映像を撮る上で、コンセプトにあった空間デザインをすることは不可欠。ですが、ルックを決定づける「プロップ」の役割や、そのスタイリングのフローについて、しっかり意識している方はまだまだ少ないのではないでしょうか?
「雰囲気を創るもの」と思いがちなプロップは、実は想像以上に大きな意味をなすものなのです。写真に代表される「プロップスタイリング」の考え方を学び、映像に落とし込むことで、きっと映像制作の新しい発見に繋がるはず。
2021年11月30日に行われたウェビナー「ルック作りの隠れた主役 プロップスタイリング必修ガイド」では、bird and insectの林さんと、同社にてプロップスタイリングを担当されている細川瑠璃さんにをゲストに、プロップスタイリングについて基礎から応用まで実例をもとに解説して頂きました。
- Photographer / Cinematographer / Evangelist林 / Hayashi
大学院まで機械工学を学び、カメラ設計者を経てbird and insectを立ち上げ。感覚・センス・イメージなどの言葉で片付けられがちな曖昧な感覚を言語化し、誰もがクリエイティブの力を使えるような世の中にするのが目標です。
- ke shi ki Director / Prop Stylist細川 瑠璃 / Ruri Hosokawa
京都工芸繊維大学で建築・デザインを学んだ後、都内インテリア会社に入り、8年半の間、生活用品の企画デザインを手がける。そこで革素材に出会い、2016年にレザーバッグブランドke shi kiを立ち上げる。2018年よりke shi kiを夫の会社であるbird and insectの一事業部として活動を続けると同時に、写真・映像の事業部にもプロップスタイリストとして参加する。
プロップスタイリングを6分類で理解する
まずはプロップスタイリングとは何かを知り、パターン別に分類して理解するところから始めましょう。このパートは林さんが解説します。
まずは「プロップスタイリング」という言葉の定義から。
「プロップ」は、美術や小道具のことを指します。ただしその対象は幅広く、例えば僕の部屋であれば、カメラや絵、時計など、置かれているものすべてが「プロップ」です。そして、それらを「スタイリング」していく行為が「プロップスタイリング」。つまり「美術や小道具など、あらゆるものをもって空間をスタイリングすること」と言えます。
ともすると「小物を綺麗に並べること」と捉えられがちですが、それは本来のプロップスタイリングの極一部。空間のデザインを発想し、それに沿った物を作ったり、買ったり、借りたりして、空間に配置するところまでの一連の流れが「プロップスタイリング」なのです。
今回、はじめてこの「プロップスタイリング」の分類を試みました。たどり着いた結論は 「3×2=6」という分類。それぞれ説明していきます。
■空間の広さによる3分類
①テーブルトップ
・特徴:テーブルの上で繰り広げられるプロップスタイリング。ゼロから作っていけるため、表現の自由度が高い。
・例:「朝食のイメージ」…シリアル、パン、牛乳が置かれたテーブルを俯瞰で捉えたショット
②部屋
・特徴:より3次元空間を意識したスタイリングになるため、現実的な表現になりやすい。置いてある物がそこに映っている人物の所有物として認識されるため、プロップがその人物のキャラクターを表しているかのように解釈される。
・例:林さんの配信画面にカメラが映りこんでいたら「林さんはカメラ好き」と解釈される
③屋外
・特徴:プロップではない木や雲なども入り込む。所有物と所有していないものが入り混じった状態になるため、無意識にプロップを選り分けてその人の特徴を掴もうとする。
・例:キャンプのシチュエーションの場合、小物はその人物の所有物、チェアなどは元からあったものだろうと解釈される
■現実と非現実による2分類
①現実
・特徴:現実で実際に見る/起きる可能性のある組み合わせ
・例:金魚鉢の中を金魚が泳いでいる
②非現実
・特徴:見る/起きる可能性が考えにくい状態
・例:白米に連れ去られる鮭
プロップスタイリングに用いる「物」自体は、基本的にはすべて現実に存在するものです。そのため、「物」そのものが非現実的であることはほとんどありません。非現実を表現したい場合は、「白米に連れ去られる鮭」のように、現実に存在する物同士を組み合わせつつありえない状況を作り出すのが良いでしょう。
では、これらの分類に実際のプロップスタイリングの事例をあてはめてみます。
例1)テーブルトップ×現実
よく見るタイプのプロップスタイリング。この例はかなり豪華な食事の場面ですが、現実の度合いが高く、実際に起こりえる場面といえます。
例2)テーブルトップ×非現実
パンの上に謎の透明物が置いてあり、現実ではありえない状況です。
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