「ただのパイロットではなく、クリエイターとして評価されたい」JIDAIが切り拓く日本のFPVドローンの現在地|映像クリエイター インタビュー特集

昨今、空撮の現場で利用されることが増えているドローン。

中でも、常にゴーグルを着用してドローン目線で飛行が行える「FPVドローン(※1)」は、スピーディーな被写体への追従や、圧倒的な疾走感によって、他では撮影できない没入感のある映像を記録することができる。

日本ではまだまだ情報が少ないFPVドローンの世界で、若干24歳にしてパイロットのひとりになったのは、映像クリエイター・JIDAI。

JIDAI氏は「ただドローンを操縦できるパイロットではなく、クリエイターとして評価されたい」と語った。

なぜ、あえて先駆者が少ない世界に自ら足を踏み入れたのか? 多様な機械知識・法律などのハードルを乗り越えてでも挑戦したいFPVドローンにはどんな魅力があるのか、そのキャリアに迫る。


映像クリエイター JIDAI(マラカル 治大)
愛知県出身。大学時代に1年休学して日本一周の旅を敢行。YouTubeやTikTokなどを通して発信した映像で大きな反響を得る。2021年にFPVドローンを始め、現在はSNSで日本一のフォロワー数を持つFPVドローンパイロットに。観光PR・アクション・MVなど幅広いジャンルで撮影を行う傍ら、クリエイタースクールの講師も務める。2023年からFPVドローン株式会社に所属。
Instagram:@malakar_jidai

※1:FPVドローンの「FPV」とは、「First Person View(一人称視点)」の略。FPVドローンは操縦者自身がドローンに乗っているような感覚で、空からの映像を撮影できる。最高時速は150km/hを超えるものもあり、動きが速い被写体への追従にも向いている。

FPVドローンとの出会い

——初めてJIDAIさんの映像を見た時は、ただただ「スゴイ」のひと言でした。今日はJIDAIさんがFPVドローンを始められたきっかけから、これまでをふり返っていただきたいと思っています。

JIDAI:ありがとうございます。

僕は学生時代に休学をして、日本一周の旅をしていました。当時は旅先で撮影したVlogやシネマティックな映像をSNSにアップしていて、その頃に初めてのドローンとしてDJI Mavic Air 2を使い始めました。

JIDAI:旅を終えて、映像制作を仕事にすることは決めていましたが、たくさんのライバルがいる中で、どう差別化したら良いのか考えていました。

そんな時に、クリエイター仲間のSOLOくんが「お前はドローンが上手いから、FPVやってみたらいいんじゃない?」と後押ししてくれて、2週間後にはDJI FPVを買っていました。それが2021年の夏くらいのことです。

また同じ頃に観た、海外のFPVパイロット・Johnny FPVさんの映像には大きな衝撃を受け、FPVの道へ進む決意をさらに強くしてくれました。

おそらく100人が100人「かっこいい!!」と思うんじゃないでしょうか。僕にとっては「ドローンってここまでかっこいい映像が作れるんだ!」と思った映像で、本当に強く影響を受けています。

「彼みたいな映像を撮れるようになりたい」という思いで始めて、ここまで無我夢中でやってきた感じです。

——それからわずか1年半ほどの間に、たくさんの作品を撮られてきましたが、印象に残っている作品を教えてください。

JIDAI:そうですね、スノーモービルの映像なんかは、特に思い入れがありますね。

FPVドローンを始めて半年くらいの、初期の代表作と言っても良い作品ですし、たくさんの方にシェアしていただき、これがきっかけで仕事の依頼が増えた作品でもあります。

——具体的にどういったエピソードになるのですか?

JIDAI:スノーモービルは、日本では盛り上がっているスポーツなのですが、まだまだ認知度が十分ではないスポーツなんです。そのスノーモービルを少しでも映像で盛り上げたいと相談されたのが、この撮影の始まりです。

ただ、雪の中での撮影は初めてだったので、本当に苦労しました。

——どんなことに苦労されましたか?

JIDAI:まず、雪限定の工夫を多々しましたね。

FPVのバッテリーは寒すぎると電圧が下がって使えなくなってしまうので、カイロを巻き付けるんですけど、これをしっかりやらないとプロペラでカイロが破けてしまうんです。ただでさえコンパクトでデリケートな機体なのに、カイロを付けるだけでも大変で。

あとは、プロポ(送信機)も指が滑ってはいけないので、指が出ている手袋を使うのですが、手がかじかんで上手く操作できなかったり...。

——雪の跳ね返りがドローンに当たったりするのですか?

JIDAI:もちろんあります。ドローンをスノーモービルの後ろに飛ばすので、ものすごい雪が降りかかって来るんですよ。ゴーグルの視界用のカメラに雪が付くので、視界が一気に真っ暗になります。その時はドローンを下に落として、拾い上げます。

——わざと落とすんですか?

JIDAI:そうですね。FPVドローンにはいくつかの飛行モードがあって、その中になるべく地面と水平を保ってくれるAngleモードっていうのがあります。そのモードにしてからドローンを落とすのです。

この撮影では、雪が付く直前までコースが見えていたので、コース外に少し移動してからゆっくり落として電源を切る、というようなことをやってましたね。

——本格的にFPVドローン撮影をしてから間もないのに、この環境での撮影は怖くなかったですか?

JIDAI:めっちゃ怖いです。もう本当にシミュレーターとは訳がちがいます。指もめちゃくちゃ震えますし、心臓もバクバクでした。たくさんの方が協力してくれているので、失敗もできませんし。

今思うと、たしかに怖かったです。

ただ、迫力のあるかっこいい映像にしようと必死でした。

JIDAI:だから、ギリギリを攻めた撮影をしました。

スノーモービルのスレスレを撮るカットが撮りたくて何回もテイクを重ねました。下から撮り始めて、スノーモービルが来る直前で上に抜ける。アングルも最後、常に被写体を追従するように、機体をクルって下に回転させました。通常の速度だと本当に一瞬なんですけど、Go Proの240フレームで捉えたらこの映像になるんです。

JIDAI:撮れた瞬間は叫びましたね。「ヤバいの撮れたっ!!」みたいな感じで。

この時の達成感はものすごいものがあって、みなさんにもすごく喜んでいただけました。

スノーモービルとFPVドローン、ともに国内ではまだ認知度が低い者同士が協力して、ここでしか撮れないかっこいい映像にできたと思っています。

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1gレベルでこだわる「剥きプロ」の世界

——FPVドローンを始める際は、どのように技術を磨かれたんですか?

JIDAI:パソコンで擬似的に操縦できるシミュレーターがあって、実際に飛ばす前にかなりやり込みました。多い時は1日10時間くらいやっていたと思います。

最初の1週間くらいはイメージする動きに指が追いつかず、運転酔いもキツかったです。またコントローラーには滑らないように凹凸が施されていることもあって、指の皮がボロボロになっていました。

ただ僕は元々、寝る間を惜しんでFPSをやるくらいのゲーマーだったんで、シミュレーターを使った練習はまったく苦じゃありませんでしたね。

実際に撮影で使われているドローン。「5インチ」と呼ばれるオーソドックスな機体(写真=上)と、人に接近できるマイクロドローン(写真=下)

JIDAI:しっかりシミュレーションした後に実際に練習場で飛ばした時は「あ、これはゲームと一緒だな」って感じました。

——「ゲームと一緒」という感想が、今どきなように聞こえますね。最初に苦労されたのは、どんなことでしたか?

JIDAI:はんだ付けですかね。

——はんだ付け、あの電子工作で使う?

JIDAI:はい、そうです。DJIなどのメーカーから販売されているFPVドローンは買ってすぐに飛ばせますが、プロが業務で使うものは基本的にパーツから自作します。

フレームやモーターなどを自分ではんだ付けして組み立て、パソコンでチューニングして、カメラを載せるんですよ。ネットにもほとんど情報がなく、知り合いや頼れる伝手もなかったので、完全に手探りでした。機体が届いてから2週間以上は飛ばせなかったと思います。

もはや、カメラの撮影とはまったく異なるスキルが必要になってくるんですよね。

——カメラを組み立てるようなものですからね……。例えばこの動画でも自作のFPVドローンが使われているんですね。

JIDAI:この撮影で使ったのは200gくらいの軽い小型の機体で、マイクロドローンとかCineWhoop(シネフープ)と呼ばれています。

ただ、この機体にGoProなどのアクションカムを載せるには、そのままだと重すぎるんですよ。だから、そこでアクションカムを分解して、基盤とレンズだけの状態にしてからドローンに搭載します。業界では「剥きプロ」と呼ばれる方法です。

現行のGoProは約120〜150gですが、剥きプロで25〜50gくらいにまで軽くできます。

FPVドローンは10g違うだけでも、カーブのしやすさや、降下時の取り回しやすさがまったく変わるので、この作業が必須です。

あとFPVドローンには「フライトコントローラー」という機体の姿勢を制御するための基盤が搭載されていて、数値を変更することでコントローラーの感度を調整することもできます。ドライバーによって好みの感度が異なるので、自分に合うように微調整が求められます。

——これだけ軽い機体に精密機器を載せるのは、少し不安な感じもしますね。

JIDAI:正直、めちゃくちゃ壊れやすいので消耗品とわりきっています。

ドローンの価格は3万円くらいからのピンキリなのですが、一度だけ40万円くらいのドローンを、しかも練習で墜落させてしまったことがあって。その時は、さすがに顔面蒼白でしたね(苦笑)

——FPVドローンにはシネマカメラを載せることもできるんですよね?

JIDAI:はい。大きいカメラになると、FPVドローンもプロペラが8枚付いているような大きな機体になります。ただこれくらいの規模になると企業が使うことが多いです。

僕個人が使っているものだと、BMPCCくらいまでです。

これもそのままだと重いので「剥いて」使っています。海外では流行っていますが、おそらく日本で剥いて使っているパイロットは数人しかいないと思います。

新規参入を阻む壁

——撮影の際にご自身の中でこだわっていることやルールはありますか?

JIDAI:「100%を出そうとしない」ことです。

——100%を「出さない」ですか?

JIDAI:はい。ここまでポジティブな話が多かったんですが、やはりFPVドローンは危険と隣り合わせな面があります。被写体への衝突は絶対に避けなければいけません。

JIDAI:普通のドローンは出せても50〜60km/hくらいですが、FPVドローンは最速で150km/hを超える速度に達します。

僕のモチベーションやテンションで全力で攻めたことで、大きな事故につながってしまってはいけないので、80%の力で監督さんや、クライアントの方々が求めるものを撮れるように心がけています。

——いかなる場合も安全が最優先ですね。

JIDAI:そうです。さらに、撮影時の安全もそうなのですが、実はバッテリー管理にも気を遣わないといけなくて。

DJIのドローンだと、バッテリーの放電を80%くらいまで自動で行なってくれるのですが、自作したものだと自分で放電しなければいけません。放電しない状態で、高温の所に置いておくとバッテリー内の電圧が上がって爆発することもあります。

充電は必ず目の届く範囲で、バッテリーに異常が起きてないか監視しながら行わないといけませんし、持ち運ぶ時も耐熱用の容器に入れて火が出ても燃え広がらないようにします。

管理面でも危険が伴うので、ドローンを扱うための正しい知識が絶対に必要になるのです。

——撮影に管理、さらにドローンの話で避けては通れないのが法律に関わることです。これも新しい人が参入する障壁になっていると聞きます。

JIDAI:確かに資格や法律の面はハードルになっていると思います。

例えばDJIのMavic Miniという本体の重量が199gの機体があります。

これまでは200g未満ということで航空法の規制対象外ということが売りの機種だったのですが、2022年6月の法改正(※2)によって、機体登録なしでは飛ばせなくなってしまいました。

※2:2022年6月20日から、重量100g以上の機体が「無人航空機」の扱いに変わり、飛行許可承認申請手続きを含む、航空法の規制対象になりました。(国土交通省「無人航空機の飛行ルール」)
https://www.mlit.go.jp/koku/koku_fr10_000040.html

JIDAI:そのほかにも、航空法とは別に電波法にも関連して、無線免許の資格が必要なケースがあったりと、ドローンの法律は多岐に渡ります。さらにルールは年々改正されていくので、継続して学び続ける必要があります。

僕は担当の行政書士さんとやりとりをしながら、1年間の包括申請で飛行許可をもらっていますが、それ以外にも、イベントや夜間に飛ばす場合など、個別で国土交通省への申請が必要になることがあります。

都度、法律のプロと何度も打ち合わせをして、撮影の1週間前になってようやく申請が下りる、みたいな感じが多いですね。

正直、これから新たにドローンを始めるとなると、ハードルの高さは否めません。

現状はFPVドローンの情報が少ないということもあるんですが、国による広報活動が手薄だと感じています。なので、そこを僕たちが担っていかないと、日本のFPV市場が育っていかないと危惧しています。

JIDAI:実は最近、FPVドローン株式会社という企業にジョインして、基本的な法律から申請まで、FPVドローンを飛行させるための手順を学べるオンラインスクールのコンテンツを作っています。

入口の敷居を下げることで、FPV人口が増えるような活動を行なっていけたらと考えています。

FPVドローンクリエイターとして市場を切り拓く

——改めて、JIDAIさんがそういったハードルを乗り越えてでも、FPVドローンに取り組みたいと思える魅力は何でしょうか?

JIDAI:まさに自分自身が飛んでいる感覚を得られることは、FPVパイロットにしか味わえない貴重な体験ですね。

あとは誰もやったことがないトリックを使って撮れた時の、あふれ出るアドレナリンというか興奮も、自分にとっては大きな原動力になっていると思います。

——先ほどのスノーモービルの撮影の話もそうですが、撮り手の感情が伝わるような映像を作っていきたいと。

JIDAI:昔から、リアクションでリアルな感動や興奮が伝わる映像が好きだったんですよ。アスリートが難しいトリックやパフォーマンスに挑戦して成功した時の姿や、目に見た景色から言葉にならない感動を感じている姿、純度100%のそのままの気持ちが伝わる映像が好きなんです。

だから、僕がFPVの映像を通して一番伝えたいのも「撮影を通して得られた興奮や、撮り手の感情が動く様子」なのかもしれません。

そういった意味では、親和性の高いアクションやモータースポーツはこれからも撮っていきたいです。

——ありがとうございます。最後に、今後の抱負を聞かせてください。

JIDAI:まずは自分がFPVドローンでかっこいい映像を作ることで、FPVの認知を広げていきたいです。

その結果、FPVドローンのパイロット人口が増えたら良いなと思っています。

これまではフリーでやってきましたが、組織に属したことで、より大きな規模の仕事もガツガツやっていきたいです。

将来的には映画のアクションシーンなんかが撮れたら良いですね。『ワイルド・スピード』のドリフトシーンみたいな。海外のパイロットはすでに映画を撮り始めているので、日本も負けていられないです。

——そのためには、どのような具体的な行動を考えていますか?

JIDAI:ここ1年くらいはかっこいい映像を撮ることに重点を置いてきましたが、向こう1年は撮る以外にも編集にも力を入れてやっていきたいです。今後はさらに編集力を上積みしていくことが、他のFPVパイロットとの差別化にもなるのかな、と思っています。

今はFPVドローンでもシンプルなカットで美しい画を魅せるシネマティックな表現が主流で、グレーディングなどのスキルも求められるようになっています。

ドローンを飛ばせるだけの「パイロット」でなく、構成、撮影、編集まで全部こなせる「FPVドローンのクリエイター」として評価されるように取り組んでいきたいです。


様々なハードルがありつつも、誰も見たことのないFPVドローンならではの映像を極めようとするJIDAIさん。

その姿は、まさに“夢中”そのものでした。

特集企画「ネオな時代にクリエイターは、何を考える?」第2弾は映像クリエイターのJIDAIさんでした、次は映像クリエイター・大島海人さんです。

大島さんは、既存の考え方を踏襲しつつも、これまでの考え方を壊そうとする姿勢がありました。しかし、誰よりも“普遍”であることに、大島さんは悩んでいる姿が印象的でした。

映像と向き合い、時には既存の考え方を壊して進むその“果敢”な姿は、このネオな時代に必要な、あるべき姿かもしれません。

4月27日(木)10:00 公開予定
映像クリエイター 大島海人は、誰よりも“果敢”だった。ネオな時代にクリエイターは、何を考える?【映像クリエイター 大島海人 インタビュー】

※ドローンは、飛行地域の現地の法および規制に厳密に従って、飛行する必要があります。このインタビュー記事内でふれている情報はごく一部の情報となります。飛行を行う際は飛行地域への事前申請や、ドローン飛行に関連する法律の情報・飛行ルールに関する情報は、国土交通省「無人航空機の飛行ルール」のページを確認するようにしてください。
https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk10_000003.html

INTERVIEW・EDIT_菅井泰樹 / Taiki Sugai(Vook編集部)
TEXT_水野龍一 / Ryuichi Mizuno
PHOTO_安川翔麻 / Shoma Yasukawa(GLAM inc.)

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