知れば知るほど面白いレンズの世界。「沼」と評されるほど、奥深く抜け出せない世界が広がっています。自分が望む表現にぴったりのレンズを探す方法を知りたい方や、触れたことがないレンズに興味があるという方は、すでにレンズ沼の入口に立っているのかもしれません。
Vookでは最先端の技術により生み出されたフラッグシップレンズから、サードパーティや中華レンズなど、あらゆる個性を持つレンズを忖度無しに紹介するウェビナーを3月29日に開催。その内容がまとめ記事になりました。
ゲストはメーカーを跨いで数々のレンズを愛用してきたフォトグラファー・Mokkunさん。MCにはビデオグラファーの伊納達也さんをお迎えしました。
- MOKKUN Lana Studio代表Mokkun (Lana Studio)
1987年生まれ。沖縄県出身のフォトグラファー。ポートレートを軸に写真・動画とマルチにこなす。SWPA日本部門6位を始め、その他受賞歴多数。写真系YouTuber「カメラのもっくん」としても精力的に活動している。
- inaho Film代表伊納 達也 / Tatsuya Ino
ノンフィクション・ビデオグラファーとして、コミュニティをテーマとしたドキュメンタリーフィルムの制作や、企業のCSV/CSRなどの持続可能な取り組みに関する映像制作を行う。東映シーエム株式会社で制作進行として勤務後、2014年から株式会社umariにて様々なソーシャルプロジェクトの映像ディレクションを担当。その後inaho Filmを設立し、2019年からは栃木県鹿沼市にスタジオを移して活動中。
👉ウェビナーの様子はこちらから動画でもご覧頂くことが出来ます
レンズ焦点距離ごとの特徴
レンズの焦点距離によって、作品の表現が大きく変わります。焦点距離の変化は画角、特徴、印象効果にどのような影響を与えるのでしょうか。
レンズの基本である焦点距離と、画角、特徴、印象効果の関係についてお話していきます。同じ焦点距離でもフルサイズとAPS-Cなどで画角が変わりますので、基本的に35mm換算を基準に話を進めたいと思います。
■フルサイズ換算
APS-C 焦点距離×1.5倍
APS-C(キャノン) 焦点距離×1.6倍
マイクロフォーサーズ 焦点距離×2.0倍
広角レンズの特徴
広角レンズの特徴は以下のような点にあります。
・画角を広く写し撮る
・近景は大きく、遠景は小さく写す(パース効果)
・ワイドになるほど周辺が歪む(パースペクティブ効果)
・被写界深度が深い
・ピントが合う範囲が広くなり、大きなボケを作りづらい(パンフォーカス)
広角レンズの作例
新郎新婦さんに立ってもらいました。標準レンズや望遠レンズでは奥の新郎が若干ボケてしまいますが、広角レンズは被写界深度が深いため、同じF値でも画面全体にピントが均一に合う状態になります。
広角レンズは周辺が歪むため、被写体を真ん中に置く日の丸構図が中心になります。日の丸構図は単調になりやすいのですが、この作例では周辺を活用し三角形や菱形を作り、視線を誘導するアクセントにしています。
また、周辺を囲む額縁構図と日の丸構図の組み合わせも印象的です。海や木から垂れ下がる葉っぱなど、自然を活かした構図を意識してもよいでしょう。ムービーを撮っている人はジンバルを持ちながら突っ込んだ結果、自然に額縁構図を作っていた経験がある人も多いと思います。
標準域レンズ (35mm・50mm)の特徴
標準域は35mmと50mmを指しています。人間の視野角に近く、目で見た印象に近い画角です。この2つの標準域は、次のような特徴の違いがあります。
・客観的視点は35mm、主観的視点は50mm
・情報量が多いのは35mm、余計な情報を排除するのは50mm
・ボケが小さいのは35mm、大きいのが50mm
・パースペクティブ効果があるのが35mm、ナチュラルな描写が50mm
・スナップ的な印象が35mm、ポートレート的な印象が50mm
人間がなんとなく見ている画角は35mm、集中して見ている時は50mmの画角になると言われています。35mmは広角寄りでややパース効果が残るため、日の丸構図のスナップ写真でよく使われます。一方、50mmはナチュラルな描写になるため、サイドにガツンと被写体を置きやすく、ボケ感を出せることからポートレートの撮影に向いています。
35mmレンズの作例
35mmは周辺に緩やかなパース効果が効いているので、広角レンズと同じ撮り方が使えます。日の丸構図+αの要素で、作品の構図が作れます。これはエスカレーターを使い、三角形で視線を誘導するよう意識しました。
こちらは「客観的視点で物語に誘う35mmの魔力」というタイトルを付けました。35mmは客観的に見る視点のため、すんなりと映画のような世界に入っていける感覚があると思います。24mmの広角レンズではできない一定のボケ感を出せたことで、スナップとポートレートの掛け合わせのような表現ができました。
50mmレンズの作例
35mmが客観性なら、50mmは主観性のレンズです。35mmに比べるとボケ感を出しやすく、立体感のある表現になります。また50mmは寄ったり引いたりが自由にできる焦点距離なので、とりあえず一本レンズを選ぶときには50mmを持ち出すことが多いですね。
50mmは歪みが少なく、ナチュラルで使いやすい焦点距離です。各メーカーさんが何本も50mmを出すほどの奥深さがあることから「名玉が多く沼が深い焦点距離」と評価されています。
中望遠レンズ(85mm~135mm付近)の特徴
85mmから135mmの焦点距離は、中望遠レンズと呼ばれています。ポートレートレンズと呼ばれることもあります。中望遠レンズは、主に次のような特徴があります。
・被写体との距離感がほどよく、適度な心理的距離を維持できる
・モデルの顔が歪まない自然な遠近感で描写できる
・適度な圧縮効果で、ほどよい立体感が生まれる
・必要十分なボケ感が得られる
中望遠レンズの作例
ポートレートレンズと呼ばれるだけあり、人物をフォーカスした表現が得意です。背景と切り離される表現がいいですね。「この人を見て」というようなメッセージ性がある表現ができるので、ムービー撮影にもよく使われます。
左の写真に写った階段は結構離れていて、実際には奥行きがかなりある場所でした。作品を見ると、圧縮効果で背景がグッと寄ってきているように見えます。右の写真は近景と奥行きの幅を使って人物を浮かび上がらせています。前ボケ、後ろボケといったアウトフォーカスを使い、幅のある表現を楽しめました。
👉Point
撮影に応じて焦点距離で与える印象を使い分けよう!
スーパーワイド:強調された遠近感、非現実的な印象を伝える
ワイド:状況説明的かつ臨場感があり視聴者がストーリーに没入しやすい
標準:汎用性と安心感があり視聴者の心理的障壁が解かれる
中望遠〜望遠:視聴者が映像を外から見ているような心理的距離を生み、被写体と背景を切り分け重要なシーンで注目を集める
レンズのどこを見ている?
レンズの善し悪しを調べる時には、どのような情報を参考にすればよいのでしょうか。レンズ選びに欠かせないポイントを教えていただきます。
レンズ選びのポイントはいくつかありますが、いかに色合いをはっきり表現し、高い解像度を維持できるかといった性能面は重要なポイントです。また写真に映し出される像のズレである収差の特徴もまた、レンズ選びにおいて非常に重要な要素といえます。
MTF曲線
MTF曲線とは、被写体がもつコントラストをどれだけ忠実に再現できるかというレンズの結像性能を、空間周波数特性で表現したものです。1mmあたりに何本のパターンが走ってるかにより、コントラストの再現性能と解像性能を表現します。
チャートで表されているのは、縦軸がコントラスト、横軸がセンサー中心からの距離です。数本の曲線チャートで結像性能を表現します。10本/mmの低周波はコントラスト性能を表し赤い線、30本/mmは解像性能を表し緑の線で示されます。赤線が縦軸の高い位置にあるほど、コントラストがはっきりとしたヌケのいいレンズと評価され、緑線の位置が高いほどシャープで鮮明な描写ができるレンズと評価されます。
それぞれ実線と点線の2本の線がありますが、これはコントラストと解像性能の変化はサジタル方向(放射方向)とメリディオナル方向(同心円方向)の2種類の評価を行う必要があるためです。
横軸が進むほど、画像の端の描画性能を示しています。APS-Cでは12mmくらいまでしか影響がありませんが、フルサイズのカメラに使うレンズならチャートの端まで評価しなければなりません。どちらも60%で良いレンズ、80%以上は優秀なレンズと評価されると考えてよいでしょう。
このチャートは、Sony 50mmF1.2 G Master(SEL50F12GM)のMTF曲線です。F8のときは全ての曲線がほぼ天井に張り付いていることから、非常に高い結像性能を持っていることがわかります。絞り開放時には解像性能が60%近くまで低下していますが、全体的に素晴らしく高い水準をキープしていることが伺えます。
このように、MTF曲線はレンズの性能を測る重要な要素ですが、一方でいくつもある指標のひとつでしかありません。他にもボケ感や収差、重量など評価すべき点は多くあります。また、結像性能が高いレンズが最高のレンズかというと、必ずしもそうとは言い切れません。理想としている表現によっては、あえてにじみがありフレアが多いレンズが求められる場合もあります。MTF曲線はあくまで指標のひとつに過ぎないという点は覚えておきましょう。
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