3DCGアニメーション制作スタジオの雄・オレンジの進歩 〜表現の追求を重ねて、スタジオの技術力を成長させる〜|あにつく2022

オレンジは、ここ数年で野心的な3DCGアニメーションを数多く制作してきたスタジオだ。『宝石の国』や『BEASTARS』などの話題作を放映し、次のプロジェクトへ進むたびにその進歩を見せ続けている。

あにつく2022」の講演「進化するオレンジのアニメーション」は、ここ数年の実績からいかにしてオレンジが技術を成長させてきたかが紹介された。

ひとつひとつのプロジェクトを実現することで、どのようにスタジオに技術を蓄積していっているのかが学べる内容となった。

作品を制作するごとに成長していくスタジオ

講演を担当したのは、オレンジに所属する渡邊 喜洋氏、和氣 澄賢氏、半澤 優樹氏の3名。

右から、渡邊 喜洋(わたなべ よしひろ)氏、和氣 澄賢(わき きよたか)氏、 半澤 優樹(はんざわ ゆうき)氏。以上、オレンジ

まず冒頭で、オレンジは自らを「作品と共に成長するスタジオ」だと説明する。元々は2004年にCGのアニメ制作会社として設立し、様々なアニメのCGパート制作を下請けしていくスタジオとして活動していた。

方向が変わったのは2017年。元請けとして『宝石の国』CGアニメ制作を行い、スタジオとして独自の存在感を発揮していくことになる。作画アニメの良さと3DCGアニメの良さ、双方を取るスタイルを売りにしており、昨年は『ゴジラS.P』のように、日本のテレビアニメで注目された作品にも参加している。

こうして元請けを始めた時期から、携わる作品ごとに目標を掲げて取り組むことでひとつずつ成長してきた。そんな積み重ねの末に、次回作『TRIGUN STAMPEDE』があるのだという。

次に、具体的にどのようにして各プロジェクトから技術を進歩させ、それを積み重ねてきたのかが語られた。

プロのビデオグラファーを目指す学校、はじまる。入学生募集中。

PR:Vook School

『宝石の国』では、キャラの表情・髪の表現をとことん追求

代表作である『宝石の国』では、以降のオレンジ作品の基盤となる表現が追求されていた。

TVアニメ『宝石の国』本PV


市川春子氏の漫画原作を2017年にアニメ化した本作は、宝石を擬人化したキャラクターによる物語である。制作するに当たって、まず「視聴者に感情移入してもらうこと」を京極尚彦監督と共に考えたという。それを目指すため、キャラクターの表情や芝居の表現を重視した制作が行われた。

本作のキャラクターの印象を作る、髪の毛の表現にもかなり気を遣っている。原作が表現している宝石の質感を保ちつつ髪らしさも表現するために、テクスチャのバランスを試行錯誤しながら仕上げていったそうだ。

『そばへ』で研鑽した流体表現への挑戦

こうして『宝石の国』で培ったキャラクターの表情や芝居の表現力を基に、続いて追求したのが水などの流体表現である。

2019年に丸井グループのCMを目的とした短編アニメーション『そばへ』を制作した際、今後の制作に繋がるはずだと考えて水の表現を追求した。

ショートアニメーション『そばへ』Full Ver.


雨のように大量の水が降ってくる表現や、水滴が窓をつたう表現、水たまりに波紋が広がる様子など、様々なシーンを制作。

その中で大切にしたのは、「ただのシミュレーションではなく、水のような流体表現も全て “芝居”」と捉えることだった。単に雨のように見せれば良いわけではなく、アニメならではのデフォルメをした先に何が見えるかを意識したとのことだ。

IDOLiSH7のMVで手がけた衣類の質感

続いて追求したのは、キャラクターの衣類をどう表現するかだった。3DCGで、服のシワや布の揺れる質感を表現するのは相当大変な作業だと想像できる。

その追求は、2019年に制作したIDOLiSH7のMV『Mr.AFFECTiON』にて行われた。様々な衣装が用意されている中から、Yシャツをフィーチャーし、ダンス中に生じる衣類の表現に挑戦している。

【BĻACK OR WHiTE】『Mr.AFFECTiON/IDOLiSH7』MV FULL


衣類の表現に特化したクロスシミュレーションツール「Marvelous Designer」を利用して試行錯誤を繰り返した。

Yシャツは比較的シンプルな素材でできているため、シワや光で透ける表現を施すのに適していて、本ツールを生かしやすいという。

単にリアルさを追求してしまうと、キャラクターのアニメ感との差が生まれてしまうため、そのバランスも慎重に調整していった。ここで衣類の表現を追求した経験も、後の作品でのより生き生きとしたキャラクター作りに繋がっていく。

人外キャラの表情作りには、フェイシャルキャプチャを活用

『宝石の国』の制作で追求したキャラクターの表情や髪の表現をより深く掘り下げた挑戦を、板垣巴留氏の漫画をアニメ化した『BEASTARS』で行なった。この作品は、2019年に第一期が、2021年に第二期が放映された人気アニメだ。

『宝石の国』では、表情をCGだけでなく作画で補完している部分があったことに加え、長髪のキャラクターが多かったため、髪の質感を集中して作り込もうというねらいがあったという。

そこで、『BEASTARS』では、より表情部分の表現に挑戦した。

擬人化された肉食獣と草食獣を登場人物とした原作を再現するため、影を付ける際に体毛のトゲトゲとした雰囲気を出すことを意識した。ポリゴンモデリングやレンダリングの方法を試行錯誤し、より体毛感を出すことに挑戦。

また、表情の作り込みには、フェイシャルキャプチャを使用。アクターが行なった表情をそのままキャラクターの表情に反映できるシステムだ。本作では、一人の男性アクターが男性キャラと女性キャラ両方の表情作りを担当したという。

特に本作のキャラクターは、顔の骨格がヒトより立体的なこともあり、フェイシャルキャプチャによって口元やあごの動きを反映させた表情は活き活きと表現することができた。

オリジナル短編『HOME!』では、Unityを使って立体空間を表現

HOME! オレンジ オリジナルショートアニメ


アニメで必要な要素といえば、その世界観を視聴者に感じさせるための“背景”が欠かせない。オレンジは、立体空間の表現をオリジナルの短編アニメーション『HOME!』で追求した。

この作品は、監督やアニメーターを育成する事業「あにめのたね2021」にて制作されたもの。本作は、同社の若手アニメーターに、オレンジならではのアニメーション制作方法を理解してもらう意図も込めて制作されたそうだ。

『HOME!』では異星を舞台としていることもあり、広大な風景制作にはゲームエンジンのUnityを使用している。若手育成の他にも、Unityの利用による3DCGアニメならではの立体的な空間表現も掘り下げられた。

オレンジの技術を総決算した、期待大の次回作

2017年に元請けとして制作を受注するようになり、そうして約5年が経ったオレンジ。携わるプロジェクトごとに、集中して追求する“表現”を選定して取り組んできた。そうして技術が蓄積されたキャラクターの表情や髪、衣類の質感、流体、立体空間などの表現力は、今後も活かし続けられていくだろう。

2023年1月7日(土)より、テレビ東京他にて放送が開始される『TRIGUN STAMPEDE』は、これまで積み重ねてきた技術の総決算ともいえる作品だそう。オレンジがこれまでに培ってきた技術が本作で花開くというわけだ。

TVアニメ『TRIGUN STAMPEDE』PV第一弾


『TRIGUN STAMPEDE』で実現できたことをスタートラインとして、またさらなる映像体験を作っていくと語り講演を終えた。

TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
EDIT_山北麻衣 / Mai Yamakita(Vook編集部)

コメントする

  • まだコメントはありません
Vook_editor

Vook編集部@Vook_editor

「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。

Vook編集部さんの
他の記事をみる
記事特集一覧をみる