Yahoo! はなぜGYAO! を終了し、TVer と業務提携する決断をしたのか? ヤフーCEO・小澤隆生氏が語る、動画サービスの現在と展望【PLAY NEXT 2023】

株式会社PLAYが主催するイベント「PLAY NEXT 2023」が2月10日、渋谷ストリーム ホールにて開催された。本イベントは「動画はもっと進化する」をテーマに、動画配信のあらゆるニーズを網羅するプロダクト・サービスを行うPLAYが、関係各社から識者をお呼びし、今後について講演を行うものだ。

PLAY NEXT 2023の冒頭を飾った講演は「動画で変わる!インターネットメガベンチャー」だ。PLAYのCEOである黒田和道氏が、ヤフー株式会社のCEO、並びにZホールディングスのE-Commerce CPOを務める小澤隆生氏を迎え、現在の動画配信サービスを取り巻く展望について対談するものである。

だが、本講演の直近で動画サービスの趨勢(すうせい)を揺るがすニュースがあった。今年1月、ヤフーを含むZホールディングスグループが動画サービス「GYAO!」のサービス終了を発表。続いて同グループは民放公式テレビ配信サービス「TVer」との業務提携に向けた基本合意を発表した。

まさに講演は単なる展望ではなく、黒田氏が「一体、今後の動画サービスをどうしていきたいのか?」を渦中の小澤氏から聞き出す形にもなった。

果たして、小澤氏はなぜ老舗の動画サービスを終わらせる決定をしたのか。そして、現在と未来の動画サービスはヤフーにとってどのような価値を持つのか。そうした疑問に応える講演が展開された。

ヤフーCEOの決断スピードの源流

左から、黒田氏。小澤氏

まず講演の冒頭で、あらためて小澤氏のキャリアを振り返る時間があった。そのキャリアは小澤氏が今日の決断を行える行動原理がうかがえるものだった。

もともと小澤氏はエンジニアとしてeコマースの会社「ビズシーク」を1997年に設立・運営していた。その後、ビズシークを楽天に売却する流れで楽天に入社。同社ではあの楽天イーグルスをパ・リーグにて立ち上げることに関わるなど、9年ほど在籍する。

その後も個人としてスタートアップベンチャーへの投資やコンサルティングを展開。2011年にはマーケティングの企業「クロコス」を立ち上げ、ヤフーに買収される形で同社に入社する。

それからヤフー内のeコマースを担当し、2018年4月より常務執行役員コマースカンパニー長に就任。2019年には同社のCOOとなりコマースとメディアの全事業を司る。昨年2022年には同社のCEOを務める形となった。

こうした小澤氏の経歴を振り返ると、彼の行動原理がスタートアップベンチャーとしてインターネットビジネスを見ていることが推察できる。平たく言えば、流れの速い状況に対する決断のスピードだろう。

今回、黒田氏が小澤氏を講演に呼んだ意図には、「動画をメインとしている会社ではないところでは、多くのサービスの中で動画はどのような位置づけなのか」を伺うためだという。

ただ冒頭でも書いたように直近のGYAO!のサービス終了をはじめとした、ある種の業界再編のようなニュースも重なり、講演は小澤氏の決断について伺うかたちとなったが、彼の行動原理を考えればその判断もうなずけるものがあった。

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GYAO! をなぜ終了し、TVerと提携するのか

あらためてZホールディングスの動画関連サービスをまとめたスライドが表示された。GYAO!はじめ、LINE LIVEやスポーツナビ、Yahoo!ニュースなどを抱えている。

そんな動画サービスの中で老舗だったGYAO!が終了を発表している。「撤退に関しても、ご迷惑をおかけしました」と小澤氏は述べつつ、長いあいだ同サービスを運営する難しさも語った。

まず終了の理由に挙がったのは「公式の地上波番組のオンライン配信サービスに関して、TVerとサービスが近しいこと」があった。GYAO!は映画などに加え、地上波番組などの見逃し配信が強みの一つである。

小澤氏はかなり平たく「YouTubeがサービスとして凄すぎるんですよ!」と語る場面もあった。これはユーザー側がコンテンツを見るだけではなく、さまざまな形で参加できることが大きいという。

一方でテレビ局公式の番組配信も必要であり、そうしたサービスの需要についても述べた。ただ「GYAO!とTVer、同じようなサービスがそれぞれ成立するのは難しい」ということが、今回のGYAO!のサービス終了の一端のようだ。

「GYAO!の運営とTVerの支援と両方やれたらよかったのですが、今後はそういう状況ではないです。2社、3社と並んでやれるものではありませんでした。コストもありましたが、将来を考えるとTVerを支援する側に決めました。苦渋の決断でした」小澤氏はそう今回の決定を振り返る。

なので、小澤氏は今回のGYAO!終了はTVerの業務提携とセットで考えてほしいと説明。これも小澤氏が動画サービス業界の今後を見据えた決断の速さから決まったもののようだ。

「YouTubeというすごく強いサービスの対抗軸がTVerなんですね」と小澤氏は考えているという。

LINE LIVEの終了

続いて黒田氏はLINE LIVEもサービス終了を発表した背景について質問する。GYAO!の終了と同じタイミングであり、こちらも何らかの再編も伺えるものだった。

小澤氏はこの決定に関しては先のGYAO!の終了とはまったく文脈は違うと語っている。LINE LIVEの終了については、「動画サービスは流れが速く、大胆な決断が必要になるんです」と彼は説明した。

動画サービスはヒットすればその広告効果は大きいが、そうならなければ負債となる。それが理由のようだ。

さらに世界でインターネット広告収入が落ちている事情も関係したという。GAFAM各社でレイオフのニュースが見られたように「我々だけの問題ではないんです」と小澤氏は説明。こちらも遠因にあるわけだ。

小澤氏はLINE LIVEの終了について、「スタートアップベンチャー視点ではスピード感ある新しい手を出せるかの一方、いかに撤退もできるかも重要」なのだと語っている。このあたりは彼のキャリアならではの判断なのだろう。

黒田氏からは「小澤さんは、こうしていたらLINE LIVEは上手くいったんじゃないかという考えはありますか?」と質問されても、小澤氏の認識はシビアだ。「もはやYouTubeが無かったらよかった! そういうレベルです」

それでも黒田氏がもう少し質問を掘り下げる。そこで小澤氏がサービスのレバレッジを上げるポイントに見ているのは、ユーザージェネレイティブであるということだった。要はユーザーがサービスにコメントなり動画投稿なりの参加ができることだ。

小澤氏は例としてYahoo!ニュースのコメント欄を挙げた。現在、当コメント欄は差別的な投稿などいくつもの問題を抱えてもいる。が、やはり「ユーザーはコメント欄を楽しみに見ている面もある」ことは大きい。

同ニュースではランキングやハイライト機能など、ユーザー側が介入できる機能を入れているという。「ユーザーの力を生かすことで、レバレッジがすごく変わるんです」と小澤氏は語っている。ユーザーの参加を重視していた。

ショート動画がもたらす広告効果

LINE LIVEの終了後は、「今後、LINE VOOMに力を入れていきます」と小澤氏は語っている。こちらはショート動画を主とした動画プラットフォームだ。

小澤氏はLINE VOOMの特徴として「縦型のフルスクリーンで、短尺の動画は数字が出やすいんです」と指摘した。

黒田氏はLINE VOOMに運用を集中する決定について、「これはユーザー投稿動画に集中するというメッセージでもあるんでしょうか?」と質問する。

小澤氏はこの質問に対して、「もともとTikTokのような縦型フルスクリーンの短尺動画の時代は5年くらい前まで来ないと思っていました。うまくいかないだろうと」と語る。

しかし、「ふと見ていたら、無限に見てしまう」という効果も実感しており、「ショート動画とは人間の本能にあったものではないか」と考えるようになったという。実際YouTubeやInstagramなどのサービスもショート動画を実装するようになった。

現在、TikTokのユーザーは10代と20代が多い。40代以降は少ないし、50代は意識してショート動画を観る動きはない。

しかし小澤氏は「ショート動画は人間の本能に根差している」と考えたことから、ヤフーやLINEへショート動画の実装を考えたという。40、50代以降でもヤフーやLINEは使用する。実装の結果、ビュー数はぐんと上がったそうだ。

小澤氏は今後、アテンションをどこで得ていくのかのポイントとしてショート動画を評価している。

たとえば食べログみたいなお店のレビューから、オンラインのフリーマーケットといったショート動画の投稿がユーザーの趣味嗜好に合えば、アテンションが大きいという。

「LINE VOOMは単体のメディアというより、それらを知るきっかけなんです。そのために裏側で各サービスの繋ぎこみをやっています」と小澤氏は同サービスの展望を解説した。

小澤氏は今後、TVerでもショート動画の対応を考えているそうだ。「やはり人間の本能と合ってしまっているのだから、対応しないとしょうがないです」と意図を語っている。

今は各テレビ局との対応もあり、番組本編を見たくなるようなショート動画のサービスも考案中の模様だ。

動画サービスの再編成以降のこれから

講演の終盤には、Zホールディングス、ヤフー、LINEの合併について黒田氏は小澤氏にうかがった。

小澤氏によれば、今回の3社が合併する背景には「スピード感と業務内容をよくするため」がポイントだという。

まずこれまでの関係だと「取締役会が3つもあって日程を合わせるのが大変。それに伴って意思決定も大変」な状況だった。「こんなことずっとやっていてもしょうがない」ということで合併を決めたとのことだ。

それ以上に小澤氏が強調したのは「とにかく意思決定のスピードアップ」という部分だ。ここまでも語られたように、動画配信を含むインターネット業界の動きは速い。

なのでサービスをやめる判断にしてもスピードが速い方がいいというわけだ。また、さまざまな業者との交渉の意思決定もいかに速くするかも重要だという。

講演の終わりごろ。黒田氏は「これから益々忙しくなりますか?」とうかがった。小澤氏は「(合併に向け)必死ですね。動画関連で言えば、動画をきっかけに我々インターネットサービスも変わらなければならない。その上で動画への対応は死活問題と捉えている」と語っている。

活況を呈し始めた動画配信サービスであるが、そのビジネスの裏側にいかに判断の速度を上げるかが伺える講演となった。

TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
EDIT_菅井泰樹 / Taiki Sugai(Vook編集部)

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