CGアーティストのTaka Tachibanaです。
Blenderのあらゆる効率化TIPSをお届けしている【Blenderライフハック】。第5回目の今回は、ライティング関連のTIPSを紹介していきます。
前回のカメラと同様に、ライティング(照明)も現実世界のライティング技術や知識をそのまま応用することができます。
このライティングというのは、現実世界でもCGの世界でも画づくりにおいて非常に大切なパートです。同じオブジェクトやシーンを制作してもライティング1つでまったくちがった見え方やクオリティの差が出てきます。
そんな奥の深いライティングですが、本記事の前半ではライティングに関しての大切な考え方を中心に基礎を解説しています。後半はTIPSをまとめてみました。ぜひ参考にしてみてください!
※ この記事を執筆時のバージョンは「3.3.4」です。
Blenderの基本の4つのライト
Blenderで扱う基本的なライトは下記の4つです。
<1>ポイントライト
<2>スポットライト
<3>エリアライト
<4>サンライト
では、簡単にそれぞれの特徴とTIPSを紹介していきましょう。
<1>ポイントライト
電球のようなライトで、点光源の表現に向いています。360度全方位に照射します。
「半径」の値を低くすると影がシャープに、高くすると影がソフトになります。
【POINT】
「半径」の値は「光源の大きさ」とも言えますが、光源の大きさや距離と影の描かれ方には相関関係があります。とても大事な考え方なので、詳しくは後述します。
▲半径を「0m」にした例。影がくっきりとシャープになる
▲半径を「1.23m」にした例。影が柔らかくぼんやりとしたものになる
<2>スポットライト
撮影や舞台などで使われるスポットライトと同じように、特定の範囲に照射します。
「半径」の値を変更することによる影の変化は、ポイントライトと同じです。
それに加えてスポットライトには「ブレンド」という項目もあり、こちらも値を変更することで「照射エリアの輪郭の柔らかさ」を調整することができます。
▲ブレンドを「0」にした例。輪郭がくっきりとシャープになる
▲ブレンドを「1」にした例。輪郭が柔らかくぼんやりとしたものになる
<3>エリアライト
広範囲を均一に照射します。面光源の表現に向いています。
エリアライトもポイントライト同様にサイズによる変化で影の柔らかさを調整できます。また「発行の形状」→「広がり」の値でも調整できます。
▲広がりを「1度」にした例。影と輪郭がくっきりシャープになる
▲広がりを「180度」にした例。影と輪郭が柔らかくぼんやりとしたものになる
<4>サンライト
いわゆる太陽光です。
これまで紹介した「ポイントライト」「スポットライト」「エリアライト」は【減衰(Falloff)】と呼ばれる概念があり、距離が離れれば離れるほど、光量が落ちるといった性質があります。
これは現実世界でも同じで、例えば懐中電灯を当てても近くのもは明るく照らすことができますが、遠くのものは暗くなってしまいますよね。
それに対してサンライト、いわゆる太陽光は【減衰(Falloff)】が発生しません。つまり近くのものも遠くのものも同じ光量で全範囲を照射することができます。
ちなみにサンライトは半径(大きさ)を調整することができませんが、代わりに「角度」というパラメーターで影の柔らかさを調整できます。
このパラメーターによって、晴天の日なのか、曇の日なのか、そういった天候による影の変化なども表現することができます。
▲角度を「0度」にした例。影がくっきりシャープになる。晴天の日の影に見える
▲角度を「60度」にした例。影が柔らかくぼんやりとしたものになる。曇りの日の影に見える
光源と影の関係
画づくりにおいてライティングというのは「明るくする」という単純なものではなく、むしろ「影」をどういう風に描くのかがとても重要になってきます。
現実のライティングでは、下記の相関関係のように光源の大きさや距離によって影の柔らかさが変化しますが、Blenderにおいても同じような設定がされています。
光源の大きさ | 光源からの距離 | |
---|---|---|
シャープな影 | 小さい(点光源) | 遠い |
ソフトな影 | 大きい(面光源) | 近い |
前述の4つのライトで解説した通り、シャープな影を描きたいなら、光源は小さく(点光源)、そして被写体から光源までの距離を遠くにする必要があります。
反対に光源は大きく(面光源)、そして被写体から光源までの距離を近くにするとソフトな影を描くことができます。
ちなみにエリアライトだからといって必ずしも「面光源」になるわけではありません。サイズを非常に小さくすると、ポイントライトのように「点光源」のシャープな影が描かれます。
▲エリアライトでも「点光源」表現ができる
このようなライティングによる影への影響を知っておくことは非常に大切です。日常生活においても身の回りの影をよく観察するとこれらの特性をより理解できると思います。
特にフォトリアルなシーンを描きたいなら、そういった日常の観察力も大事になってきますね。
【POINT】
太陽光は「点光源」?それとも「面光源」?
太陽はとてつもなく大きいので「面光源」という気がしますが、正解は「点光源」です。光源はそのものの大きさというより、被写体やカメラから見て大きいのか小さいのか考えるとわかりやすいです。
太陽は巨大ですが、地球からものすごく離れているため地上から見ても「点」のようにしか見えませんよね? そして実際の太陽光による影を見てみると、その形はとてもシャープです。そのため太陽光は地球から見ると「点光源」と言えます。
知っておきたい三点照明
現実の撮影においては「三点照明」という基礎的なライティング術があります。CGの世界でもまったく同じように応用できるため、ぜひ身につけておきましょう。
立体的でクオリティの高いライティングをするためには必須の基礎知識です。
「三点照明」は下記の3種類の当て方で構成されます。(ライトの機材の種類ではなく、「当て方」という意味の3種類です)
<1>キーライト
<2>フィルライト(「抑え」とも言う)
<3>バックライト(「タッチライト」「リムライト」とも言う)
「三点照明」の詳しい解説はこの記事では省きますが、検索すれば様々な解説記事がありますし、下記動画の解説はわかりやすいのでぜひ一度見てみてください。
ちなみにBlenderの純正アドオンでこの三点照明をセットアップしてくれる「Tri-lighting」というものもあります。
▲アドオン「Tri-lighting」をONにして、オブジェクト選択した状態でShift+Aを押すとライトの項目に「3 Point Lights」が追加される
▲対象オブジェクトに対して自動的に3点照明がセットアップされる。コンストレイントで制御されているため、自動的にオブジェクトに向くようになっている
ライティングTIPS
それではここから後半戦のTIPS集です!
ライトの回転方法
ライトの回転方法としては通常[R]や自由回転の[R→R]はみなさんよく使われていると思いますが、実は[Shift+T]でも回転させることができます。
しかもこちらの方がマウスに沿って動いてくれるため、自由回転よりも直感的で操作がしやすいです。
一度お試しあれ。
光線(ゴッドレイ)の描き方
光線、光の筋、ゴッドレイと呼ばれる表現は「ボリューム」を使うことで行えます。
「ボリューム」とは「体積」という意味です。
現実の空気中には塵や水蒸気などが存在し、その影響で光線が可視化されるわけですが、「ボリューム(体積)」を設定してあげることによって現実と同じような見せ方をすることができます。
レンダリング時間はかなり増えますが、「ボリューム」はリッチな表現を求めるなら重要な要素のひとつになります。
ライトにテクスチャを貼る
実はライト自体にテクスチャを貼ることができます。
こちらの画像(※1)を貼ってみましょう。
※1:こうした素材は、Textures.comなどで手に入ります。
オブジェクトにテクスチャを貼る要領と同じで、スポットライトなどを選択しシェーダーエディターで画像のように設定します。テクスチャ座標は「ノーマル」に接続する必要があります。
上手く使えば木漏れ日のような表現ができます。ちなみに動画素材も貼れます。つまりアニメーション表現も可能です。
画像テクスチャでなくても、シェーダーエディターに標準搭載しているテクスチャ(マスグレイブテクスチャやノイズテクスチャなど)でも応用できます。前述のボリュームと組み合わせるとよりリッチなルックを表現できます。
またライトにテクスチャを貼らずとも、単純に影となる模様の平面を挟んであげることでも同じような表現ができます。
平面にシェーダーエディターで上記のようにノードを組むテクニックはよく使われます。
この際の影のコントロールも前半で解説した通り、「光源の大きさ」と「光源との距離」によって影の柔らかさを調整できます。
木漏れ日ライティングのアドオン
有料にはなりますが、外部アドオン「Gobos Light Textures」を使えば上記と同じような木漏れ日表現を簡単に使うことができます。
▲最初から多種多様なアセットが用意されているのでとても楽に使える
IESライト
前述のテクスチャを貼る要領で、IES(※2)と呼ばれる測光ファイルをライトに適用することができます。
※2 IES:照明器具の照度データを格納した測光ファイル
下記のツイートのように、ポイントライトにIESテクスチャをつなげるだけで、リアルかつ多様なライティングが可能になります。建築CGなどに向いていますね。まさに魅せるライティング。
https://twitter.com/taka_tachibana/status/1560901388695384064?s=20
ノードでのケルビン設定
シェーダーエディター上で[Shift+A]を押し、追加メニューの「コンバーター」の中に「黒体」というノードがあります。実はこれでライトの色温度を指定することができます。
タングステンなら3,200K、デイライトなら5,500Kなど現実の撮影と同じ感覚でライトの色を設定できます。実写やってる人は馴染み深いですよね。
コースティクス
Blender3.2から「コースティクス」と呼ばれる表現が可能になりました。
「コースティクス」とは、液体やガラスなどの透明な物質を通過する際に生じる独特な集光現象のことです。設定はひと手間かかりますが、よりフォトリアルな光の表現が可能になります。
詳しい設定はこちらの動画がわかりやすくてオススメです。
リアルソフトボックスの反射
エリアライトを使うとこのようなソフトボックスと呼ばれる照明器具を使ったライティングが表現できます。
ただし、反射した際にかなりCGっぽいライトが写り込んでしまいます。
そんなときはエリアライトのすぐ前に半透明BSDFを適用した平面を置いてあげると、その輪郭がぼやけて反射がリアルなソフトボックスのように見えます。
反射物がなければここまで意識しなくても大丈夫ですが、反射が目立ってしまうときに使えるTIPSです。
光量をマイナスにすることができる
現実世界ではありえないのですが、パワー(光量)にマイナス値を入力すると影を照射することができます。
本来明るくなる箇所が暗くなり、暗くなる箇所が明るくなる不思議な現象。。
どういうときに使うのかさっぱりですが、特別な演出をしたいときに役立つかもしれません。
ストップ値ごとの光量変化
前回のカメラTIPSでも紹介した外部アドオン「Photographer」は、ライティングに関しても操作性を向上してくれます。
僕はもうこのアドオンが手放せないのですが、その理由としてはライトのパワー(光量)をストップごとに調整できる点です。
1クリックで、現状の光量から±0.5ストップ(1.5倍)/±1ストップ(2倍)の増減ができます。
▲アドオンをインストールすると自動的にライトプロパティに「Stop Adjustment」が追加される
実写の方は馴染みのある換算方法ですが、実写をやってない人でもこの調整方法はめちゃくちゃ楽なのでオススメです。
クリックするごとに「2倍→4倍→8倍」と光量をシンプルに増減できるので、パパパッと自分が求めている光量に早くたどり着くことができます。
ライトグループ
Blender3.2より「ライトグループ」機能が搭載され、これによってレンダリング後のコンポジット作業でライティングを調整することができるようになりました。
レンダリングしたあとでも細かい明るさや色味を調整できるので、よりルックにこだわって制作したい場合は活用すると良いでしょう。
良いライティングとは
最後に「良いライティングとはなんだろう?」というトピックに触れてみたいと思います。
僕は映画学校出身なのですが、当時学んだ考え方で次の2つのことは今でも大切に覚えています。
- ライティングとは影を描くこと
- ライトの数は少なければ少ないほうがいい
すでにこの記事でも述べてきましたが、ライティングとは単に明るく照射することではなく、影を作り出すという視点の方が重要です。
その「影」が世界観を表現することにつながるからですね。
また最初の頃はやたらとライトをたくさん使ってライティングしようとしてしまうのですが、実は逆にライトの数は少ない方が効果的に画づくりが行えます。
理由としては、ライトの数が増えるということはその分影を打ち消してしまうことにもなるので、フラットな絵になりやすいという点。
また単純に管理が大変だったり、その分計算する処理が増えるのでレンダリング時間も増えたりと、正直あまりオススメできません。
以上2つのことを意識していくと、みなさんより良いライティングに近づけると思います。
カメラと同様にライティングも現実の映画などの手法がそのまま活かせるので、そういった本やYouTubeで勉強するのもオススメです!
今回は、以上です。
これからも様々な効率化TIPSを紹介していくので、次回もご期待ください。感想やリクエストもぜひ!
- CGアーティストTaka Tachibana
台北在住。CAPSULE Inc. / CHINZEI Inc. 所属。福岡で10年間のフリーランスを経て、台湾ではMVやweb広告などの映像制作に従事。その傍ら3DCG・VFXを駆使した作品づくりに取り組む。ASEAN-ROK Film Leaders Incubator日本代表。Short Shorts Film Festival & Asiaをはじめ、国内外70ヶ所以上の受賞・入選歴。https://taka-t.com/
Blenderライフハック@b3d_lfhck
この連載では、実写VFX系のBlenderユーザーとして知られるTaka Tachibanaさん( @taka_tachibana )が、Blenderによる3DCG制作をより効率的に行うためのTIPSを紹介します。 作業効率を高めるためのBlender...
コメントする