「好き」な気持ちと大きな志を持って映像業界に飛び込んだものの、自分の強みがわからず、目指すべきところを見失ってしまうクリエイターは少なくありません。
数多のライバルがひしめく中で、いかに他者と差別化して自分をブランディングしていくのか。多くのクリエイターの共通の悩みと言えるでしょう。
今回インタビューした、アパレル映像やミュージック・ビデオの制作を中心に活動する大島海人さんもそのひとりです。
日々、自分の映像と向き合い、不安に押しつぶされそうになりながらも、それでも果敢に前を向く大島さん。競争が激しい時代を生きる映像クリエイターの等身大の姿と葛藤、思い描く未来図を聞きました。
映像クリエイター 大島 海人
神奈川県出身。東海大学工学部在学中から、学業・部活動の傍らで映像制作に携わる。卒業後は株式会社WOWの制作部門「BLACK FILM」に所属して経験を積み、その後独立。「BLACK FILM」や映像制作チーム「TRIBLUE films」でもディレクター・カメラマンとして活動する。
Instagram:@umintyu_27
周囲の期待に応えようと、真面目に生きてきた
——大島さんは学生時代から映像のお仕事をされていたと伺いました。
大島:はい。大学では就活が始まる半年くらい前から、本格的に映像の仕事を受けるようになりました。
そもそものカメラとの出会いは高校時代で、父が使っていたオリンパスの一眼カメラを借りて、ストーリースナップを撮って遊んでいました。
大島:大学に入ると、当時、すでに人気が出始めていた大川優介さんに影響されて、同じクラスにいた映像好きなやつとポートレートムービーを撮ったりしていました。
次第に周りから「めっちゃ、かっこいいじゃん!」と言ってもらえるようになり、それが気持ち良くて、ますます映像の楽しさにのめり込んでいきましたね。
そうしている内に、インスタのDMで映像監督やクリエイターの方に連絡をして、アシスタントのお仕事をいただくようになりました。在学中は就活もほとんどせず、そのまま映像の世界に入っていった、というこれまでの経緯です。
——映像業界に進むと決めたとき、家族の反応はいかがでしたか?
大島:実は家族から「地元に就職先の伝手があるから、そこに行くよね?」とも言われてたんです。家族は僕がそこに行くと思っていたはずです。
僕自身、そっちの道を選んだとしても、きっと楽しく、それなりに上手くやっていけるんだろうな、という気持ちもありました。でも、誰かの力を借りて就職するというのが、僕の中ではしっくりこなくて。
それまではわりと親の目線を気にして、その期待に応えようという人生だったと思います。だからそれを辞めたい。自分自身がちょっと違うと思っていることをやり続けずに、これからは自分の意志で決断しようと、カメラマンとして仕事をしていくことを告げました。
急にそんなことを言うので、両親はショックを受けていたかもしれません。でも両親から「ダメだったら、いつでも言えよ」と背中を押してもらえました。
その後、WOWのBLACK FILMという映像制作チームを経て、今は独立して活動しています。
——自身の思う方向へ進んだのですね。
大島:その伝手の会社には、広報があったのでそこで映像制作をするっていうのも考えたんですよ。でも自分がやりたいと思っている映像はそういった方向じゃなくて、MV(ミュージック・ビデオ)だったので、やっぱりイメージと離れちゃったんですよね。
——昔からMVは好きだったんですか?
大島:小さい頃からMVが好きでした。普通、小さい子は曲に興味を持つと思いますが、僕は当時からビデオの画作りとか、ストーリーに引き込まれていました。
友達に「あのMVすごくない?」って言っても、ぽかん、とされていましたね(笑)
——特に印象に残っている作品はありますか。
大島:例えばUVERworldの『THE OVER』なんかには、すごく影響を受けました。
作中ではある幼馴染が結婚し、子どもが生まれ、年老いていくまでの一生の様子が描かれています。
ロケーションではなく、スタジオに暗幕を張って撮影されたシンプルな作品なんですが、最後のシーンではガツンとくらいましたね。
楽曲と歌詞と映像という複数の要素を下に、ストーリーを深く理解していく感覚が楽しくて。
YouTubeのコメントを読んで「あぁ、そういう解釈もあるんだ。MVって深いなぁ」と感じたことが、僕の映像制作の原点です。
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今どきの“ネオ”なかっこよさ
——社会人としては1年が経ったばかりですが、すでにたくさんの作品に携われています。例えば、近藤千尋さんが出演されたJOURNAL STANDARDのショップクルーズの映像。こちらはどんなことを意識されて作られたんですか。
大島:2022年の10月にBAYCREWS Official channelにアップされた映像ですね。オープニングの撮影編集と、本編のカメラを担当しました。
僕の中で近藤千尋さんはテレビや雑誌の人というイメージがあって、今回のようなYouTubeのオープニング映像って、あまり見たことがないな、と感じていました。
なので、現場ではテレビでは撮らない画角だったり、ジンバルワークを使ったり、敢えてスチールカメラの後ろから撮ってみたり……。視聴者が見たことがない近藤さんの表情を映そうと工夫しました。
あくまで、ここはオープニングなので、本編へスムーズにつなぐためにも、あえてパパンっとテンポよく見せました。また「情報量が多い」というのも、ねらいだったりします。
この3分割のシーンもそうで、映像の中に映像を入れたり、動きの上に動きを重ねて立体感を持たせる表現は、今の若者がかっこいいと感じやすい見せ方だと思っています。
ハイテンポで、さらに、情報量を増やすことで、視聴者には「え、今、何が起きた?」という感覚を抱かせることができます。
あえてわかりづらくすることで、興味を引くような感じでしょうか。
ワンカットで長く見せる映像もかっこいいんですが、それとはまた別のかっこよさがあると思います。
——なるほど、「立体感を持たせる」というのは新鮮な感覚です。特徴的なテンポで言えば「MISS GRAND JAPAN 2021」の水野ちいかさんのプロモーション動画も、とにかく「速い」です。
大島:撮影前に大会の主催者の方と話す機会があって、これまでの「綺麗」とか「コンテスト感」みたいな既成のイメージをいったん壊してみたい、と伺いました。
「本当に壊して大丈夫なのかな?」と思いつつ作ったこの映像は、主催者を含めて、多くの好評の声をいただきました。
既存のイメージに捉われることはないんだ、ときには「ぶっ壊して」もいいんだ、と考え方が変わった作品です。
——「ぶっ壊す」という、一見、パワーのある言葉ですが、そこには再構築であったり、新しい道を引き直す、という行為も含まれますね。
大島:まさにそうですね。今までのやり方を踏襲する必要はないんだと、気付かされた作品です。
「自分の色が欲しい」という焦り
——ところで、2022年7月に投稿されたインスタのコメントが印象深いです。その真意を教えてください。
大島:このテキストは「ありがちな映像クリエイター」に成りかかろうとしている自分への戒めと、決意を込めて書いたことを覚えています。
これは学生時代に友だちと「やっぱシネマティックな動画はかっこいいよな」と、山登りに行って撮ったものなんですが、今ってこういうポートレートムービーがあふれ返ってますよね。
傍からこの映像を見たら「あぁ、こいつもやってるわ」って感じだと思うんです。
綺麗な映像を写すってことに意味はあると思いますが、今の自分にはこのような「量産された映像」には面白さを感じません。
テーマ、コンセプト、撮影者の心境……。こういったものがよく分からない、ただ大量の映像を生み出しているクリエイターのひとりにはなりたくないなって。
大島:もちろん、真似をすることは何も悪くないと思いますし、「型」を学ぶことは大事だと思います。僕も最初はいろんな作品からインスピレーションをもらって、参考にしながらたくさん撮りました。
でも、ある程度、自分の中で映像に対する考え方が出来上がってくると、真似をしているだけでは、他者とは差別化できないことに気づいてきます。
この動画を作ったときのような純粋に好きという気持ちと感性は大切にしつつも、自分のテーマを掲げて、意図のある制作をしていかなくては、という危機感もあって、このコメントを書いたんだと思います。
——このコメントを読んで、今まさに、もがき苦しみながらも次のステップに這い上がろうとしているクリエイターを応援したいという思いで、大島さんにお声がけさせていただきました。
映像業界の盛り上げには、大島さんのような次世代のクリエイターの活躍が必要です。
このような葛藤の中で、自分の原動力になっているものは何だと思いますか?
大島:誰かに認められたい、喜ばれたい、有名なブランドの映像を撮ってすごいと言われたい、みたいな承認欲求はあります。
その上で……。自分の映像の「色」を広めていきたい、という思いが、僕を動かしているのかもしれません。
——自分の色ですか?
大島:はい。今はとにかく自分の映像の「色」が欲しくて。
同年代のトップクリエイターだと、例えばSOLO君は、魚眼レンズで撮影された映像だったり、圧倒的な情報量を詰め込んだ編集、その上でSOLO君が持つ独特の気持ちの良いテンポ感でとにかく僕たちの世代が「かっこいい!」と思う映像を作っています。もうすでに「SOLOの映像」というものが完成されていると思っています。
自分にも「大島海人ならコレ」というものが欲しいんです。
——大島さんはまだ20代前半ですよね。これから実績を積み重ねていけば、自ずと自分の強みや色がわかるようになるとも思いますが。
大島:確かに色を出すことって、時間がかかることなのかもしれません。でも、正直、バリ焦ってます。
BLACK FILMで尊敬するデス彦くんの作品には色があって、一見するだけで、それが彼の作品だと分かります。
デス彦 Deathhiko 【Tomohiko Yoshida】
https://www.instagram.com/death.hiko/?hl=ja
大島:やっぱり、彼くらい経験を積まないと「自分の色って出てこないのかな?」と思うこともあります。でも、今の自分の年齢でも出してみたいんです。そうすれば、いろんな人とつながれたり、自分の表現を広げられるんじゃないかって思います。
あと、僕はけっこう他人と比べちゃうクセがあって。それで焦ってしまっているのかもしれません(苦笑)
他のクリエイターと自分を比べて「俺なんか…...」って自信がなくなってしまったり「まだまだ自分の映像はいける!」と思えたり……。
いずれにせよ、最近は「目標にしているのはそこじゃない」「ウォン・カーウァイさんのような映像を目指すべきだ」と考えるようにしています。
周りと比べてしまうのは、まだまだ自分の視点が低いからだと思うんです。
もっと上を見ていれば、駆け上がることに必死で一喜一憂することなんてない。そう自分に言い聞かせています。
もちろん、周囲のクリエイターのことを蔑ろにする訳ではなく、同じ方向を向いている仲間として最大限にリスペクトしています。
映像を好きになったきっかけを、心の真ん中に置いて
——これから力を入れていきたいことはありますか?
大島:今は「TRIBLUE films」という、同い年4人のクリエイターチームでも活動しています。このチームを「天才クリエイター集団」としてライジングさせることも目標です。
TRIBLUE films
https://www.instagram.com/triblue_films/reels/
大島:やっぱり、同い年で「やってやるぞ」と同じ方を向いて映像を作っているときの一体感は楽しいですね。
そこでは、自分はディレクター的な立ち回りをすることが多いです。将来的なことを考えると、ディレクター、いずれは監督的な立場で作品作りをしたいな、という思いがあります。
あとは今回のように、自分の思っていることを言葉にする機会を増やしていきたいです。
大島:海外での活動も視野に入れたとき、向こうではアイデアをまずは言語化して、それを映像に表現できなければ、周りは動いてくれない、という話をよく聞きます。
センスや技術があるだけでは通用しません。まずは日本にいる内に、自分が表現したいこと、考えていることを言葉に表せるように、徹底したいです。
——良い考え方ですね。最後に、これから具体的にやってみたい作品はありますか。
大島:昔から好きだったMVは、これからも作っていきたいですね。
BLACK FILMに入って、初めてデス彦くんに会ったときに言われたことがあるんです。「自分が映像を好きになった理由を忘れるな」って。
自分が好きで入った業界ですが、ときには「何か、違うな」と感じることもあったりします。そんなときに、シネマティックムービーやMVを見ることで、初心に帰れる瞬間があります。
映像が好きになったきっかけを心の真ん中に置いて、これからも活動していきたいですね。
あとは……。人に語れるような経験が積まれたときには、自分の人生を脚本にして、映像に残したいですね。同世代のクリエイターといっしょに作ることが、映像クリエイターとしての僕の夢です。
「大島海人ならコレ、というものが欲しい」と語った大島海人さん。
インタビュー中も、ノートを片手に、自分の言葉を探すその姿がとても印象的でした。
自分の強みが何かと考え、悩む道は、簡単に抜け出せません。それでも言語化を行い、困難な道を果敢に歩もうとする姿勢は、映像クリエイターに必要な姿なのかもしれません。
特集企画「ネオな時代にクリエイターは、何を考える?」第3弾は映像クリエイターの大島海人さんでした。
特集企画「ネオな時代にクリエイターは、何を考える?」第1弾
目では見えない世界を表現したい。新進気鋭・SOLOは誰よりも“猛進”していた【映像クリエイター SOLO インタビュー】
特集企画「ネオな時代にクリエイターは、何を考える?」第2弾
「ただのパイロットではなく、クリエイターとして評価されたい」JIDAIが切り拓く日本のFPVドローンの現在地【映像クリエイター JIDAI インタビュー】
INTERVIEW・EDIT_菅井泰樹 / Taiki Sugai(Vook編集部)
TEXT_水野龍一 / Ryuichi Mizuno
PHOTO_加藤雄太 / Yuta Kato
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
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