2022年7月1日に満を持して原宿にオープンした「THE NORTH FACE Sphere」
アスレチックカテゴリーの新しいフラッグシップストアになっており、ビルの構造自体が木々や草木の根幹のようになっていたり、屋上には木々が植えられていたりと、自然との調和が図られたビルになっています。
そんなSphereビルのコンセプトムービーを制作させていただきました。
こちらはコンセプトムービーのティザー映像
THE NORTH FACE Sphere ビルで流れている本編は3分超あります。店頭ではフルバージョンムービーが流れており、ぜひ見に来てください。
そして今回そのメイキングを制作しましたので、公開いたします。
全編はこちらでご覧になれます。
ここからはメイキング映像をより詳しく解説していこうと思います。
主な制作過程は以下の通り
- プランニング
- プレビズ - Cinema 4D -
- ランドスケープ制作 - GAEA -
- スポーツウェア制作 - Marvelous Designer -
- レイアウト - Unreal Engine 5 -
- ライティングおよびアニメーション
- レンダリング出力
プランニング
ビルの名前にあるようにSphereをモチーフにし、また、Sphereの捉え方はさまざまで例えば地球など、どこまでも続く平原、駆け巡るランナーといったようなイメージコンセプトがありました。
そこから映像にしていくにあたって、風景=ランドスケープは必須だなと思いリサーチを始めました。
普段僕はCinema 4D(以下C4Dの表記)をメインツールとしており、レンダーはOctane Renderで出力することが多いです。しかし尺の長い映像をレンダリングするのは、かなりの時間とマシンスペックを要求するため大変な映像制作になります。
ましてや木々が生えた山谷を描画し、奥にもさらに広がった空間を作るとなるとC4Dだとハードになってくると思い、今回映像は全編Unreal Engine 5 (以下UE5の表記)での制作を決行しました。
自分自身、UE5自体は触ったことがなかったですが、前バージョンに該当するUE4は新作の制作や、VJで使用していました。
Ver.4.6時代から触っていたので、あまり使いこなせていませんが歴は地味に長いです。
UE5は2022に正式版がリリースし、無限にポリゴンを表示できるNaniteや、
間接光,反射を考慮したライティングの計算をリアルタイムで行えるシステム、Lumen などの革新的な進化を遂げて注目されていました。
最終映像プランは、ドローン撮影でもありえないくらい高速にぐんぐんとノンカットで進んでいく映像に仕上げようとしていましたので、こういった機能はクオリティの高いランドスケープを制作する上では必須の項目でした。
結果的に36㎢にも及ぶ超広大なオープンワールドな土地を作成し、4K出力を可能にさせたのは紛れもなくUE5のおかげです。
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プレビズ
ブロックアウトのような当たりの山や道を置きその中をカメラアニメーションをつけて、時間感や見え感を形にしていきます。イメージの共有のために必ず毎回プレビズは制作するようにしています。
ランドスケープ制作
ランドスケープ制作ツールはいくつか選択肢があります。
World Creator、WorldMachine、Gaeaの三択でしょうか。
自分はGaeaで制作することを選択しました。
理由は水の浸食の結果が自然なこと(その分pc負荷は高いが)、あとはソフトウェア自体が買いきりで、その後のアップデートにも対応しているということでした。
基本的にはポリゴンモデリングするという作り方ではなくノードベースでプロシージャルなモデルの作り方をしていきます。
range/山脈、crater/クレーター、といった基本ノードが存在していて、そこにノイズやランダム性を加えて地形を作り上げていきます。UIがとっつきにくいかもしれませんが、美しいランドスケープが作れるのでとてもオススメです。
スポーツウェア制作 - Marvelous Designer -
本編でランナー達が来ているスポーツウェアはMarvelous Designerで制作しています。
洋服を作るのには、このソフト以外ありえないといったくらいに最強なツールです。
服のパターンを作り形が出来上がったら、縫い合わせのラインなど決め人間に着せていきます。そしてランナーのアニメーションを読み込みそれに沿って服もアニメーションしてくれます。
それをAlembic形式でアニメーションをベイクした.abc出力し、C4DやUE5に持っていきました。
本編ではランナーたちはちっぽけに写っているだけですが実はスポーツウェアはここまでしっかりと作り込んでいました。
UE5を導入するにあたってのPCスペック
このプロジェクトのためにPCを新調する必要がありました。
UE5はとても強力なソフトウェアですが、その分PCスペックも要求します。ビデオカードもVRAMの大きいものを選ぶようにしました。
GPU:NVIDIA GeForce RTX 3080 Ti VRAM 12G
CPU:Intel Corei7 12700K
Memory:128GB
自分でもどれくらい積むべきか悩みましたが、万が一重くて動かないなどないように少し余裕を見て選びました。大きいマップを作る必要がない場合はこんなにスペック必要ないと思います。
レイアウト -Unreal Engine 5
ランドスケープツール
各ソフトウェアで制作した、モデルをUE5にレイアウトしていきます。
UE5にはランドスケープツールという機能があり、Gaeaで制作したハイトマップ/Height Mapと呼ばれる白黒のデプス画像を出力し、それをUE5に読み込ませると山々が出現します。その後、微調整などしたければ盛り上げたり、凹ませたりと、スカルプト可能です。
Foliage ツール
草や木々を直感的に生やすことのできるツールです。
密度やサイズを決めブラシをランドスケープやポリゴンにペイントして生やしていきます。とても楽に森が出来るため、ついつい調子乗って生やしまくってしまわないようにしましょう。
草木のモデルはUnreal Engine マーケットプレイスで売っているものを使っています。映像の核とならない、こういったモブに当たる部分のモチーフなどはガンガンアセットを使っていいと僕は思います。
ライティングおよびアニメーション
ライティング
UE4でもライトのクオリティは高かったですが、UE5になりLumen という機能が備わり、より自然なライティングが行えるようになりました。反射光や回り込みの光が綺麗になった印象があります。
上記の画像は置いた球体にどう反射光が映り込むかのテスト。特別複雑なことをしなくともこのくらいはできてしまいます。
今後、自分としては室内シーンなどでどれくらいのライティングが組めるのかテストしてみたい所存です。
今回は野外ということなので、ほぼほぼスカイライトのダイレクトな光になっています。シンプルなのにライティングクオリティにはただただ驚くばかりです。
ただ難しいのは光の方向によっては、草木やランドスケープがとてもチープな見映えになることが多く、カメラのアニメーションに合わせてライトも回転や強弱を入れてその場その場で、一番美しい絵になるよう心がけました。
アニメーション
こちらはUE5のシーケンサーという機能をつかって直接キーフレームを打ってカメラアニメーションをつけています。
C4Dで制作したカメラアニメーションをキーフレームベイクしてUE5に持っていくという考えがったのですが、
この場合すべてのフレームにキーが打たれてしまい、UE5で微調整することが大変になるので却下しました。
また、UE5でカメラをスプラインに沿わせてアニメーションさせる方法もありだなと思い、その方法で制作していたのですが、UE5で綺麗なスプラインを引くのがとても大変でこちらも途中で断念。
最終的にカメラをポジションと回転させてアニメーションさせる普通の方法のほうがスムーズにいきました。
ただどちらにせよ、UE5でアニメーションキーフレームを打つのは大変なことに変わりはなかったです。ここら辺はやはりC4Dに軍配が上がります。
レンダリング出力
当初FHDでレンダリングの予定でしたが、この映像が流れるモニターが4K対応とのことで、4Kでレンダリングすることになりました。
UE5で制作中、常にタスクマネージャーのパフォーマンスウィンドウを開き、CPUやメモリ、Vramの容量をチェックするようにしました。
草木を生やすとガクッとメモリーを圧迫したりする為、カメラの進む道や近めになりそうな部分に生やしていき、遠方にはほとんど木や草を生やしていません。いくらUE5が優秀といえど、見映えやPCスペックと相談しながら制作する必要はあると思います。
3DCG制作する上であるあるかもしれませんが、エディタ上では動くのだがレンダリングできない、ファイルが開かなくなるなど、さまざまな不具合との格闘との連続ですよね。
そういった気遣いもあってか、UE5エディター上でもとても広大なワールドをカメラアニメーションさせてもスムーズに動きましたし、4Kでのレンダリングも7000フレームを8分ほどでレンダリング完了していました。
すんなりやってのけるUE5本当に恐ろしいです。
最後に
UE5は元々ゲーム開発のために生まれたゲームエンジンでしたが、今やノンゲーム分野での活躍も期待されています。
映像制作はもちろん、アートシーン、バーチャルスタジオにLEDウォールや、VJシーンでも使われています。
個人的にはキーフレームアニメーション部分がイマイチだなと思ったので、(キーやカーブがつけづらい)今後のアップデートで期待していきたいと思います。
とは言ったものの、今回UE5にはただただ驚くばかりでした。まだまだ使いこなせていない機能やツールがあるので、深掘っていきたいと思います。
また
Art Director金田さん
Copywriter西本さん
THE NORTH FACE ひろみちさん、そうたさん
音楽haruka nakamuraさん
この場を借りて感謝の意を伝えたいと思います。
ありがとうございました。
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THE NORTH FACE Sphere Concept Movie
“POWERS OF RUN”
credit
Creative Director, Art Director: Ryohei Kaneda (YES)
Movie Director, CGI Artist: Kanta Mochida
Copywriter, Researcher, Translator: Yusuke Nishimoto (SUB-AUDIO)
Music by haruka nakamura
Brand Creative: Hiromichi Tanaka , Souta Osaki
プロジェクト概要
https://www.goldwin.co.jp/tnf/run/columns/powers-of-run/
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