昨今、映像作品撮影用として注目を集めるミラーレスカメラ。Nikon は「Z シリーズ」を展開し、ビギナーからプロまで幅広い層の映像クリエイターから熱い支持を集めています。
そんなZ シリーズに新たにラインナップされるのが「Z 8」です。現行のフラッグシップ機であるZ 9 の性能水準を受け継ぎながら、コンパクトボディーによる高い機能性を実現しています。
そんなZ 8は、映像のプロの目にはどのように映るのでしょうか。今回は映像ディレクターの佐々木章介さんと三室力也さんのおふたりに、作例を通じたZ 8 の使用感について聞いてみました。
- 佐々木章介
フリーランス映像ディレクター。2012年に映像制作を始め、プロダクションを経て2017年に独立。ディレクターでありながら撮影・編集・モーショングラフィックス・VFX等による演出までカバーする。近年は舞台映像やライブ映像の演出も行う。
- 三室力也
映像プロダクションでの経験を経て、フリーランスの映像ディレクター、モーションディレクターとして活動中。 監督作品の映画『Sampaguita』が第18回ロサンゼルス日本映画祭に入選(2023) 。
異なるトーンで描くダンスシーンをZ 8が表現
——今回佐々木さん、三室さんの共同制作で、Z 8で撮影された映像作品ですが、どのような条件での撮影だったのでしょうか?
Z 8で撮影した佐々木さん、三室さんの作品
佐々木:今回は、「ダンスビデオを撮影してほしい」という依頼でした。普段から多くのダンス映像を撮影している身からすると、ダンス映像は刺さる人と刺さらない人が明確に分かれるジャンルだと思っています。そこで、MVやPV風にすることによって、できるだけ多くの人が楽しめる映像を今回目指しました。
出演をお願いしたのはラッパーのKEN THE 390さん、ダンサーの植木豪さん、松本ユキ子さんのお三方です。皆さんが得意とするヒップホップの空気を感じられる場所はどこかと考えた時に、ポンと思いついたのが倉庫でした。
——今回は全体としては倉庫での撮影で暗いトーンが中心でありながら、屋上の明るいシーンも織り交ぜられた作品となっていますね。
佐々木:これまでのNikon Z シリーズの作例では、全体的に明るいトーンの作品が多い気がしていました。そこで、「こういうのもアリじゃないですか?」と、暗めのシーンで撮ってみたいという気持ちがありました。
また、ヒップホップのカルチャー的にも暗めのルックに寄せたいと思い、力也君とも話ながらルックを決めました。
三室:中盤に登場する屋上のシーンは、佐々木さんが僕の表現もちゃんと取り入れたいと尊重してくれました。
倉庫のシーンと屋上のシーン、2つのルックで描くことで、Z 8で実現できる色幅も見せたいねと話していました。
佐々木:とは言え、トーンがばらけすぎるのも良くないので、倉庫で撮る暗めのシーンでは、照明スタッフにもしっかり入ってもらいました。屋上のシーンは、自然光だけで撮っています。
倉庫シーンの撮影模様
三室:自分たちのコラボレーションをひとつの作品として成立させるためには的なことは、かなり話し合いました。
具体的には、屋上シーンのユキ子さんに着ていただく衣装は倉庫シーンと同じものを使いつつ、ルックも明るくし過ぎずに暗部もしっかりと活かすといった工夫もしています。
屋上シーンの撮影模様
幅広い表現をハイスペックが実現。撮りたいものをいつまでも撮り続けられる。
——改めてZ 8に触れた所感をお伺いします。今回の撮影フォーマットは何を選択されましたか?
佐々木:8.3K/60pのN-RAW(12bit)で撮影しました。今回のように動きがあるムービーにおいて、屋上と倉庫内でのトーンを合わせていくことを考えると、8.3KかつRAWで撮影できるという機能的なスペック(※1)はかなり重要な要素です。
※1:Z 8は、N-RAW(12bit)、ProRes RAW HQ(12bit)、ProRes 422 HQ(10bit)やH.265/HEVC(8bit/10bit)の高品質な映像をカメラ内で記録可能
三室:屋上と倉庫の切り替わりは、人物のサイズ感が近い方がなめらかになりますよね。撮影時にもある程度は意識していますが、編集で微調整したいなというところはあります。4K納品前提だと8Kで撮影できた方が絶対に良いですね。
従来はフルHD納品が主流でしたが、これから8Kカメラが普及するにつれて4K納品が増えていくはず。カメラの進化でクライアント側の意識も変わっていく気がします。
佐々木:納品するデータは4Kの方が絶対に良いし、撮影時は8Kの方が良いですよ。撮影データが4Kなのに4Kで納品するのは本当に怖いです。正直、6Kで撮影しても足りないと感じます。
また、ちょっと映像を面白くしたいときに人物をマスクで切り抜くなどの加工をするのですが、8Kの方がエッジを残したままキレイに抜いてくれるんですよね。
フルHDとかで撮影したら、絶対にキレイに抜けません。そういう表現の幅を広げるという意味でも、8Kで撮影できるのは大きいと思います。
人物をマスクで抜き、モーショングラフィックスを追加したシーン
三室:そうした選択肢の多さですよね。
後から加工できる8Kだからちょっと甘く撮影してもいいやということではなく、しっかり思考して撮った上で、選択肢をさらに増やして編集に臨めると、すごく有効に使えるんじゃないかと思います。
——Z 8ではUSB(Type-C)の端子が2つに増えているのですが、こちらは使われましたか?充給電用と通信用に役割が分かれています。
佐々木:1つは外部モニタの設定用にケーブルを挿していました。Z 8への給電用にもう1つ使えるのは良いですね。モバイルバッテリーによる充電も同時に可能になるわけなので、撮影の幅が大きく広がる気がします。
例えばMVの撮影時に「1曲丸々撮っちゃいましょう」というときには、事前にバッテリー交換をしておきます。ですが、バッテリー交換のためだけにジンバルの位置を変えなければならず、余計な時間を取られてしまうケースが多々あります。そうしたクリエイティブに直結しない時間が減るだけでも現場はスムーズになりますよね。
三室:カメラ内のバッテリーを交換しなくていいということは、バランスを取る必要もないですよね。リモートグリップ MC-N10を使いながら給電もするみたいな撮影スタイルもできそう。
——オートフォーカス(AF)の印象を教えてください。
佐々木:正直なところ、機能面ではZ 9と大きな差はないなと感じました。
Z 9のオートフォーカス自体がかなり良いですよね。なので「すごくレベルが上がった!」とは感じていません。
一方で、ボディーがコンパクトになったZ 8だからこそ、Z 9では活かしきれなかったAF性能を存分に活かせるんじゃないかと思っています。
今回の僕らのようにカメラをダイナミックに動かしながら撮る現場だと、ボディーが軽い方が何かと良いんです。
もし、Z 9で本作のような撮影することになったら、ボディーが重くなる分、カメラワークなどに苦労が増える気がします。
今回は終始動きながら撮影したのですが、ずっとフォーカスが来ていたので、撮影中に不安を感じることはありませんでした。撮影中、ずっと「顔に(フォーカスが)来てる!」って、叫んでいた気がします(笑)
三室:「外れないな!」って、言ってたのを覚えてますよ(笑)
屋上シーンでもかなり動いてましたが、まったく外れませんでしたね。
松本ユキ子さんもすごくダイナミックに踊ってくれていたので、正直フォーカスが外れないか怖かったんですけど、全然問題ありませんでした。
屋上シーンでのカット。
——ボディーとのバランスでオートフォーカスの優秀さがさらに際立つと。それほどにボディーの影響は大きいのですね。
佐々木:MVの撮影で街ロケに行くことになったときに、機材の重さはネックになりやすい。
小さくてハイスペックな機材が登場してくれれば「もうちょっとできたんじゃない?」と思うところにアプローチしやすくなるし、機材が大きく重くなればそれだけアシスタントの数も必要になってしまうんです…。Z 8は、スタッフ数を減らせる(小規模で撮れる)という意味でも優秀ですね。
三室:これは僕の性格的なところもありますが、あまり街中では大きなカメラを使いたくありません。大きなカメラだと、どうしても悪目立ちしてしまうので……。
Z 9がもう少し小さかったらと、ずっと思っていたのでZ 8は街に溶け込みながらハイクオリティな画が撮れるサイズになってくれたと思います。
——Z 9はとにかく頑丈という定評もあります。Z 8の堅牢性はいかがでしたか?
佐々木:今回は特に過酷な環境に持っていったわけではありませんが、使っていて不安を感じるタイミングはありませんでした。
ただ、撮影開始から90分くらいの時点で1度だけHOT CARD(※2)が出てしまいました。あくまで注意喚起のための表示で撮影自体に影響は出ないそうですが、長回しの場合は少しだけ気をつけた方がいいかもしれません。
三室:8.3K N-RAW 60pでガンガン回していましたからね。
むしろあれだけ回しても止まらないことを評価したいくらいです。僕個人はやはり軽い方が好きなので、ボディー側の温度上昇警告で赤くなる高温表示に気をつけながら付き合っていければと思っています。
佐々木:そうそう、すごくがんばってくれた。
それこそ私物のカメラで4K/120pの撮影をすると、すぐに「メディアが追いつきません」みたいなアラートが出て止まってしまいます。
Z 8は、高解像度(大容量)でも長く撮り続けられることも大きなメリットだと思います。
※2 HOT CARDについて: メモリーカードカバーの内側に示されているように、カメラ内のメモリーカードは高温になることがあります。撮影画面にメモリーカード高温の注意表示が表示されたときは、温度が下がって表示が消えるまでカメラ本体やカードに触らないでください。
フルサイズの20mmレンズが生み出す躍動感と表現力
——今回どのようなレンズを使って撮影されましたか?使った理由などもありましたら教えてください。
佐々木:僕はやっぱり50mmが良かったです。35mmも使いましたけど、50mmにしておけばよかったと思ったシーンはありましたね。
あとはフルサイズ機の20mmならでの迫力ある画は、上手く使えたと思います。
50mmの寄りは本当に描写が良かったです。
f/1.2のレンズでf/4にしたので、めちゃめちゃキレが良かった。f/1.2のレンズでf/2.8にするのと、f/2.8のレンズでf/2.8にするのとでは、キレが段違いなんですよ。
f/1.2まで攻められるレンズでKEN THE 390さんに寄れたので、キレが本当に良かったです。
——20mmも多く使われたそうですね。
佐々木:フルサイズの20mmで撮れることが、すごく大きいんですよ。
20mmだとパフォーマンスを全部収めながら近寄れるので躍動感のある画が撮れるけど、シネマカメラのフォーサーズやスーパー35mmだと微妙に足が切れちゃったりしてフレームに収めるのが難しいのです。
KEN THE 390さんと植木豪さんのシーンなんて20mmでしたが、あの小さな倉庫がすごくよく見えました。
三室:自分も20mmは良かったですね。50mmだとジンバルワークに慣れていて安定感がある人じゃないとブレが出てしまいますが、20mmはほとんどブレなかった。
ブレを気にすることなくダイナミックに安心して動けるのは、20mmの強みだと思います。
そういった意味でも、動画向きのレンズだと言えます。
ハイスペック×コンパクトボディーが、今までの不可能を可能にする
——Z 8を今後活用するなら、どのようなシチュエーションで使ってみたいですか?
三室:どんなジャンルでもコンパクトさとハイスペックさを兼ね備えているZ 8の恩恵は大きいと思います。
特に2~3日連続で撮影する必要がある現場や、過酷な環境での撮影では、悩みが減ることでストレスもなくせるZ 8を真っ先に選びたいですね。
佐々木:僕は、また今回のようなパフォーマンス映像やMVをたくさん撮りたいです。
パフォーマンス映像では、ダンサーさんから「こう撮ってほしい」などの要望をもらって、ダンサーさんのそれぞれの表現に合わせた画を撮ることがあります。
そんなときに機材の制約を理由に断るのではなく、ラフに動かしながら撮れるのはアツいですね。
今までできなかったことができるようになる可能性を感じているので、Z 8で実践していきたいと思っています。
作例映像はNikon Z 8サンプル版にて撮影
bird and insect Shuma Janさん、阿部大輔さんのNikon Z 8レビュー記事も公開中!
ぜひこちらも合わせてご覧ください↓
■Z 8 スペシャルコンテンツページ
https://www.nikon-image.com/sp/z8/
■Z 8 ONLINE LAUNCH EVENT(ニコンイメージングジャパン公式YouTubeチャンネル)
https://www.youtube.com/user/NikonImagingJapan
■ニコンダイレクト Z 8 キャンペーン中!
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■ニコンダイレクト NIKKOR Z 20mm f/1.8S
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■リモートグリップ MC-N10
https://shop.nikon-image.com/front/ProductVDR009AA
■Z 9 MOVIEスペシャルサイト
https://www.nikon-image.com/sp/movie/z9/
nikon@nikon
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