“稼ぐ”映像クリエイターになるには? 競争激化の映像業界を生き抜く術を学ぶ|VGT2022

2022年6月10日(金)から11日(土)にかけて開催された、日本最大級の映像クリエイター向けイベント『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズ・トーキョー)』。

この記事では2日目(11日)に行われたセッション「稼ぐ」を考える。仕事がなくなるビデオグラファーの様子をお届けする。

昨今、技術の民主化や機材の多様化に伴い、映像制作者やビデオグラファーの人口が増えてきた。競争の激化は今後さらに続いていくことが予想される。

各種の社会問題をテーマにしたポートフォリオが印象深いEXIT FILMのCEO田村祥宏氏が、“稼ぐ”ためのポートフォリオ制作、機材投資、チームづくりや予算について熱く語った。
MCはVook CCOの曽根隼人氏が務めた。

  • EXIT FILM inc. CEO / FILM DIRECTOR 田村祥宏

    映画的な演出や、個人としての作家性を大切にしながら、ドキュメンタリーの現場で培った技術により、映像制作の全ての行程をワンストップで行う。また映像やWEB、音楽や写真など、様々なクリエイティブコンテンツの持つ価値を、企業や社会の課題解決に上手く組み込むファシリテーションを行っている。国内外のアワード受賞多数。

  • 映像ディレクター / ビデオグラファー / 株式会社Vook CCO 曽根隼人

    演出・撮影・編集からグレーディングまで担当するスタイルで広告映像やMVを制作。無印良品のパリでのプロモーション映像“TOKYO PEN PIXEL”では世界三大広告祭の一つONE SHOWや、アジア最大の広告祭ADFEST、Spikes Asiaをはじめ数多くのタイトルを受賞。Eテレ「テクネ 映像の教室」では、プロデューサーを、TVドラマ「乃木坂シネマズ」「封刃師」では監督を担当。

ポートフォリオの重要性

最初のトークテーマは「なぜ作品づくりが必要なのか? ー戦略的なポートフォリオづくりー」。田村氏は、ポートフォリオは仕事の質や予算感をクリエイター側がコントロールするために必要なもの、と定義する。

自主制作の作品やプロジェクトの説明を通じて、「このクオリティをこの予算でやった」ことが具体的にクライアントに伝わるからだ。ここをしっかり定義しておかないと、クライアントワークにおいて、作家性と予算のバランスでミスマッチが起こってしまうという。

EXIT FILMがBehance上で公開しているプロジェクト説明ページ。
https://www.behance.net/exitfilm
上段左から難民、いじめ、教育、下段左から認知症、障害者スポーツ、地方地域と、社会課題をテーマにしたプロジェクトが並ぶ。

EXIT FILMの自主制作作品には社会課題を扱うものが多い。しかし実際のところ、田村氏は「基本的に僕は本質で言うと、社会課題を解決したい人ではなくて、映像を作りたい人」だと話す。

まず、映像を作りたいという思いがあり、自分の愛する映像というメディアがエンターテイメントや広告以上の大きな価値を持っていることを信じているという。

映像作品を通じて視聴者の行動変容を起こす」。
その価値を示すために“テーマを借りて”いるという。

当然、どんな社会課題をテーマに据えるかは戦略的に行い、予算も大きくかける。その効果として、作品の価値が上がり、“強く”なる。

田村祥宏(以下、田村):実際は毎回、やり始めたら血反吐を吐く思いをしています。なんとか作品にしているというところです。

現在制作中の新作はタイムリーな電力問題がテーマの、ドキュメンタリーとアートフィルムが融合した作品になるという。制作は2年前から進めており、現在、電力需要のひっ迫やウクライナ情勢などの最新情報に対応するよう、調整を行なっているところだ。

新作は電力問題がテーマ

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機材投資とスキルアップの関係

続いてのトークテーマは「なぜ作品づくりが必要なのか? ースキルアップのためにできることー」。田村氏は、作品や機材に投資し、クライアントワークでは細かく見積書を出すことで“正しく稼ぐ”ように努めてきた。この積み重ねが、これまで生き延びてこれた秘訣だと語る。

見積書には箱馬1個、バッテリー1個から書かれており、現在のテンプレートは17ページにも及ぶという。稼働日ベースで正確なコストを算出できるためクライアントにも明快で、クリエイターとしても何日で終わらせないと足が出るかがわかる。

作品づくりが自己実現の手段であるクリエイターだからこそ、無駄なスケジュールを作らず、帳尻が合う形を厳守することが大切になる。


田村:弊社にはレンタルできるほど豊富に機材が揃っていますが、高価な機材を導入する際は、クライアントワークで何回稼働すると元が取れるかを必ず計算しています。その上で、赤字にならないと判断したもの、購入した方が諸々のコストカットができると判断したもの、多少赤字でもブランド的に持っていた方が投資として旨味があるものを基本的に購入しています。

なお、特機オペレーションが必要な機材は自前にこだわりすぎず、クオリティとコストの両面を考えて外部の特機スタッフに入ってもらうことを田村氏は強く勧めている。


上記の写真は、EXIT FILM所有機材の一例。こちらは総額1000万円超えとのこと。

田村:カメラはARRI ALEXA SXT、レンズは1本135万円のAngenieux(アンジェニュー)です。高価ですが、1本500万円ほどするハイエンドのシネマレンズに比べたら安く抑えられたかと思います。

こちらは、カメラの別例として、ARRI ALEXA MiniをDJI Ronin 2に取り付け使用したもの。イージーリグ+スタビールを着用するなど、高価な機材を組み合わせている。

写真奥にいるのは特機オペレーションスキルを持たないEXIT FILMの従業員。プロが作品を撮る場合、特機のスタッフを入れたほうがクオリティ・コスト共に良いため、「勢い余った例でオススメできない。単発の運用であるなら100%外注すべき」と田村氏。

特機スタッフに入ってもらったときの様子。外部のステディーカムオペレーターが、ステディーカムの上にRED V-RAPTORを乗せて撮影している。「こういう風にプロを呼んだ方が絶対にいいですね」(田村氏)

“稼ぐ”とは?

本セッションの締めくくりとして、改めてメインテーマである“稼ぐ”を考えた田村氏。やはり「重要なのは予算と見積もり」だが、そもそも仕事を貰うにあたっては、限られたパイから分け合っていることを意識しておくことが大切だと考えている。

そのためには、自分の立ち位置を作ってライバルと差別化する必要があり、“勝負”と“投資”が欠かせない

EXIT FILMの場合、ポートフォリオのプロジェクトテーマが社会課題で、映像界隈としてはブルーオーシャンと言える。そのため、新作公開と共にその界隈での認知度が急速に上がり、立ち位置が確立することでピンポイントに仕事が来るようになる。

少しずつでも作品に投資を続け、時にはしっかり予算を取り、実力のあるクリエイターに外注して作品のバリューを上げる。そうした作品が自身のステージやバリューを上げ、最終的にその作品の価値に見合った案件が巡ってくる。田村氏はこの流れを幾度となく体験しており、現在も自主制作作品を通じて、自身のバリューを上げ続けているのだ。

アシスタント / インターン、営業職を募集中!

田村氏率いるEXIT FILMでは現在、アシスタント / インターン、営業職などを募集している。詳細はこちらから。

以上が、VGT2022 カンファレンスセッション『「稼ぐ」を考える。仕事がなくなるビデオグラファー』セッションレポートとなります。

他のセッションの様子は下記リンクから。

【河津太郎 × 今村圭佑】「撮影監督」トークセッション。撮り方からキャリアパスまで、幅広く語り合う。|VGT2022

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TEXT_kagaya(ハリんち
EDIT_山北麻衣 / Mai Yamakita(Vook編集部)
PHOTO_山﨑悠次 / Yuji Yamazaki

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