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【鎌谷聡次郎インタビュー(前編)】映像の意図せぬ"揺らぎ"に心惹かれる。「狙ってない感じ」が好きなんです

2021.06.14 (最終更新日: 2021.09.30)

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好評のロングインタビュー連載「私の映像哲学」。2回目のゲストは映像作家/アートディレクターの鎌谷聡次郎さんです。

マルコメのウェブムービー「かわいい味噌汁」から、森ビルのブランドムービー「Designing Tokyo」などのブランド映像、水曜日のカンパネラほか様々なアーティストのMVなど——独自の映像表現を切り拓く鎌谷さんに、じっくりお話をうかがってみました。

完成した映像に刻印されている意図せぬ"揺らぎ"とは? 表現することで味わえる癒しとは? デビューの頃のエピソードも交えて前後編でお届けします。 

インタビュー&構成:河尻亨一(編集者・銀河ライター)
写真:押木良輔

流行のバズ動画では「かわいい」のDNAまでは描けない

——今日は鎌谷さんがディレクターとして突破口になった仕事というか、強く印象に残るものをいくつか挙げていただきながら、映像哲学に迫ってみたいと。

鎌谷(聡次郎氏 ※以下、鎌谷):反省ばっかりなんですけどね(笑)。企画から参加させてもらった仕事で言うと、「かわいい味噌汁」(マルコメ/2016年)ですかね。あとは、森ビルのブランドムービーとか、水曜日のカンパネラの仕事とか。

——じゃあ時系列で、まずは「かわいい味噌汁 原宿味」のお話から。すごい商品名ですけど、映像もぶっ飛んでました。

鎌谷:自由度の高い案件でした。商品のネーミングにもある「かわいい」をテーマに何か企画できないですか? という依頼で、映像に関しては基本「お任せします」というスタンスだったので。

マルコメさんは「かわいい味噌汁」の前に、「ロックを聴かせた味噌汁」というのにも関わらせてもらっていたんですけど、若い人向けのコンテンツに力を入れていて、クリエイティブのチームと良い信頼関係ができていたんです

——どういうプロセスで考えていったんですか。

鎌谷:うーん、もう忘れちゃってるところもあるんですけど……(笑)。当初のクリエイティブの思惑としては、"バズ・ムービー"みたいな方向性をイメージしていたようです。

「かわいい」にまつわるトリビアを盛りこんで、それをクロニクル的に見せていくみたいな。ある種、ニュース性のある企画だったんですけど、僕は「それはちょっと違うんじゃないかな」と思っていて

——「違う」というのはどのあたりが?

鎌谷:「かわいい」をバズ・ムービー風のアプローチで描くのは難しいんじゃないかと。そのちょっと前に、バズ・ムービーが流行った時代があったんですね。

——ありました。ネットで拡散されるネタが命の動画というか。

鎌谷:僕もCGの西藤(立樹)さんから声をかけてもらい、「忍者女子高生」(C.C.レモン)というムービーに参加したんですけど、このときは最初から「バズに振り切ってやってみよう」と思って取り組んでいて、実際それなりにバズって賞もいただけたりして。

でも、以降はそっち系の仕事が来たら、基本お断りしてたんです。コンテンツが瞬間的に消費される感じに戸惑いもあって、こういうのをずっとはやれないなと。

——確かに。バズ狙いだけだとつくり手が疲弊するかも。じゃ、「かわいい味噌汁」の場合は、ネット動画の流行みたいなことにとらわれず映像化しようと?

鎌谷:大昔から日本のカルチャーの中に連綿と続く「かわいい」ということの精神性を、掘り下げるようなものができないかと思ったんです。日本人のDNAの中にある何かを掘り起こして、味噌汁や日本の食文化にドッキングさせるって言うんですかね? 血がたぎるような映像とでも言うのか。

——チャレンジングな試みですね。

鎌谷:結構、悩みましたね。そもそも最初はスタッフが男性ばかりだったので、当時所属していたコトリフィルムという会社の佐渡(恵理)というディレクターと組むことにしたんですけど、最初の打ち合わせでいきなり意見が衝突してしまって。「かわいいって何だろう?」というのを散々話し合ったものの、結論なんて出ないんです。

そもそも「かわいい」って、定義づけられるものじゃないですから。いくつもの時代のカルチャーの相互関係から文脈が生まれて、現在の「かわいい」という概念ができているわけで、「こういうものだ!」なんて決めつけられない。結局、そうやって悩んでいる様をそのまま映像にするのはどうだろう? という話になったんですけど。

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