映像クリエイター・ビデオグラファーにオススメの入門書4選 曽根隼人が選ぶ、今改めて読んで欲しい書籍

今現在、映像制作における知識はネット上に溢れており、さらにYouTubeで検索すれば動画コンテンツも充実し、いつでもどこでも学ぶことができます。ですが、それらの情報のほとんどは断片的で、体系立てて学びたいときには不向きかもしれません。そのような時、書籍はとても参考になります。

だが、様々な書籍の中から、いったい何を選べばよいのか、どの順序で読み進めていけばよいのか、迷われているクリエイターも多いかもしれません。

今回はVook CCOで日々、Vook schoolで多くのクリエイターに指導を行なっている曽根隼人氏から、初学者に映像クリエイター・ビデオグラファーの方々におすすめの書籍を紹介していただきました。

今回紹介する書籍は下記の4冊です。
①映像クリエイターのための完全独学マニュアル
②マスターショット100 低予算映画を大作に変える撮影術
③映像ライティング&カラーグレーディング
④映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術

  • 映像ディレクター / ビデオグラファー / 株式会社Vook CCO 顧問 曽根隼人

    演出・撮影・編集からグレーディングまで担当するスタイルで広告映像やMVを制作。無印良品のパリでのプロモーション映像“TOKYO PEN PIXEL”では世界三大広告祭の一つONE SHOWや、アジア最大の広告祭ADFEST、Spikes Asiaをはじめ数多くのタイトルを受賞。Eテレ「テクネ 映像の教室」ではプロデューサーを、TVドラマ「乃木坂シネマズ」「封刃師」「インフォーマ」では監督を担当。

映像クリエイターのための完全独学マニュアル


- http://filmart.co.jp/books/film_tech/videaste/
- フィルムアート社|リュドック=著|坂本千春=訳
- B5判|360ページ|本体:3,800円+税
- 発売日:2022年10月26日

——まず1冊目の『映像クリエイターのための完全独学マニュアル』はどのような本なのでしょうか?

曽根:この本を一言で表すなら「映像制作の工程を広く浅く、網羅した1冊」と言えます。

撮影機材選び方から、撮影、録音、照明といった撮影現場での話や、編集、カラーコレクション、カラーグレーディング、はたまた脚本作りといった、映像制作を行うための一通りを学ぶことができます。

これが出版されたときは、業界内でもとても話題になりましたね。「こういう本を待っていました!」みたいな声が多かったことを覚えています。

——実際の撮影では絶対に通らないようなテクニックを僕は学んだ。このマニュアルを書くにあたって、僕は独学の監督としての慎ましい経験を集約して、レベルが低くてもテクニック、それと多くのギミックを使えば、素敵な物を撮影できることを証明しようと決めたんだ。(本書「イントロダクション」より 引用:http://filmart.co.jp/books/film_tech/videaste/)

曽根:この本の良いところは、ハリウッド映画の具体的な作品のキャプチャーがたくさん掲載されていることです。例えば映画『マトリックス』のカット割を示しながら、そのシーンの撮影方法を解説していたりします。

——日本では具体的な作品をサンプルにした参考書は、ほとんど見かけませんね。

曽根:著作物の教育利用に寛容な海外で書かれた本の良さですね。日本では、なかなかここまでのものは作れません。

引用:http://filmart.co.jp/books/film_tech/videaste/

曽根:ただ、この本では脚本とかも紹介されているのですが、全部横書きで紹介されているのです。日本で横書きの脚本を書く人ってあまりいなくて、プロの映画とかドラマの現場は当然ほぼ縦書きの脚本になります。

将来的にはもしかしたら横書きになるかもしれないとは囁かれていますが、現状の日本の現場にはフィットしていないので、その辺は注意が必要かもしれません。また、日本ではあまり聞かない「アメリカンショット」「カーボーイショット」のようなショットの説明があります。

あくまで「アメリカ流の方法を学ぶ」という前提で読む必要があるかもしれません。

いずれにせよ、映像制作の全工程を理解する必要があるビデオグラファーは、まずはこの本で「広く浅く」原則を学んだ上で、他の本で深堀りしていくのが良いと思います。

引用:http://filmart.co.jp/books/film_tech/videaste/

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マスターショット100


- http://filmart.co.jp/books/film_tech/2011-4-14thu/
- フィルムアート社|クリストファー・ケンワーシー 著|吉田俊太郎 訳
- A5判変形|248ページ|定価 2,300円+税
- 発売日:2011年05月25日

——続いて2冊目の『マスターショット100』について教えてください。

曽根:こちらの本も実際の映画のシーンがサンプルに用いられており、100通りのショットの方法・カメラワークが解説されています。

表現したいシーンを撮るためには、どの角度(アングル)で、どれくらいの焦点距離、どうカメラを動かせばよいのか、細かく理解することができます。先の1冊目が制作の全体を網羅しているのに対して、こちらはカメラマンのカメラワークに特化した書籍です。カメラワークには無限の選択肢があり、シーンに応じた最適な方法を選ぶことは、簡単ではありません。

そこで、この本が役に立ちます。この本はChapter1から12まで細かく、シチュエーションごとに分けられており、例えばChapter1では「FIGHT SCENES」では格闘シーンにフォーカスした内容になっています。

その他にも「広い空間での逃走シーン」「主人公が決断の行動に転換するシーン」のように、かなり具体的なシーンが記載されていて、撮りたいシチュエーションから撮影方法を検索することができます。

引用:http://filmart.co.jp/books/film_tech/2011-4-14thu/

曽根:この本の良いところは、単にカメラを動かすだけではなくて、なぜその動きになるのかを説明してくれていることです。

例えば、主人公が決断の行動に転換したシーンだから主人公の心理状況はこう動いている。だから、こういう動きをしたらドラマチックだよね、みたいな話です。ストーリーの内容や、その場面のトーンに合わせてどう撮るのか、っていうのを例を出しながら解説してくれるので、非常に分かりやすいですね。

「マスターショット100」の目次はフィルムアート社の同書のページにて確認することができます。
http://filmart.co.jp/books/film_tech/2011-4-14thu/

曽根:本のタイトルには「低予算映画を大作に変える撮影術」とサブタイトルが付いていますが、映画に限らずCM制作などでも役立つかと思います。カメラワークを学ぶのは現場で学ぶに越したことはありませんが、カット割や絵コンテを描く際の参考にしても良いかもしれません。

引用:http://filmart.co.jp/books/film_tech/2011-4-14thu/

映像ライティング&カラーグレーディング


- http://www.genkosha.co.jp/gmook/?p=21608
- 玄光社
- B5変型判|152ページ|定価:本体3,000円+税 電子版定価:2,900円+税
- 2020年4月23日発売

——3冊目には『映像ライティング&カラーグレーディング』をおすすめしていただきました。

曽根:この本では、これまで別々で語られることが多かった「ライティング」と「グレーディング」を1冊で学ぶことができます。ライティングとグレーディングはリンクする部分が多く、本来は一緒に学んだ方が効率がよく理解が深まります。

画を上質にしたい時に、良いカメラにしようという働きかけがよくあると思います。ですが、カメラは買ったらそれ以上にはなりませんよね。その上で「上質な画とは何か?」ということを考えることが大切なんです。

そこで重要になるポイントが「ライティング」と「グレーディング」で、この二つで上質な画にすることになります。

この本のユニークなポイントは、これまでライティングはライティングの本、グレーディングはグレーディングの本、別々の世界の話として扱われることが多かったのに、そこが1冊にまとまっているというところです。

例えばですが、物体に照明を当てるとします。光が当たっている側は明るくなり、当たっていない側には影ができますよね。ライティングは単純に明るくするだけではなく、陰影をつくることも目的です。実は同じ様なことがカラーグレーディングで行えます。

よく撮影現場では「ここはライティングかグレーディング、どちらでやるべきか」と議論されることがあります。それぐらい両者は密接な関係にあるのですが、意識している人は多くはないように感じます。

映像の制作工程は「ライティング」→「撮影」→「グレーディング」の順に進んでいきます。2冊目で紹介した『マスターショット100』と本書とで、映像制作の工程をまるっと学べるようなイメージですね。

ライティング機材は新しくなっていきますが、根本的な考え方が大きく変わることはありませんので、この一冊は長く参考にできるかと思います。

——ライティングは特に初心者が敬遠したくなる要素にも感じます。

曽根:そうですね、最近はカメラの性能が良くなっていることもあり、学習をすっ飛ばされてしまいがちです。でも、個人的にはライティングは一番最初に学んだ方が良いと言えるくらいに重要だと考えています。

そもそもレンズは光を集めるもの、カメラはその光を記録するものです。全ては光から始まっていて、その光をコントロールできないことには、良い画作りはできません。

光を当てる方向、光同士のバランス、光の硬さ・柔らかさ(光質)、光による色の再現性(演色)など、様々な光の要素によって、画のトーンは変わります。なので、この一冊はオススメですね。

映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術


- http://filmart.co.jp/books/playbook_tech/2009-3-5thu/
- フィルムアート社|シド・フィールド著|安藤紘平、加藤正人、小林美也子、山本俊亮訳
- A5判|352頁ページ|2500円+税
- 発売日:2009年03月31日

——そして、4冊目が『シド・フィールドの脚本術』です。

曽根:シド・フィールドの本は、ハリウッドでバイブル的な存在になっています。過去の多くの脚本を分析した結果を元に、脚本の書き方が「テクニック」としてまとめられています。

日本ではストーリーを考える際に「起承転結」が一般的ですが、海外では「三幕構成」が基礎となっています。この手法を編み出して、世界に広げたのが本書でしょう。

日本は世界と比べて「脚本力がない」「脚本家が少ない」と言われがちです。一方で海外の映画が面白いのは、三幕構成のような脚本のノウハウが確立しており、下敷きにされているからだと考えてます。

さらに、海外の脚本作りの特徴として、一つの脚本に脚本家ではない人も含めた脚本づくりがされていることです。

例えば、世界中で人気のドラマ「ブレイキング・バッド」は、脚本作りにドラッグの専門家や元警察官などが参加したことで、細部までリアリティのある作品に仕上げられました。

彼らは脚本の専門家ではありません。日本の感覚だと「映画を学んでいない人が脚本を書くなんて無理」と一蹴されそうですが、あちらではシド・フィールドの本のおかげで、普通に参加できてしまうんですね。

——その「三幕構成」とは、どのようなものなんですか?

曽根:三幕構成は文字通り、作品を3つの幕に分けて、それぞれに「発端」「中盤」「結末」という役割を持たせる構成の考え方です。

引用:https://amzn.asia/d/jkfadrl

例えば2時間の映画であれば、

  • 第一幕(発端):40分
  • 第二幕(中盤):40分
  • 第三幕(結末):40分

のように分けることができます。

第一幕(発端)では主人公のキャラクター設定や、置かれている状況が説明されます。そして第一幕の終盤の「プロットポイントⅠ」で何らかの事件が起こり、第二幕へと突入します。

第二幕(中盤)では主人公と対立する敵が登場したり、乗り越えなければならない壁に挑む様子が描かれます。そして第二幕の最後の「プロットポイントⅡ」では、主人公が打ち砕かれるなど、物語の最大の困難が訪れます。

映画が始まって1時間20〜30分くらいのポイントですね。第二幕は他の幕より長いこともあります。

そして第三幕(結末)では、これまで戦っていた相手に打ち勝ったり、問題を解決したりして、物語のラストへと向かっていきます。

三幕構成はざっくりこのような感じです。

2時間の脚本を書くとなると、何から手を付けて良いのか分からなくなってしまいますが、この三幕構成の考え方を元に、それぞれの幕の役割を整理していけば、誰でも物語の粗筋をつくることができます。

——でも、脚本がパターン化されてしまうと、既視感を感じそうな気がします。

曽根:これまで意識してなかったかもしれませんが、実は今でも、ほとんどのヒット作が三幕構成に則って作られています。

アートフィルムのような作品では、敢えてこの法則を外しにいくこともあります。それでもベースとなる超基本的な考え方は知っておいた方が良いですね。

また数分の短い映像や、ドキュメンタリーなどの映画作品以外の構成を考える際にも、役に立つ考え方だと思います。

特に優先したい「光」の学び。そして、日々勉強

——曽根さんは演出から編集まで幅広く携わっていらっしゃいますが、どういった順序で映像制作を学ばれたのですか?

曽根:僕は間違った学び方をしたので、あまり参考にならないかもしれません(笑)

大学が映像学科だったので一通りの授業はありましたが、ほとんど聞いていませんでした。上京して本格的に撮影と脚本を勉強するようになり「いつかは映画を撮りたいな」と思いながら、イベントやブライダル、企業のPR映像などを作っていました。

それで一時期、撮影やグレーディングをいくら勉強しても、ちっとも良い画が撮れないな、と悩んでいた頃がありました。そこでようやく、他の人とはライティングが全く違うことに気づいたんです。

だから、ライティングや光について学んだのが、かなり遅くなってしまって。もっと早くに勉強していれば、華やかなキャリアを送れたかもしれません。

それを反面教師に、Vook Schoolでは照明や光については重点的に教えています。機材の扱い方というよりは「光をどのように考えるのか」について。

——曽根さんご自身はどのように照明について学ばれたんですか?

曽根:僕の場合はたまたま周りに優秀な照明技師さんがいらっしゃったので、直接教えてもらったり、自分でも色々試したりと、基本的には現場で学びました。

あとは、Pinterestは照明の勉強になりますね。

例えば映画のワンシーンのライティングを俯瞰で解説しているものなどは、とても参考になりますね。

先に紹介した本で基礎を学び、発展させたいときにPinterestを参考にするのが良いと思います。よろしければ僕がまとめたボードも参考にしてください。

https://www.pinterest.jp/4th_f/lighting/

——今回、主に初心者向けの入門書を紹介していただきました。最後に書籍を使いながら映像制作を学ぶ上で、大切な考え方を教えてください。

曽根:「勉強しつつも、作ることを止めないこと」でしょうか。

映像制作は「生涯勉強」です。僕も未だに毎日学んでいますし、全ての映像クリエイターが勉強中です。

よく「学んでから作品を作ろう」という人がいるのですが、それは一番の誤りです。みんなが勉強中であり、作品を作ることが最大の学びになります。

だから、作品を作ったらぜひ、また本を読み返して欲しいです。そこで「あの時、こうしておけばよかったのか!」と後悔することがあるでしょう。でも、それは「後悔」ではなく、その瞬間に一番伸びていることの表れなんです。同じ本を読むにしても、実際に作る前と後とでは、吸収力が何倍も違います。

極端な話、本を読む前に映像を作っても良いと思います。作りながら学ぶ、学びながら作り続ける、トライ&エラーの姿勢を大切にしてほしいですね。

INTERVIEW_山北麻衣 / Mai Yamakita(Vook編集部)
TEXT_水野龍一 / Ryuichi Mizuno
PHOTO_菅井泰樹 / Taiki Sugai(Vook編集部)

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