7月から当サイトで連載「映像クリエイター ララッシュアワーの非・効率化計画」を執筆しているrrrushhourrr(ララッシュアワー)さん。
フリーランス集団 「SAMPRAS DESIGN」では、モーショングラフィックスなどを手がける傍らで、自主制作で3DCGキャラクターのMV制作にも取り組んでいます。
また「Story by Story SHIBUYA(S×S SHIBUYA)」という女性クリエイターの育成プロジェクトにも参加し、活動の幅を広げているのです。
今回は、クリエイター ララッシュアワーさんにインタビューを実施しました。インタビュー中、ララッシュアワーさんは「作品より先に、自分が目立つ方法はせこいと思っていました」と言いました。
その言葉の意味や、これらの彼女の一つひとつの活動にはどのような意図が込められているのか。
ララッシュアワーというクリエイターの本性に迫りました。
- 映像クリエイター rrrushhourrr(ララッシュアワー)
「SAMPRAS DESIGN」に所属するフリーランスの映像クリエイター。「Story by Story SHIBUYA(S×S SHIBUYA)」のメンバーとしても活動。Podcast番組「ゴディメンレディオ 」のパーソナリティとして配信も行う。
連載中:ララッシュアワーの非・効率化計画
https://vook.vc/series/rrrushhourrr_column
手を動かして気づいた、「私は、“こっち”だ」の意味
——「ララッシュアワー」と特徴的なお名前かと思います。由来はあるのですか?
ララッシュアワー(以下:ララッシュ):
はい、ララッシュアワー(正確には半角カナ「ララッシュアワー」)でお願いします!
ララッシュ:
名前の由来ですが、小学1年生からインターネットをやっていて、当時のハンドルネームが「ララ」でした。中学生の頃から次第に名前が他の人とよく被るようになったと感じ初めて、「ラッシュアワー」と組み合わせて「ララッシュアワー」になりました。「ラッシュアワー」と組み合わせた意味は、特にありません(笑)
——かなり早くからインターネットの世界に。ご両親が寛大だったんですね。その流れでコンピュータで創作を始められたんですか?
ララッシュ:
当時からペンタブを買ってもらって、ポケモンの絵を描いたりしていました。描いた絵は、お絵かき掲示板にアクセスして投稿なんかもしていましたね。
中学、高校では美大の附属校に通っていたのですが、絵よりもパソコンをいじる方が好きだったので、大学は情報系に進みました。
大学ではSQLというデータベース言語の研究室に入って、「画像同士の距離や大きさなどの組み合わせによって、どういった感性が表現されるのか」といったメディア寄りの研究をしました。
——映像制作のキャリアは?
ララッシュ:
新卒で入社した某総合印刷会社がARやVRに力を入れていて、ありがたいことにプロデューサーやディレクターなど、上流のお仕事を経験させていただきました。
その中で次第に、自分で作ってみたいという気持ちが湧いてきて、デジタルハリウッドに通い始めました。
入学して手を動かしてから、すぐに気づきました。「あ、私は“こっち”だ!」って。
——“こっち”というのは?
ララッシュ:
ディレクターやプロデューサーで指示する側というより、実際にUnityやAfter Effects(以下、AE)を操作して、作品が出来上がっていく様子を目の前にしていく方が感動するのです。
デジハリに通っている途中までは仕事と両立していましたが、時間が足りなくなったこともあったので、途中からは思い切って会社を退職しました。
そのタイミングで、今も所属しているフリーランスの映像集団「SAMPRAS DESIGN」にアルバイトとして加わり、卒業後に本格的に先輩のお仕事を手伝うようになったのが、映像制作のキャリアです。
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二次創作だってガチでやる。クオリティアップだって任せて下さい!
——ということは、最初の本格的な自主作品はスクールの卒業制作ということですか?
ララッシュ:
はい。卒業制作では3DCGのキャラクターが踊るMVをつくりました。こちら、卒業制作ではないのですが似たような作例となります。
モデリングソフトはZBrushとMaya、レンダリングはMMD(MikuMikuDance)と使い分けていました。
当時の自分にはUnityに持ってくるという技術がなかったので、MMDでできる最高の表現を追求しました。スクールの講師の方には「二次創作をここまでガチでやる人は初めて」と言われて卒業しました(笑)
——ツールを跨いで制作されているところは、理系の知見が活かされていそうですね。
ララッシュ:
たしかにそうかもしれません。今はBlenderとCinema 4Dがメインで、レンダリングはAEかUnityといった感じです。
企業の中で働いていたら、これほどソフトを横断しながら作ることもなかったでしょう。最近はそのフットワークの軽さが、自分の良さなのかなって思うようにもなりました。
——アニメーションはご自身でされるんですか?
ララッシュ:
仕事でアニメーションをしたことはないのですが、趣味で制作した作品ではダンスのモーションデータを海外の女性からいただき流し込んで、微修正する作業は自分で行なっています。
パーティクルはAE、Unity、どちらも使いますね。でも慣れているのはAEなので「Unityで頑張って、最後はAEでなんとかする」みたいな感じですね。Unityはゲームエンジンというよりは、レンダラーとして使っています。
Unityはググれば大抵のエラーは出てきますから、わからないことは解決しやすいですね。
——今後のロードマップはどのように描いていますか?
ララッシュ:
2年後の30歳までには、お仕事として3GキャラクターのMVの制作をしてみたいです。そのためには技術や表現を磨かないと……と頑張っています。
今の私の表現の世界観はすごくニッチなので、作品を公開しても再生数はほとんど稼げていません。でも、キャラクターをUnityに入れて、カメラワークとライティングを付けたときの、一瞬の快感が忘れられなくて。その瞬間のために、辛い作業を黙々とこなしているという感じです。
——好きな表現だから、できることですね。
ララッシュ:
そうですね。私ならUnityで書き出した映像そのままではなく、AEで効果を足したりなどの撮影処理(コンポジット)までこだわれるので「ぜひ、任せてください!」と、いろいろなところで言って回っています。
333倍の狭き門「S×S Shibuya」に応募した理由
——今は二次創作もされているのですが、オリジナル作品の制作は考えていらっしゃいますか?
ララッシュ:
これまでMMD作品を4つ作りましたが、そろそろオリジナルキャラクターでもMVを作ってみたいですね。
キャラクターをゼロから作るとなると、キャラデザイン、モデリング、モーションの作成まで、一人でやるのには限界があって。同じような趣味や感性を持っている同年代の方がいらっしゃれば、すぐにでも一緒にやりたいんですけどね。
だから今は、できるだけいろいろなことをやって、チカチカと目立つことで、仲間と出会えるきっかけができたらいいなと思っています。
——なるほど、ここで「Story by Story SHIBUYA(以下、S×S)」の活動にもつながってきますね。
Story by Story SHIBUYA(S×S SHIBUYA)
日本テレビ、ソニー・ミュージックレーベルズなど4社共同出資による次世代アーティスト・クリエイター発掘・育成プロジェクト。競争率333倍のオーディションから選ばれた9人のメンバーが活動。
ララッシュ:
そうですね。S×S はいろいろなクリエイターの方と繋がれたらいいな、という思いもあって参加しました。
——S×S では具体的にどのような制作をされたのですか?
ララッシュ:
主なものですと、S×Sの9人のメンバー紹介の映像を作って、渋谷スクランブルスクエアのビジョンで放映しました。
ララッシュ:
監督という立場でスタジオに入り、絵コンテから撮影、モーショングラフィックスまで一貫して携わりました。これが「MVでできたら楽しいだろうな」と思いましたね。
——特にララッシュさんは精力的に活動されている印象を受けました。
ララッシュ:
私は会社員を辞めてフリーランスとして働いているので、仕事がなければ食べていけません。そういう意味では「追い詰められ度」が違うかもしれませんね。
メンバーでいうと、イラストレーターのkirariさんとは、年齢が近く、お互いにフリーランスということもあって、仲良くさせていただいています。
彼女もイラストだけでなく、セルフ・ブランディングにも力を入れておられて、学ぶことが多いですね。
——自分のキャラクターを表に出すことに抵抗はなかったのですか?
ララッシュ:
これを言うと嘘っぽく聞こえるかもしれませんが、本当は人前に出ることに対してあまり乗り気ではなかったのです…。
私の考え方が古いのかもしれませんが、作品より先に自分が目立つことで「じゃあ、この人の作品を見てみるか」というのは、どこか「せこいやり方」だと思ってしまっていて。
ララッシュ:
クリエイター自身は表に出ないけれども「優れた作品郡があって有名になった」というのが理想的だと思っています。ただ、自分の現状の技術力や表現力だけでは作品がマスに刺さるとは思っていないので、今は「とにかく人目に付くことで目立ってやろう!」と割り切ってやっていますね。
「芸歴4年目」ララッシュアワーの展望
——先に「一瞬の快楽のためなら、辛い作業も続けられる」という話がありましたが、ララッシュさんを突き動かしているものを、もう少し深堀りたいです。
ララッシュ:
3DCGなんかだとモデルをUnityに持ち込んだときの、綺麗なボリュームライトとか床の照り返し、カメラワーク、ベストな瞬間を生み出した一瞬の快楽に依存しているのは、間違いないかと思います。
本当に創作の9割は「無」と「苦」で、残りの1割が「楽しい」です。苺のショートケーキの苺だけを楽しみにしているようなものかな。それがあるから、なんとか続けられているのかなとも思います。
あと最近、ふと、いつか読んだお笑い芸人のマヂカルラブリー・野田さんのインタビューを思い出しました。
——というと?
ララッシュ:
彼は2017年のM1のファイナルで最下位を取ったときに、お笑いを辞めようと思ったそうです。でも「自分はこれが一番おもしろいと思っているから、続けていたら、いずれ認められるはず」という原動力で、3年後の2020年に見事に優勝を果たしています。
私ってこれに近いのかなって思って。現状、なかなか自分の表現が評価されることがありませんが、「必ず良いものを作っているはず」という思いが、心のどこかにあるんです。
だから、自主制作が仕事につながる日が来るまでは、きっと辞めないと思いますね。
私はフリーランス4年目です。お笑いで「芸歴4年」って、まだまだ若手ですよね。いくらなんでも解散は早すぎます。そう考えると、もう少し頑張ってみようかなって思えます。
——では、クリエイターとしての憧れや目標は?
ララッシュ:
連載の初回でも書いたのですが、K/DAの「POP/STAR」が目標です。この動画は“盛りなし"で100回以上は見ていると思います。曲もキャラも、本当にかっこいいです。
ララッシュ:
この作品には何百人もの人が関わっていると思います。こういう作品に携わることが目標ですね。
——ライブ映像ではなく、MVにこだわる理由はあるんですか?
ララッシュ:
映画の『シカゴ』が大好きで、以前、舞台版を見に行ったのですが、そのとき「映画版の方がいいな」と感じました。
おそらく私は、カメラワークやライティング、構図など、完全にこだわり抜かれている「作り込まれ、完成された美」が好きなんだと思います。
だから、ライブ映像も良いのですけど、やはり、MVで完璧に作り込みたいという思いがあります。
もし、ご一緒に映像制作をしてくださるリアルな衣装が好きなデザイナーさんであったり、かっこいい女性が好きなモデラーさんなどがいましたら、勉強させていただきたいです。
INTERVIEW_沼倉有人 / Arihito Numakrua(Vook編集部)
TEXT_水野龍一 / Ryuichi Mizuno
PHOTO_菅井泰樹 / Taiki Sugai(Vook編集部)
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
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