カメラマンではなく、ディレクター目線で必要とされるカメラは、どんなカメラなのか。
動画撮影用として注目を集めるミラーレスカメラ。Nikonが展開する「Z シリーズ」はビギナーからプロまで幅広い層の映像クリエイターに支持され、多くの作品を生み出しています。
本連載「クリエイターとカメラ」では、映像の最前線で活躍するクリエイターが選ぶZ シリーズの魅力に迫ります。
第5回目の今回は、アーティストのMVやCMなどをディレクターというポジションで制作し、時には自らカメラを手に取り撮影をこなす映像ディレクターの佐々木章介さんにお話を伺いました。
- 映像ディレクター佐々木章介
フリーランス映像ディレクター。2012年に映像制作を始め、プロダクションを経て2017年に独立。ディレクターでありながら撮影・編集・モーショングラフィックス・VFX等による演出までカバーする。近年は舞台映像やライブ映像の演出も行う。
Nikonのイメージは高解像度と描写力の高さ
——佐々木さんの普段のお仕事と撮影環境を教えてください。
佐々木:MVやCMなどの映像ディレクターとして活動しています。パフォーマーやダンサーなどの動きに合わせて変化する映像が多いかもしれません。
普段は自身でカメラを持たないで、演出に集中して制作を行っています。ですが、イメージを直接アウトプットした方が良い時は自らの手でカメラを持って撮影する時もあります。
なので、自分の作品テイストをしっかりと再現、アウトプットしてくれるカメラを使うようにしています。
——普段はどのようなカメラで制作を行っているのでしょうか?
いろいろなメーカーのカメラを渡り歩いてきましたが、BMPCC(Blackmagic Pocket Cinema Camera)、KOMODO(Red Digital Cinema Camera)といった、シネマカメラに落ち着いていますね。
——様々なカメラを使われてきたかと思います。その中で、Nikonのカメラにはどんなイメージを持っていましたか?
佐々木:過去にスチールのアシスタントをしていた時期があって、その時の先輩がずっと2012年に発売したNikonの一眼レフカメラ D800を使っていました。それで動画を撮らせてもらうこともあったのですが、当時でも長辺で7,000ピクセルくらい(※約3,600万画素、7360×4912ピクセル)あって、Nikonの解像度はすごいなと思っていました。とにかく描写が綺麗だというイメージをずっと持っていました。
僕は作品に必ずフィックスの画を描写力でしっかり見せるシーンを入れて、さらに動きを入れた迫力のあるシーンを織り交ぜる表現を大切にしています。こうした「フィックスで一枚の画をしっかり見せる」という意識は、Nikonの影響を多分に受けたんでしょうね。
——今回のNikon Z 9で撮影された作品はどのようなものなのでしょうか?
松田昇大さんの『Luv you crazy』という曲のMV撮影に使用させていただきました。作品は、BARをメインシーンとしながら、妖艶な雰囲気を演出した作品です。ネオンライトやビビッドカラーが映える、大人な雰囲気が漂っているかと思います。
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機動力と充実した機能で現場を支えるのがZ 9の魅力
——『Luv you crazy』のMV撮影でZ 9を使用してみて、率直にどう感じられましたか?
佐々木:撮影中に感じる「もっとこうできたら良いな...」と思うところを、しっかり叶えてもらったと思っています。本当に隙が無いカメラだと思いました。
——具体的に、どういうことですか?
佐々木:見た目より軽くて、融通が効きました。Z 9はフラッグシップであり、結構ゴツゴツした男らしいデザインですが、見た目よりもずっと軽く感じました。
動きのある画を撮る時は特にそうなのですが、本当に重さは敵なんです。
佐々木:最初はシネマカメラにリグつけてフォーカスリングをつけてなんて憧れますけど、撮影が長くなるほど本当に重たくて大変です。急に画角を変えて撮りたいと思っても撮影部に「そんなにすぐには動かせない」と言われてしまいます。もう1カット欲しい時に、Z 9だけでサッと撮れるのは大きいですね。手持ちでもいいですし、DJI Ronin-Sなどのジンバルにも乗せられます。
反対に、軽すぎないのも良いんですよね。小さくて軽いカメラは取り回しはいいのですが、手持ちだと手ブレが出過ぎてしまって気持ち悪くなってしまいます。だけど、Z 9くらいの重さがあると、手持ちでも安定しやすく手振れ補正も効きますし、自分の中でリズムを感じられる揺れになるんですよね。気持ちのいい手ブレになるように思えます。
クライアントの現場立ち合いも、Z 9にワイヤレス転送システム接続で対応
——今回の撮影では、ご自身で撮影する以外にもカメラマンにお願いした箇所も多いと伺っています。他のカメラマンにZ 9を使ってもらって何か問題はありましたか?
佐々木:普段Nikonのカメラで撮影しないカメラマンに使ってもらいましたが、特に問題はありませんでしたね。ボタン配置がわかりやすくて、手元で完結できてよかったと言っていました。ボタン配置はメーカーによってまちまちですけど、Nikonのボタン配置は直感的に使えると感じます。
——撮影の中でよかった点はありますか?
佐々木:昔、Nikonのカメラで良かったと感じていた描写力は健在でしたね。とても素敵な画が撮れました。今回の映像のキーになってくれると思っています。その描写を支えたのは、なんといってもオートフォーカスです。
オートフォーカスのないカメラだと、フォーカスマンが必要になりますよね。だけど、どうしても予算が少なくて人数を抑える現場があるかと思います。そういう現場にBMPCCなどのオートフォーカスのないカメラしかないと、上手くカメラを回せず演出のプランが減ってしまうことがあるんです。経験上、本当にフォーカスに悩まされる現場は多いんですよ。
そういった現場にZ 9があれば演出の幅を広げられます。
今回の現場ではオートフォーカスのニュアンスを最初に決めたまま、ほとんど変えませんでしたが、フォーカスマンがいなくてもZ 9に十分頼っていいレベルのクオリティでした。
——現場の事情で表現の幅を狭めずに済むのは大きいですね。
佐々木:実際にシネマカメラを使ったとしても、アイデアは思いつくんです。ですが、仮に3つの演出のアイデアが思い浮かんだとします。その3つのアイデアに対して、それぞれ人手が必要だった場合、人手が少ない現場だったら諦めないといけないことが多々あるんですよ。監督する立場として様々な選択肢があるのに、それを諦めないといけない。表現が減っていくことを実感すると、自分の中では辛いなと思う気持ちが出てきますね。
——他の機能面で感じたことはありますか?
佐々木:一つ映像を作る側からみた超推し機能があって。
それが、1920×1080のH.264 8-bit動画の書き出し、いわゆる「mp4のプロキシ動画自動書き出し」です。「パソコンで今のプレイバックをしましょう」となった時に、すぐmp4のプロキシ動画で確認できるのは、かなり時短になりました。
また、MVって撮っても使わないカットが多くでてきてしまいますが、欲しいカットを切り出すにも一度全部カラコレして変換をかける必要があります。しかし、mp4でプレビューできれば必要なカットだけカラコレできるようになるので、ポスプロがとても楽になるんです。
この機能だけみても、すごく現場のことを考えて作られたカメラだなとひしひしと感じましたね。実際に、現場でプレビューにアタリを付けながら見ていると、新しいアイデアが思い浮かんだりします。それを実行できるのが強みだと感じました。
——Z 9だからこそ、表現が「狭まらなかった」ということでしょうか?
佐々木:そうですね。どちらかというとポジティブに「表現を諦めずにできた」でしょうか。8Kで撮影できるのも良かったです。映像は大きな解像度で撮影して、編集でクロップしてフルHDで納品というケースが多いと思いますが、演出によっては4Kだと少し足りないことも多いんです。
8.3Kまで広げて撮れると、あとでレイアウトを考えるようなプランにも使えるので、演出の幅が広がります。
MV以外にも、舞台『進撃の巨人』のバックスクリーンに映される映像の一部を、Z 9の8.3Kで撮影していたり、Z 9だからこそできたことが多かったです。
美しい色味と編集のしやすさ。Nikonの設計は現場最優先
——監督目線ではいかがでしょうか。
佐々木:僕の感覚になってしまいますが、Z 9はBMPCCに比べてとてもパキッとしてシャープな印象があります。BMPCCはどちらかというとファンタジックというか、フワフワした印象です。BMPCCは色の深みで立体感を出すのに対して、Z 9は全てを細かく映しとって立体感を作るイメージです。
これは高解像度スチール機と動画機の差なのかもしれませんが、この差が監督として考えられる選択肢になり得ると思っています。
——色のBMPCC、描写のZ 9というイメージでしょうか。
佐々木:色味に関しては個性といっていいですね。Z 9にはスチール機ならではの発色の良さがあります。
佐々木:特に黒と緑がきれいに出ると思っていて。今回のMVの撮影のコンセプトを「しっとりとしたファッションっぽい映像」と考えていたので、背景のグリーンのカーテンを敷いたシーンがあるのですが、この深緑がとてもキレイに出てくれました。
最近はちょっとトーンが浅めのフィルムルックが流行っていると思うんですが、今回はパキッとした色を出したかったので、Z 9がうまくハマってくれましたね。
——Zマウントレンズを何種類か使われたと思います。使ってみてどう感じましたか?
佐々木:今回使わせていただいたのが5本。単焦点4本とズーム1本です。
・NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
・NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
・NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
・NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S
・NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
シネマカメラはフワフワ、スチール機はパキッとした画になるというのは、レンズの影響も大きいと思います。シネレンズはボケ感がフワフワしやすいという印象がありましたが、Zレンズは全体として絞りを開放してもそこまでフワフワしないと感じました。
その中でも、特に今回はNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sがめちゃめちゃキレイで、撮っていて本当によかったですね。個人的に50mmが好きというのもありますけど。この50mmのレンズってすごく難しいレンズなんです。今回は、そこの表現にチャレンジできて楽しかったです。
——50mmと他のレンズでどのような違いがあるのでしょうか?
佐々木:望遠や広角って画を作りやすいと思うんです。望遠ならボケと圧縮効果でいい感じにできて、広角なら背景を小さくして人物を立てるような表現ができます。両極端になるほど非現実的な画を撮りやすくなります。しかし中間にある50mmは、油断して何も考えずに撮ると普通の画になってしまいます。
——(レンズ焦点距離の)ミリ数による、レンズ焦点距離のごまかしが利かないということですね。
佐々木:そうです。なので、自身で撮りたい画をどう撮るか。どこまで入れたいのか、どこまで寄りたいのかを、徹底的に考え抜きます。そういう意味ではディレクター向きのレンズと言えるかもしれません。
「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」はf1.2まで絞りを開けることができて演出の幅が広いので、50mmだけど非日常感を出せるかもしれないと考えました。
正直、これだけ50mmを楽しめたのも、フルサイズのZ 9だからこそという側面はあると思います。すごく難しいレンズだからこそ、センスや感性が出やすいと思っています。撮る人によって画の表情がガラッと変わりますので、いろいろな人のZ 9と50mmで撮影した作品を見てみたいですね。
Nikonのフラッグシップは「何でもできる」「かっこいい」カメラ
——いろいろとお話を聞かせていただきました。改めてZ 9はどんな方にオススメできますか?
佐々木:一台で何でもできるという点が、僕が感じたZ 9の強みです。表現の選択肢という面で考えるなら、ビデオグラファーにはオススメしたいですね。本来シネマカメラは一人で扱うものじゃないと思っているので、予算によっては人をつけられず、諦めないといけない表現が出てきてしまいます。その点Z 9はシネマカメラができないところにアプローチできますので、少人数で撮影する機会が多いビデオグラファーにはハマると思います。
自由に取り回しできるという点では、ディレクターにもオススメしたいですね。キレイに撮るというところは照明や構図を含めてカメラマンが仕切ってくれますが、カメラマンに伝えきれないニュアンスの画を自分で撮りにいくディレクターも多いと思います。そういった言葉にできない感覚的な部分を自分で撮影できると助かるディレクターも多いんじゃないでしょうか。
佐々木:あとは「かっこいいから」という理由で購入してもいいと思います。僕がスチールカメラマンをしていたときの先輩にも「初心者はとりあえずかっこいいカメラを買った方がいい」と教えてもらいました。かっこいいカメラは持ち運びたくなりますし、持ち運ぶと撮る枚数が増えて、結果上達が早いんです。ちょっと手軽に手を出せるお値段ではないんですが、まずは男心をくすぐるボディを片手にかっこつけるところから入ってもいいのではと思います。
——今後、Z 9を使ってみたい撮影はありますか?
佐々木:今回はMVの撮影現場で使わせていただき、機動力の高さと柔軟性、表現力の高さを実感しました。特に優秀なオートフォーカスと取り回しの良さを生かせるスポーツは撮ってみたいですね。
Z 9は撮影している間にどんどんアイデアが生まれてくるカメラですので、楽しい撮影になるのを期待したいですね。
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まとめページよりご覧ください。
プロの現場でZ シリーズを手にするクリエイターたちは、なぜ数あるカメラの中からNikon Zシリーズを選んだのか、様々なジャンルの映像を制作されるクリエイターの方々に伺いました。
https://vook.vc/list/38
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