【Unreal Engine】グラフィニカが語る、UEを導入した映像制作の秘訣とは? カットシーン制作のワークフローに沿って解説|あにつく2022

2022.11.04 (最終更新日: 2022.11.11)


現在の映像制作現場では、通常のツールだけではなくゲームエンジンが活用されることも多い。それは数々のアニメに制作参加を重ねる制作スタジオ、グラフィニカもそうだ。アニメの他にも、ビデオゲームなどのプロジェクトにも参加するなかで、ゲームエンジンUnreal Engine4(以下、UE)を制作に活用している。

あにつく2022の「グラフィニカの開発したツールで紹介する、UEでのカットシーン制作ワークフロー」の講演では、UEの映像制作での活用方法について語られた。主にUE4での映像制作を考えているクリエイターやチーム向けの講演となった。

グラフィニカが、なぜUEを使うのか? その背景


最初に、グラフィニカの基本的な業務について紹介された。アニメーション作品を中心に、ゲーム・遊技機・実写映画・ミュージックビデオ・CM・Webなど、幅広いジャンルの映像制作を手がけている。


そんな多様な制作のなかでも、グラフィニカはビデオゲーム内映像制作の案件をかなりの比率で受注しているという。

それこそが、グラフィニカがUEを利用した映像制作を行う背景である。「RTR(リアルタイムレンダリング)開発室」を立ち上げ、アニメやゲームの映像制作でUE4を活用するため、様々な支援ツールも開発していった。その過程で、UE4の提供企業Epic Gamesでもセミナーを行なったこともあるそうだ。

プロのビデオグラファーを目指す学校、はじまる。入学生募集中。

PR:Vook School

最終的な画のクオリティを上げるために、UEを活用

昨今では、UE4を映像制作におけるポストフィニッシュッシュでも活用することが多いという。ケースによっては絵で納品するのではなくUEで納品を行うものがあり、例えばビデオゲーム案件の場合はレンダリングせずにゲームデータのまま納品する。

基本的なアニメーションのデータはMayaで制作。主にカメラのレイアウトやキャラのアニメーションなど、カットシーンのベースを作る。
その次の段階でUEを使い、カットシーンの土台にエフェクトやライティングなどを加える作業を行なっていく。


続いて、様々なツールを通してカットシーンを制作するワークフローに関して説明。

まず、Mayaで制作したアニメーションをFBXで書き出す。そのデータをUEに移行し、シーケンサーの機能を利用してエフェクトやライティングの処理を行なっていく。

Mayaによるカットシーンの作業例

UE4にアニメーションデータを移行し、ポストエフェクトなどの作業を行う

その後レンダリングするための情報を持ったレンダーキューデータを作成し、連番画像をレンダリングしていく。基本はUE4内で映像制作を完結するようにしているが、場合によっては素材を分けてレンダリングし、コンポジットツールによって最終的な画作りを行うこともある。

MayaやUE4に独自のスクリプトを適用することで、データインポートの自動化を助けた

このような流れでカットシーンをひとつひとつ作り上げていくわけだが、より作業を高速化するため、グラフィニカでは自動化したツールを独自に開発している。

実際には一連の作業フローを何百カットに渡って行うため、必然的に自動化が必要になったとのことだ。

主に自動化もしくは簡略化を要する部分は、データを他ツールに移行する際のインポートやエクスポート周りだ。これらの作業を自動化することで、映像自体のクリエイティブ作業を捻出することもねらいのひとつである。

自動化によってどれだけ時間を短縮できたかの検証結果も紹介された。手動では1カット約5分かかったのに対し、自動化ツールの場合は約1分で済んだ。

数百カット単位で考えると、なんと13時間も短縮できたという。その時間を無事、クリエイティブの作業に当てられるようになったわけだ。

また、アニメーションデータを書き出す際のファイル形式についても、ビデオゲーム向けと単体の映像作品向けでは使い分けがあるという。

FBXは「容量が軽く、処理が速い」という特徴から主にビデオゲーム案件で活用される。

一方、Alembicは「容量が大きく、処理が遅い」という特徴があるのだが、グラフィニカではクオリティや制作の柔軟性を考え、主に単体の映像制作向けにはこのファイルを利用している。 

Alembicを利用した映像制作フロー

Alembicでは、布の表現であるクロスシミュレーションやポリゴン変形による複雑なキャラクターの表情の表現など、映像制作に必要なシーンに対応できることもポイントだという。

そのほかにも、キャラモデルをUE4の基本機能であるブループリントにし、拡張性をもたせる機能や、カスタムバーンインを用いた、アニメにおけるBoldを直接UE4のレンダリング時につける機能などが紹介された。

パラがけによって映像を仕上げるツール

続いてポストプロセスマテリアル(以下、PPM)を利用したツール「PPMパラがけツール」の活用について解説。

パラがけとは「色パラフィンをカメラにかけて画面の色を変えた撮影」のこと。要はポストプロセスの一種である。UE4においては、グラフィニカが開発したPPMツールを利用することで、グラデーションをかけたり、乗算やスクリーンによる効果で画面を作ったりすることが簡単にできる。

PPMツール自体は1年半ほど前から開発していた。今でこそ使いやすく改良されているが、昔のバージョンは色を変えるときにUIの表示のせいでやりにくいことなど、どこか使いづらい面がいくつもあったため、改善を重ねながら少しずつ使いやすくしていったという。

PPMツールの利点としては、複数のレイヤーに渡ってパラがけを行えることが挙げられた。さらに細かく調整するための、「ステンシルID」という機能も紹介。

これは、UEで設定や管理ができるカスタムデプスマスクのことであり、オブジェクトごとにマスクを設定できる。つまり、キャラや背景などパラがけが効く部分の使い分けができる機能である。このステンシルIDによって、さらに画作りの幅が広がったそうだ。

今後のPPMツールの改良では、Photoshopで行なっているようなビュー上のマウス動作で向きや長さを決めるグラデーション機能の改良を行い、直感的な画作りができるツールにしていきたいとのことだ。

そのほかのツールでは、シーンからFBXのカメラ情報を描きだすSceneConvや、FBXから簡単にシーケンスを作成するSequence Makerなど、作業を円滑にするものを開発・実装してきたことも語られた。

PPMを利用したポストフィニッシュ

こうしたPPMツールを使って、どのように映像が作られるかも実演。主にパラがけを行うことで映像のムードにどのような変化があるかがわかった。

まず、パラがけ処理前のベースとなる映像を紹介。キャラクターや背景などのディテールはよくできているのがわかるが、統一された雰囲気がまだ出ていないように見える。


この映像に、パラがけツールで行われるプロセスはこうだ。PPMをカメラに適応し、続いてステンシルIDを設定することでパラがけを適用する範囲を決めていく。また、カットによってはカメラに合わせてパラの色や向きのアニメーションも変える。

こうした処理によって、映像の色調や雰囲気が変わった。処理前よりも統一感が生まれ、映像世界により引き込まれるようになっている。今回は講演用にパラがけのみを見せたが、従来のポストプロセスを併用することでよりリッチな画作りが可能になるという。

講演のまとめとして、アニメ制作においてゲームエンジンを活用するには、ゲームエンジンの概念や機能の正しい理解や、エンジンやファイルのバージョン管理などが重要だと語られた。

また従来のワークフローの見直しや、画面を構成する要素を改めて分解して考えていくことも必要だという。チームでの作業分担についても考え直す必要があり、従来の制作スタイルによる力技に頼らないこともポイントだと指摘した。

グラフィニカによるUEの導入事例は、このように最終的な仕上げに活用されるものではあるが、本格的な量産体制を敷くためにはツールの用意からスタッフの作業分担に至るまで、体制を作り直すことも必要になることがわかる講演となった。

TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
EDIT_山北麻衣 / Mai Yamakita(Vook編集部)

コメントする

  • まだコメントはありません
Vook_editor

Vook編集部@Vook_editor

「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。

Vook編集部さんの
他の記事をみる
記事特集一覧をみる