2022年12月15日(木)に発売された、キヤノンのフルサイズミラーレス一眼カメラ「EOS R6 Mark II」。
2020年に発売されたEOS R6の魅力はそのままに、新開発による有効画素数最大約2,420万画素の35mmフルサイズCMOSセンサーやボディー内に搭載された5軸手ブレ補正機構、「EOS iTR(※1) AF X」による優れた被写体検出性能とトラッキング性能を実現。さらには、R6では30分に制限されていた映像収録が最大6時間にまで強化された。
※1: intelligent tracking and recognition
今回は、旅や自分の体験を下に情緒あふれる動画を発信しているシネマティックビデオグラファー Y2氏に、「EOS R6 Mark II」を試用してもらった。そして完成したのが、『刹那 - SETSUNA-』である。
『刹那 - SETSUNA-』
モデル:Sana Hashimoto
監督・撮影・編集:Y2/撮影協力: Masatoshi Machii、Suya/コピーワーク: Rie Yamauchi/楽曲『A Life』:kiyori/使用カメラ:EOS R6 Mark II
「EOS R6 Mark IIから写し出される美しい動画には、どこか儚く刹那的なものを感じた。」と語るY2氏に、自身が目指すクリエイター像と、「EOS R6 Mark II」の使用感を聞いた。
カメラとの出会いは、プラモデルだった。
Y2氏のカメラとの出会いは「ガンプラ」(※機動戦士ガンダムシリーズ関連のプラモデル)。
意外に思う読者もいるかもしれないが、10代まではアニメ好きのインドア派だったそうだ。
高校時代はガンプラ制作に熱中しており、ガンプラの改造や塗装で技術と美的センスを競う大会にも参加。そこでは、参加者の大人たちが撮ったガンプラ写真の撮影技術の高さに刺激を受けたという。
プロと対等にやり合うならカメラが必要だと勧められ、安価なコンデジを購入。そこで基本的な写真の撮り方を覚え、また、ガンプラの塗装から色彩感覚を磨いたという。
それから約3年はカメラから離れ、食品関連の企業でサラリーマンとして過ごす。
しかし、今ひとつ自分にフィットしている感覚を得ることができなかったY2氏は、別の道を模索するようになる。
シネマティック・ビデオグラファー Y2氏(以下、Y2):
2019年の半ばぐらいで、コロナ禍の直前というタイミングでした。
高校生の時、カメラを扱っていると夢中になれたし、自分でもわかりやすく上達できていたことを思い出して、またカメラで撮るようになりました。
Y2
シネマティックビデオグラファー。1997年生まれ、本名Yusuke Yamawakiの頭文字から取った「Y2」名義で旅や自分の体験を下にした動画を発信している。2019年から旅コンテンツを中心に映像制作を開始。現在はフリーランスとして、東京を拠点にアパレル、観光、カメラメーカーなど幅広い業界の映像制作に取り組んでいる。メーカー問わず数多くのカメラを使用。自身の活動を通して「動画」や「映像」の本質的な魅力、素晴らしさをより多くの人へ伝えていくことを目指している。
www.instagram.com/yu_xion/
当時使っていたのが、キヤノンの小型軽量ミラーレスカメラ「EOS Kiss M」。趣味として友人のバンドのMV撮影などをしていた。
旅への衝動
高校卒業後、社会人となったY2氏は食品メーカーで働き始めた。
映像制作も趣味として続けており、2020年を迎えた頃にはYouTubeなどで編集の勉強をしていたながれで海外のクリエイターの作品から刺激を受け、「旅」に強い興味を持つように。
自ずと映像クリエイターへとキャリアチェンジしたい気持ちが高まっていた。
会社を辞めて独立したいと考え、退職について会社の人たちに相談したところ、皆一様に引き止めたそうだ。
Y2:
コロナ禍に入っていましたし、第一線で活躍している映像制作者の中にキャリアが1年にも満たない若者が入ったところですぐには仕事なんてもらえないだろうと、みんな心配して止めてくれたのだと思います。
様々な葛藤がありましたが、そこから約1年間は、仕事を続けながら趣味として映像制作を続けて、出来上がった作品はYouTubeやSNSを通じて公開することで映像クリエイターとして認知してもらえるように努力しました。
「旅」への衝動が高まるY2氏は、旅を始めるならもっと良いカメラをということでフルサイズのミラーレス一眼を購入。
さらに映像クリエイター 大川優介氏が主催する動画コミュニティ「TranSe Salon(現OneSe)」に参加してクリエイターの友人をつくり、会社勤めを続けながら、休日はカメラを持って駆け回るという生活を送るようになる。
上述の通り、SNSを中心にオリジナル作品を発表し続けたY2氏は、2021年の始めに4年半ほど勤めた会社を退職。開業届を提出し、晴れて映像クリエイターに転身する。
Y2:
今思えば、あのときは引き止めてくれて本当に良かったです。
勉強の時間も取れて、しっかりと準備ができた状態で独立できたので。
色使いとHLGの活用によって、独自性を出した
クリエイターとしての個性について、次のように語る。
Y2:
最初は自分の得意なところを見つけることが大切。
でも、なかなか見つからないんですよね(苦笑)
最初は、上手い人たちの映像を見よう見まねでつくっているので当たり前なんです。
自分の場合は、少し経ってから“色”だと気づきました。
Y2氏は2020年当時、動画の記録フォーマットとして、RAWやLogではなく「HLG」を積極的に使っており、これがY2氏の色づくりの特長になったという。
HLG(Hybrid Log Gamma)とは、イギリスBBCとNHKがTV放送用に共同開発したガンマカーブ。
Logに近い階調を記録できるのに、Logのようなポスプロでのカラーグレーディングが必須ではないという、映像クリエイターが手軽に利用できる映像フォーマットである。
HLGを使って、肉眼で見た色合いを素直に映像で再現する。YouTubeで公開している『My Year 2020 - Yusuke Yamasaki』もそうした作品のひとつだ。
▲ My Year 2020 - Yusuke Yamasaki
動画編集はPremiere Proで行なっており、若干のカラーグレーディングも施すが、大げさにはしない。
Y2:
自分なりの色づくりがあるので、綺麗に見えるようには調整しますが、目で見た色に近い色を表現するということを心がけています。
自然の風景に触れたとき、素直に綺麗だって思う気持ちを、同じように映像からも感じてほしいんです。
なおY2氏は現在、HLGではなくLogやRAWで撮影するようになった。その背景には、当時と現在での状況の変化があるという。
Y2:
僕がカメラを始めた当時は、手頃な価格でLogやRAWを撮れるカメラがまだなくて、LogよりもHLGを使っているクリエイターが多かったです。
また、HLGは撮影時にカメラ背面のモニターで色を確認できるので、撮影もしやすかったんですよ。
ですが、今ではカメラ性能が進化しているし、色へのこだわりからLogやRAWで撮るようになりました。
作品を創るだけでなく、発信することも大切
独立後は、「TranSe Salon」への加入がきっかけとなり、大川氏が参画する株式会社TranSeの教育事業を手伝うようになる。
サービスの起ち上げにも携わるようになり、大川氏と近い距離で仕事をするようになっていったそうだ。
そして2022年に入ってからは、大川氏の作品にカメラマン兼編集者としてサポートに入り、一緒に作品をつくることになる。
最初に参加した作品がEOS R5 Cのプロモーション映像、Y2氏の転機にもなった。
Y2:
大川さんは自分が映像制作を始めたきっかけのひとり。
その人に声をかけてもらって初めて参加した作品なので、本当に嬉しかったし気合いも入りました。
▲ Canon EOS R5 C - Yusuke Okawa
大川氏とコミュニケーションを重ねながら、Y2氏のスタイルも映像に込めた、思い出深い作品である。
この作品によって、創るだけでなく、発信することの意義、そして届いたときの嬉しさを実感したという。
Y2:
多くの方から好意的な反応をいただけて、とても嬉しかったです。
また、EOS R5 Cを通じてシネマカメラの実力を身をもって知ることができました。
ミラーレスとはひと味ちがう画づくりにすごく惹かれました。
ワンオペでもあんなすごい画が撮れるということが、自分の中で大きな転換点にもなりました。
その後も大川氏の指導を受けながらサポートとして一緒に8〜9本の作品を制作。
Y2:
自分は撮ること自体も好きなので、撮影に専念できるカメラマンとしての仕事は楽しいですね。
ただ、その一方では、様々な映像クリエイターとの交流を通じて、今はクリエイター自体にもスポットライトが当たる時代であることも痛感しました。
大川さんがクリエイターの集まれる場所を用意してくれたことが大きいですね。
力のある映像クリエイターの方々は、もちろん映像のクオリティも素晴らしいわけですが、そうした作品を発信する意味とか、SNSやYouTubeを使って大きな渦をつくる力もありますよね。
Y2氏もそうした環境に身を置くことで刺激を受け、「誰かに届ける」、「誰かのために」というモチベーションで映像制作を行うようになってきているという。
また、映像クリエイターのコミュニティとの関わり方については、ライバル関係ではなく、良い刺激として友好的な関係を続けている。
Y2:
個人的に、映像作品ってそもそも比べるものじゃなくて、個性の表れだと思うんです。
だから世代が近いクリエイターとは日常的に会ったり、コミュニケーションを重ねています。
自分たちの世代のクリエイターは、一緒に撮影するなど、協力し合うのが普通だと思います。
力強いけど、繊細な色味が EOS R6 Mark IIの魅力
今回、Y2氏にEOS R6 Mark IIで撮ってもらったのは『刹那 -SETSUNA-』という作品。
Y2:
EOS R6 Mark IIが映し出す一瞬一瞬から、美しさと儚く刹那的なものを感じました。
力強い映像と繊細な映像という矛盾したものを織り交ぜて、ありのままに表現しようというのがテーマです。
オリジナル作品で心がけているのは、「完璧ではないけど、ちょっと魅力的な動画」ということ。
カメラとレンズだけを使って、照明機材もジンバルなどの機材もできるだけ使用しない。
シンプルな手法で、魅力的な映像を創る。Y2氏がふだんから心がけているこの考えの下で『刹那 -SETSUNA-』は制作された。
旅の舞台は冬。草木が枯れた美しい白銀の世界を、長野から九州までロケーションを変えながら、友人をモデルにして6日間で撮りきった。
ロケーションはあらかじめ決めておいたが、構成は決めずに現地へ。
Y2:
旅好きの人ってその場で偶発的に出会って感動したいと考えていると思うんです。
自分もそのひとりで、その場所で何かを感じ取って撮り集めたものから構成のイメージが浮かんできます。
撮影した素材量は約2時間。記録形式に「Canon Log 3(10bit)」を使用したため、4K60Pでありながら400GB程度とコンパクトに収まったとのこと。
Y2:
個人でやっているので、容量の少ないSSDでも収まる容量で撮れるのはありがたいです。
撮影後の編集作業は、タイムラインに並べた単純なカット編集で1日、BGMを加えて整えて1日、カラーグレーディングで2日ほど。
ただし今回は、事前に構成を決めていないため、編集作業で使用テイクや構成のトライ&エラーを重ねたことから、編集がFIXするまでに約10日を費やしたそうだ。
EOS R6 Mark IIを使ってY2氏が驚いたのは、暗所で撮影したフッテージの色の伸び。
Y2:
僕が好きな夕日や朝日の後のブルーアワー、マジックアワーをISO3200で撮ったんですが、ノイズがとても少なくて。
山の中とか、かなり暗い場所だったんですが、この綺麗さは驚きました。
Y2氏はPremiere Proでの編集時、黒を乗せて暗部のノイズを潰すようにグレーディングを行うが、シャドウ部の粘り・伸びが良く綺麗なため、黒まで絞っても潰れているように見えなかったそうだ。
Y2:
EOS R6 Mark IIで撮った映像で、最初に綺麗だなと感じたのは、作品のファーストカットです。
あえて車内から撮ったモデルさんの横顔を捉えたカットですが、照明機材は使っていません。
かなり暗いシチュエーションですが、暗部のノイズは少なくて、被写体の目に反射する光もしっかり撮れました。
照明ナシでこのルックが撮れるのは、EOS R6 Mark IIならではだと思います。
その感動を作品に込めたくて、ファーストカットに選びました。
撮影は全て手持ちで行われたが、EOS R6 Mark IIの5軸対応、最大8.0段(※2)ボディー内手ブレ補正が撮影を強力にサポートした。
※2:静止画撮影時。RF24-105mm F4 L IS USM装着時、f=105㎜ Yaw/Pitch方向、CIPA規格準拠。購入した時期によっては、レンズのファームウエアの更新が必要。
Y2:
手ブレ補正が優秀だということは知っていたんですが、最初、間違えてボディー内手ブレ補正OFFで撮影していて……後から気づいてONにしたら雲泥の差でした(笑)
小刻みな揺れがピタッとなくなって……。でも、微妙な上下の揺れが滑らかに残っていて、良い空気感が出るんです。
そのほかにも、EOS R6 Mark IIの6Kオーバーサンプリングによる繊細で美しい4K映像、優秀なAFシステム、直感的な操作インターフェイスなども気に入ったという。
これからも“感動体験”を伝えていきたい
Y2:
(今後の活動について)少し上の世代のクリエイターの方たちが見せてくれたものを後の世代にもつないでいく、その架け橋になれたら良いなと。
個人でできる限界を追い求めたいですし、それを実践し続けていきたい。
作品のテーマとしては、日本人向けに海外で撮影した映像コンテンツを増やしていきたいと考えている。
Y2:
例えばヨーロッパは歴史を感じる建物と自然の両方の美しさが上手くバランスしてる場所ですから、カメラの性能を活かしやすいなと思っています。
また、目に映る美しさをそのままフレームに収めたいと思っているので、ドキュメンタリー映像の制作にも興味があります。
もし撮る機会をいただけるなら、テレビ番組のそれとは少しちがったテイストのドキュメンタリーをやってみたいですね。
自分の作品で使っている撮影方法をミックスした、リアルなんだけど魅力的に感じられるような作品を創り続けたいです。
さらにY2氏は、大きな夢も抱いている。
Y2:
映像を含めた『感動体験』を伝えたい気持ちがあります。
ARでもVRでもない、もっと新しいこと。
ちょっと夢物語になってしまいますが、例えば目が見えない人に映像を見せるとか。そういうのができたらすごく素敵だなと思っています。
実写はあくまで僕が趣味としてやり続けている“記録”に近いもので、これからも撮り続けますが、実写にこだわっているわけではないんですよ。
TEXT_kagaya(ハリんち)
PHOTO_加藤雄太 / Yuta Kato
特設サイト「with R」では、キヤノン製カメラを使う注目の若手クリエイターたちへのインタビューを公開中!
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
コメントする