【Nikon Z 8最速レビュー】フラッグシップに迫る性能とミドルクラスの取り回しを共存。思い描く映像を具現化する名機の誕生

2023.05.11 (最終更新日: 2023.05.26)

昨今、映像作品撮影用として注目を集めるミラーレスカメラ。Nikonは「Z シリーズ」を展開し、ビギナーからプロまで幅広い層の映像クリエイターから熱い支持を集めています。

そして今回、Z シリーズの新たなラインナップとして登場するのが「Z 8」。

現行のフラッグシップ機であるZ 9の性能水準を受け継ぎながら、コンパクトボディによる高い機能性を実現しています。

そんなZ 8は映像のプロの目にはどのように映るのでしょうか。今回は写真・映像をベースにしたクリエイティブスタジオ「bird and insect」のShuma Janさん、阿部大輔さん、のおふたりに、作例を通じたZ 8の感想をお伺いしました。

  • bird and insectShuma Jan

    Movie Director / Editor。2018年にbird and insectに加入。ヒーローになりたかった幼少期。現実の厳しさを知った学生時代。ヒーローになる以外の選択肢を考えていなかったので途方にくれる。夢を見続けたい。そんな僕を救ったのは映像でした。これからもワクワク、ドキドキするものを作りたい。

  • bird and insect阿部 大輔

    Cinematographer / Photographer。1989年、長野県生まれ。上智大学の英文学科を卒業後、アパレルメーカーで7年間勤務。趣味としていた写真を仕事にすることを決意。2018年にbird and insectに加入し、現在では広告、ブランドムービーなどを中心に写真、映像を撮影している。

Z 9の性能水準そのままにコンパクトさと高い機能性を実現

——まず初めに、普段お使いになられている、カメラについてお聞かせください。

阿部:Nikonのカメラで言うと、一眼レフの時代からずっと使っています。今はZ 9をメインに、写真・映像どちらも撮影しています。

Shuma:仕事ではZ 9を使った撮影を経験しています。プライベートではここ3~4年くらい写真をメインにZ 6を使っていますね。

阿部:Nikonはちょっとコントラストが高めに出るのですが、そのあたりがbird and insectというチームが求める画づくりの特徴に合致しています。僕個人としてもチーム全体としても、このNikonの出す雰囲気に好感を持ちながら使わせてもらっています。

——おふたりともZ 9も使われている経験がある中、今回Z 8で撮影されましたがファーストインプレッションでは、どのような感想を持たれましたか?

Shuma:Z 9を使った経験から画が良いだろうとは予想していましたが、Z 8はとにかく軽いのに驚きました。すごく手に収まりが良いです。

Z 6のフィット感よりも数段優れていると感じましたね。全てのボタンが押しやすいなというのが率直な気持ちです。

阿部:僕も似たような感じですね。Z 9は縦位置グリップがある分、ジンバルに乗せた時にバランスの取りづらさを感じていました。Z 8は縦位置グリップがなくなった分、約430g軽量化されて、とても取り回しがしやすかったです。Z 9の性能水準はそのままに、ボディも約30%小型化になり、ジンバルに乗せても圧倒的にバランスが取りやすくなったのは、すごく好感が持てます。

——今回はポートレートとショートフィルムの2つの作例を作っていただきました

ポートレート

ショートフィルム「action」

——2作品ともShumaさんが企画、ディレクション、編集で、阿部さんが撮影を担当されたとのことですが、まず今回の企画はどのような経緯で思いつかれたのでしょうか。

Shuma:純粋に「このカメラからはどんな画が出てくるのだろうか」という興味から企画が立ち上がりました。何もせずそのまま出てくる画を見るために、ポートレートではあまりフィルターワークや照明を使っていません。逆にショートフィルムでは、どれだけ柔軟かつリッチな画を出せるかを見たかったので、しっかりチームを組んで照明も組みました。

ロケーションに伊豆大島を選んだのも、今回の企画のキーワードである「地球最高」を表現しつつ、ポートフォリオとショートフィルムの狙いを満たせる場所としてぴったりだったからです。

阿部:前提として商業案件にどれだけ使えるか、実用にどこまで耐えられるかという観点がありました。Shumaに企画を出してもらった後は、自分や照明担当も入って、ショートフィルムでできる最大限の表現を話し合って追究した感じですね。

——撮影の期間と順番について教えてください。

Shuma:トータルの日数は4日間です。ショートフィルムを2、3日とポートレートを1日。ショートフィルムを先に撮影して、その後半日くらいポートレートとショートフィルムを半々、最後にポートレートを1日しっかり撮影しました。

阿部:ショートフィルムは8名体制での撮影です。それと反対に、後半のポートレートはできるだけミニマムにしたくて、アシスタント1人と我々2人の計3人だけという構成でした。

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「READY. ACTION.」にふさわしい機動力。一瞬を逃さない取り回しの良さ

——NikonはZ 8のキャッチフレーズを「READY. ACTION.」としています。思い立ったらすぐに撮影できるというような、フットワークの軽さを訴求されていますが、実際にZ 8で撮影をしてそう感じる機会はありましたか?

阿部:感じましたね。今回はショートフィルムもポートレートも共通して、装備は本当に簡易なもので揃えました。カメラは手持ち、もしくは三脚かジンバル。大きな機材はまったく使わず、とてもコンパクトな構成です。

セッティングを変えるときも本当に時間がかからなくて。ジンバルに乗せるのも苦ではありませんし、取り外してすぐに手持ちに切り替えられました。またジンバルに乗せたままポートレート写真を撮影することもあったほど、非常に取り回しが良いと感じましたね。まさに「READY. ACTION.」にふさわしい機動力の高い機種だなと思います。

——演出する側として、Shumaさんが感じたZ 8の取り回しの良さを感じたシーンはありましたか?

Shuma:今回は多くが外ロケでした。ポートレート作品のラストシーンでの撮影では、ちょっとだけ晴れる瞬間を狙って撮っていたのですが、その瞬間を撮り逃さない安心感はありましたね。いろいろなシーンで「今、ここを撮りたい」という瞬間を押さえられたので、頼りがいがあるカメラだなと感じました。

——取り回しのしやすさがよく伝わってきます。実際に撮影のスケジュールは順調に進んだのでしょうか?

阿部:それでいうと、ポートレートは押さずに撮りきれて、ショートフィルムはかなり押しましたね。ショートフィルムでは、やりたい演出に対するカメラのセッティングは割と早めに決まるのですが、その後に照明などをどこまで突き詰めるかで時間が大きく左右されます。今回はかなりしっかり意識していたので、時間を使いましたね。

Shuma:自然物をたくさん撮っていたので、予測できないことが多かったのも原因ですね。いろいろ試しているうちにあっという間に夕方になってしまったり。

阿部:反対にポートレートは難しい演出はせずに照明も使わなかったので、手軽にどんどん撮影できました。もっと撮りたいと思うくらいでしたね。

撮影の様子。ジンバルにカメラを乗せたコンパクトな構成で撮影が行われた

——今回の撮影フォーマットは何を使われたのでしょうか。

阿部:ショートフィルムは4.1K30pと120pの12bit N-RAW。ポートレートは8.3Kでほぼ60pの12bit N-RAWです。このデータを内部収録できるのが非常にありがたいなと感じました。一点、 撮影中もLUTを当てられたらいいなとは思いました。モニターに出力すれば正確な画を見ることができるのですが、それだと取り回しが悪くなってしまうので。
それとN-RAWの画質は高画質モードと標準モードを選べるのですが、全て標準モードで揃えています。

——標準モードにした狙いとは?

Shuma:単純にファイルのデータ量の問題です。8.3K 60pの高画質モードで撮影すると、ファイル量がとんでもないことになってしまうのです。650GBの CFexpress Type Bのメモリーカードが15分くらいでいっぱいになってしまうレベルなので、標準モードでの撮影にしました。

結果、トータルで3.3TBくらいですね。4TBのSSDの空き容量が500~600GBくらいだったと。8Kで撮影した分、ポートレートのほうが割合は多かったと思います。

——今回のZ 8は機体がコンパクトになっている分、バッテリーの持ち具合も気になります。

Shuma:やはりZ 9の方が持ちが長い感覚はありますが、Z 8もかなり持つ感覚はありました。今回の撮影では昼から夕方位までで、バッテリー2個を使い切らなかったと思います。

——感触としては、予想よりもたくさん撮影したのか、それとも綺麗に収まったのか。どちらでしょうか。

Shuma:ポートレートは全尺で1時間くらい。ショートフィルムはちょっと全部並べていないのでわからないですが、思ったよりもサクサク撮れたなという印象です。まさに「READY. ACTION.」で決め撮りできたと思いますので、スケジュールの押し具合から受けるイメージよりもスムーズに進んだ感触があります。

——オートフォーカス(AF)は使われましたか? ぜひ印象を教えてください。

阿部:普段はほとんどマニュアルで撮影するのですが、ミラーレスを使う時はAFを使いたいシチュエーションを選択することが多いです。今回もAFをかなり多用しているのですが、ものすごく食らいついてくれる場面が多かったですね。Z 8の食いつき方には非常に助けられたなという印象です。

——具体的にどのシーンで使われたのでしょうか。

阿部:ポートレートでいうと最初のシーンと、あとはトンネルで回転しながら被写体から離れていくシーン。そこはジンバルに乗せてAF任せにしていました。そのシーンはしっかりと効いてくれた実感があります。

ポートレート作品のワンシーン。前後の動きにもしっかりと対応していた

Shuma:ショートフィルムはマニュアルで撮影しているシーンの方が少ないです。

阿部:そうですね。ショートフィルムではほぼ全部AFです。違和感なくしっかりとAFが効いていました。

——撮影していてここがよかったと思う機能などはありましたか?

阿部:取り回しの良さは先ほど話した通りなのですが、リモートグリップ MC-N10を使った撮影が本当にやりやすかったですね。

ジンバルにカメラを乗せると、その後に設定の変更がやりづらいのですが、リモートグリップがあることでカメラに触れず、手元で操作できるのでかなり便利だなと感動しました。

Shuma:Z 9と同様にUSB Type-Cで給電ができるのは良いなと思いました。

Z 8はZシリーズ初、USB-C端子を2つ採用し、通信用と充給電用と同時接続ができるようになり、リモートグリップMC-N10を使いながら外部バッテリーで給電も可能になった。

阿部:iメニューに設定を割り当てられるのも便利でしたね。全体的に細かいところで、色々と手が行き届いている印象がありました。

画質を落としても芯に残るキレイさが質感と空気感を支える

——今回はカラーグレーディングで気をつけていた面はありますか?

Shuma:実は、ポートレートはZ 8から出てくる画を見たいという意図があったので、あまり激しくグレーディングをやっていません。素材の味を活かすことを意識して、現場で作り込んでいます。

特にポートレートの伊豆大島の裏砂漠で撮影したカットは、現場でモニターを見た瞬間に、人物が際立っていて純粋に「キレイだな」と感じました。個人的にはお気に入りですね。

阿部:裏砂漠は良かったですね。光の状況もよかったですし。自分でカメラを構えて出てきた画を見た時は、内心テンションが上がっていました。

裏砂漠で撮影された、ポートレート作品のワンシーン

——ショートフィルムでは色味についていかがでしたか?

Shuma:ショートフィルムは、モノクロや赤・青・緑、とにかくいろいろなカラーを混ぜて撮影しました。どれも良いなと思っているのですが、共通して発色が良いというのは感じましたね。水の波紋のところは特に「本当にミラーレスで撮ったのか?」と思うほど、モニターで見ていても本当に綺麗でした。

阿部:あの水は綺麗でしたね。僕も「これはいつ撮影した素材から持ってきたんだろう?」って思いましたもん。

ショートフィルム作品のワンシーン。水が波打つ様子が綺麗に表現されている

Shuma:撮影データ全体を見た印象としては、けっこう融通が利くデータだなとは感じました。最近のトレンドとして、後からグレーディングするよりもまずは現場の画づくりからどうにかしようという傾向があるのですが、それを踏まえても後から編集で手を加える楽しみもあります。

阿部:今回ショートフィルムの撮影では、あえてキレイさを落とすことにも挑戦しました。ミラーレス全般に言えるのですが、ちょっとキレイ過ぎるというか。僕は「映像はキレイ=正義ではない」と思っていて。今でも4KのRAWが撮れないシネマカメラが第一線で活躍しているのは、質感や空気感が大切だからだと思います。

今回はフィルターをいろいろ変えてみたり、フィルターにセロハンテープを貼って画質を落としてみたりやってみたのですけど、その結果出てきた画が本当良かったです。画質を落とす効果がしっかりと出つつも、元のキレイな画質がストレートに残っていたからこそ生まれた、雰囲気や空気感があるのだなと実感しました。

Shuma:デジタル全般にいえますが、デジタルって少し硬くなってしまうのです。どうにかして柔らかくしよういろいろ手を尽くすのですが、Z 8は画質を落とした後でも芯に残るキレイさがあるのだと分かりました。本当に良いカメラです。

——今回はどのようなレンズを使われたのでしょうか。

阿部:「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」「NIKKOR Z 85mm f/1.2 S」「NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S」を使いました。一番多く使用したのは「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」ですね。僕個人の画づくりの方針も影響していますが、ちょうど良く全てを映し出しながら画づくりできるのが、この50mmだと思っています。

——他のレンズはどのようなシーンで使われましたか?

阿部:35mmはちょっと広めで撮りたいシーンが中心。あとはポートレートの中にある森のシーンで、顔に寄ったシーンは35mmを使いました。

ポートレート作品のワンシーン

阿部:50mmでは出せない、ちょっとドキッとするような画角感を出したいなと思って。85mmもf/1.2というところにすごく興味があり、ポートレートの写真撮影では多用しています。

また85mmはフィルター径を82mmに“抑えてくれている”のがすごく使いやすいなと感じました。レンズの先がすぼまっているんですよね。だいたい円形のフィルターの最大口径が82mmで、85mmレンズはあの太さなのに82mm口径に抑えてくれているのが、クリエイター目線で考えられているなと感動しました。

Shuma:あと105mmは物撮りで使いましたよね。

阿部:そうですね。花を撮ったとき、モニターに出た画を見てみんな口を揃えて「すごくキレイ」と言っていました。レンズだけでなくカメラ本体の合わせ技かもしれません。本当にキレイな画が出てきてくれて良かったです。

シュートフィルム作品のワンシーン

絶妙のサイズ感と性能、頭に思い描いたものを形にするカメラ

——今後Z 8をどのようなシーンで使ってみたいと思われますか?

Shuma:僕はディレクターなので自分で撮ることは少ないのですが、自分でカメラを回す必要があるときに、手軽に回せるのはすごく良いなと思います。撮れる画はしっかりしていますし、それこそオートフォーカスの性能も十分です。

なので、常にバリバリやっているプロのカメラマンでなくても、頭に思い描いたものを形にしやすいかなと思います。今まで人に任せていた部分もこのカメラならできることがあるのではないかと思います。まだ今回の撮影でしか使っていないので、これからも継続して試してみたいなと思いました。

阿部:bird and insectはコンパクトな現場が多いので、フォーカスプラーがいることがほとんどありません。そういった現場で素早い動きをする被写体を捉えてもらうには、ちょうどいいカメラですよね。

シネマカメラで撮るには難しい「自転車に乗る人の表情」とか撮ってみたいですね。これまではそういったシーンでZ 9を使ってきたのですが、これからはZ 8を使う機会が増えそうな予感がします。

個人的には、僕は写真も映像も両方撮影するので、プロユースで撮れるという意味では機材が半分になるのがありがたいなと。両方の機材を全部持っていかなくても、Z 8が1台あれば同じレンズで全部撮れますので。1台プラス三脚とジンバルがあれば十分に、写真と映像の案件を撮りにいけるカメラだと思いました。

Shuma:本当にサイズ感が絶妙に良いですよね。僕はリアルに買おうかなと思ってますよ(笑)

作例映像はNikon Z 8サンプル版にて撮影

映像ディレクターの佐々木章介さん、三室力也さんのNikon Z 8レビュー記事も公開中!
ぜひこちらも合わせてご覧ください↓

■Z 8 スペシャルコンテンツページ
https://www.nikon-image.com/sp/z8/

■Z 8 ONLINE LAUNCH EVENT(ニコンイメージングジャパン公式YouTubeチャンネル)
https://www.youtube.com/user/NikonImagingJapan

■Z 9 MOVIEスペシャルサイト
https://www.nikon-image.com/sp/movie/z9/

■ニコンダイレクトページ
https://shop.nikon-image.com/

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