かし、プリビズを活用した。
<A> 本シーンの演出コンテ
<B> 絵コンテを基に、荒船監督が作成したプリビズ(プリビジュアライゼーション / Pre-Visualization)。このBlenderシーンファイルをFBX形式でPDトウキョウに提供することで、レイアウトやカメラワークの骨子を着実に共有できる
<C> PDトウキョウの担当アニメーターが作成したアニメーションとしての完成形
<D> 3ds Maxで作成したアニメーションデータをFBX形式で書き出し、Blenderで作成した背景シーンの中に配置してショットワークを進める
<E> ホログラムなどのモーショングラフィックス素材も3D空間上に配置し、環境へのリフレクションなども作成していく
<F> 決めポーズのブレイクダウン。モーショングラフィックスが印象的だ
<G> 完成したシーン

最終レンダリングはCyclesで行なっているが、前掲したEP1の荒野シーンのショットワークのように作業の途中では、Blender 2.8で実装されたリアルタイムレンダラ「Eevee(イーヴィ)」が積極的に活用された。

Eeveeは、OpenGLを用いたリアルタイムラスタライズレンダラである。

リアルタイムビューポートレンダラとしても使用できるため、モデリングやライティング、ルックデヴ、アニメーションなど、ほぼ全ての3D作業を最終に近いルックで確認しながら作業を行うことが可能だ。

荒船監督:
EP4のショットワークでは、Eeveeを利用することでシーン全体を発光させる雷光エフェクトのタイミングをリアルタイムで確認できるようにしました。

これにより、意図したタイミング(フレーム)で発光させるといったエフェクトのアニメーションを効率良く付けることができました。

レイトレーシングなど、Eevee以外のレンダラの場合は、プレビューするだけでも相応の時間がかかってしまうのですが、今回はEeveeを利用することで、ざっくりとした照明の変化、光エフェクトの干渉やアニメーションのタイミングをリアルタイムで確認できたので、とても助かりました。

EP4後半のブラックウォーグレイモンとバウトモンの戦闘シーンは、カメラワークもアニメーションも複雑ですが、そんなシーンの背景を基本的には僕ひとりでレイアウトすることができたのは、こうしたルックの確認を素早くできたことが大きいですね。

ただ、Eeveeも万能ではありません。
GPUに依存するため、シーンが重くなると(GPUメモリの上限に近づくほど)全然動かなくなってしまいます。

そこでEeveeで設計するシーンについては、無限遠の背景となるレイアウトは避けるようにしつつ、トライ&エラーの段階では近景だけのシーンを用意してライティングするといった工夫をしました。

雷の発光タイミングをEeveeでプレビュー
▲ 雷光のエフェクトアニメーション作業の際に、Eeveeをリアルタイムビューポートレンダラとして利用。通常、ライティングにアニメーションを付ける場合は、一度全フレームをレンダリングをしないと確認できないためプレビューに時間がかかってしまう。そこでEeveeを利用することで、キャラクターの動きに合わせて雷鳴のタイミングやスピード感を調整するなど、リアルタイムにライティングのアニメーションが確認できるため、作業効率を大幅に向上することができたという
▲ 完成したシーン。Eeveeでライティングのタイミングを確認した後、Cycles Xで最終的なレンダリングが行われた。最新バージョンでは、EeveeとCycles Xでライティングのバランスについてもほぼ引き継げるため、Eeveeでライティングの全体的なバランスを確認しつつ、リアルタイムでシーンを構築した後、Cylcesで本番レンダリングを行うといった進め方が可能になった

本シリーズは、YouTubeによるインターネットで公開する作品であり、TVCMのようにハーディングチェックや厳格な放送用のフォーマットに合わせるといったポストプロダクションに作業を依頼する工程を省くことができたため、ビジュアルについては荒船監督自身で完成させている。

実写ベースの作品の場合は、グレーディング工程を設けているそうだが、そうした場合もグレーディング処理済みのデータを使い、最終的なコンポジット作業は荒船監督自身で行うことが多いそうだ。

荒船監督:
ルックについては、グレーディングやコンポジットで実写素材と3DCGのなじみなど、クオリティがかなり良くなるので、できるだけ早い段階から指針となるルックをコンセプトアートとして作成するようにしています。

「こういうルックに仕上げるから、奧の背景はあまり作り込まなくても大丈夫」といった、作業手法を考えながら進めることができるという意味でも効果的です。

監督である自分自身で、その都度、適確にすることで、全体としての作業効率を高めることもできると思います。

©本郷あきよし・東映アニメーション ©BANDAI

要所は自分でおさえつつ、今後はできるだけスタッフにゆだねていきたい

EP4のブラックウォーグレイモンが決戦の場となる高層ビルのヘリポートへと飛び上がっていくシーンでは、格好良い動きを追求した。

荒船監督:
カメラワークについて、「もっともったいぶって登場するような見せ方にしてほしい」など、言葉では伝わりにくいニュアンスについてはアニメーターさんのファーストテイクのアニメーションデータに対して、こちらで修正ガイドとなるムービーを作成してお戻しするなど、キャッチボールを重ねながら作り込んだお気に入りのカットです。

ひたむきに格好良い動きを追求する
ブラックウォーグレイモンがヘリポートへと飛び上がっていくシーンのアニメーション作業では、より良い動きを求めてブラッシュアップが重ねられた。
<A> 演出コンテ
<B> アニメーションのファーストテイク
<C> <B>に対する、荒船監督が作成した修正ガイド
<D> アニメーションがブラッシュアップされた完成形

『デジモンプロジェクト』シリーズは、今後も展開していくという。

荒船監督:
現在、『デジモンプロジェクト』の新作に取り組んでいます。

PDトウキョウさんとの関係も良い感じに整ってきたので、今後はPDトウキョウさんにもっとおまかせしていければと思っています。

僕の知見をどう伝えていくか、無理し過ぎずにチームワークで面白い画をつくるにはどうすれば良いのか。

そうしたコミュニケーションの取り方やワークフローにもこだわりながら、より良いビジュアルを創り出していきたいです。

©本郷あきよし・東映アニメーション ©BANDAI

荒船監督:
BldenrだけでなくUnreal Engineなど、ツールの進化によって、フォトリアルな表現については以前よりもかなり効率良く実現できるようになってきたと思います。

現在は自分のような個人ベースでの取り組みが中心ですが、新しいツールやテクノロジーを積極的に取り入れていく動きがプロダクションレベルでも出てくることに期待しています。

自分としても新しい便利なものは、どんどん利用していくつもりです。

©本郷あきよし・東映アニメーション ©BANDAI

INTERVIEW_沼倉有人 / Arihito Numakura(Vook編集部)
TEXT_kagaya(ハリんち
PHOTO_山﨑悠次 / Yuji Yamazaki

「Wacom Cintiq × Blender」特設ページにて、Wacom Cintiqシリーズのレビュー記事やその他の導入事例を公開中です。

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