はじめに
フルサイズミラーレスカメラLUMIX S5は私が普段フルサイズカメラでスチル、動画撮影を行う際にメインで使用している機材です。その発売は2020年の10月。発表があったその日に即予約を入れて発売日に入手した思い入れのあるカメラです。
過去にLUMIXのフルサイズ機(S1/S1R/S1H/S5/BS1H)全てを何らかの形で使用してきた筆者にとって、特にLUMIX S5は本体が軽量コンパクトな事から使用する頻度が非常に高いカメラであり、画質面においても2400万画素のオーバーサンプリングから生成される高解像度4K動画画質は私の映像制作における強力なアイテムだと言えます。
そのLUMIX S5の後継機種となるLUMIX S5IIが、この度発表になりました。パナソニックのミラーレスカメラとしては初の像面位相差によるオートフォーカスを実現した記念すべきカメラでありますが、オートフォーカス性能だけに留まらない新たな新機能の実装や動画フォーマットの拡充を図った魅力的な製品となっています。
今回はそのLUMIX S5II (特に動画性能)に関して少しマニアックな面も含めて魅力をお伝えできればと思っています。
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LUMIX S5II概要
まずは スペックの簡単な概要と私が気になった点を記載すると下記の様になります。
- マウント:ライカLマウント
- 撮像素子:フルサイズ24.2MP 像面位相差
- スチル連写速度:秒間7コマ(メカシャッター時 AF-C追従可能)秒間30コマ(電子シャッター時 AF-C追従可能)
- ボディ内手ブレ補正: 歩き撮り用に強化された手ブレ補正
- カードスロット:ダブルスロット UHS-II対応(両スロットとも)
- 撮影フォーマット:6K30p 4:2:0 10bit (Full画角)/ C4K30p 4:2:2 10bit(Full画角) / 4K30p 4:2:2 10bit(Full画角)/ C4K60p 4:2:2(APS-C)/ 4K60p 4:2:2 10bit(APS-C)/FHD 120fps 4:2:0 10bit(Full画角)/ FHD 150fps 4:2:0 10bit(Full画角 MF制限)/ FHD最大180fps 4:2:0 10bit(Crop MF制限)
- HDMI端子:HDMI-A
- EVF:画素数約368万ドット
- その他:空冷ファン内蔵
外観・外装・物理操作系に関して(LUMIX S5との比較)
外観
まずは外観から見ていきます。サイズと重量は下記の通り。
持った感じはLUMIX S5とほぼ変わらない印象ですが、実際に見比べると、少しS5よりも大きいことに気づきます。特に高さ方向に大きくなっていますが、これは後述する空冷ファンを搭載した関係からなのかもしれません。
空冷ファン
空冷ファンを内蔵しているのがLUMIX S5IIの特徴の一つですが、同じように空冷ファンを内蔵しているLUMIX S1HやGH6のように明らかにその存在がわかるような箇所には吸排気口が配置されておらず、ぱっと見ではその存在に気付きにくいと思います。吸排気口はロゴ部及びダイヤルの横の目立たない場所に配置されています。
この配置のためか高さ方向がやや高くはなっていますが、そのシルエットはLUMIX S5そのものです。
S5IIでは6K24pや4K60p以下のモードで無制限記録を実現していますが、それはこの空冷ファンによる所が大きいのだと思います。
HDMI-A端子
S5ではHDMIの端子がマイクロ端子だったものがS5IIではフル規格の端子となっています。
筆者はHDMI端子にケーブルを繋ぐ機会が多い事から、この変更はありがたいものです。将来的にRAWの外部記録に対応(有償)するS5IIですので安心してHDMIケーブルを挿すことができます。
ボタン配置
ボタン類の配置などはS5と同様ですので、GH6の様に多くのファンクションを物理ボタンに割り当てると言った使い方はできません。カスタマイズ好きの欲張りな筆者にとっては物理ボタンがあと一つ欲しかったと感じる部分ですが、操作系に関して変更点があります。それはジョイスティックの斜め入力が可能になった点です。
S5のジョイスティックは例えばAF枠を移動させる際には斜め入力ができなかったため、左右上下を使って目的の箇所までカーソルを移動させる必要がありました。S5IIでは斜め入力に対応しており素早くカーソルを移動させることができ、地味に嬉しい変更です。
EVF
EVFはS5の低解像度(236万ドット)のものから改良されています。S1シリーズは高解像度(576万ドット)の非常に高精細で美しいEVFファインダーが搭載されている一方で、S5の発売当時はそのS1シリーズとのEVFの見え方の落差を指摘する声が多かったように思います。S5IIでは368万ドットのEVFが搭載されており、EVFの見え方も大きく改善されています。
撮影機能・性能に関して
オートフォーカス
LUMIX S5IIの最大の変化点は像面位相差を搭載したことによるAF性能の進化です。LUMIXは従来、DFD(Depth from Defocus)という独自のコントラストAF(オートフォーカス)を搭載し続け、そのAF性能に磨きをかけてきました。詳細は後述しますが、その性能は機種を追うごとに進化を遂げていますが、スチル撮影時のAF-C動作におけるウォブリング(ピントが前後に細かく移動する動作)や、動画撮影時における動きの速い被写体への追従、被写体に近い撮影の場合などは苦手な面がありました。
LUMIX S5IIではAFを動作させた際に、今までと「明らかに違う」と感じるものです。
撮影フォーマット
LUMIX S5IIでは全ての撮影フォーマットはLongGOPになります。少なくとも現時点ではALL-Iの撮影はできませんが、十分な画質を得られるビットレートとなっています。また、MOVコンテナでの撮影フォーマットは全て10bitコーデックとなっています。MP4コンテナの場合は比較的ビットレートの低いコーデックや8bitも選択可能ですので、動画撮影はPC環境や収録時間に合わせたチョイスができます。
撮影フォーマットに関してはオープンゲートの6K(3:2)をはじめとして、6K(17:9)/5.9k(16:9)30p、おなじみの4K30pに加えてDCI4Kも選択できるようになっています。LUMIX S5ではそもそも6K/5.9Kの内部収録撮影はできませんでしたので、ここは大きなポイントです。この6K/5.9Kですが記録ビットレートは200Mbpsになっています。できればもう少し高めのビットレートのモードもあると嬉しいと思う点ではあります。
高解像度撮影ではS1Hを超える
従来S5では搭載されていなかったフルエリアを使用したオープンゲート撮影も可能(5952x3968 30p 4:2:0 10bit)になっています。これはセンサーの3:2画角全面を使用した撮影で、例えばx1.6のアナモフィックレンズを使用した際にはデスクイーズ後に2.4:1比率のほぼ8K画質で撮影ができることを意味します。フルエリアを使ったオープンゲート撮影ができる民生カメラは私の知る限りS1H、S1だけですので、アナモフィックレンズを最大限まで活かせるコストパフォーマンスに優れたシネマカメラと表現することもできます。尚、同撮影フォーマットはS1H/S1では24pの制限がありますが、S5IIでは30pまでの撮影が可能です。
その他
レンズキットに関して
なぜこれを今までキットにしなかったのか?というくらいにしっくりくるキットが用意されています。その内容は
LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6
LUMIX S 50mm F1.8
筆者はどちらのレンズも発売直後に購入して使っているレンズですが、この二本は使い勝手も映りも良いレンズです。加えて軽量コンパクトであり、多くのフルサイズLUMIXのユーザーが使っているものと思います。特にワイド端が20mmは汎用性が非常に高い一本、そして50mm F1.8はフルサイズのボケを楽しむには最適な標準レンズです。今回の作例ではこのレンズを含め多くのレンズを試してみましたが描写、AF性能共に満足いくものでした。
動画作例
LUMIX S5IIで撮影した作例が下記になります。
風景撮影ではマニュアルフォーカス(ワンプッシュAFによる置きピン)を使用しましたがそれ以外のカットではすべてオートフォーカスを使用した作例となっています。
画質そのものはまさにLUMIXそのものであり、S/Nの高い、高解像度な映像を撮影することができました。
オートフォーカスの挙動は他でも触れていますが、まさに触った瞬間に性能の高さが分かるほどのものです。
LUMIX S5IIを使った感想・気づいた点・所感
ここからは私がS5IIをしばらく使用して感じた点を含めて気になる点を記載していきます。
像面位相差AFの感想
私はこの機種のレビューのお話を頂いた際に、AFの性能はそれほど期待していませんでした。というのも像面位相差を搭載した最初の機種であることと、私が普段撮影している被写体では従来のLUMIXを使っていても大概のケースでは問題とならないからです。ですが、予想に反してS5IIのAF性能は期待を遥かに上回るものでした。方式は違えどコントラストAF方式であれほどまでに動画AFに磨きをかけてきたLUMIXですのでメーカーとしてもAFに対する思いは強いのでしょう。やっと搭載した像面位相差に対して「今更」と思うユーザーも多いと思いますが、それは画質に拘り続けたLUMIXがようやく納得いく映像、写真が撮れるレベルに達したため「ようやく製品化に踏み切った」という理解を私はしています。
フルエリアでもゾーンAFにおいても人物認識は非常に良いと感じました。特に動画撮影時にLUMIX S5とサイドバイサイドで比べてみたところその違いは顕著でした。
また、従来のDFDの弱点の一つに、「狙った被写体が大きく映し出されてた場合(寄りの撮影)、かつシャッタースピードが遅い場合にピントが合いにくい」という弱点がありました。スチル撮影の場合はその限りではないのですが、DFDの場合、動画撮影時のAFトラッキングでは撮影されたフレームからピントを判断する挙動となりますので、「暗い中で浅い被写界深度でシャタースピードを1/30に設定して踊るダンサーをアップで撮る」というのはDFDにとって最も苦手とする撮影だったように思います。ゆえに、その際のAFを使った撮影はやや速いシャッターをきりつつ少し被写体との距離を確保する様な撮影を意識していましたが、LUMIX S5IIではその必要がなくなりました。
今回の作例をご覧いただいてもわかる様に、LUMIX S5IIでは見事にダンサーさんをトラッキングし続けることが可能となりました。
人体認識は少なくとも現時点では人物、動物のみで現状車や飛行機では認識AFには非対応です。しかしながら飛行機撮影においては現状でも十分なトラッキング性能を感じました。航空機撮影ではフルエリアを選択して撮影を行いましたがそれで十分なくらいに追従を行います。
さらにLマウントアライアンスメンバーである株式会社シグマ様よりレンズ(150-600mm F5-6.3 DG DN OS及び100-400mm F5-6.3 DG DN OS)をお借りしての作例撮影を行いましたが、オートフォーカスも非常にスムーズに動作可能でした。
AF動作が新鮮すぎて所有レンズを一通り試したくなる
フルサイズLUMIXの初号機S1/S1Rが発売になったのが、2019年の3月。既に4年近くの月日が流れます。LUMIXの純正レンズはコンパクトなF1.8単焦点シリーズや広角ズーム、望遠ズームなど既にかなりの本数が発売されています。加えてシグマから発売されているネイティブのLマウントレンズ本数はかなりの数になります。コンパクトな超広角ズームや星景撮影に最適な個性的なレンズ、超望遠とお互いに補完し合うかの様なレンズラインナップでLマウントのレンズ群はかなり充実してきたと思います。先に述べたMC-21を使うと更にレンズの選択肢は広がります。それら多くを所有している筆者ですが、今までのLUMIXとはAFの挙動が全く別のものとなりその撮影感覚は非常に新鮮です。
マウントコンバーターMC21でAF-C動作が可能
私がフルサイズLUMIXを導入したときに真っ先に手に入れたアイテムがシグマのMC-21でした。これはシグマSIGMAのEFマウントのレンズをLマウントボディに対応させるためのマウントコンバーターですが、今までのLUMIXではスチル、動画に限らずAF-Cで動作させることはできませんでした。これはMC-21側の仕様なのだろうと考えていましたが、LUMIX S5IIで使うとAF-Cがスチル、動画でも動作します。
それどころか、かなりマトモな動作をすることに驚きました。シグマ以外のEFレンズの組み合わせは保証外ですので自己責任で試しましたが、夜の航空機撮影では滑走路進入から離陸まで何の問題もなく追い続けることが可能でした。LUMIX S5IIとMC-21と使用したレンズの相性がたまたま抜群だったという可能性もありますが、難しいシチュエーションでの撮影ながらピントの迷いはほぼ無し。筆者は今までシングルAFでピント決めを行いつつMFで飛行機を追い続けるような撮影を行なってきましたが「その苦労って何だったのよ?」というくらい楽に撮影ができます。
LUMIXには現状ではネイティブマウントの大口径超望遠レンズが存在していませんが、今は抜けているその穴はEFレンズでもカバーできると確信しました。
秒間30コマのスチル連写
私はスチルよりも動画撮影が軸となっているカメラマンですが、この秒間30コマには少し心ときめくものがあります。秒間30コマをバッファフルになる200枚まで連続で撮影できるのです。もちろん電子シャッターでのみその撮影が有効ではありますが、RAW撮影でかつAF追従が可能なのです。
つまり、7秒弱という短い時間ではありますが、その気になればRAW動画を本体のみ撮影できると言えます。現段階ではサードパーティ製のRAW現像ソフトは未対応ですが、ぜひ一度スチルの連写撮影モードでRAW動画を試してみたいものです。
ジンバルの存在意義を疑う強烈な動画撮影時の手ブレ補正
LUMIX Sシリーズでは、通常の手ブレ補正と擬似固定撮影を実現する手ブレ補正ブーストの2つのモードが優秀であるため、電子手ブレ補正を使用しないことがほとんどでした。それに筆者はクロップされる電子手ブレ補正の類を気分的にあまり好きになれなかったのです。
ところが、S5IIの電子手ブレ補正をONにした際に歩き撮りした映像はかなり驚きでした。電子手ブレ補正を効かせた時にS5との画面の揺れの無さは顕著で、歩き撮り特有の足を地面についた時の縦方向の振動が自然に補正されます。
ただし、広角域の撮影の場合は周辺像の歪みが発生することがありますので、自分のレンズがどのくらい歩き撮りに向いているのか、自分が納得できる補正具合なのかを見極めておく必要があるかと思います。
筆者の場合は35mmF1.8と20-60mmの25mm付近では非常に良い結果が得られました。特にこの撮影ではジンバルが要らないというくらいに違和感のない撮影を行うことができます。
ダイナミックレンジ(6.3STOP)
簡易的な測定を行った結果、標準照度から暗い側に8STOP、明るい側に6.3STOPのダイナミックレンジを有している点はLUMIX S5と同様です。
詳細な検証は行うに至っていませんが、LUMIX S5とほぼ同じ画質だと言えます。そもそもS5はNetflix認証を受けているLUMIX S1Hとほぼ同じ画質を有する事から高い画質(ダイナミックレンジ、色再現、S/N)評価を受けているカメラです。V-Log撮影時のハイライト側のダイナミックレンジは6.3STOPとS1Hと同じですので像面位相差画素を配置したことによる影響はほぼ見えていない様です。
細かすぎて伝わらないLUMIXの操作性の良さ
筆者はことあるごとにLUMIXの操作性の良さについて各所で言及してきましたが、このLUMIX S5IIも細かい所に配慮がなされています。
特に、撮れ高を上げるための撮影機能は充実しており流石はLUMIXと言えます。その項目をいくつか見ていきます。
フォーカスリミッタ
ほとんどのケースではフォーカスリミッタは必要ありませんが、一部のレンズではオートフォーカスの挙動が不安定になる一面がありました。近接のボケにピントが合ったまま狙ったところにピントが合いにくい挙動がありました。これら挙動はプロトタイプということもあり、今後発売までにはAF性能の向上が図られるものと考えていますが、それでもフォーカスリミッタでピントのあう範囲を少し制限するだけで大きく挙動が変わります。基本的に民間航空機などの望遠撮影では極端にカメラマンが被写体に近づけることはないので、例えば30mほどの範囲から無限遠にフォーカスリミットを設定するだけでAFの挙動が大幅に向上します。この機能はフォーカスを外すリスクを極力排除することが可能ですので、絶対失敗できない場面で設定すると良いかと思います。
EVF/液晶同時表示
世の中のミラーレスカメラのほぼ全てはEVFと背面液晶が同時に表示されることはありません。つまり排他表示となります。ところがLUMIX S5IIでは背面液晶を前面に向けた際にはEVFと液晶を同時に表示することができます。この機能はLUMIX GH6から実装されていますが、例えばテーブルで向かい合った人に対してカメラマンが液晶表示を見せながら撮影するという使い方が可能です。
LUT適用ルックの焼きこみ
LUT適用の焼き込みができるようになりました。従来ではV-Log撮影時にLUTを適用させた表示が可能でしたが、LUMIX S5IIではLUTを適用させた状態の記録も可能となっています。
さらに、このLUT適用はMY PHOTO STYLEを設定することにより、例えばCineLineDの設定において自作LUTを適用させて撮影(記録)するという様な使い方も可能になっています。ポスト処理を普段行わないという人や、簡易的な撮影で他のカメラとはちょっと違うルックを適用させたい人にとっては面白い機能かと思います。
願わくば2つのSDカードにLUT適用、非適用を別々に記録できれば最高なのですが、そこまでは望みすぎでしょうか。
フォーカストランジション
フォーカストランジションは予め決めたフォーカスポイントを再現よくピント送りするための機能です。この機能は一部のLUMIXに搭載されている一方でLUMIX S5には搭載されていませんでした。
フォーカストランジションは地味ながら名機能であり、搭載を望む声は少なくありませんでした。LUMIX S5IIでは本機能により再現性のあるピン送りができるためクオリティの高い映像を撮影できます。
動画撮影時のオーバーレイ表示
LUMIXの多くの機種ではSDカードに記録された画像を撮影時に透過させて表示させるオーバーレイ機能が備わっていますが、そのオーバーレイ表示が動画からの切り出しにも対応しました。長期にわたる定点観測を同じ画角で行いたいという場合や再現よく同じ画角を設定したい場合に便利な機能です。
システム周波数変更
いくつかのLUMIXではシステム周波数を変更することが可能ですが、LUMIX S5IIでもシステム周波数の変更が可能です。NTSC圏とPAL圏では別物として発売されているカメラがある中で、LUMIXの場合はシステム周波数を切り替えることが可能になっています。あまりお勧めする撮影方法ではありませんが、例えば商用周波数が50Hzのエリアでフリッカーを避けたスローを前提とした撮影をしたいといったケースでは、あえてシステム周波数を変更して50p&シャッタースピード1/50に設定するという方法で露出を稼ぐといった撮影も可能です。
マニュアルレンズの手ブレ補正設定
フルサイズLUMIXでは電子接点の無いマニュアルフォーカスレンズなどで焦点距離を入力することでレンズ焦点距離に応じた手ブレ補正の効きを調整することが可能です。S1Hにはその手ブレ補正の効きの範囲を調整するための機能が備わっていましたが、その機能がS5IIで実装されています。具体的にはボディ内手ブレ補正のセンサーシフト量を4段階で調整できるようになっています。これはシフト量が多すぎるためにレンズのイメージサークル外にセンサーがシフトしてしまいケラレが発生することを抑制する機能です。ボディ内手ブレ補正の性能の良さだけに留まらずこういった配慮がされているのもS5IIの魅力の一つだと思います。
その他
レンズのフォーカスリニア駆動や使い勝手の良いハイフレームレートはS5同様に搭載されています。またシステム周波数の変更が可能ですので、50pがどうしても必要な撮影も簡単にできる点もLUMIXならではです。カスタムダイヤルの設定の秀逸さも従来通りです。設定次第で最後に設定した露出設定やISO感度をダイヤル毎に保持させることが可能ですので、モードダイヤルを撮影フレームで分けるような割り振りを行えばワンアクションで別々の撮影モードを渡り歩く様な撮影の仕方も可能です。
まとめ
S5IIは動画専用機というよりもスチルベースのカメラです。ですが、その動画機能・性能はかなり強力です。あのS1Hを超えるような側面もありますし、動画に力を入れているLUMIXならではだと感じます。試用期間中は静止画も動画もかなりのショットを撮影しましたが、LUMIXの使い勝手に強力なAF性能が備わったオールマイティな性能を持ったカメラです。
このカメラを一カ月近くほぼ毎日使ってきた筆者として良い点、残念な点を列挙すると下記の様になります。
良い点
・S5同様の画質を担保しながら大幅に向上したAF性能
・小型軽量
・4K60pを含め422 10bitになった
・向上した手ブレ補正(特に歩き撮り)
・S1Hを超える5.9Kや6K撮影30p撮影が可能
・スチル連写秒間30コマ(電子シャッター時)
・コストパフォーマンスに優れる
・LUMIXならではの操作性
・HDMI-Aポート
・SDx2のメディアコストを抑えられる構成
残念な点
S5IIはS5に対して像面位相差を搭載しただけにとどまらない進化をしていますが、少し残念だと感じる面もあります。
・4K60pがS5同様にAPS-Cクロップとなる
・ボタン類がS5同様でGH6などと比べると少ない
・液晶が従来ながらのバリアングル方式
外装はかなりS5に近いものがありますのでボタン類、背面液晶がS5と同じ構成なのは致し方ないところでしょう。4K60pもAPS-Cクロップになるところが残念ではありますが、4:2:2 10bitに対応したところは嬉しい点です。
最後に
多くの方に、なぜあなたはLUMIXを使っているのかという質問を受けることがあります。その答えは高いS/N、忠実な色再現、広いダイナミックレンジ、美しいハイライトロールオフをはじめとする美しい「画質」、瞬時に撮影スタイルを変更できる「使い勝手の良さ」、熱で止まる事のない動画機としての「制約の少なさ」に集約され、それらは私の撮影道具も必須要件となっています。
ところが、私は全ての人に対してLUMIXを勧めてきたわけではありません。
特に動画を撮影するにおいて、難しいことを考えずにシンプルにRECボタンを押すだけで動画を撮りたいというライトなユーザーに対しては勧めにくいのがLUMIXでした。その映像品質はミラーレス一眼の中でも特に光るものを有していますが、動画撮影時のオートフォーカスに関してはDFDという独自のコントラストAFを採用していることから、その特性を勘違いされやすかったり、設定と扱いが難しい面があり、また苦手なシチュエーションがあったことも事実でした。
とくに被写界深度が浅くなりがちなフルサイズLUMIXではこの傾向がありました。
つまり、フルサイズLUMIXの動画撮影時のオートフォーカスを様々なシチュエーションに対して使いこなすためには、ユーザーはそれなりの知識と経験をもって設定を追い込む事が必要だったのです。
今回のLUMIX S5IIはいわば、追い込んだ設定を行う事なく、デフォルトの設定のみで多くのシチュエーションで動画撮影時のフォーカスがビシッと決まります。そのAFの感覚はLUMIX史上において大きな変化点を迎えたと言えます。今ではほぼ全てのメーカーが採用している像面位相差AFですので、今更と感じる方も多いかと思います。ですが、従来の「画質」、「使い勝手の良さ」、「制約の少なさ」そのままに高性能なAFを実現してきたという点は、画質に拘ってLUMIXを使ってきた筆者にとって今後、映像の撮影の仕方が変わる事になるLUMIX史上に残る記念碑的な一台となると確信しています。そして、このカメラはミラーレス一眼を初めて触る人から上級者まで誰にでもお勧めできるフルサイズ LUMIX であると考えています。
是非、このページをご覧の皆さんにもLUMIX S5IIを実際に手に取って試してみてほしいと願っています。
機材協力:株式会社シグマ
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