CGの実写合成で使われる謎の球体「VFXボール」とは?

2022.11.04 (最終更新日: 2022.11.05)

こんにちは、C3D主催の いわい です。日本もようやくウィズ・コロナな雰囲気になってきて、そろそろオフライン勉強会を再開してもよいかなと思ったりしている今日この頃(2022年11月現在)でございます。

さて、今回は実写合成でよく使われる謎の球体「VFXボール」について、次のようなことを書きました。

  • VFXボールってなに?
  • HDRIの撮影方法
  • VFXボールの役割
  • 自作HDRIとVFXボールを使って実写合成
  • 自作VFXボール、少しだけ販売します!

VFXボールは自作しましたが、販売用に少しだけ多めに作ったので、ご興味があれば最後までご覧ください!

VFXボールってなに?

こちらのクロームとグレーの球体、映画のメイキング映像などで見たことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。海外では「VFXボール」などとも呼ばれるようです。今回はそう呼びますね。

映画などでCGを実写合成するときは、馴染みをよくするためにバックプレート(合成に使用される映像や画像)と同じ場所でHDRIが撮影されます。HDRI(High Dynamic Range Image)の特徴は「360度画像」と「高輝度」を兼ね備えていることです。これをCGソフトで使うことにより、CGオブジェクトに撮影場所の全周囲の情報が写り込み、また撮影場所と同様の環境光を再現できます。

そのHDRIをCGソフトに持ち込んで調整するときに、リファレンス(参照用)として用いられるのがVFXボール(とカラーチャート)です。

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HDRIの撮影方法

VFXボールとカラーチャートは「リファレンス」なので、HDRIは自作する前提。HDRIの撮影は、主に次の2つの方法があります。

  1. デジタル一眼と魚眼レンズ、パノラマ撮影用機材を使う
  2. 360°カメラを使う

1は本格的な方法で、機材をすべて揃えると20万円ぐらいはかかるし、撮影技術も必要。2は必要な機材は360°カメラだけで、撮影も簡単です。ただし高品質なHDRIを撮る場合、360°カメラなら何でもよいわけではなく、私が知る限りではRICOH THETA Z1一択。主な理由としてはRAWで保存できること。これにより撮影後に適切な現像処理ができます。Z1は記事公開時の実売価格で13万円ぐらいするので、こちらも決して安くはありません。

アイデアに溢れた秀逸なVFX映像(実写合成)を作られている、きむらえいじゅんさんもHDRI撮影にTHETA Z1を使っているそうです。

個人VFX制作で重宝する最強アイテム15選 |G-RAID SHUTTLEレビュー

はじめに どうもこんにちは、きむらえいじゅん[.mov]です。 普段SNSを中心にCG合成(VFX)の動画を制作・投稿しています。 詳しくはTwitterをご覧ください! Twitter:@ku...

デジタル一眼でなければ対応できないケースもあるようですが、多くの場合はTHETA Z1で事足りることも多いのではないかと思います。THETA公式サイトでも映画での利用事例が紹介されていました。

VFXボールの役割

VFXボールに具体的にどのような役割があるのかについて、VFXアーティストの方が解説されていました。

こちらの動画によると、VFXボール(グレーボールとクロームボール)の役割(これを使って確認できることなど)は次のとおりです。

グレーボールの役割
* 光の方向(Light Direction)
* 光量(Light Intensity)
* 色温度(Light Temperature)
* 影のきつさ(Shadow Harshness)※1

※1「Harshness」は、直訳すると「厳しさ」となります。太陽光のような強い光によってできる境い目がはっきりした影は「Harsh」、ソフトボックス照明のような境界がぼやけた影は「Soft」というように、影を表現する言葉としてHarshとSoftが使われるようです。「影の厳しさ」だと、ピンとこなかったので「影のきつさ」としました。

クロームボールの役割
* 反射(Reflections)
* ライティング(Lighting)
* HDRIの位置合わせ(HDRI Alignment)

自作HDRIとVFXボールを使って実写合成

HDRIを作成し、VFXボール+カラーチャートを使って実写合成をしてみました。流れとしては次のような感じです。

  1. バックプレート(静止画、または動画)を撮影(※2)
  2. 同じ場所でHDRIを撮影(※2)
  3. CGソフトにHDRIを読み込み、環境光として設定
  4. バックプレートを読み込み、HDRIの輝度、色味、向きなどを調整
  5. CGを合成し、最終調整

※2 バックプレートとHDRIを撮影するときに、VFXボールとカラーチャートを入れた写真も合わせて撮影します。またHDRIは撮影したものをCGで使えるように加工が必要です。

まずCinema 4D(レンダラーはRedshift)に自作のHDRIを読み込んで環境光として設定し、VFXボールとカラーチャートに見立てたオブジェクトを作ります。次にVFXボールとカラーチャートが写ったバックプレートを読み込み(合成時はこれらの写り込みがない写真に差し替えます)。こちらを参照しながら色はカラーチャートで合わせ、HDRIの輝度、色味、向きなどはバックプレートのVFXボールを見て合わせます。

環境設定後に、CGキャラクターを合成して微調整。マルチパスで書き出してAfter Effectsなどで合成することでさらに馴染みがよくなりますが、今回はそこまでしていません。

初めて自作HDRIとVFXボールなどを使って実写合成を行ってみましたが、当然ながらバックプレートと同じ場所でHDRIも撮影しているので、馴染みはよいですね。

自作VFXボール、少しだけ販売します!


(モザイクがあやしい…w)

VFXボールはネットで買おうと思っていましたが、ニッチすぎるためか探し出すのが難しく、Ali Expressでようやく見つけた商品は3〜15万ぐらいと高額。しかしVFXボール(グレーボール)の作り方が公開されていたので、そちらを参考にDIYしました。

非常に硬く、丸くて滑りやすいステンレス球への穴開けや、場所を必要とする塗装など、DIYは予想外の大変さ。数十個のステンレス球は、研磨剤を使って1個ずつ手磨きするなど、実時間で5日間ぐらいかかったかも。また何個かは加工に失敗しました。

そんなVFXボールを、15セットだけ販売します。定価は送料・税込で16,500円ですが、期間限定(2週間ぐらい)で10%オフの13,500 14,850円です(記事公開時、価格を間違えてたので修正しました)。道具や材料費、要した時間などを考えると結構抑えています。自分だったらこの金額で販売されていたら喜んで購入します(笑)

グレーボールはニュートラルグレーを目指して塗装し、1個ずつつカラーセンサーで測定した結果を添付。ただ実際に使ってみてわかりましたが、色合わせに使うのはカラーチャートなので、グレーボールにはそこまでの精度は必要ありませんでした。測定のためのカラーセンサーが4.3万円ぐらいしたんですが…!

というわけで、ご興味のある方は下記リンクのショップからご注文をお願いします。ショップの商品ページには、より詳しい説明がありますので、ご興味のある方はよくお読みください。

VFXボール(クロームボール + グレーボール)|Nothing But Polys

VFXボールとHDRIのDIY、それらを使ったCGソフト(Cinema 4D)上での実写合成の手順に関しては、C3Dウェブサイトで詳しく書いているので、より具体的な内容を知りたい場合はそちらをご覧くださいませ。

実写合成で使うVFXボールを自作してみた|C3D
THETA Z1とPTGui Proを使ったHDRIの作り方|C3D
自作HDRIとVFXボールで実写合成の環境を設定する|C3D

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iwai

いわい@iwai

C3DというCG勉強会を主催している いわい です。名古屋でのオフライン勉強会開催のほか、ウェブサイトではCGに役立つ情報も配信しています。

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