配信後のマルチカム編集が楽になる裏ワザ 〜ATEM Mini ISOのISO収録〜

2022.11.04 (最終更新日: 2022.11.05)

世の中のテクノロジーには、一言説明すれば誰でも直感的にすぐに理解できるものと、どれだけ説明してもあまりピンとこなくて、自分で試してみてやっと理解できるもの、このふたつの種類があります。ATEM Mini ISOのISO収録は、おそらく後者に属します。とはいえみんなが実際に体験するまで待っていたのでは、この唯一無二で前代未聞のテクノロジーはこのまま見過ごされてしまう恐れがあります。そこでこの記事ではあえて、うまく伝わらない危険性を承知のうえで、このISO収録について解説してみようと思います。

通常の場合、生配信を終えてその手直しをするとか、ライブイベントの収録素材を編集するとかといったときには、人はしばしば、ノンリニア編集ソフトを立ち上げて、収録された素材をプロジェクトに取り込んで、マルチカム編集の作業を進めていきます。それはそれで悪くないのですが、じつはATEM Miniの一部製品に搭載されている機能を使うとその作業がすごく楽になるということはご存知でしょうか。

この記事ではATEM Mini ISOシリーズで使えるISO収録というのがすごいですよ、という話をしたいと思います。ブラックマジックデザインのそれぞれの製品にはさまざまな最新鋭のテクノロジーが搭載されていますが、その中でもこの機能は5本の指に入る水準と言っても過言ではありません。

何ができるのか

ISOというのは、業界用語で、Isolation(アイソレーション)収録の略です。アイソレーション収録というのは、個別収録を意味していて、入力ソースをすべて個別に収録することを指しています。たとえばATEM Mini Pro ISOには4系統の入力がありますが、この製品でISO収録をすると、その4系統すべてが収録されることになります。ATEM Mini Extreme ISOなら8系統です。

まあここまではISOという名前から推測される通りなのですが、このATEM Mini ISOシリーズのISO収録がすごいのは、DaVinci Resolveの編集プロジェクトファイルが作成されることです。DaVinci Resolveのタイムラインが出来上がった状態から編集を始められます。これは大きいです。通常は、ISO収録をしたとしても、個別のファイルができあがるだけなので、編集をするならゼロからマルチカム編集をしていくしかありません。これは時間と労力がかかります。しかしATEM Mini ISOシリーズのISO収録なら、DaVinci Resolveのプロジェクトファイル(.drp)が作成されるので、すでにタイムラインができあがった状態から編集を始められます。

文字で説明すると「ふむ」という感じになりますが、このすごさは実際に使ってみたらわかります。この機能を使った方からは、「編集にかかる時間が30分の1になった」、「マルチカム編集みたいな難しいテクニックを覚えなくて楽」、「編集というよりは修正だけなので誰でもできる」といったお褒めの言葉をいただいています。配信だけではなく配信後の編集も考えられている方は、一度試してみる価値はあります。

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対象製品

このISO収録機能を搭載しているのは、製品名にISOとついている製品です。具体的にはATEM Mini Pro ISO、
ATEM Mini Extreme ISO、ATEM SDI Pro ISO、ATEM SDI Extreme ISOの4製品です。

収録の手順

  1. ATEM Software ControlでISO収録を使用する設定をします。スイッチャーページの「出力」タブの「配信の収録」から、「全入力を個別収録」を選びます。これで個別収録ができる用意が整います。
  2. ATEM Mini ISO本体にUSB経由でディスクを接続した状態で、ATEM Software Controlか、ATEM Mini ISO本体でRECボタンを押します。これで収録が開始されます。ISO収録は全系統を個別に収録するため、通常の収録の場合よりも必要とされるディスクの書き込み速度が高くなります。書き込み速度が足りないとコマ落ちが発生するため、そのあたりが心配な方は公式の推奨ディスクをご用意されることをお勧めします。
  3. ATEM Software Controlで「停止」ボタン、もしくはATEM Mini ISO本体でSTOPボタンを押すと、ISO収録が停止します。
  4. ディスクをATEM Mini ISOから抜いて、MacやPCに接続します。そうすると以下の画像のようなファイルが生成されていることがわかるはずです。


ISO収録された際に作成されるファイルは次のとおりです。

プログラムファイル → これはISO収録モードではないときにも作成されるファイルです。ATEMで切り替えた結果のプログラム映像がそのまま収録されています。このファイルのビットレートは、ATEM Software Controlの「ライブ配信」のタブの「品質」の項目で選択された設定に準じます。たとえばStreaming Highなら、ターゲットビットレートは6〜9Mbpsです。
Video ISO Files → 個別収録された映像ファイルです。拡張子はMP4、コーデックはH.264です。ATEM Mini Pro ISO、ATEM SDI Pro ISOの場合には4個、ATEM Mini Extreme ISO、ATEM SDI Extreme ISOの場合には8個、この個別収録ファイルが作られます。どのクリップにも、プログラムで使われた音声がそのまま載っています。ビットレートは、上のメインのMP4ファイルとは異なり、「ライブ配信」のタブの「品質」の項目で選択された設定は反映されません。ISOファイルは編集で使用されることを想定されているので、できるだけ高画質の方がいいだろうという考えのもと、ISOファイルは必ず高いビットレートで収録されるように設計されています。「品質」の項目で選択できるターゲットビットレートは、HyperDeck High(45〜70Mbps)が最高ですが、ISOファイルはそれよりも高いビットレートで収録されます。
Media Files → 収録中にダウンストリームキーなどで使われたメディアプレーヤーのファイルが保存されます。ロゴやテロップや蓋絵などです。
Audio Source Files → 個別収録された音声ファイルです。拡張子はWAV、コーデックはLinear PCMで、24bit、48kHzのファイルです。MIC 1、MIC 2の3.5mmオーディオ端子から入力された音声だけではなく、HDMIやSDIで入力された4系統、もしくは8系統のエンべデット音声もWAVファイルで別々に記録されます。
DaVinci Resolveプロジェクトファイル → これが自動的に生成されることこそが、ATEM Mini ISOの最大のメリットです。拡張子は.drpです。

編集の手順

編集は簡単です。ISO収録で作成される.drpファイルをダブルクリックすれば、DaVinci Resolveでそのプロジェクトファイルが開きます。ゼロから素材をタイムラインに並べていく必要はありません。

ATEM Mini ISOで収録時にやった内容が、そのままタイムラインになっていることがわかると思います。ATEM Mini ISOで入力映像を切り替えると、それはDaVinci Resolveのタイムラインでも反映され、切り替えポイントには編集点が作られています。ミックストランジションなどを使ったときには、編集点にはトランジションエフェクトが追加されています。

アップストリームキーのDVE(ピクチャー・イン・ピクチャー)やダウンストリームキーは、そのまま上のトラックのクリップとしてタイムラインに追加されます。ピクチャー・イン・ピクチャーの位置やサイズも反映されていて、もし番組中に位置やサイズを変えていたら、それはDaVinci Resolve側でキーフレームとして記録されます。FTB(フェード・トゥー・ブラック)も、べつのトラックとして追加されます。

すべてのATEM Miniには時計が内蔵されていて、その時計の時間がISO収録でも使用されます。だからたとえば12時30分から収録を開始したら、DaVinci Resolveのタイムラインの左上のタイムコードセクションには12:30:00:00などと表示されます。ATEM Mini ISOに入ってくる映像信号がもともとタイムコードを持っていなくても、ATEM Miniに入った時点でタイムコードが付与され、すべての入力信号が同期される状態になります。これはあとで編集するのに好都合です。

違う入力ソース(アングル)を選択することで、収録時の切り替えとは異なった結果にすることもできます。そのためにはDaVinci Resolveのカットページを使います。カットページの左上の「同期ビン」というタブを開くと、タイムラインで今選ばれている箇所の別アングルが右上に表示されます。たとえば収録時に2カメが選択されていたとしたら、この画面では2番のボックスが赤くなります。

そこで3番のアングルを使いたいと思ったら、3番のボックスを選択します。すると右上の画面に3カメの映像が表示されます。あとは下の図の赤矢印の部分、「ソース上書き」を選べばタイムラインの上のトラックに5秒のクリップが追加されます。

ここで注意点。デフォルトでは音声も一緒に追加されます。そうすると追加された箇所だけ音が大きくなってしまいます。だからタイムラインに左側の「ビデオのみ」のアイコンを選択しておきましょう。

このような方法で上のトラックにクリップをどんどん載せていけば、当初の切り替えの内容とは異なる切り替えを実現できます。すべての素材は完全に同期されているので、口パクがずれたり、切り替え時にフレームが飛んだりすることはありません。

Speed Editorを使えばもっと簡単です。Sync Binのボタンを押して、真ん中の数字ボタンの中から欲しいアングルを選んで、右のジョグをくるくる回せば、どんどん上のトラックに別アングルを追加できます。あっという間に当初とは異なるカット割りが出来上がります。ゼロからマルチカム編集をする必要はありません。

4K/6Kの素材と入れ替える

ATEM Mini ISOで収録されるファイルは、HDのMP4ファイルです。普通の用途では問題ないクオリティーですが、もっと解像度の高い、もっと品質の優れた映像にできないのだろうかと思う方もいらっしゃるかもしれません。じつはこのATEM Mini ISOのワークフローでは、そこのところもちゃんと考えられています。

ATEM Software Controlで「全カメラで収録」というチェックボックスを有効にしておくと、ATEM Mini ISOとブラックマジックデザイン製のカメラを接続して、ATEM Mini ISOでRECボタンを押したときに、ATEM Mini ISOに接続したSSDに収録が開始されるだけではなく、カメラ側でも同時に収録が開始されます。たとえばPocket Cinema Camera 4Kが接続されていれば、そこでも収録が開始されるわけです。もしPocket Cinema Camera 4KやStudio Camera 4K ProでUltra HD収録の設定にしておけば、Blackmagic RAWのUltra HD(4K)ファイルが生成されることになります。カメラがPocket Cinema Camera 6K G2、もしくはPocket Cinema Camera 6K Proなら、生成されるBlackmagic RAWの解像度は6Kです。

ATEM Mini ISOで収録した際にDaVinci Resolveのプロジェクトファイルが生成されることはすでに述べたとおりです。このプロジェクトのメディアプールのところをよく見てみてください。ここにBlackmagic RAWのフォルダがあります。ATEM Mini ISOで収録を止めるとカメラ側でも収録が止まります。そのときに生成されたファイルをこのBlackmagic RAWフォルダに置いてみてください。

その後、「タイムライン」のプルダウンメニューで「カメラオリジナルに切り替え」を選ぶと、タイムラインにあるHD MP4クリップが4K/6K Blackmagic RAWクリップに入れ替わります。それだけです。何も難しい操作は必要ありません。

なぜこんなに簡単に素材を入れ替えることができるのか、種明かしをします。ATEM Mini ISOとブラックマジックデザインのカメラを接続すると、その時点でタイムコードの情報がカメラ側に送られます。これでATEM Mini ISOで収録されたMP4ファイルとカメラで収録されたBlackmagic RAWファイルのタイムコードが揃います。同期が取れるわけです。そしてさらに素晴らしいことに、ATEM Mini ISOに接続されたカメラには、カメラ番号の情報も伝達されます。たとえばStudio Camera 4K ProをATEM Mini Pro ISOの1番に接続すると、Studio Camera 4K Proで収録されるBlackmagic RAWファイルには、カメラ番号が1であるという情報が載ります。だからBlackmagic RAWファイルをBlackmagic RAWフォルダに放り込むだけで、簡単にHD MP4ファイルとの入れ替えができるというわけです。

生配信ではHDで配信して、編集はもっと高解像度の素材を使う──誰もがやりたいと思うことですが、普通はそんなに簡単なことではありません。しかしATEM Mini ISOを使えばそれがいとも簡単にできてしまいます。

動画チュートリアル

この動画では、上記の内容を実際の機材を使用して紹介しています。ご参考になれば幸いです。

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