1,000本以上の動画コンテンツを手がけた安岡大輔(元NewsPicks)が語る「メディアは今こそ、SNSじゃない縦型ショート動画」を作るべき理由|Firework Japan Meetup vol.4

Fireworkとは 〜はじめに〜

「ショッパーテインメント」というワードをご存知だろうか?

これは、ショッピングとエンターテインメントをかけ合わせたIT業界で用いられるビジネス用語であり、オンラインショッピングにおける顧客体験にエンタメ要素を取り入れることで、顧客とのエンゲージメントを高めて、売上の向上につなげる施策を意味する。

そんなショッパーテインメントを可能にするソリューションとして、急成長中なのが「Firework」だ。

Fireworkは2019年に、シリコンバレーに本社をかまえるLoop Now Technologiesがローンチした「ショッパーテインメント」プラットフォームであり、世界6ヶ国にて600以上のサイトに導入されている(※1)。

※1:Firework Japanの公表データより(2022年12月時点)

Fireworkは、SaaS形式でショート動画・ライブ配信の管理・配信システム、動画編集ツール、広告配信サービスを一括で提供する。また、無料で利用可能なiOS/Androidのスマートフォン カメラアプリだけでも、動画の管理・投稿が完結できるという利点を有する

ブランド・小売り事業者と、メディア事業者向けソリューションとして展開するFireworkは、日本市場の開拓にも力を注ぎ始めている。

メディア事業者を対象に開催された、第4回「Firework Japan Meetup」では、2つの講演が催された。

1つ目は、元NewsPicks動画プロデューサーの安岡大輔氏が、メディアにおける縦型ショート動画の活用意義やノウハウ、ライブコマースを用いた読者との新しいコミュニケーションについて語った。

2つ目は、国内メディアとしてはいち早く縦型ショート動画を活用しているマガジンハウス「Hanako」副編集長の小倉 久氏が登壇。Hanakoにおける取り組みから得た、ノウハウを具体例を元に紹介した。

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Webメディアにて、1,000本以上の動画を制作・配信してわかったこと

先述の通り、Fireworkはショッパブル動画、ライブコマース、マネタイズ機能を備えた「ショッパーテインメント」プラットフォームだ。

現在、Firework JapanのContent & Creative Directorを務める安岡大輔氏は「10行程度のコードを生成してコピーするだけで、自社サイトに動画を簡単に実装できます」と、Fireworkの特長を紹介する。

最初のセッションの講師を務めた、安岡大輔氏(Content & Creative Director、Firework Japan)

安岡氏は岡山大学を卒業後、地元・愛媛県の民間放送局で報道記者として勤務した後、2014年3月から日経映像に参画。経済番組のディレクターとして、ダボス会議やOECD年次総会などの海外取材をはじめ、金融政策やマーケット情報など経済報道領域を幅広くカバーしてきた。

2017年3月にソーシャル経済メディア「NewsPicks」に、初の映像専門職としてジョイン。動画コンテンツ事業の起ち上げ、さらにNewsPicks Studiosの起ち上げを担い、ヒットコンテンツの制作・プロデュースを手がけてきた。これまでに1,000本以上の動画コンテンツの制作・配信に携わった経験を有している。

そして安岡氏は、2022年10月にFirework Japanへの移籍という大きな決断をした。

現在はコンテンツとクリエイティブの責任者として、パートナー企業のライブコマース・ライブ配信、縦型ショート動画の企画・作成・オペレーション構築・運用をサポートしていくチームを率いている。

本セッションでは、そんな安岡氏のキャリア遍歴に込められた想いが紹介された。

安岡氏は、NewsPicksでの5年半のキャリアの中で、ユーザーからの声に変化を感じた瞬間が3度あったと話す。

NewsPicksが動画コンテンツの配信を始めた当初は、ユーザーのみならず社内からも「動画なんて誰が見るの?」という声が聞かれたという。

動画を見るには時間がかかるので、従来通りテキストの記事で効率良く情報を得たいという、ある意味当然の反応だった。

ところが、2年ほどが経ちヒットコンテンツも生まれるようになると、今度は「テキストを読むのが、逆に面倒になってきた」という声が徐々に増えていった。

さらに2020年の春頃になると、「最近、尺の長い動画が重く感じる」「長過ぎて見ない」「もっと効率良く動画で情報をインプットしたい」といった声が増えてきたという。

この傾向はNewsPicksユーザーだけではない。
特にZ世代の中には縦のショート動画しか見ない人たちも増えつつあるという。

安岡氏は、ユーザー心理の変化について「ヘビーなコンテンツよりもライトなコンテンツの方が好まれる」、「ONの意識でなくOFFで、少し気を抜いてリラックスして動画を見る体験を求めている」と、認識するようになる。

NewsPicksの成長に動画コンテンツが貢献しているのは確かなことだったが、「ハイクオリティで長尺の動画コンテンツばかりでいいのだろうか?」と、危機感が芽生えはじめたという。

そして安岡氏は、SNSやYouTube、TikTokなどのユーザー生成コンテンツをマーケティング用語でUGC(User Generated Contents)と呼ぶのになぞらえ、メディアには今こそ、JGC(Journalist Generated Contents)やEGC(Editor Generated Contents)が必要なのではないかという、仮説にたどり着く。

つまり、スマホベースで撮影と編集を完結させ、記者や編集者が取材の現場で生の感情や分析を自撮り、自分で編集したショート動画を投稿していくという考え方だ。

こうしたショート動画は、クオリティを重視したコンテンツの“ドアノックツール”として機能することが見込める。

制作リソースを極限まで軽くし、ライトなコンテンツを量産していくことが、ひとつの最適解だという考えに至ったのだった。

確信に近い仮説だったが、この仕組みをイチから構築するのは容易ではない。

自身の中でいったん棚上げにしていたところ、たまたまFirework Japanから声がかかったのだという。

いろいろと話を聞くうちに、自身がまさに思い描いていたことがFireworkで実現できるのではないかと考えるようになり、現在に至る。

SNSに制作リソースを投入して得られるリターン

安岡氏はFireworkへ入社後、「Walled Garden(ウォールド・ガーデン)」と「Open Web(オープン・ウェブ)」という2つの概念に触れ、「なるほどな」と腹落ちしたという。

ウォールド・ガーデンとは、平たく言えばSNSのこと。
各プラットフォームは、とにかくユーザーを囲い込もうと必死になって取り組んできた。

主立ったSNSにおけるビューと、自社サイトへの流入ボリュームをイメージした図。「リアルな数値比でレイアウトすると、自社サイトが視認できないくらい小さな点になってしまったので調整しています」と、安岡氏

一方のオープン・ウェブは、ウォールド・ガーデンに対比するもので、その名の通り「開かれたWeb」である。

SNSへの過度な依存に疑問を呈して、「もっと開かれたWebにコンテンツを出していこう」「Webでもっと色んなことをやっていこう」、そんな流れが早晩到来するだろうと思っていた安岡氏の感覚と符合した瞬間だった。

この方向性の確かさは、データでも証明されているという。SNSを起点とするトランザクションは4%に過ぎず、ほとんどのトランザクションがSNSの外で発生している。

Firework Japan 安岡大輔氏:(以下、安岡)
例えば、TikTokで何十万回再生されたとしても、結局そこから自社のアプリに何人来てくれていますか? 

実際にリンクから自社サイトに訪れてくれるユーザー数は、数人ということもあると思います。

TikTokは、あの中で生態系が完結しているので、どうしたってそうなります。「オープン・ウェブで、やった方が効率良くない?」ということです。
 

NewsPicksでの5年半の経験を通して、安岡氏がたどり着いた現時点での考察として5点が挙げられた。

<1>縦型ショート動画は無視できない
……TikTokやYouTubeショートでがんばるのではなく、戦う場所を変えること。つまり、トランザクションの96%が発生するオープン・ウェブで勝負しようということだ。

<2>クオリティ重視のコンテンツだけが正義ではない
……心を動かす(エモーショナル)という観点では、むしろショート動画の方が有効な可能性もある。

<3>Webはむしろブルーオーシャン
……今こそ、縦型ショート動画をやるべきだという。自社のWebで縦型ショート動画を配信した方がユーザーの反応が良くなるはず(自社のWebやアプリを利用している時点でロイヤリティが高いので)。

<4>ショート動画1本だけでは意味がない
……動画の本数は多ければ多いほど効果が高まる。ただし、数を増やすためには制作・配信工程の負荷を軽減することも不可欠。

<5>とは言え、SNSは認知拡大に有効
……リーチと認知を拡大させる上では、ひき続きSNSを活用していくべき。

セッションの最後に安岡氏は、「目線を広く持ったときに、メディアの数だけ最適解がある」と語った上で、参加したメディア各社に向けて次のように訴えた。

安岡:
数多のメディアのみなさんが日々、必死で作っていらっしゃるコンテンツの中には、見られるものもあれば、残念ながらユーザーに届かずいたずらに死蔵しているものもあると思います。この状況は、本当にもったいないと思うのです。

Fireworkはプロダクトの提供を通じて、それぞれのメディアの皆さんが抱えている課題を解決したいと考えています。

課題解決のための最適解は、メディアの数だけあります。
Fireworkは、皆さんそれぞれの最適解を見つけるお手伝いをさせていただきます。

雑誌「Hanako」の縦型ショート動画活用

2つ目のセッションでは、マガジンハウス Hanako編集部 副編集長 小倉 久氏を招いて、Hanakoにおけるショート動画ならびにライブコマースの活用方法が紹介された。

Hanakoが30周年を迎えた2018年のこと。

改めて創刊当時のHanakoの読者、いわゆるHanako族と呼ばれた人たちの時代に今のSNSプラットフォームがあったなら、何を最も使っていただろうかと立ち返ったという。

Hanako副編集長 小倉 久氏:(以下、小倉)
Instagramだろう、ということになったんですよ。

Hanakoはツイッタラーではなくて、インスタグラマーだろうと。

そこで、限られたリソースでSNSをメディア化していくにあたり、まずInstagramを選択しました。

SNSの運営チームのリソースをほぼ全てインスタに注力していったのが、第1ステップでした。

2つ目のセッション「新しい情報発信手段を試そう!メディアにおけるショート動画とライブコマースの活用意義」に登壇した、小倉 久氏(マガジンハウス Hanako編集部 副編集長)

その後、第2ステップとしてリアルイベントを活性化しようと、働く女性に仕事場以外の学びの場を提供する「ハナコカレッジ」の準備を進めていったという。

リアルイベントとして、ワークショップ、キャリアトーク、オープンキャンパスという3つのラインを順次展開することで毎月開催していく計画だったが、いよいよというタイミングでコロナ禍に見舞われた。

リアルイベントが開催できない状況になり、2020年にインスタライブにリソースを投下。

2020年5月のゴールデンウイークからインスタライブを定期的に開催し、今では100回を超えた。このような経緯で、オンラインのライブ配信イベントの経験値を蓄えてきた。

 
インスタグラマーとしてのHanakoがInstagramで何を発信するか考えるうちに、はからずもショート動画に手を出していたという。

Hanakoを支持するインスタグラマーは、「Hanakoっぽい動画」に期待する。

そこで、編集部では「っぽさ」の源泉を、定期刊行誌のデザインやアートディレクションに求めた。

誌面のデザインデータを動画化するのだが、InDesignのデータをPhotoshopで動画化するディレクターがいたため、動画を内製化して量産化するスキームを構築できた。

こうして誌面を活用した動画と誌面の企画を発展させたライブ配信、両方を実現していた編集部が、自社サイトでの配信を手軽に実現するFireworkの存在を知ることになる。

小倉:
Fireworkさんの話を聞いた時、一番魅力に感じたのは、サイマル配信(異なるメディアでの同一コンテンツの同時配信)ができるということ。

それから、動画の埋め込みもサイトの負荷をかけずに、動画の在庫をセールス以外の場でも出していけることでした。

どちらか一方を選ばなければいけなかったら、Fireworkの導入に二の足を踏んだかもしれません。

そして、本セッションのモデレーターを務めた、安藤雄二氏(Director, Publisher Partnership & Success / Firework Japan)が「この手があったか」と膝を打ったのが、タイアップコンテンツの運用だという。

例えば、大塚製薬「SOYJOY サツマイモ」タイアップのケースでは、雑誌向けのスチール撮影の現場で縦型ショートムービー用の動画撮影も同時に行い、モデル・タレントのわたなべ麻衣さんのコメントをHanakoのリールで掲出。

50%以上スクロールアウトすると、ピクチャー・イン・ピクチャーでそのまま動画を見せつつ、記事も読むことができる「ながら見」の状況を作り出した。

大塚製薬「SOYJOY サツマイモ」タイアップ記事ページのスクリーンショット。本ページを50%以上スクロールアウトすると、Fireworkで作成した縦型ショート動画がピクチャー・イン・ピクチャーで右下に表示される

小倉:
特に音声を含んだ動画によって、テキストメディアをリッチ化したいというのと、読者の態度変容やロイヤリティを高める効果が期待できるのではないかと、現在取り組んでいる施策です。

クライアントからタイアップで求められるのは、(このメディアなら)誰に出演してもらうことができるのか。そこに媒体らしさみたいなものも出てくると思うんです。

デジタル上にトランスフォームした時に、テキストメディアがテキストメディアのままアウトプットしただけでは、つまらないだろうと。

この企画の場合は、せっかくわたなべ麻衣さんをアサインできたのだから、わたなべさんの声を聞かせたいなと思いました。

——縦型ショート動画だけでは内容が理解されたのか、本当に認知につながったかという観点では心もとない。

小倉氏は、だからこそテキストメディアが大切であり、「最後まで読んでみよう」と思わせるようなしかけとして動画に期待しているという。

テキストとムービーの接着剤は「音声と音」

小倉氏がテキストコンテンツとムービーコンテンツの「接着剤」になると考えているのが、音声と音だ。

今年11月28日(月)に発売された1215号の特集「料理が好きになるレシピ85。」では、現場に動画チームを入れて、料理家の何気ない「調味料の『さしすせそ』なんて、もう無視していいんですよ」という言葉を拾って、それをテロップ化。本誌の記事が出た後、Webに転載する際にはFireworkを使って、その音声付きの動画を貼り付ける。

小倉:
動画で全てを言いきることもできないし、テキストで全部を感じさせることはできない。

テキストだと理解はできるんですけど、シズル感やテンションみたいなのが下がってしまう。

そこで、動画とテキストの間に、その人の声だったり、お肉が焼けるジューという音だったり、そういったものが今後メディアが作るコンテンツのリッチ化において重要になってくるんじゃないかなと考えています。

そうしたコンテンツをご覧になっていただくことで、タイアップでもクライアントさんからの『こんなことやってほしい』的なリクエストの呼び水になるだろうと。

なので、先日の撮影では、僕がガンマイクを持ってステーキの焼ける音を録ったりもしています(笑)

——小倉氏は最後に、これからショート動画やライブ配信を始めるメディアの方に対して「まだまだもがいている最中で、何の成果もありませんが……」と前置きした上で、次のようにアドバイスを送った。

小倉:
自分とカメラマンの間に動画のディレクターさんに入っていただきディレクションをまかせるのは、二度手間だと考えるようになりました。

最近、カメラマンさんの中には動画編集も上手な方がいらっしゃることに気づきました。

また、縦型動画にメディアの独自性を込める上ではフレームのデザインが重要になります。

先ほどのセッションでも、クオリティはそれほど重要じゃないと言われてましたが、スマホで撮るのか、一眼レフで撮るのかといったことは、まったく関係ありません。

でも、フレームはすごく大事。
「一番トップレイヤーにあるフレームがHanakoっぽいか」どうかなんですよね。

フレームがないと、メディアの動画じゃないと思っているほどで、そこは本当に研究中です。

逆に言えば、フレーミングさえ成立していれば、どんな素材でも楽しい動画になりますよ。

フレーミングが撮影前にしっかりとデザインされているのなら、動画の編集も実際に撮影を担当してもらったカメラマンさんにお願いした方が、効率的ですし、良いものに仕上がります。

動画編集もできるカメラマンがいると楽ですよ(笑)

TEXT_加藤学宏 / Norihiro Kato
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(Vook編集部)

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