昨今、映像作品撮影用として注目を集めるミラーレスカメラ。Nikonが展開する「Z シリーズ」はビギナーからプロまで幅広い層の映像クリエイターに支持され、多くの作品を生み出しています。実際にプロの現場でZ シリーズを手にするクリエイターたちは、なぜ数あるカメラの中からNikon Zシリーズを選んだのでしょうか。
本連載「クリエイターとカメラ」では、映像の最前線で活躍するクリエイターが選ぶZ シリーズの魅力に迫ります。
第2回目の今回は、愛機「Z 9」を手に活躍する映像クリエイターであり、撮影監督の村上岳さんにお話を伺いました。
- 村上岳
1992年生まれ、東京在住。大学生時代に写真を独学ではじめた後、2018年頃から映像を中心に活動。ドキュメンタリータッチやストーリー性のある作品の依頼が多い。第73回広告電通賞 OOH広告 インフルエンス部門 金賞、「Brain Online Video Award(BOVA)」協賛企業賞などの受賞歴あり。愛機はNikon Z 9。
大きな撮影現場で、小さなZ 9が活躍した
——村上さんは普段どのような案件に携わっていますか?
村上:仕事では映像作品全般を幅広く、という感じですね。ミュージックビデオ、映画、企業VP、CMなど。また仕事の合間には自主制作の作品作りも継続して行なっています。
——Z シリーズはいつ頃から使っていますか?
村上:最初のミラーレスカメラはZ 7(発売:2018年)を使っていましたが、2021年12月のZ 9登場からはずっとZ 9にしています。
——Z 9を使って撮影した作品、現場などを教えていただけますか?
村上:直近ではPrime Videoのオリジナルドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』のメイキングとスチールを担当しました。ちょうど監督と知り合いだったのもあり、声をかけてもらいました。
『モアザンワーズ/More Than Words』 特別映像|プライムビデオ
——その撮影で印象に残ったこと、大変だったことなどありますか?
村上:僕も現地に入ってから驚いたのですが、撮影の現場が本当に小さなエリアで。その上、照明を数多く仕込んでいる状況での撮影だったので、密にならないようにかかんだり、小さくなって動き回ってました。
——そんなに狭い空間で撮影されていたんですね。その時に使っていたのもZ 9だけですか?
村上:そうです。Z 9を1台手持ちで。レンズも24-70mmの1本だけ。フルサイズフォーマット(FX)とAPS-Cフォーマット(DX)を切り替えながら撮影するのがほとんどでした。70-200mmも持っていったのですが、ムービーとスチールの両方を撮らないといけないので、レンズチェンジする暇なんてありません。
また機材を持ち運びながら狭い空間を移動しては、作品本体の撮影を邪魔してしまうので、本当に必要最小限の構成で撮影に臨みました。
——本当に最小構成だったんですね。撮影をする上で問題はありませんでしたか?
村上:ありがたいことに、十分撮影に対応できました。本体だけで10bit撮影ができますし、手ブレ補正の性能がかなりいいので、多少の動きがあるカメラワークでも問題なく撮影できました。
またちょっと時代を感じるエピソードなのですが、撮影期間中に一度制作側でアサインしたカメラマンさんにも入ってもらったことがありました。その方はNikonの一眼レフを使っていたのですが、消音モードのシャッター音がうるさいと怒られてしまったんです。一眼レフの消音モードといってもほんの少しだけ「チチチ...」って音が鳴るんです。
撮影中は、そんなごくごく小さな音でも、気になる方は気になってしまうので、改めて完全無音で撮れるミラーレスの良さを感じましたね。現場によっては必須といえる特性だと思います。
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ボディーひとつに全てが集約した。Z 9が撮り手に応えてくれる
——村上さんはいろいろな現場でZ 9を使っていると思いますが、Z 9はどのようなところが優れていると感じますか?
村上:端的に言うと、ボディーひとつに全てが集約されている、という点だと思います。従来のミラーレスでRAWを撮るには外部収録が必須であったり、モニターをつけなければならないといった制約がありました。その点、Z 9はVer.2.00のファームウェアアップデートからProRes RAW HQ 12bitとN-RAW 12bitの内部収録が可能となったので、RAWで撮影する際にも外部収録用の機材が不要になりました。
Nikon Z 9ファームVer.2.00については、上田晃司さんのレビュー記事で解説頂いておりますのでご参照ください。
最強カメラに進化!8.3K 60p RAW対応 Nikon Z 9ファームVer.2.00 最速解説
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村上:また、手ブレ補正が非常に優秀です。正直ジンバルもほとんどいらないんじゃないかと。もちろんジンバルの動きを重視するなら必要なんですけど、手持ちでガンガン撮っても映像を見ている人に不快感を与えない程度の補正はしてくれます。瞬発力を求められる現場で使いやすくなりました。
あとは、使っていてうれしいのは純正のバッテリーが長持ちするところですね。
——バッテリーはどれくらい持つんですか?
村上:大体、1日1本で足りますね。
——1日1本ですか?
村上:はい。僕自身、結構撮ったらすぐ電源を切るタイプであることも影響していると思いますが、持っていった充電器は、ほぼ使いません。
先日地方のロケにいったときにいろいろな営業所を回りながら撮影をしていたのですが、1日あたりの撮影時間は短かったとはいえ1週間で2本しか使いませんでした。長時間の撮影でもバッテリー切れの心配がないのは安心ですね。
もちろんフラッグシップなので当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが、撮り手の要望へ完璧に応えてくれるのがZ 9の魅力だと思います。
——カスタマイズ性という面ではいかがでしょうか。
村上:正直に言うと、Z 9でも広告で使うレベルって考えるとちょっと頼りない部分はあります。例えば、シネマカメラだと音声さんから音をもらうための端子やタイムコード用の端子など、いろいろな人と連携するために必要な端子がついていますので、本当はZ 9もそこまで求めたいです。今のところは個人が買える範囲の機材を寄せ集めて編集しやすい状態を作れているとは思っています。ファームウェア Ver.3.00でBluetoothでの接続は可能になりましたので、あとは有線接続の端子がボディーについていない点ですね。
詳しくはこちらをご参照ください。
進化が止まらない! Nikon Z 9ファームVer.3.00 最速レビュー
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村上:ただ、Nikonもそのあたりはいろいろ考えているのではないでしょうか。2022年12月に発売したリモートグリップ「MC-N10」はいいですね。ジンバルやショルダーリグを使用中にもカメラ本体に触れずに操作できるようになったのは大きな進歩です。長いUSB-Cケーブルでつなげば、狭いところに仕込んだカメラを遠隔で操作することもできるので、かなり機能拡張できている印象を受けています。
リモートグリップ「MC-N10」は、こちらのレビュー記事で詳しく解説されておりますので、ご参照ください。
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——村上さんは案件として受けた撮影と自主制作で機材の使い分けはしていますか?
村上:もちろん案件によりますが、広告などの場合はガッツリ組んでいくことが多いですね。また一緒に協力してくれるクリエイターさんや技術スタッフが快適に仕事できるようセットを考えています。反対に自主制作では必要最低限の機材でなるべく時間をかけないように意識しますね。先ほど触れたようにZ 9はボディ内でRAWを撮れるので、ボディとレンズっていう最小限の組み合わせで、仕事に必要なレベルで撮れるのは強みだなと思います。
Z 9 ボディー(ProRes RAW)とレンズのみで撮影
1カット、10秒でも15秒でも見れる。それがNikonの素直さ
——村上さんはZレンズについてどんな印象をお持ちですか?
村上:率直な印象は「素直な映りをするレンズ」です。
フレアの出づらさや逆光になったときのコントラストの低下しにくさなどを含め、光学性能の質はめちゃくちゃ高いと思いますよ。僕はZ 9とZレンズを使う上で、Nikonだから撮れるものを撮りたいという思いがあります。Nikonは編集でいじりまくる映像も撮れますが、それだとNikonじゃなくてもいいと思うんですよね。それなら1カット10秒や15秒の映像をずっと見ていたいと思うような映像を撮りたいなと思っていて。そういうシンプルな作品にこそ、Zレンズの色の素直さやZ 9の素晴らしさといったNikonのポテンシャルが活きてくると思います。
——村上さんはZレンズ以外にもオールドレンズもよく使われますよね。なぜオールドレンズを使うのでしょうか?
村上:マニュアルフォーカスで撮るときにはオールドレンズを使いますね。Zレンズに比べて柔らかい描画が今の流行りに合うというのもあるのですが、マニュアルならではのミスのしにくさというのもあると思っています。お芝居を撮るときは、やはり役者さんの集中力などの関係もあるのでなるべくこちらのミスでリテイクをしてもらうのは避けたいんです。
なので「オートフォーカスがずれちゃったのでもう一回お願いします」というのは言いたくない。その点、マニュアルは撮り手の意思がフォーカスに乗るので、オートフォーカスのミスに比べればリカバリーしやすいというのは大きいです。
ただ、オールドレンズは逆光になった瞬間に急激にコントラストが落ちるので、逆光と逆光ではないときを合わせるのは本当に難しいですね。
また、Z 9のオートフォーカスは非常に優秀ですので、被写体に動き回ってもらっても問題ない場合がありますし、レンズそのものの性能も高いのでカラーコレクションがハードにならないという利点もあります。結局、その時々にどのような作品を作りたいかというイメージがはっきりしているとレンズを考えられますし、レンズの選択肢が多いのはいいことだと思いますよ。
Nikon Zレンズ、オールドレンズについては、連載「ミラーレスカメラのトリセツ」で詳しく解説しておりますので、詳しく知りたい方はこちらもご参照ください。
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進化する「Z シリーズ」は、これから——
——これまでZ シリーズに触れてきたと思いますが、Z 9ならではの良さはどういったところになりますか?
村上:先ほども少し触れましたが、Z 9のオートフォーカスは非常に優秀です。以前使用していたZ 7やZ 6IIは、正直オートフォーカスがちょっと不安だったんです。しかしZ 9になってものすごく精度が上がったので、けっこう無茶な使い方をしてもしっかり合わせてくれます。
今の縦型動画アワード「Nikon Vertical Movie Award 2023」のキービジュアル動画を撮影した際、ダンスを撮影したのですが、ガンガンに寄ったり引いたりして、Z 9をだいぶいじめました。「オートフォーカス外れろ!」くらいのつもりで撮影したのですが、最後までしっかりフォーカスを合わせていたので、かなり信頼できると思っています。
縦型動画アワード「Nikon Vertical Movie Award 2023」
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村上:またZ 9のすごいところは、ファームウェアの更新をハイペースにやってくれるところですね。今はVer.3.00までアップグレードされていますが、課金レベルの更新を定期的に入れてくるのは驚きです。Ver.3.00ではレンズの望遠端以上のズームができる「ハイレゾズーム」など、すごい機能がたくさん追加されました。
Nikon Z 9ファームVer.3.00については、上田晃司さんのレビュー記事で解説頂いておりますのでご参照ください(再掲示)
進化が止まらない! Nikon Z 9ファームVer.3.00 最速レビュー
発売から様々なファームアップデートを行ってきたNikon Z 9がついに2度目のメジャーファームウェアVer.3.00へのアップデートを公開した。 このファームウェアアップデートでは様々な機能が...
——実際に使ってみて非常に満足されているんですね。堅牢性はいかがですか?
村上:防塵防滴はすばらしいですね。屋外のタフな撮影環境でもガンガンいけます。僕は結構自主制作のときには、雨の中や海の近くで特に何もせずにZ 9で撮影しています。経験上の個人的な見解ですが、人が傘をささない程度の雨なら問題はなさそうです。
Z 9はマイナス10度まで対応しているため雪山で雪に降られながら撮影も問題なし!
こちらが撮影した映像です。
また本体が非常に頑丈なのもいいですね。内側にマグネシウム合金が入っているので、ちょっとぶつけた程度ではまず割れることはありません。結構他のメーカーさんのカメラをぶつけて中の器具が出ちゃった人を見てきたんですが、Z 9に至ってはその心配はないと思います。
——Z 9に対する厚い信頼を感じました。一方で何か問題点はありますか?
村上:やっぱり価格ですね。ビデオグラファーの方やこれから動画をやろうって思っている人が買うには少し高いです。SNSでは「Z 9良いわ」という人が増えてきたのを感じるのですが、現時点では値段がネックになっている人が多いように思います。
Z 9の本体が70万円くらい(2022年12月時点)。さらにメモリーやら何やらを付け足すと100万円くらいするカメラを「映像をやりたいから買います」とはなかなか言えないと思いますが、それだけの価値があると僕は思っています。ただ、20~30万円くらいのクラスや、それこそZ 6IIやZ 7IIの後継機を出してくれたらいいのかなと感じます。
——他にもNikon Zシリーズに求めるものはありますか?
村上:表現の幅を広げられるようなアップデートをして欲しいとお願いしています。例えば、今120pだったものを240p、480pにしてもらうとか。またフレームレートがバリアブルになって24じゃなくて16や8で撮れるとか。「誰が使う?」と思うかもしれませんが、表現の幅はめちゃくちゃ広がると思うんです。
村上:それこそ昔の16mmのときみたいにカタカタするような映像なんてのもバリアブルが実現すれば撮れるようになります。最近の若い人はフィルムチックなレトロな映像を好む人も多いので、入口としてもいいんじゃないかと思います。
すべて撮った、新しい表現の可能性をNikonに期待する
——今後Z 9を使って撮りたい作品はありますか?
村上:ドキュメンタリーから広告、映画、ミュージックビデオなど幅広いジャンルの撮影をやらせてもらいましたがあらためて本当に何でも撮れるのはすごいなと思います。
Z 9で撮影した短編映画「home」
私自身がこの仕事をやりたいと思ったのは「自分が残したいものを撮りたい」という想いからでした。その想いに対して、一番ノイズが少なかったのがNikonなんです。
やりたいことの情報にアクセスしたいとか、好みの色を出したいとか、ハードに持ち歩いても心配したくないとか、そういう撮影に対するノイズが少なく、クリエイターの想いや衝動に応えてくれてる質とスピード感があるから、今もNikonを使い続けています。
これからも僕たちの表現の幅を広げてくれる機能をどんどん追加して欲しいですね。
■Z 9 MOVIEスペシャルサイト
https://www.nikon-image.com/sp/movie/z9/
■Z 9 ニコンダイレクト限定キャンペーン中
https://shop.nikon-image.com/campaign/z9/index.html?cid=JDCNS2018657
■Z 9 動画専用カタログPDF
https://www.nikon-image.com/products/mirrorless/lineup/z_9/pdf/z_9_movie.pdf
■リモートグリップMC-N10製品ページ
https://www.nikon-image.com/products/accessory/remote/mc-n10/
連載記事「クリエイターとカメラ」のその他の記事については
まとめページよりご覧ください。
プロの現場でZ シリーズを手にするクリエイターたちは、なぜ数あるカメラの中からNikon Zシリーズを選んだのか、様々なジャンルの映像を制作されるクリエイターの方々に伺いました。
https://vook.vc/list/38
nikon@nikon
【Nikon Imaging Japan公式アカウント】 【Picture Perfect】プロクオリティの「写真」と「映像」の表現を広げる。 URL:https://vook.vc/p/nikon-z 【意外と知らない「写真」と「映像」の違い】まとめペ...
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