2022年9月、スタートアップ投資を行うベンチャーキャピタル(VC)ファンド、Skyland Venturesは投資先への支援、自社ブランディングや広報を目的としたクリエイティブチームを結成した。
Skyland Venturesは10周年を迎えた2022年、Web3スタートアップへの投資に舵を切り、秋にはWeb3に特化したシェアオフィス「CryptoBase(クリプトベース)」に拠点を移して、新たなスタートを切る。
今回は、企業としての転換点を迎えている同社が、なぜ、このタイミングで社内にクリエイティブチームを立ち上げたのか。経緯や背景、その目的について、チームメンバーの3人に話を聞いた。
Profile
須永 賢太(写真=中央)
コンテンツマネージャー
2019年1月、株式会社ミナカラにて薬剤師兼マーケターとして従事。2021年3月に個人事業として経験を積みフリーランスビデオグラファーとして独立。Skyland Venturesの投資先支援の動画コンテンツ制作を経て、2022年3月よりSkyland Venturesのコンテンツマネージャーとして入社。主に動画や音声コンテンツの企画などを中心に推進している。
よんくろう(写真=右)
メディアディレクター
大学院修了後、地元の岡山県で公務員(保育士)として勤務。動画クリエイターとして活動し始めた頃に、TranSe inc.の新規事業メンバーと出会い、2021年から参加。クリエイターの可能性を拡げる動画コンテンツをプロデュースからリリースまで管理。2022年6月からSkyland VenturesにてWeb3を発信していくコンテンツチームとして入社。
松本 頌平(写真=左)
クリエイティブチーム /アソシエイト
慶應義塾大学4年 インターンとして休学しながらブロックチェーン上のウォレット分析ツール開発にアシスタントPdMとして参画。Skyland Venturesには2022年の7月からジョインし、キャピタリストのサポートをしながらクリエイティブチームとしても活動している。
クリエイティブチームによるポッドキャストも配信
https://open.spotify.com/episode/6BhrLwmJLlLj1rfnthGBR4?si=kuwT1oRyTDCKs1QZxH0D5g&nd=1
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「VCのメディア化」を掲げて発足
——クリエイティブチームの皆さんから、それぞれ自己紹介をお願いします。
須永:チームではコンテンツマネージャーをしています。実際に動画を作ったり、ディレクション、広報的な業務にも関わっています。
薬剤師資格を持っていたので新卒では現場で従事し、スタートアップ企業を経てフリーで活動するようになりました。その中で、Skyland Venturesから動画制作を受託したことがきっかけで、今年の3月に入社しました。
松本:僕は慶應義塾大学の4年生で、今年の7月からインターンとして加わりました。それ以前は、1年ほどブロックチェーンを使ったプロダクトの開発を行なっていました。
現在はキャピタリストとして、Web2の企業がWeb3でマネタイズしていく方法を一緒になって考える一方で、クリエイティブチームでは経験や知識を活かして、Web3のコンテンツづくりに取り組んでいます。
よんくろう:Skyland Venturesではメディアディレクターという肩書を拝命しました。元々は公務員で、いくつかのキャリアを経験した後、映像クリエイターの大川優介さんの会社であるTranSe inc.に入りました。
その後、自分たちのプロダクトや新しい価値を作り出すことの魅力を肌で感じ、起業したいという思いが強くなったところでTranSeを辞め、多くの人とミートアップしていく中でSkyland Venturesに声をかけていただきました。
——今回、クリエイティブチームを起ち上げた経緯や背景を教えてください。
須永:一般的にVCは、投資先に対してあらゆる方法で経営支援を行いますが、僕らは動画メディアの力を信じていて、これまでにも投資先の採用やイベントに関する動画を作ることで支援してきました。
これまでクリエイティブの支援を行ってきた投資先の動画
須永:VCが本格的に動画によるサポートを行っているところはほとんどなく、社内に専門チームを設けることで他社との差別化になると考えた経緯があります。
今年の3月の時点ではクリエイターは僕ひとりでしたが、当初から、将来的にはチームで拡大してやっていく方針で、よんくろうさん、松本君に加わっていただきました。
よんくろう:このチームは「VCのメデイア化」を掲げてスタートしています。
——「VCのメデイア化」とは?
よんくろう:現代において、誰もが個人での情報発信ができるようになりました。その台頭としてインフルエンサーと呼ばれる人が生まれ、自身の持つ情報を発信するという文化が根付いたと考えています。
発信は誰にでもできるような時代になりましたが、VCやスタートアップの業界で動画を使って発信をしている姿は見かけません。また、情報がオープンになっていない業界でもあります。その中で、動画を使って発信していくことは、今後大きな価値に繋がるのではないかと考えています。
現在は動画コンテンツの制作をメインに行っていますが、ハッカソンやミートアップイベントなど、動画以外にも幅広いコンテンツを企画し、コミュニティを創造し、投資先の支援につなげていくつもりです。
また、Skyland Venturesのビジョンや、スタートアップ・VC業界の最新の情勢を伝えるという役割も担っていきたいです。
こうした方法は、海外のVCではすでに行われていて、僕たちは「VCのメデイア化」と呼んでいます。
——コンテンツは外注できると思いますが、今回、あえてインハウスでチームを作って制作することにした理由はあったのでしょうか?
よんくろう:まず前提として、僕たちは外注をしないというスタンスではありません。
ご承知のように、動画、写真、文章、音声……、あらゆるクリエイティブを作るのには、膨大な時間がかかります。この時間の感覚は、ビジネスのスピード感とは相反するものがあります。
僕たちはクリエイターであるのと同時に、VCとしても成果を出していきたい。だから、必要に応じて才能ある他のクリエイターと提携しゴールを目指します。そして、そんな仲間を常に探しています。
松本:投資家やこれからWeb3に新しく興味を持ってくれる人たちの中には、投資先のスタートアップ企業がやっている事業の内容や、Web3に対する思いを聞かせてほしいというニーズがあります。そういった需要に対しては、動画メディアでアプローチすることがとても有効だと考えています。
しかし僕たちVCとしては、支援先には事業やプロダクトづくりに集中してほしいというのが本音でして。そこで、VCが代わりに動画制作を行うことで、投資家と企業の間を取り持てるのではないかと考えています。
松本:また、今、Web3の教育コンテンツが世の中に少ないのは、Web3を理解している人が、他者に教えるよりも自分で新しいものを作ることにリソースを割いているからです。
まだこういったフェーズだからこそ、Web3ファンドの動画クリエイティブチームが発信していくことで、狭い界隈でしか盛り上がっていないWeb3の発展に、貢献できるのではないかと考えています。
動画を使ったスタートアップエコノミーへの貢献
——支援先、投資家、起業家やWeb3に興味を持つ人に対して、動画の持つ力でどういったことができると考えていますか?
須永:スタートアップ企業を外から眺めると、何をしている会社なのか、中で働いている人の様子が見えづらいという課題があります。
これを解決するために、テキストコンテンツで伝えるのも良いのですが、動画の方がわかりやすさであったり、説得力は高まります。視覚化する力は、動画コンテンツの強みです。
よんくろう:テキスト情報は、すでにその“ものごとに興味がある人”が、能動的に情報を取得することに適しています。一方で、テレビやYouTubeなどの動画は、受け身でも情報を取得できるという点で、マス層との相性が良いコンテンツと言えます。
これからWeb3を広く認知してもらうための入り口として、動画コンテンツとの相性は非常に良いと考えています。
——実際に動画を制作して、支援先からの反応はいかがでしょう?
須永:1本目から多くのポジティブなお声をいただいています。やはり、ビジュアルで伝えることの強みを感じましたね。
興味深い話としては、会社の紹介動画を、その会社の社員の方が親に見せることで、何をしている会社で、どのような仕事をしているのか理解してもらえた、というようなお話も聞いています。
須永:さらに、採用動画の制作をした企業へ入社した方にアンケートを取った結果、ほとんどの人が「動画から良い印象を受けた」と回答されました。応募の数も増えたと聞いていて、手応えを感じています。
よんくろう:僕たちは、動画を「受注して制作」しているわけではなく、費用はいただかず「支援として制作」しています。
スタートアップの中には、まだYouTubeチャンネルを持っていない企業も多くある一方で、動画の制作にいきなり予算をかけるのが難しいという事情もあります。
そこで僕たちが支援の一環として動画を制作することで、チャンネルの開設のきっかけを提供し、発信の窓口を広げる取り組みを行なっています。
——支援先のクリエイティブを制作する上で、大切にしていることや、意識していることを具体的にお聞かせください。
よんくろう:動画の制作を提案する際は、いかに相手に乗り気になってもらうか、メリットを感じてもらうかを意識しています。支援先にも前のめりになってもらえなければ、良いクリエイティブはできないと思います。
須永:僕たちは相手企業のことを100パーセント理解しているわけではないからこそ、相手の良さであったり、大切にしていることなど、彼らが伝えたいことを引き出してあげることが重要だと思っています。
プロダクトの性能や、理念などの表に出ている言葉は、事前に調べられますが、実際に働いている人にしかわからない感情やニュアンスは、撮影で引き出してあげたいです。
そうしないと、本当に当たり障りのないコンテンツになってしまい、誰のためにもなりません。
松本:以前、支援先の商材の紹介動画をつくったときに感じたのは、企業と実際の視聴者との間で、前提知識や求めるものにギャップがあることです。
企業が伝えたいこと、アピールしたいことと、視聴者のニーズが、必ずしも一致しているとは限りません。
そのギャップを埋めるために僕たちができることは、徹底してプロダクトを触って研究することだと思います。企業がこだわっている部分と、視聴者・ユーザーが本当に求めている部分で、重なるところをうまく抽出して、アウトプットすることが求められます。
よんくろう:僕たちはやっていきたいことの方向性は定まっていますが、VCメディアの解を見つけるには至っていません。そういった意味では、僕たち自身がスタートアップのような存在なのかもしれません。
今後の展望と映像クリエイターのWeb3時代の生き方
——今後の展望をお聞かせください。
松本:スタートアップへの支援以外にも、僕たち自身がどんどん露出してコンテンツを提供していきたいです。それぞれ個人やSkyland Venturesのブランディングにもなりますし、支援先や投資家にも「この人たちなら安心だな」と思ってもらえます。
例えば、僕がキャピタリストとして、起業家さんと壁打ちをして事業のアイデアを出す代わりに、それをPodcastなどのコンテンツにしてしまって、世界に発信した方が、より良いアイデアが集まってくると思います。
より多くの人に視聴してもらうために、面白いコンテンツにしたり仕掛けを作ることが僕たちの役割です。
須永:コンテンツを発信することで生まれるコミュニケーションをきっかけに、クリエイティブチームからもディールが出てくるのが理想です。
新しい拠点のCryptoBaseでイベントなどを通して発信することで、多くの人を巻き込んでいきたいです。
今回、取材をお受けしたのも、私たちとシナジーがあるクリエイターさんと関わりを持ちたいという思いがありました。クリエイター界隈にも僕たちの名前を広げて、つながりを作っていけたらと思っています。
よんくろう:会社としてはファンドを永続させることによって、スタートアップやVCのエコシステムに貢献することを目指します。
Skyland Venturesの中でも、投資チームは目先のディールを獲得していくスピード感が求められますが、クリエイティブチームとしてはもう少し長い目線で、コンテンツの力を使ってファンドの土台を築いていきたいです。
スタートアップやWeb3と親和性が高いコンテンツを作ることで、「VCのメディア化」を進めていきます。業界のスタンダードになるくらいの気概でやっていきたいですね。
——最後に、Web3時代において動画クリエイターは、どういった立ち振る舞いをするのが良いのでしょうか。不安を抱えているクリエイターは多いと考えています。
よんくろう:イラストレーターの中にはWeb3の機能を使ってマネタイズに成功している人もいますが、動画クリエイターで成果を出したという話は、ほとんど聞きません。ただ、動画クリエイターがWeb3とマッチしたときのポテンシャルは計り知れないと思います。
表現手段という視点で時代を遡ると、その昔、人々は絵画でその情景を描いてきました。それがテクノロジーの進化によって、写真、動画と進化してきました。
この文脈に沿う形で、NFTの進化を考えてみると、非常に面白く感じます。
また、新しい価値が生まれる時は、集団心理として拒絶反応が起こりやすいです。なので、あえて既成概念を疑い、挑戦する姿勢を常に大切にしています。
——誰もが、自身のブランディングが上手にできるわけではないかと思っております。
松本:そうですよね。だからこそ、こういったお話をさせていただく機会をいただいたときにチャレンジしたいと思っています。
ここにいると「どんどん自分を発信しなくては!」という思いになります。発信していくことで、自分にしかできないことが見えてくると思います。そういう機会を逃さない、そしてそういった機会を自身で作ることが大事なのかなと思っています。
自分の武器は自分でロジカルに作れるものではなく、行動した結果として他者が決めるものじゃないでしょうか。
須永:「何をするか」よりも、「いつ、どこにいるか」の方が、重要な時代なのかもしれませんね。
よんくろう:特に個人のクリエイターは「ひとり(独立した存在)でいなきゃ」と思いがちですが、チームで活動しても良いんですよね。会社みたいにずっと結束する必要はなく、プロジェクトごとに集まって成果を出し、解散する。
Web3の世界では、こういった働き方が加速していくと思います。
よんくろう:それぞれが特技を持ち寄ってひとつのプロジェクトに取り組み、成功したら報酬を分配する。様々なコミュニティが分散的に存在するWeb3の世界は、特にフリーのクリエイターとの相性が良いと思います。
むしろ、これからの時代に生き残っていくには、自分たちの強みを最大限に生かせる「Web3的な生き方がベスト」とすら、思えてきます。
今回取材でご協力いただいた「CryptoBase」
https://cryptobase.green/
INTERVIEW_菅井泰樹 / Taiki Sugai(Vook編集部)
TEXT_水野龍一 / Ryuichi Mizuno
PHOTO_山﨑悠次 / Yuji Yamazaki
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
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