こんにちは! 2D/3DCGによるアニメーション・モーションデザインを専門とするクリエイティブ・スタジオ「Merry Men Inc.」代表の星子旋風脚です。
CG技術の進歩が目覚ましい昨今。映像制作の仕事をするにあたって、日々進み続ける技術やソフトウェアの機能を、全て常に把握しながら取り入れていけたら最高ですよね。しかし、残念ながらそれはなかなか難しいもの......。
実務では、必要に応じて外部のツールを使ったり、チュートリアルから部分的なノウハウを吸収して切り抜けることが多いと感じます。
そこで、当記事では実際の案件で下記動画のシーンを制作した際のプロセスを例に、思考の過程をトレースしながら、自分が映像制作業務の中でツールやチュートリアルとどう付き合っているか、その考え方などリアルな部分からお伝えしていこうと思います。
まずは、映像で何を表現したいのかを考えよう
今回のシーンのポイントは、「多様なアイデアとアイデアを組み合わせることで、より複雑な思考を形成する」ということをいかに視覚化するかでした。
”多様さ”は、色や形のバラエティで表現できそうだと考えました。また、ともすれば難解に受け取られがちなテーマに対して、なるべく楽しく親しみやすいトーンで伝えたかったので、おもちゃのブロックをモチーフにした演出が良いのではと考えました。
参考作品からヒントを見つける
次は、どこから着手するかを考えます。まずは既存の作品を参考にしようと思い、イラストレーター&グラフィックデザイナーのMrmo Tariusさんのページを見に行きました。2D・3D問わず、レトロゲームスクリーン風、ハーフトーン印刷風など様々なスタイルを得意とするクリエイターさんです。
https://twitter.com/MrmoTarius/status/1489279853983641605?s=20&t=Cp0DRrhpRN0gnev0BtngIA
https://twitter.com/MrmoTarius/status/1544760462134325252?s=20&t=CZRU4KuectjVRSHXzWFc4Q
https://twitter.com/MrmoTarius/status/1545717202724311043?s=20&t=cjLh7eIH5cBOf7HGZy_RpQ
ここまでいろいろと作られているということは、作り方の一部やコツを公開していたり、独自のツールを販売していたり、探せば何かしらヒントが見つかるはず......。と思ったのですが、「itch」のMrmoさんのページで販売されていたMRMO_BRIKは、2Dのタイル素材だったため断念。
ここで、Blender MarketやGumroadで良質のプロシージャルシェーダーを販売されているRahul Parihar(通称:DoubleGum)さんから以前購入したシェーダーがあったことを思い出します。
「Ultimate Plastic Shader」は、プラスチック風のほどよいマット感やSSSのある質感だけでなく、細かい傷や指紋まで入っているマテリアルです。プロシージャルなので、この傷や指紋の量、サイズ、透明度も自由に調整可能です。今回はこれのお世話になろうと決めました。
動かし方のプランを立てる
せっかく”ブロックを組み合わせる”というモチーフを用いるので、実際にブロック同士がくっ付いて積み上がるアニメーションを作りたいと思いつきました。
「よし、じゃあ地道にブロック1つ1つにキーフレームを打つか……」って、そんなわけないですよね! この細かさで手付けのアニメーションをつけるのは明らかに効率が悪い。何かもっと良い方法があるはず。
やはり、アレを使うしかありません。そう、ジオメトリーノードの力を……!
これは、オブジェクトの形や動きをノードでプロシージャルに制御できる、Blenderの魅惑の新機能。細かいパーツをコントロールする上では積極的に使っていきたい新技術ではあるのですが、恥ずかしながら筆者、まだ入門的なオンライン動画を見て手を動かしてみただけで、イメージ通りにシーンを作るには程遠い現状でした。
しかし、改めて基礎から学び直す時間はありません。学習意欲よりもまずは締切です。今回使えそうなジオメトリーノードのノウハウをピンポイントで検索します。
インターネットで検索する際の大原則は、「可能な限り英語で探すこと」です。例えば、日本食に関することを調べるのであればその限りではありませんが、いくつかの例外を除けば、ほとんどのことは英語で検索した方が日本語よりも全体の情報量が多く内容も良質です。
Blenderに関することであれば、「Blender」の後ろに、やりたいこと、作りたいもの、関連しそうな機能などを入力すると良いでしょう。
今回は、「Blender Blocks(※) Geometry Nodes」のような検索ワードで探します。
※厳密には他のワードの方がヒットしやすいのですが、商標登録されている商品名なのでここでは記載を避けます。
すると、候補が出てきました。まずは、Sanctusさんによるチュートリアル。
Sanctusさんは、「Sanctus Library」というプロシージャルマテリアル集を販売しており精力的に更新されている方なので、ご存知の方も多いかと思います。
Lego Terrain Generator in Geometry Nodes - Blender Tutorial
地形の高さに応じて特定の色が割り当てられていて、地形が動くものを作っているようです。しかし、今回作りたいのはあくまで組み上がっていくアニメーション。ちょっと違う感じがするので、いったん保留としておきます。
次に見つけたのが、Justin Geisさんのチャンネル、「The CG Essentials」。
AMAZING Lego Geometry Node Setup FOR BLENDER
こちらの動画で紹介されているのは、Blender界隈では有名なBenさんのプロシージャルアセット「Geo Nodes Lego Assembly」。ブロックがパラパラっと集まって塊を形成するアセットです。
「これは今回作りたいものにだいぶ近そうだぞ!」という手応えを感じ、早速販売ページに飛びます。こんなクールなアニメーションが作れるアセットですから、そこそこの値段を覚悟しつつ見てみると……、販売価格はなんと「$0+」!? まさかの無料(ただし支援は受け付ける)です。
JustinさんとBenさんのおかげで、シーンの動かし方はなんとかなりそうです。
自分のイメージに近付ける
アセットを使用する際は、”どこまでそのまま使うか?”というテーマが付いて回ります。それに対する筆者なりの答えは、「元々表現したかった内容(テーマ)に沿った形になるまで手を加える」です。
今回購入したBenさんのアセットは、よくよく見ると筆者がイメージしていたものと異なる点がいくつかありました。
①ブロックの形状を変える
② 組み上がる形を任意の形状にする
③いろいろな色(マテリアル)のブロックを混在させる
④ブロックの動きを調整する
ここからはいよいよ、これらの相違点を1つずつ解消するための手順を踏んでいきます。
①ブロックの形状を変える
まずBenさんのファイルを開くと、メインのオブジェクトたちの左側に、単体のオブジェクトが8種類並んでいるのが見つかりました。
1つ選択して、アウトライナーで[.]を押してみましょう。このオブジェクトたちが「Studs」というコレクションに含まれていることがわかります。
次に、カメラの前で組み上がっている、ジオメトリーノードが使われているオブジェクトを選択してモディファイアプロパティを開くと、[Instanced Collection]で「Studs」というコレクションが選択されているのが見つかります。
諸々の状況から鑑みるに、このジオメトリーノードは「Studs」に含まれているオブジェクトを元に大量の複製を作り、ランダムに敷き詰める仕組みになっていることが推測されます。ということは、この「Studs」というコレクションの中身を入れ替えたら、メインのオブジェクトが差し替えられるのではと想像できます。
確信がなければ、適当に追加したオブジェクトを「Studs」に追加して検証しましょう。ブロックの一部が追加されたオブジェクトに入れ替わるので、仮説は正しいと裏付けることができます。
そうと分かれば、差し替えるためのブロックの元を作りましょう。検索してみると、ちょうど良さそうなものが見つかりました。こちらも有名なジオメトリーノードの達人、建築家でデジタルアーティストのAntoine Bagattiniさんによるアセット「Lego Generator for Blender 3.X」です。
これも、”無料。どのような目的にも使用可能”と書かれており、「どういうことだよ! ありがとう!」と言いつつ気持ち分のお金を払って使わせてもらいます。
ファイルを開いてブロックを1つ選択し、モディファイアプロパティでジオメトリーノードモディファイアをいじってみると、[X]/[Y]に入力した数字で縦/横それぞれの突起の数を、[Depth]の項目でブロックの高さを調節することができるようです。
ここでも、購入したものにもう少し手を加えて、多様で楽しいイメージに近付けていきます。実在するおもちゃも参考にしつつ、いくつか異なる種類のブロックに作り変えて、ベベルで丸みをつけて親しみやすい形状にアレンジしましょう。
これでオリジナルのブロックセットが出来上がりました!
カワイイ! ウレシイ!
Benさんのアセットに戻り、こちらを「Studs」コレクションの中身と入れ替えることで、イメージ通りのブロックをランダムに敷き詰めることができます。サイズがおかしくなる場合は、スケールの適用を忘れていないか確認しましょう!
②組み上がる形を任意の形状にする
元のアセットではシンプルな平面状にブロックが敷き詰められていきますが、今回作るシーンではこれをより複雑な任意の形状にしたいという意向があります。それは果たして可能なのか? Blenderの力を信じつつ、確認しましょう!
ジオメトリーノードが使われているオブジェクトを選択し、編集モードで見てみると、このオブジェクトの「本体」が見えてきます。今見えているオレンジ色のメッシュ(具体的には頂点)に対して、「Studs」のオブジェクトを割り振っていることがわかります。
ということは、このメッシュを編集することで最終的な形状も調整できるはず。間隔がブロックの高さと一致するように気を付けながら、平面のメッシュを複製していきましょう。
効率的に等間隔に並べるコツは、1つ目の複製を作って高さを調整したあと[Shift+R]で複製→移動の流れをリピートすることです。(Array Modifierを使った上で適用するのも手ですね。)
層を積み上げたあとは、頂点を動かすのではなく、不要な頂点を削除したり追加したりすることで望む形状を作っていきます。ガイド用のメッシュを別途作成し、それに重ねて作ってみるのも良いでしょう。
③いろいろな色(マテリアル)のブロックを混在させる
もう1つ越えなければいけない難関として、個々のブロックの色設定という課題があります。Benさんの元のファイルでは、色(マテリアル)はそれぞれのブロックと紐づいており、ブロックの種類ごとにランダムに並べられるようになっています。ここにはこの色のものを配置する、というコントロールができないわけです。
これを打開するために、以下の手順で策を講じました。力(手数)押しで強引にねじ伏せる作戦です。
①デフォルトでは1つになっているメインのオブジェクトを、重ならないように色ごとに分ける
②「Studs」コレクションを色ごとに複製し、それぞれ異なる色のマテリアルを割り当てる
③色ごとに分けたオブジェクトのジオメトリーノードモディファイアプロパティで、該当する色のコレクションを選ぶ
せっかくなので、それぞれのマテリアルにも色の変化を付けてみましょう。
シェーダーエディターで[Object Info]ノードから[Random]を引っ張り、[Color Ramp]の[Fac]に繋げて、呼び出す色をランダムに設定しましょう。
[Color Ramp]は[Principled BSDF]でも何でも、[Color]を繋げられるところに繋げます。[Color Ramp]の[Interpolation]は[Constant]にしておくことで、個々のオブジェクトにランダムに色を呼び出せます。
④ブロックの動きを調整する
最後に、アニメーションに関する部分です。
元々のアセットでは、下からブロックが飛び上がってきて並びますが、今回は上から落ちてくるようなイメージに変更します。
[End Offset]の項目で、ブロックがどこから飛んでくるかの基準となる位置を調整しましょう。[0 / 0 / -4]となっているのは、X位置、Y位置、Z位置だと察しがつきます。この-4を8にすることで、見事ミッション完了です。
ここまで調整できれば、あとは動きを付けるだけです。制御用のオブジェクトに指定されている[Falloff Empty]の位置を調整したり、[Falloff Radius]にあらかじめ打たれているキーフレームのタイミングを調整します。台紙となる平面オブジェクトを追加し、ライトを調整、カメラのプロパティから被写界深度を設定して出来上がりです。
組み立て方をアレンジして、いろいろな作品を作ってみてください!
まとめ
ジオメトリーノードで作られたアセットを購入し、それを元に機能や設定を推理しながら自分の意図するイメージを作り上げる事例を解説をしました。
ツールや技術は、深く広く理解しているに越したことはありません。しかし、我々が電子レンジの仕組みを理解していなくても使うことはできるように、不完全な理解でも技術を使ってはいけないということはありません。
むしろ勝手知ったる安全圏の技術を何度も使い回し続け、同じような表現に終始することの方が、より良いアウトプットの妨げになると言えるのではないでしょうか。「ツールは使うためにある」という意識で、必要に応じて業務に取り入れて使いこなしましょう。
その上で余裕ができたら、やはり今後のために基礎から勉強をしたいところです。ジオメトリーノードに関しては、Erindale Woodfordさんの入門コースも販売されていますので、合わせてオススメしておきます!
今回のシーンも含め、制作した全体の動画はこちら。
記事では紹介しきれなかった様々なツールや技法を使用しているので、ぜひ見てみてください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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