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【柳沢翔インタビュー(前編)】逆風の中から生まれる映像の力。ロジックを超えた場所に追い風は吹く

2021.05.11 (最終更新日: 2024.01.09)

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Vook特別ロングインタビュー 「私の映像哲学」。第1回目のゲストはフィルム・ディレクターの柳沢翔さんです。

資生堂「High School Girl?」、GRAVITY DAZE2「重力猫」ほかのコマーシャル映像で世界的に評価されるだけでなく、人気アーティストのミュージックビデオからショートフィルム、映画まで、さまざまな映像制作フィールドで活躍する柳沢さんに、創作メソッドから表現哲学まで、じっくりうかがってみました。

前編では、この春話題のコマーシャル、ポカリスエット「でも君が見えた」篇」 のお話を中心に。映像における"軸"のつくり方とは? 柳沢さんが仕事に入る前に「好きなものリスト」をつくるワケとは?

インタビュー&構成:河尻亨一(編集者・銀河ライター)
写真:押木良輔

ポカリスエットは"魂案件"です

——ポカリスエットの新しいコマーシャル、話題ですね(「でも君が見えた」篇)。去年オンエアされた中高生たちによる「ポカリNEO合唱」シリーズ も、このコロナ禍の世の中に響くいいCMだなあと思って拝見してました。

柳沢翔氏(以下、柳沢) ありがとうございます。ポカリスエットは、まずクライアントさんと代理店のクリエイティブ・チームの信頼関係が強くて、守られた環境でつくらせてもらえたのが大きいですね。いまどき、ちょっとないんじゃないかなと思うくらいの良好な関係で、試写のあと「感動しました」と、その場でオーケーもいただけて。

もちろん、納品までの道のりは毎回なかなか大変ですけどね(笑)。去年の春はコロナによる緊急事態宣言の影響で、もともと予定していた企画で撮影ができず、急遽リモート撮影をメインにした画面分割ものに変更したり。夏は海辺の特設ステージの上で35人の中高生がダンスする企画でつくったんですけど、今回はこれまでとまた違う路線でいきたいというお話で。

——言われてみれば確かに。新しいCMは、いわゆるダンスものではないですね。

柳沢 ええ、ポカリスエットはこの6年くらい、去年、僕が関わらせてもらう前からずっとダンス路線でやってきたわけですけど、「一度、王道のヒロインものに回帰します」 という話だったんです。宮沢りえさんや一色紗英さん、中山エミリさんらが出演していた時代のポカリスエットのCMに近いイメージというか。

——それは80年代からの王道。いわゆるポカリ・ガール的な世界というのか。

柳沢 そうですね。でも、僕としては、最初ちょっとピンときてなかったんです。ポカリの歴代CMにはすごいものがいっぱいあるんですけど、なかでも「ガチダンス」をはじめとする一連のダンスCMは素晴らしいと思っていて、ポカリスエットは"魂案件"っていうんですかね? 自分がそこに携われることがすごくうれしかったというのもあったので。

ただ、お話を聞くと今回のクリエイティブもすごく面白そうで。最初にもらった企画は、もうちょっとミュージカル調でアート色も強いものでした。コンセプトは 「FIND MY WAY 」 なんですけど、ヒロインが羊の群の中を走ったり、テスト用紙の川の中を走ったりして、最後はボーイフレンドに会ってジャンプすると、二人で青空にたどり着くみたいな。

——なかなかとんがってますね。

柳沢 ええ、その感じも好きでしたね。で、これは面白いなあと思って考えはじめたんですけど、「CMを見る中高生に"FIND MY WAY" のメッセージがどこまで伝わるかな?」 っていう気持ちも正直あって。

「自分の道を進むのは大変だけど、そこにはきっと、たくさんの喜びが溢れている。いっしょに走る仲間がいれば、もっと勇気が湧いてくる。迷いながら、それでも前を向きながら、今を生きるすべての人に、ポカリもまた寄り添い、力になりたい」というストーリーをたて、それを60秒で表現しました。 演出テーマであった "アゲインスト" も、高校生にとって身近なものではなかったりしますから。世間からの外的な圧力に抗うっていう解釈だと、映像化したときに難解に見えてしまうんじゃないかという気がしたんです。

それで「このままだと、ちょっと伝わらないと思うんですけど」といったお話をさせてもらって、アゲインストする対象を、外的なものから内的なものに捉え直すことにしました。

——内的なアゲインストというのは?

柳沢 自分の気持ちに対するアゲインストですね。外の世界で起こることに反抗するんじゃなくて。具体的には、まず主人公の女の子には親友がいて同じ部活だったんだけど、喧嘩しちゃっていまは別々のグループになっているという設定にしました。

でも、あるときその親友が部活で先生とうまくいかなくて孤立してるという話を主人公が耳にして、「今日、一緒に学校サボらない?」って言いに行く話にしようと。「喧嘩した友だちに謝れるか、謝れないか」という心の葛藤なら、それはすごく身近なことだし、伝わるんじゃないかなと思ったんです。

そのあたりの"軸"が見えてくると、考えるのがずいぶん楽になりました。例えば当初の企画案の一つとして 「逆走」 という言葉があったので、 そこから発想して、最初はヒロインに向かって逆風が吹いてるんだけど、途中から追い風に変わっていくのはどうだろう? という具合に、プランがふくらんできて。

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