【バーチャルプロダクション(VP)】世界中の注目スタジオを一挙紹介! Unreal Engineを用いたVP最新動向

2023.05.24 (最終更新日: 2023.05.24)

2023年5月20日(土)、エピック ゲームズ ジャパン主催によるリアルイベント「Virtual Production Deep Dive 2023」(以下、VPDD2023)が開催された。

本イベントでは、バーチャルプロダクション(以下、VP)にてUnreal Engine(以下、UE)を活用している各社の事例紹介や、今後の展望、そしてVPを一過性のものではなく、映像制作手法として定着させていくための課題などが、率直に語られる実に有意義なイベントであった。

本稿では、当日催された4講演のうち、エピック ゲームズ ジャパン/向井秀哉氏による「海外のバーチャルプロダクション スタジオと事例」をレポートする。

全24の注目スタジオを紹介

講演を行なった向井秀哉氏(Solution Architect、エピック ゲームズ ジャパン)

まず最初に、向井氏は「世界にどのくらいのLEDステージがあると思いますか?」と問いかけた。

2023年4月にエピック ゲームズが実施した調査によると、その数は560以上とのこと。

LEDステージのカウント方法は、映像制作用途のインカメラVFXだけではなく、XRライブ用途など、LEDボリュームが備えられたスタジオ全般を対象としているとのこと

日本でもコロナ禍と、それ以前から進んでいたSDGsの観点から着実にVPの導入が進んでいるように感じるものの、海外の方がそのペースが早いことが実感できる数字ではないだろうか。

向井氏は全世界560以上のうち、Unreal Engineを用いている24スタジオにコンタクトして、各スタジオの仕様をリサーチ。本講演では、その調査結果が紹介された。

今回紹介されたスタジオの一覧

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北米エリアの注目スタジオ

まずは、北米エリアのスタジオが紹介された。

各スタジオは、この図で列挙されている、LED、LEDプロセッサー、カメラ、トラッキングシステム、GPU&レンダーノード数、ソフトウェア(UEを除く)、スタジオの広さ(面積)という7項目で紹介された。また一部のスタジオは代表作も紹介された

Nant Studios(ロサンゼルス)

カリフォルニア州ロサンゼルス郡のエル・セグンドとカルバー・シティにスタジオを構えるNant Studios

2021年3月にオープンした同社は、『ウエストワールド』(シーズン4)などハリウッド映画やNetflixなどの動画配信サービス向けドラマのVPを数多く手がけている。

メインステージのLEDは、多くのスタジオで採用されているROE Black Pearl 2V2(ピッチ2.84mm)、天上面にROE Carbon(ピッチ5.77mm)を使用。UE以外のソフトウェアでは、disguiseとPIXERAを用いている。

メインステージのLEDは可動式で、360°カバーできるとのこと

▲ Nant Studiosが制作を担当した、Epic GamesのICVFXテックデモ。撮影から完パケまでわずか4日間だったという。詳しくは、こちら

▲ このテックデモのメイキング動画

Nant Studiosの施設内には、Epic Gamesのラボもある。VPに関する検証や一部の開発が行われているとのこと。こちらのLEDプロセッサーには、ROEとMegapixel VRが共同開発したHELIOSを採用

Nant Studiosは2023年3月にオーストラリアのメルボルンに新スタジオをオープンした

メインステージはW30m×H12mと、世界最大級の大きさを誇る

Pixomondo(トロント)

VFXスタジオとして名高いPixomondoのトロントスタジオは、2021年8月にWilliam F. White Internationalと共同でVPステージを開設した。

LEDパネルは、ROEのBlack Pearl 2V2Carbonシリーズを使用

同社は昨年10月にソニー・ピクチャーズ・エンターテインメントに買収されているが、その背景にはPixomondoが業界の中でもいち早くVPに取り組んでおり、高い技術力と優れたクリエイティブを発揮していることがあるという(もちろんVFXにおいて)。

▲ PixomondoのVP代表作、『Star Trek Discovery』。シーズン4からVPが用いられるようになった

▲ Caledon Football Clubのコマーシャル映像。ハイスピードとスタジアムの群衆というICVFXにとって高難度の表現(モアレが起きやすい)を、200FPSで撮影できるALEXA miniを用いることで実現

▲ Caledon Football Clubのメイキング動画。群衆についてはNiagaraによって約1.8万人を創り出した。群衆の動きはVertex Animationテクスチャを使用しているとのこと

2022年秋にバンクーバースタジオにもLEDステージを開設。W24.3×H8.3という大きさはオープン当時にギネス記録に認定された(現在は、破られてしまったが)

Amazon Studios「Stage 15」(ロサンゼルス)

カルバー・シティに所在するAmazon Studiosの「Stage 15」。

旧来のスタジオを改装するかたちで、2022年12月にVP対応スタジオへと生まれ変わった

AWSを利用し、撮影したショットを即座にクラウドにアップしたり、独自開発したアセット管理システムによって運用されているとのこと。

欧州・中東エリアの注目スタジオ

続いては、ヨーロッパと中東のスタジオ。

Garden Studios(ロンドン)

ロンドンのGarden Studiosは、イギリスで最初にできた常設のVPステージと言われている(※同社調べ)。

今年新たにオープンしたStage2は、ROEのBlack Pearl 2V2を使用

▲ Garden Studios Sizzle Reel 2022

▲ Garden StudiosのVPステージが利用された『Healthy planet, healthy people』。実際のロケベースの撮影との比較で95%ものCO2の削減を実現したそうだ

Silvertown Studios(ロンドン)

2022年5月頃に英AmbientグループがオープンしたロンドンのSilvertown Studios

同スタジオではVPステージの提供だけでなく、LEDステージの構築も請け負っているとのこと。

LEDは中国のメーカーAbsenの「PL 2.5 Pro」を使用

▲ クルマの走行シーンのVPデモ

▲ The BTS Version of a spot we did a shoot for NOW TV.

▲ LED Volume supplied for Coke Advert - Virtual Production

▲ Virtual Production Studios by 80six | Netflix Man Vs Bee | In-camera VFX (ICVFX)。Netflix『』

80six(ロンドン)

映像機材やサービスを提供する企業がロンドンにオープンした、80six

ICVFXが行えるVPステージと、XRステージの2種類を有する。図はVPステージのもの

列車の車輌を囲うような特殊な形態にも対応できるという

▲ Virtual Production Studios by 80six | Reel ICVFX & xR | 2022

▲ Netflix『ローワン・アトキンソンのヒトvsハチ』(原題:Man Vs Bee)のクルマ走行シーンは、80sixのVPステージで撮影された。詳しくは、こちら

PLATEAU VIRTUEL(パリ)

パリのPLATEAU VIRTUELは、2023年1月オープンという比較的新しいVPスタジオだ。

LED、同プロセッサー、カメラなどはソニー製が採用されている。GPUは昨秋に発売された最新世代のNVIDIA RTX™ 6000 Adaを採用

▲ Making Of Water for life Dassault Systemes Plateau Virtuel

Mado XR(パリ)

パリに所在するは、自らを「360° メタバース・クリエイティブ・スタジオ」と称しており、VPや、デジタルヒューマンなど、メタバース関連の事業を幅広く展開している。なお「Mado」は、日本語の「窓」に由来するとのこと。

LEDは360°四方、天井と床を覆うケーブ(洞窟)型で、Black Pearl 2V2をはじめとするROE製を採用

DARK BAY(ポツダム)

ドイツのポツダムに所在する、DARK BAYは、1912年創業というフィルム時代から事業を展開している映画制作会社STUDIO BABELSBERGがオープンしたVPスタジオ。

横幅55mで270°をカバーする湾曲型の巨大LEDウォールが特徴。さらに床面が回転可能となっているため、セットを物理的に動かすことができる

▲ "building the DARK BAY"

DARK BAYが注目をあつめたのは、Netflix『1899』(2021)のVPだ(メイキング動画は、こちら)。

出典:DARK BAYのFacebook投稿

元々は360°のLEDボリュームで撮影することを検討していたそうだが、360°だとボリュームの開口部が狭くなり船の甲板という巨大なステージを運搬する上でも非効率という結論に達したという。そこで最終的にステージを回転させることができるDARK BAYのVPステージが採用された(本作に対応するために、DARK BAYのVPステージが回転式になったとも言われている)。

HYPERBOWL(ミュンヘン)

ドイツのミュンヘンに所在するHYPERBOWLは、MR(Mixed-reality)事業を展開するNSYNC、VFXとCGアニメーションのACHT、ライブイベントのデザインとプランニング事業を展開するTFNの3社によって設立されたVPスタジオである。

LEDは、ROEのDiamond(2.6mmピッチ)を採用。天面のLEDにもDiamondを採用している

HYPERBOWLの代表作は、フォルクスワーゲン「ID.4」ワールドプレミア初披露のために制作されたコマーシャル映像だ。

▲ Virtual Production on the VW ID.4 Ad | Unreal Build: Automotive 2021

コロナ禍中であり、リアルな撮影が困難な時期だったことに加え、「氷の洞窟」「森林」「砂漠」「サイバーパンクの都市」という4つのシーンで構成されるため、VPが採用された。発表前の新車の撮影という意味でも、スタジオ内で完結できるVPが好都合だったようだ。

エピック ゲームズ ジャパンによるメイキング記事は、こちら

LED CAVE(ベルリン)

ベルリンに所在するLED CAVEは、独Rent Event Tecが開設したVPスタジオ。

LEDは、ドイツのLEDitgo「vP2+」を採用

LED CAVEの事例として、『Audi - Pioniers of Progress: Kai Pflaume』が挙げられる。なお、空のHDRI素材は、Epic MegaGrantsに選ばれたこともあるCGI.Backgroundsを使用しているとのこと。

Vimeoで実際の映像を視聴可能

Fractal Studio(ドバイ)

UAEのドバイに所在するFractal Studioは、中東で初となるVPスタジオと言われている(※同社調べ)。

LEDは、横幅24mで192°湾曲という特殊な形状を実現させるためにINFiLEDに特注した「560 GⅡ」をカスタマイズしたものを使用している

▲ FRACTAL STUDIO Virtual Production (XR) Demo

Pixojam(ドバイ)

ドバイのPixojamは、中東で初めて(※同社調べ)HDR10、色深度4:4:4対応のLEDボリュームを実装したVPスタジオとのこと。

LED(INFiLED)とLEDプロセッサー(Novastar)は中国製を採用

▲ Sony Venice 2 VirtualProduction by PIXOJAM

Pixojamの代表作は、ADSW(Abu Dhabi Sustainably week)の一環として制作された映像である。

地球温暖化の問題意識を高めるために制作された本映像では、1日で7種類の世界的な気候変動による大災害シーンを撮影したという。

アジア太平洋エリアの注目スタジオ

そして日本を除く、アジア太平洋エリアのスタジオが紹介された。

ANR Virtual Production Stage(ハイデラバード)

共に映画制作会社であるAnnapurna StudiosQube Cinemaが、インドのハイデラバードに共同で設立したのが「ANR Virtual Production Stage」である。

LEDは、AOTO製を採用

▲ ANR Virtual Production Stage Now Open in Hyderabad, India | Bring Your Stories to Life

Dreamscreen(メルボルン)

オーストラリアのメルボルンに所在するDreamscreenは、Epic MegaGrantsにも選ばれたVPプロダクション。社内にVAD(Virtual Art Department)部門も擁している。

LEDプロセッサーは、Megapixel VR「HELIOS」を採用

コマーシャル映像も手がけるが、強みとするのが映画やドラマ作品とのこと。代表作は、2021年に公開されたABC『FIRES』(エピソード6)で描かれる大規模森林火災シーンである。

▲ Behind the Scenes of FIRES Wharf Scene (Episode 6) - LED Virtual Production

2019年秋から2020年上旬にかけてオーストラリアで約半年間にわたり猛威を振るった森林火災「Black Summer」のVP撮影では、スタジオに火の粉を模したものを実際に飛散させることで臨場感のある映像を実現させた。

AUX Immersive Studio(シンガポール)

AUX Media Groupが開設したAUX Immersive Studioは、シンガポール初のLEDステージと言われている(※同社調べ)。

LEDプロセッサーは、Brompton「Tessera SX40」を採用

AUX Mediaはライブ公演などのイベント事業を展開する企業であり、AUX Immersive Studioも映像制作用途ではなく、disguiseを使ったXRライブ等で運用されているそうだ。

▲ AUX Media Group builds XR stage in Singapore with ROE Visual LED

向井氏によると、シンガポール政府は昨年末、国内のVP振興を目的としたファンドを起ち上げたという。

その予算500万シンガポールドル(日本円で約5億円)とのことだが、国土が狭く、ロケ地が限られるシンガポールにとって、天候にも左右されずに様々なシーンを創り出せるVPは有効な選択肢と言えよう。

Supreme Studio(バンコク)

タイのバンコクに所在するSupreme Studioは、ハリウッド映画案件にも携わるなど国内有数のプロダクションとのこと。

昨年、横幅32mまで拡張されており、140°湾曲のLEDボリュームとなっている

出典:Supreme StudioのFacebook投稿

また同社は、Camera Control社のハイスピード撮影にも対応するモーションコントロールシステム「Bolt」も導入しており、VPだけでなく、様々な映像制作に対応している。

▲ "Bolt" High Speed Cinebot Showreel by Supreme Studio

ViVE Studios(ソウル)

韓国のソウルに所在するViVE Studiosは、映像、バーチャル、そしてDXと幅広いデジタルコンテンツを手がけている。LEDステージを用いたVPもそのひとつ。

UE以外のソフトウェアとして、独自開発した「VIT」(Vivestudios Immersive Technology)を使用。VITは、VPに用いるハードウェアとソフトウェアをまとめて制御できるシステムであり、タイムラインベースで様々な操作が行えるそうだ

▲ VIVESTUDIOS' First Demo Day (ENG)

XON(キョンギド)

韓国の京畿道(キョンギド)に所在する、XON(エクソン)は、XRステージとVPステージの2つを有している。VPステージはクルマの撮影に特化した仕様になっているとのこと。

VPステージの主要スペック。LEDは、AOTO製を採用

▲ XON | 2021Virtual Production Reel

DEXTER STUDIOS「D1 Studio」(キョンギド)

韓国のキョンギドに所在する、DEXTER STUDIOSは、「D1 Studio」という名のVPスタジオを運用中だ。

LEDは、AOTO製とROE製を使用

同社CTOの説明によると、「D1 Studio」を運用したことで映像制作コストが導入前との比較で約30%削減できるとのこと。

▲ Dexter D1 Studio - ICVFX DEMO

VA STUDIO HANAM(キョンギド)

こちらもキョンギドに所在するVA STUDIO HANAMは、VA Corporationが開設したVPスタジオだ。キョンギドの河南(ハナム)の同施設は、大・中・小という3ステージで構成されており、大と中がVP用途、小がXR用途とのこと。

中(HANAM 2)と大(HANAM 3)の主要スペック。最も大きなステージは外周53.5mで360°をカバーするドーム型である

Tencent CDD(深圳)

2021年11月に中国テンセントの「CDD」(Content Development Department)が深圳に開設したVPスタジオ。

UE以外のソフトウェアでは、中国hecoosのメディアサーバを使用している

出典:ARRIの導入事例記事「Tencent elevates virtual production with ARRI Solutions」

Sony / Gwantsi(上海)

ソニーと中国の大手プロダクションGwantsiが共同で上海にLEDステージを開設した。

LEDはソニーのCrystal Bシリーズを採用

『DIOR x ERL』という作品が、本ステージでVP撮影されたという(映像は、こちらで視聴可能)。

24スタジオの機材構成から見えてくるもの

最後に向井氏は、全24スタジオの機材構成をまとめた統計グラフを紹介した。

あくまでも今回紹介されたスタジオのみの統計だが、特にUEを用いたVPスタジオという意味では昨今のトレンドが窺えるのではないだろうか。

LEDパネルのメーカー
LEDプロセッサー
カメラ・トラッキング・システム
撮影カメラ
GPU

海外のVP関連の情報収集に役立つリンク

向井氏は、自身が海外のVP動向をリサーチする際に利用しているサイトとSNSを紹介してくれた。

・VIRTUAL PRODUCER
https://virtualproducer.io/

・BROADCAST PRO
https://www.broadcastprome.com/

・RedShark
https://www.redsharknews.com/tag/virtual-production

・Virtual Production Insider(Linkedin)
https://www.linkedin.com/newsletters/virtual-production-insider-7043955666327126016/

・Unreal Engine Virtual Production(Facebookグループ)
https://www.facebook.com/groups/virtualproduction/

なお、本講演をはじめとする「VPDD2023」イベント模様は、YouTubeチャンネル「Unreal Engine JP」にて公開予定とのこと。楽しみにお待ちいただきたい。

TEXT & PHOTO_沼倉有人 / Arihito Numakrua(Vook編集部)
Special thanks to エピック ゲームズ ジャパン

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