【トリセツVol.4】RAW動画データでのカラーグレーディング基礎〜実践 ※LUTデータ配布付き

Sponsored by Nikon
2022.10.28 (最終更新日: 2023.02.06)


映像は撮影方法や照明のあて方、ルックなどによって与える印象が変わります。
その中でも「色」は、大切な要素です。
世界観を作り出すための要素として、一番大切だと言っても過言ではないでしょう。
この世界観を作り出す工程を「カラーグレーディング」と呼びます。これは撮影した映像の元データの色とは別に“色を加えたり、調整する”工程です。

前回、学べる連載記事「ミラーレスカメラのトリセツ!(全6回)」の第3回目【トリセツVol.3】では映像を数ランク上げるための「RAW」について、解説していきました。

第4回目となる【トリセツ Vol.4】は、bird and insectのディレクター・映像作家のShuma Janさんによる【RAW動画データでのカラーグレーディング基礎〜実践】です。
カラーイメージを味方につけ、より印象的な映像にするためにカラーグレーディングについて詳しく説明していただきます。
Shuma Janさんに制作いただいた サンプル LUTデータ(無料配布)もございますので、ぜひ最後までお読みいただき、ご制作に活用ください。

カラーグレーディングにおけるRAW

こんにちは。bird and insectのShumaです。
前回までのトリセツをご覧の皆さんはだいぶRAWに関して理解しているかと思います。
読んでないよという方は前回の井上さんの記事でとても分かりやすく説明していたのでぜひご覧ください。

【トリセツVol.3】映像クオリティーを上げるRAW動画のはじめ方 ※8K・4K RAWデータ配布付き

「RAW」という言葉をご存知でしょうか? これは高品質な映像を撮影するために必要不可欠な撮影形式です。映像を学ぶ上で必ずと言っていいほど耳にする「RAW」。すでに写真の世界では、10代の方でも「...

で、RAWって結局グレーディングする時にどういいのか?
RAWは、カメラから出力された未現像の動画データで、豊富な情報量が含まれ、編集を前提とした撮影に適しています。
ホワイトバランスも後から調整が可能なので、グレーディングでの色の変更も遥かにしやすいです。

またNikonのRAWは12ビット、約12ストップのダイナミックレンジを持っています。この色情報と階調の違いはグラデーション・エッジ部分に顕著に出ます。

例えばこちらのクリップの色を思い切り変えてみると

N-RAW (12bit)だと

H.264 (8bit)だと

色情報を多く持っているということは点と点の間をより多くの色で表現できるということです。
8bitの映像では彩度や色相を変更するとエッジ部分やグラデーション部分が破綻しやすく、またエッジ部分を表現する十分な色がないということは色の分離性が劣るということです。なので特定の色の変更もしづらいです。RAWがいかにディテールまでこだわった映像を作る上で大事なことなのかということが分かってもらえたかと思います。

ビット深度と階調について、詳しくは【トリセツVol.2】で上田さんに解説していただいておりますので、下記をご覧ください。

【トリセツ Vol.2】ムービー撮影の前に抑えておくべきテクニック&ポイント講座

みなさんはミラーレスカメラで動画撮影をしていますか? 近年では動画撮影機能を備えた一眼レフやミラーレスカメラが数多く登場し、誰もが気軽に動画撮影を楽しめるようになりました。一方で上手な動画撮影の...

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色について

色というのは面白くて、その人の経験やその時の感情によって感じ方が変わります。
赤は怒りを表す色で、青は冷静さを表す色とか、そんなシンプルなものでもありません。
そして、その感じ方には生得的な要因と後天的な要因があります。

生まれもった感覚でいうと進出色と後退色や色の恒常性などがあります。
私たちはこの世界を知覚する時に、明暗や色などで区別したりしますが、距離の判断には色相が強く影響します。進出色である暖色系は近づいて見え、後退色である寒色系は遠くにあるように感じられます。信号の色とかもその作用を利用したものですね。

また色の恒常性というのは下の写真のように、コカコーラは実際にはもう赤くないのに赤く見ようとするという視覚の作用です。

こうした人が本来意識していない部分を利用して画に奥行き感を出したり、主題を引き立たせるということを色で演出することもできます。

また人の経験や文化的な要素を考えることも大事です。
むしろグレーディングにはこちらが大きく関わってきます。

例えば安心感を表したいと思ったときに、人が安心を感じるのは見たままの世界であるはずです。だから空が空として、人が人として見える色であれば落ち着いた感情を抱くでしょう。
逆に通常の色相から外れた時、人は違和感を覚える。その小さな違和感が非日常感を出し、時に緊張感を、時にワクワク感を演出できたりもします。

また時代や文化によっても感覚は変わります。例えば日本で喪服の色が黒になったのは明治時代以降で、急激に普及したのは第2次世界大戦がきっかけだと言われています。文化が変わると黒という色に対する感情も変わるでしょう。そしてそれはこれからも変わり続けます。

こういった本能的に感じる色と文化的に感じる色の感覚をうまく取り入れていくのもグレーディングする際に大事なポイントかもしれません。

ルックを決める

理想のルック(映像におけるビジュアル面でのスタイル)は人それぞれだと思うので、各々で探求してほしいと思いますが
映像として僕が大事だと思っているポイントはコントラストです。

ここでいうコントラストとは
・輝度のコントラスト
・色のコントラスト
・主題と背景のコントラスト

大体いいなと思う画はこのコントラストがはっきりしています。
これは撮影時から大事なことで最終のルックは彩度を低めで
モノクロマティックな感じにするから光の陰影をしっかり出そうとか。
逆に陰影は柔らかに、色でコントラストをつけようとか。
要するに見せたいものにしっかり目がいくかということですね。

またルックを決める際に参考になりそうなサイトも紹介しておきます。

Pinterest
https://www.pinterest.ca/
王道です。探しやすいし、まとめやすいです。

SHOTDECK
https://shotdeck.com/
ここは有料ですが2000以上の映画が登録されていて
色とか、レンズ、ライティングのスタイルとか細かい検索ができるので結構便利です。

カラーグレーディング基礎知識

DaVinci Resolveではノードと呼ばれるものを連ねて色を作っていきます。
後のノードは前のノードの影響を受けるのでノードの順番で違う結果になります。

ちなみに今回は下記を使用してカラーグレーディングの説明に入ります。
・編集ソフト:DaVinci Resolve
・パソコン:MacBook Pro (16-inch, 2019)
・RAWデータ撮影カメラ:Nikon Z 9 12bit N-RAW 
(トリセツVol.3で、井上卓郎さんに撮影いただいたN-RAWデータを
 無料ダウンロードできますので、こちらもご活用ください)

例えば
ホワイトバランスを変えてから彩度を上げるのと


最初のノードでホワイトバランスをイエロー方向に400振って、次のノードで彩度を90上げています。

彩度を上げてからホワイトバランスを上げるのは微妙に色の乗り方が異なります。


今度は逆に最初のノードで彩度を90上げてから次のノードでホワイトバランスをイエロー方向に400振っています。雲への黄色の乗り方、空の青の彩度の上がり方が微妙に変わってきます。

ただし基本的には非破壊なのでデータがなくなるわけではないです。
例えばハイライトがクリップしたとしても後のノードで下げれば元に戻せます。


オリジナルのフッテージです


ゲインで輝度を思い切り上げて、白飛びさせます


次のノードでゲインを下げれば、ハイライトはオリジナルのクリップと同じ状態に戻ります

しかし例外もあって、LUTを適用した時やカラースペースを変換したときに
白飛び、黒つぶれが起こってしまった場合はRAWが持っていたはずのデータは失われてしまいます。

LUT適用前で調整すればハイライトの情報は残るが


LUTを適用した時点で雲の部分のハイライトは白飛びしてしまうが、LUTの前にノードを追加してプライマリーホイールのゲインを下げればハイライトの情報は戻ってきます。

LUT適用前にクリップしてしまったハイライトを
LUT適用後のノードで戻すことはできません。


しかしLUTを適用した後に同じようにゲインを下げても雲のハイライトの情報は戻ってこず、上の画像のようなディテールは失われてしまいます。

これらのことを踏まえて考えていくとその、その時々の最適なノードの順番が見えてくるはずです。

カラーグレーディング実践

さていよいよグレーディングの実践です。
グレーディングの前にMacの場合は環境設定でMacディスプレイカラープロファイルをビューアに使用にチェックを入れます。

そしてプロジェクト設定でタイムラインカラースペースをRec.709-Aにします。この設定にすると書き出し時の色が一番編集時の色に近い気がします。※途中でやると色が変わるのでこの設定の変更は一番最初にしてください。

スペックが高くないパソコンではタイムラインの解像度はフルHDにしてRAWのデコード品質も落としておくとスムーズに編集ができます。グレーディング時にデコード品質を戻し、書き出し時にタイムライン解像度を最終的にアウトプットしたいものに変更すれば最高画質で書き出すことができます。

それではこちらのクリップを使って実際にグレーディングしていきます。

キーボードで作業する人はこの辺りのショートカットを覚えておくとスムーズにグレーディング作業ができます。ショートカットはカスタマイズもできるので自分のやりやすいものに変更もできます。
 
option+s シリアルノードを追加
shift+s シリアルノードを前に追加
option+l レイヤーノードを追加
option+p パラレルノードを追加
command+d  選択したノードを無効/有効化
shift+d 全てのノードを無効/有効化
command+f 全画面表示
Z ビューアをウィンドウに合わせる

①カラースペース変換でRec709へ変換

まずRAWのコントラストを戻します。
色々なやり方があるのですが、今回はカラースペース変換を使います。これは撮影したカメラの色域と書き出す色域を指定することで現像する方法です。
今回の場合はRec709に変換します。

同じことをプロジェクト設定Daivnci YRGB Color Managedでタイムラインに一括で調整することもできますが詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

いまさら聞けないカラーに関する専門用語17選【DaVinci Resolve 17】

DaVinci Resolveのカラーページで出てくる用語をまとめてみました。カラーページというのは、DaVinci Resolveの中で最も感覚的なページであり、センスが要求されるページですが...

この変換を行うと瞬時にコントラストも彩度も戻り、とてもいいスタートポイントになりました。

具体的には入力カラースペースをRec2020に、入力ガンマをNikon N-logに設定、出力は出力カラースペースをRec709、出力ガンマをRec709-A(Macの場合)に設定するだけです。色が飽和してしまう場合は色域マッピングを彩度圧縮に変更し彩度の最大値を下げます。

今回進め方は下の図のような感じになります。
カラースペース変換のノードより前はRAWのまま、これより後がRec709に変換されているので露出やホワイトバランスなどのカラーコレクションは手前で行います。豊富な情報を残した上で、映像のルックを作っていくカラーグレーディングはRec709の状態で行います。
もちろん必ずこうしなくてはいけないというわけではありません。全体のトーンを撮影時から大きく変えたいという場合には変換前にグレーディングを行ったほうがいいかもしれませんし、そもそも変換を途中でせず最後でする方法もあります。
このやり方も一例として色々なやり方を試してみてください。

Z 9 N-RAW撮影前の階調モード設定に関して以下いずれかを選択する必要あり。
①階調モード[SDR]
SDRワークフロー向けの階調モード。ISO800未満の低感度が撮影可能で、N-Logを選択した時と比べ、 暗部のノイズ性能に優れています。高画質コーデックで撮影し、ポスプロのワークフロー効率を重視する際はお勧め。
②階調モード[N-Log]
LogワークフローやHDRワークフロー向け。設定できる最低ISO感度は800となります。ハイライト側のダイナミックレンジ性能が優れているため、自由度の高いカラーグレーディングをじっくり行いたい場合にお勧め。

②露出の調整

トーンカーブで主にハイライトとシャドウの範囲を調整します。コントラストはあとで調整するのでここではできるだけ情報を残しておきます。

輝度はスコープの波形やパレードを使用して確認します。
データレベルスコープ、参照レベルを表示にチェックを入れます。
パーセンテージ表示ではシャドウは6で潰れ始め、ハイライトは92で飛び始めるので
そこを目安に調整していきます。

③ホワイトバランスの調整

その次に調整が必要であればノードを追加してホワイトバランスを調整。
ここでスキントーンや前景と背景などの色被りをなくし色を分離させると後にLUTを適用させたり一括で調整を加えるときにいいです。
極端に間違えてなければオフセットでの調整が自然な気がします。

④彩度の調整

今回は少し特殊な方法で彩度の調整を行います。
まずノードのカラースペースをHSVに変更します。
HSVとはHue(色相)・Saturation(彩度)・Value(明度)のことです。

そしてチャンネル2(彩度)以外を切ります。

あとはカラーホイールのゲインで彩度を調整します。
この方法だと彩度を上げながら輝度を下げることができるので最近研究しています。
ただもちろん彩度やカラーブーストで調整しても大丈夫です。

単純なコントラストや彩度の調整でも使うツールによって結果が微妙に異なります。
同じ結果を出すために違うツールだと結構複雑なことをしないといけなかったりする場合もあるので色々試して違いを楽しんでもらえると良いかなと思います。

⑤トーンカーブでコントラストの調整(輝度)

カラースペース変換の後にノードを追加しコントラスト調整を行います。

ハイライトやシャドウに影響した場合は最初の明るさを調整したノードで
再調整、それでも白飛びしたり黒つぶれするところは後ほどパワーウィンドウで補正します。

コントラストをあげると彩度が上がるので必要に応じて彩度を調整します。

⑥ルック

好みの色に調整していきます。僕はトーンカーブを使うことが多いです。色を乗せたい時はホイールを使うこともあります。

⑦シャドーの調整

僕はシャドーを少しうかせるのが好きなので
シャドー調整用のノードを別に作り調整しています。

⑧シャープネス/ブラー

シャープネスをかけて画を少し締めます。その後にブラーをかけることもあります。

⑧パワーウィンドウ

大体調整できたら他のクリップと合わせていき全体のトーンを作っていきます。
そして最後にパワーウィンドウを使って細かいところの調整をしていきます。
決まりはないんですが、「本当はここもう少しライティングしときたかった」などの
撮影時の調整みたいなのは、最初の方にノードを追加して調整しています。
それとは別に一部分だけ色を変えるとか、エフェクトを足すみたいな作業は最後の方にノードを追加して調整しています。

⑨仕上げ

タイムラインノードで輝度vs彩度カーブでシャドウ側の彩度を落とします。
シャドウの彩度を抜くことは結構大事です。色が自然に見えやすいからです。
最後にフィルムグレインを適用して完成です。

フィルムグレインは16mm 250Dでアドバンスコントロールで、シャドウやハイライトにはあまりかからないように設定します。

こちらがビフォーアフターになります。


グレーディングを始めたての人で結構多いのが、彩度やコントラストを上げすぎてしまうか、逆に低すぎるか、という2パターンで、上げすぎてしまう方はいいなと思う画がどれぐらいなのかということを一回スコープなどを使い研究してみてほしいです。低すぎる方はRAWの状態から始めていることが意外とネックになっていると思っていて、今回のようにRec709に変換してコントラストを戻すというやり方をおすすめしたいです。

LUTについて

今回は4種類のLUTを用意したのでぜひ試してみてください。
基本的に露出・ホワイトバランスなどはLUTを適用する前のノードで調整してください。
※以下のLUT使用例はZ 9のN-RAWにLUTを適用した場合の参考です。

1.Natur
コントラストや彩度をRec709に戻すためのLUTです。
ここをスタートポイントにしてそれぞれの色を作ってみてください。


ダウンロードはこちら

2.Liben
コントラスト・彩度高めのLUTです。
色温度によって効き具合が結構変わるのでホワイトバランスを調整してください。


ダウンロードはこちら

3.Kino
少し暗めで青色が強めに出るLUTです。場合によっては彩度を少し下げるといいです。


ダウンロードはこちら

4.Nega
ネガフィルムをイメージしたLUTです。
ハイライトが入った映像に合います。
強めのグレインとハレーション、グローを加えるとより良くなる。


ダウンロードはこちら

まとめ

RAW動画はデータ量が大きいデメリットはあるものの、撮影時にはコントロールしきれなかったことなどをリカバリーできるのはもちろん、細部までこだわることができ、自由な発想をかたちにするポテンシャルのあるフォーマットです。配布したLUTを使用したり、自分だけの色も作ってみてほしいと思います。

  • Shuma Jan

    1992年生まれ、映像作家。自然のもつ未知性やデータを破壊することで起こる ノイズやグリッチなど非再現性のある表現にこだわる。 bird and insect ディレクター/エディター/カラリストとして BMWやYAMAHAなどの広告作品も数多く手掛ける。 現在は東京と岡山の2拠点で活動しており、 多様な価値観を感じながら作品制作に励んでいる。
    Twitter : https://twitter.com/lordhorsemotion
    bird and insect HP : https://bird-and-insect.com/

■Nikon Z 9 ムービースペシャルコンテンツページ
https://www.nikon-image.com/sp/movie/z9/

■Z 9動画専用カタログPDF
https://www.nikon-image.com/products/mirrorless/lineup/z_9/pdf/z_9_movie.pdf

■ニコンダイレクト Z 9キャンペーンページ
https://shop.nikon-image.com/campaign/z9/index.html?cid=JDCNS201865

以下は、Z 9でのN-RAW撮影時の補足説明書です。

■Z 9 テクニカルガイド(N-RAW編)
https://download.nikonimglib.com/archive5/cRuFI00T09qL05xtQMl57Z08wr13/Z9_TG_NRAW_(Jp)02.pdf

学べる連載記事「ミラーレスカメラのトリセツ」のその他の記事については、まとめページよりご覧ください。
動画撮影の基礎知識から実践的内容までテーマ別に紹介しております。
https://vook.vc/list/36

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