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【奥山由之インタビュー(前編)】検証を重ねるからこそ、気づくゆとりが生まれてくる

2021.11.17 (最終更新日: 2022.06.27)

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Vook特別ロングインタビュー「私の映像哲学」。今回のゲストは奥山由之さんです。
2011年に写真家としてデビュー、以来数々の意欲的な作品集を発表するだけでなく、映像ディレクターとしても話題のMVやCM、ファッションフィルムを手がける奥山さんに、アイデアの生み出し方や映像への向き合い方について、じっくりお話をうかがってみました。
前編では、「感電」(米津玄師)のMV制作エピソードを中心に。日常の中から生まれる"気づき"とは? 検証を重ねることで得られる"ゆとり"とは? クリエイター必読の前後編1万字インタビューです。
インタビュー&構成:河尻亨一(編集者・銀河ライター)
写真:押木良輔

オリジナルは日常の気づきの中にある

——最近、若い映像制作者の人が悩んでるって話をよく聞きます。奧山さんにも悩みはありますか? こんな話からで恐縮ですが。

奧山由之氏(以下、奥山) 悩みですか。なんでしょう? つくれるものの数が減っていることですかね。僕の場合、自分がいままで見てきたものや作ってきたものと同じようなものをつくることには意味が見出せなくて、ルーティンで何かをつくるということは絶対したくないんです。

少なくとも自分の中では、初めてつくるものだったり、初めての考え方だったり、なにかしらの“初めて”を経由したものづくりをしたいんですけど、さすがに十何年もやっていると、「初めてだな」と感じるものごとが減ってきます。つくればつくるほど、自分の中で新鮮さを持ち続けることが難しくなっていく。

すると、つくれるものの数自体がどんどん減っていくんですよ。キャリアを始めたてのころは、仮に1カ月に5個つくれていたとしたら、それが2個になり、1個になり——というふうに毎回、脳味噌の使ってない部分を使って、新しいアイデアを引っ張り出してこなきゃいけない。それは悩みですね。

——「悩み」であると同時に、「深まってる」ってことかもしれませんよね。つくる数が減っても、ひとつひとつの仕事の密度は逆に濃縮されているというか。そういう感覚も一方であるんじゃないですか?

奧山 より時間をかけるようになって、作品に籠る思いの濃度は強くなっているかもしれません。ただ、時間をかければ必ずいいものができるかというと、そうじゃないですから。瞬発的な火事場の馬鹿力というか、根を詰めて考えすぎないことで生まれる気持ちのゆとりみたいなものが、ユーモアにつながったりするケースも多いんです。

あまりガチガチに「いいものつくるぞ!」といった気持ちで、机に向かって考え続けていればいいかと言うと、そうでもない。つくり方はひと通りじゃないし、狙って「こうすれば新しいものができる」という方程式があるわけでもない。そのあたりの兼ね合いも難しいですね。

——日常生活の中でふっとアイデアが浮かぶこともあるでしょうから。

奧山 そうなんです。仕事だけしてればいいかというと、そうじゃなくて、生活の中で出会うものから極力アイデアを膨らませないと、本当の意味でのオリジナリティにはなかなか至らなくて。今まで見てきたものから「これがカッコいい」とか思って、いくつかの例をサンプリングして形にするようなことをしていると、受け手の感動の最大公約数が小さくなってしまうんですね。

朝起きて、ごはんを食べて仕事をして、車で移動して、夜寝る——といったありふれた日常の中で見つけた発見が、発想の種としてはすごく大事なんですけど、忙しくなってくると、余裕がなくなってきます。日々の生活の中で"気づくゆとり"を常に持っていたいですね。

——それは奥山さんだけじゃなくて、私も含めて多くの人が感じている共通の悩みかもしれません。コンテンツの消費の速度が早すぎて、次から次へと仕事に追われるうちに、ゆとりを失ってしまうというか……。でも、慌ただしい日常の中から「ユーモア」を探そうとされてるんですね?

奧山 ユーモアには気づきが必要なんです。僕の考えるユーモアって、いわゆるお笑いやシニカルとは違って、「かゆいところ」をついてくるものという感覚がありますね。「ああ、それね。なるほど!」って人が思える何かだったり、「それ、オレも気づいてたけど、まだ言えてなかったわ!」みたいな発想を、お茶目に差し出すというか。

——「ウイット」に近い感覚?

奧山 そうかもしれません。そういう発想をカッコつけすぎずに見せたいというか。小さい頃に、MTVなどでスパイク・ジョーンズやミシェル・ゴンドリーのミュージックビデオを見ていて、ちょっとクスッとする感覚があったんです。ああいう感じでしょうか? 気づいたことを「どや!」みたいに押し付けるんじゃなく、嫌味なく、少し肩の力を抜いて、上品に仕上げたくて。

クルマのガラスを"スクリーン"として描いた「感電」

——なるほど。それが奥山さんの仕事のコアにある意識だと思うんですけど、日常の中でどうやって気づき、仕上げていってるのか。具体的な仕事のケースでうかがってみましょうか。

奧山 そうですね。たとえば、「感電」のMV(米津玄師)のお話をすると、元になるアイデアは駐車場で気づきました。停車したクルマにそのまま乗っていると、バックミラーにキスをしているカップルが映っていたんです。向こうは僕がクルマにいることに気づいていなくて。

それを見たとき、「もし、目視しようと振り返って、そこにカップルがいなかったら?」なんてイメージがふくらんできたんです。それって結構ゾワっとしますよね? バックミラーごしに見えていたはずのものが、肉眼で見ようとすると見えないとか、別の何かに変わっているとか。「感電」には、そういう展開を盛りこんでいきました。

こんなふうに想像を刺激されるときって、バックミラーにただ通行人が映るだけではダメなんです。「キスをしているカップル」という、ちょっとした非日常が日常に入ってくることで、想像が膨らむところがあって。

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