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【AC部 インタビュー(前編)】どこにもハマりきれないから初期衝動を失わない。かっこよすぎる映像のつくり方

2021.08.31 (最終更新日: 2022.06.28)

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好評のロングインタビュー連載「私の映像哲学」。4回目のゲストはAC部さん
1999年にデビューしたデザイン・ユニットですが、「中毒性が高い」とまで評される独自の表現スタイルを武器に、20年以上にわたって映像制作の一線を走り続けています。
AC部の作品が時代をへても古くならず、いまの学生や若手クリエイターたちからも支持される理由とは? 「違和感」「本気度」「かっこよすぎる」のキーワードから紡ぎ出される映像の秘密とは? シリーズでお届けします。
インタビュー&構成:河尻亨一(編集者・銀河ライター)
写真:押木良輔

日々の積み重ねの中から生まれる"本気の違和感"

——このインタビュー連載の読者は、主に20~30代の映像クリエイターなんですが、AC部さんはその世代の人たちからの人気もすごくて。もう20年以上、一線でやってらっしゃいますね。

板倉 そうですね。ひたすら突っ走ってきた——という感じがあります。それで今年の頭くらいからちょっと小休止したというか。子どもが生まれて、仕事のペースも多少変わったりして、AC部としても次のフェーズに進むターンに来ているのかな? と思ってはいるんですけど。

安達 振り返れば20年なんですけど、意外と早かったという印象があります。やっていることは日々の積み重ね的なことですから。

——地道な「日々の積み重ね」は、長く活躍するための秘訣かもしれません。来るボールに淡々と打ち返してきたみたいなイメージですか? こういう方向性を目指そう! みたいなことではなく。

安達 そうですね。決まった作風は、あるようで実はそうでもないというか。おっしゃる通り来るボールは結構大事で、それに対してどう打つか。その打ち返し方には、わりと一貫したものがあるかもしれません

なんて言うんですかね? "AC部らしさ"というのは初期からわりと確立されていて、美大時代に卒業制作をつくった頃とか、厳密にはさらにその少し前からなんですけど、いまもその感覚のまま打ち返している感じですかね。

かと言って、同じものをずっとつくり続けてるわけではなくて、毎回の仕事の中でAC部らしい落としどころを探しながら、試行錯誤してきたというか。

左:板倉俊介氏、右:安達亨氏

——その"らしさ"の中身を説明するのは難しいことだと思いつつ、あえてうかがってみると、それはお二人の中で言葉として共有されているんですか。

板倉 キーワードはいくつかあって、その中のひとつは「本気度」、それと「違和感」ですかね。

安達 「かっこよすぎる」というのもあります。

——なるほど。「違和感」というのは作品を拝見していてわかる気がするんですけど、「本気度」と「かっこよすぎる」についてもうちょっと説明していただくと?

板倉 「本気度」と「かっこよすぎる」には、結構似た意味も含まれていて、つくった側の本人が、本当にかっこいいと思って、本気でつくっているという。そこから出てくる強さというか、エネルギーですよね。

ただ、僕ら個人がそれを「本当にかっこいい」と思っているかと言うと、それはちょっと違っていて……。そう思いこんでいるつくり手がいると想定した上で、擬人的につくっていくというか。まあ、それを本気でやるうちに、自分たちのほうも洗脳されていくんですけどね。

安達 「かっこいい」って、際限なくやればいいわけじゃなくて、「ここがいいんだよ」っていうさじ加減があるじゃないですか。多すぎもせず、少なすぎもせず、ここが一番カッコいいポイントがあるというか。

でも、それを狙うんじゃなくて、そのポイントの周囲というか、ほんのすぐ隣にある、あまりだれも触れてないような何かに到達したいんです。

自分たち"らしさ"を意識しながら色んなお題に返していく

——そこが「かっこいい」と「かっこよすぎる」の違いなのかも。なんかお話を聞いていて絵が浮かびました。AC部という"ロボット"のコクピットの中で、お二人がそれを操縦している不思議な絵が。

ここからは、代表作的な作品をいくつか挙げていただきながら、AC部ヒストリーをたどりつつ、さらに"らしさ"の正体に迫ってみたいと。何から行くといいですかね?

板倉 そうですねえ……。ぱっと思いついたのは、「SmaSTATION!!」(2001年放送開始)。AC部の本当の初期につくったものなんですけど。

安達 報道バラエティのなかに突然現れる、3分くらいのショートアニメのコーナーが昔あったんです。突然出てくるので、番組内での立ち位置としてすごくシュールな時間というか。急に始まって急に終わりますからね。MCの香取(慎吾)くんもリアクションできないままCMに行く。そういう謎のアニメだったんですけど。

板倉 各アニメのベースになる曲は安達がつくったんですけど、それを演奏するのは飛び抜けたプロの方々ですから、音楽自体がすごくかっこいい感じになったんですね。それに対して、僕らの絵のほうは違和感を醸していて、絵と音が合わさったときに「カッコよすぎる」状態を体現できたというか。この仕事はそこの兼ね合いがうまくいったと思います。

——これはAC部の突破口になった仕事のひとつだと思うんですけど、アニメーションというスタイルは、最初から意識して? お二人は多摩美出身とのことですけど、映像専攻とかではないんですよね?

安達 グラフィックデザイン科ですからね。アニメ大好きっていう感じではなかった。むしろ少年マンガとか古本屋に積んであるような古い雑誌から影響を受けていて、アニメのつくり方は独自に編み出したものなんです。その上でアニメーション制作の技法をつまみ食いしながら、よりヘンな効果が出るようにしたり。

板倉 僕らの大学時代って、学生でも頑張ればMacが一人1台買えるくらいになった頃なんです(1990年代中盤)。それでMacをさわり始めてビックリしたんですよね。Photoshopで加工した素材をAfter Effectsに入れたら絵を動かせるし、音も入れられる。「全部自分でつくれるじゃん!」って思いました。こういうツールを使えばなんか面白いことができそうだと思って色々さわっているうちに、ハマっていったというか。

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