まったく新しい編集方法「文字起こしベースの編集機能」
2023年5月Premiere Pro のアップデート(23.4.0)で、まったく新しい編集方法「文字起こしベースの編集機能」が搭載されました。
ずっと編集ソフトに慣れ親しんできた自分としては、「ワクワク」感と共に「今までの編集方法を変えてしまうのはどうだろう?」という不安も入り混じりながらのアップデートでした。アドビさんが言う「Adobe Premiere Pro 史上最高の速度と安定性」という自信満々の今回のアップデートについて、注目の新機能の概要と共に、現場から見た率直な感想をお伝えしていきます!
Adobe Blogにて配布されているサンプルファイルを使用していきます。
ぜひ皆さんも記事を読みながら、サンプルで機能を試してみてください。
「文字起こしベースの編集機能」とは
まずは、機能の概要を確認していきましょう。
昨今Premiere Proで「自動文字起こし」ができるようになったと話題になっています。今回は、そこからさらに飛躍し「起こしたテキストを編集する」ことで「タイムラインのクリップもリンクして編集されていく」という画期的な編集方法です。ちょっと聞いただけではわかりにくいので、順を追って説明していきますね。
まず、作業しやすいようにワークスペースを切り替えます。今回、この「文字起こしベースの編集機能」用に新しいワークスペースプリセットも追加されました。専用プリセットを選ぶと、左側にテキストパネルが大きく配置され、テキスト編集機能を使いやすい並びになっています。
テキストパネルを使って、タイムラインに並んだクリップの「自動文字起こし」を実行すると、文字起こししたテキストはテキストパネルに表示されます。
このテキストそのものをマウスでクリックすると、テキストに該当する部分(タイミング)に、タイムライン上の再生ヘッドが移動しリンクしていることが確認できます。さらにテキストをドラッグで選択すると、選択したテキストの部分が、タイムライン上でも範囲選択となります(イン点・アウト点が自動マーク)。
あとはワープロソフトを使うように、テキストを「切り取り」「コピー」「ペースト」などを使って編集すれば、それに沿ってタイムライン側でもクリップが自動的に編集されていきます。
構造を理解してしまえばとてもシンプルですね。
「テキスト」と「クリップ」がリンクしている、これこそがこの機能の真骨頂です。
また、僕がちょっとオモシロ機能だなと思ったのは「無音部分の検出」機能です。
文字起こししたテキスト内に[・・・]と表記されている部分があります。これは、音声の中に言葉がない「無音」部分を検出して表示してくれています。[・・・]をクリックすると選択することができ、Backspaceキーで削除ができます。当然、タイムライン上の無音部分も削除されます。必要のない「間」を削除するのにはとても便利だと感じました。
新しくなった読み込みページ
さらに今回の新機能に合わせて、「読み込みページ」の仕様が変化しています。
読み込みページ右側に新しく「自動文字起こし」というオプションが追加されていて、この項目をオンにして読み込みを実行すると、読み込んだメディアを、バックグラウンドで文字起こししてくれます。
項目内の「文字起こしの環境設定」を「読み込まれたすべてのクリップを自動文字起こし」に設定する必要があります。
この場合、タイムラインに並ぶ前のソースクリップの段階で文字起こしが実行されるので、その結果(テキスト)は、クリップそのものに紐づけられるようです。クリップをソースパネルに開くだけで、クリップに紐づけられたテキストがテキストパネルに表示されます。もちろんここでもテキスト選択でイン点・アウト点を設定でき「ペースト(挿入)」で、タイムラインへ選択した部分を貼り付けることができます。
タイムラインだけでなく「ソースに対して文字起こしができる」という新しい概念ができたことも、今回のアップデートの特徴ですね。
読み込み後のクリップも、テキストパネルの「ソースから文字起こし」を実行することで、ソースそのものの文字起こしが可能です。これにより、わざわざタイムラインに並べてから文字起こしをする、というフローを簡略化できますね。
今回の新機能は、人間の声を分析したテキストから編集するので、すべてのシーンで使える機能というわけではありません。実際の現場では、どんなシーンでこの機能を使うことができるのか、考えてみました。パッと思いついたのは、以下の2つ。
- 複数人でのトーク
- ドキュメンタリーなどのインタビュー
「複数人でのトーク」では、しゃべっている内容をテキストで目視確認できるのはとても便利ですが、複数人になると「誰」が「どんな内容」を話しているのかも重要になってきます。今回の機能は、話者(スピーカー)が誰であるかも自動識別して表示してくれるので、不必要な混乱を避けることができそうです。ソースクリップに対しては話者の名前もカスタムできるので、より没入して編集できます。
願わくば、クリップのラベルのように、任意で色分けができるとうれしいなと感じました。しゃべっているトーク内容をグループわけしたり、重要度によってラベル付けできると、構成そのものも視覚化しやすいのではないかと思います。
「ドキュメンタリーなどのインタビュー」では、取材対象に同じ質問を何回か投げかけていたりします。(僕の場合はですがww)なぜかと言うと、一度質問しただけでは、取材対象の答えがまとまっていなかったり、辿々しい答えになっていたり、自然なその人らしさが捉えきれていなかったりするので、質問の言葉を変えつつも同じ内容を複数回聞くという挑戦をすることが多いです。
当然、撮影素材は膨大になり、それを再生して確認するだけでも時間がかかります。その中から聴き比べて構成と照らし合わせながらチョイスしていく必要があるわけでして、、何度も何度も素材を行き来します。
今までは、その作業の負担を減らすために、大切な話をしているポイントをメモしたり、時にはマーカーをつけたり、時には付箋に書き出して壁に貼りまくったりと、アナログに整理をしていました。
そ・こ・で、今回の「テキスト編集機能」!
今回の機能を使用すれば、声で確認するだけでなく、目で見てテキストで要点を探せる。さらにテキストパネルの「ワード検索」の機能を使用すれば、一気に必要ポイントにアクセスすることができるわけで。。恐ろしい時代がやってきました。
自動文字起こししたテキストの文言一つひとつが、クリップ内のしゃべっている「タイミング」にリンクしているので、再生ヘッドが自動でピンポイントに移動することができるという。・・・ええ、神です。
文字通り今までになかった機能なので、慣れるまではちょっと時間がかかりそうですが、使いこなせるようになれば、より的確に、クリエイティビティを失うことなく効率的に編集できそうな予感がします。ワクワクしますよね。
この機能に関しては、こちらの動画で詳しくご紹介しているのでよろしければご覧ください。
今後の期待ポイント!
搭載されたばかりの機能なので、もっと進化していくことも予想されます。
期待したいポイントとしては・・・
「自動文字起こしの精度向上」
この機能は「人の声」を分析するため、音が明瞭に収録されていること、話者が滑舌良く喋れていることが大きなポイントになります(当然と言えば当然ですが)。しかし、撮影環境や取材対象によっては、それがなかなか叶わないことも多いので、できるだけ精度高く分析して文字起こししてもらえるようになると嬉しいです(という願望)。
「無音部分の一括削除」
現状では「無音部分」の選択が、1箇所ずつしかできません。これを一気に選択して、一気に削除、みたいなことができるとすごく効率が良いのではと思います。
また、無音部分を削除する時、コメントとコメントの間が詰まりすぎることもあるので、ある程度無音ののりしろが付けられるよう、任意の「のりしろ設定」ができると、さらに精度の高い編集が可能になるのではと感じました。
白飛び防止!「自動トーンマッピング機能」
この春のアップデートで、もうひとつ注目したいのが「自動トーンマッピング」機能です。
実はある時期から「iPhone で撮影したビデオ素材をPremiere Proに読み込むと白飛びしてしまう」という問題が勃発していました。
原因は、iPhone の初期設定にありました。iPhoneに「HDRビデオ撮影機能」が搭載された頃、「初期設定でHDR撮影する(されてしまう)」という仕様になり、ユーザーがそれに気づかずHDRでビデオ撮影してしまって、それを編集でHDRの設定にすることなく作業してしまったために白飛びするという、なんとも悩ましい問題です。。
iPhone のドルビービジョンHDRは素晴らしい機能ですが、編集者がそれを理解し、正しい設定で編集し、正しいプラットフォームで再生しなければ、その効果は失われます。
おそらくこの問題に直面する方は「HDR作品を作ろうとしたわけではなく、通常通りスタンダードなカラー設定で作品を作りたかった」と想像されます。
よく直面するケースとしては・・・
- iPhoneの設定が変わっていることに気づかず、撮影素材がHDRになってしまった。
- 編集業務だけを請け負い、クライアントからHDRで撮った素材を提供されてしまった。
このような場合、HDRにすることが目的ではなく、スタンダードなカラー(SDR)で製作することが望まれます。そんな時に、この春搭載された機能「自動トーンマッピング」が力を発揮してくれます!
機能の使い方は至ってシンプル。Premiere Proのメニューバーにある「シーケンス」から「シーケンス設定...」を選択。「ビデオ」の項目にある「作業カラースペース」を「Rec.709(現状ではスタンダードなカラー領域)」に設定し、「自動トーンマッピングメディア」のチェックボックスをオンにします。
これによって、そのシーケンスにあるHDR素材は「Rec.709」に収まるように修正され、白飛びが解消されます。
「HDR素材」を「HDRの領域」で編集した時に比べるとディティールは落ちますが、、HDRで完パケしてしまうと再生環境も限られてしまうので、、現状この問題で悩まれている方はスタンダードなRec.709に収めて完パケすることが望ましいかと思われます。
以前は「フッテージの上書き」機能で、クリップごとにカラースペースを上書きする必要がありましたが、今回の「自動トーンマッピング」機能により、シンプルにわかりやすく一括で設定できるようになりました。
この機能に関しては、こちらの動画でご紹介しているのでよろしければご覧ください。
まとめ
今回はすでにリリースされている機能をご紹介しましたが、現状、Beta版と呼ばれる開発中のバージョンでは、他にも多数新機能が搭載されています。そんなに遠くない未来、次々と便利な機能が搭載される予感に溢れているので、今後のPremiere Proに期待しつつ、映像編集ライフを楽しんでください!!
市井義彦@ittsui
株式会社Command C 代表取締役。大阪で映像制作を生業にしています。Adobe Community Evangelistであり、PremiereProユーザーグループの代表です。
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