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「なぜリアルタイムに番組が見られないのか?」という疑問の解消。TVerがPLAYと手を組んで生み出した、リアルタイム配信の背景。【PLAY NEXT 2023】

株式会社PLAYが主催するイベント「PLAY NEXT 2023」が2月10日、渋谷ストリーム ホールにて開催された。本イベントは「動画はもっと進化する」をテーマに、動画配信のあらゆるニーズを網羅するプロダクト・サービスを行うPLAYが、関係各社から識者をお呼びし、今後について講演を行うものだ。

本イベントでは株式会社TVerのCOOである蜷川新治郎氏と、同社のサービス事業本部でプロダクトタスクマネージャーを務める穗坂怜氏が登壇。「TVerでリアルタイム配信を始めて1年、見えてきた課題と可能性」の講演が行われた。

本講演では、同社がいかにリアルタイム配信を手掛けるようになり、株式会社PLAYの提供する「STREAKS」を利用した配信方法についてを語っている。

ダウンロード数5500万、認知度を広げていくTVer

あらためてTVerとは、地上波TV放送の見逃し無料配信動画サービスだ。ドラマやバラエティといった番組を、リアルタイムでの放送後にオンライン上でチェックしなおせることを大きな特徴としている。

現在のところ、TVerのサービスは世間に広がっている。アプリダウンロード数は5500万、15~69歳の男女の認知度は68.2%に昇り、月間の再生数は右肩上がりだという。

順調に拡大を続けているTVerだが、昨年には再生数が横ばいになる時期も。2022年4月から10月にかけて伸び悩んでいた。

伸び悩んだ大きな理由は4月に行われたTVerのリニューアルだという。サービスを大きく改変したのだが、ユーザーの反響は芳しいものではなかった(余談ながら筆者も改変当初は使い方に戸惑った)。

蜷川氏によれば「ユーザーから𠮟咤激励をいただいた」という大変な時期で、じっくりと状況が変わるのを耐え忍んでいたそうだ。

そのようなとき、10月に川口春奈氏が主演のドラマ『silent』(制作:フジテレビジョン)が放送されると一変。大きな話題を呼んだ作品によって、ふたたび再生数は上昇傾向へ戻った。ユーザーからのクレームを直しつつ、TVerの認知度をより上げていった。

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リアルタイム配信の試み

株式会社TVer COO 蜷川新治郎氏

そのような話題作を見逃し配信でチェックできるTVerでは、昨年より地上波と同じ時間での配信も行われるようになった。特に野球の日本シリーズ全試合をリアルタイムで配信したことはトピックスと言えるだろう。

なぜTVerがリアルタイム配信を始めたのかについて、あらためて蜷川氏は説明した。

「ユーザーからすると、『いま放送されている番組をPCやスマホで見せてよ、なぜ放送終了後じゃないと観れないのか?』という感覚があったんです」と蜷川氏は語る。

なので「番組が世に放たれた瞬間に観られないとおかしい。それしかリアルタイム配信を始める理由は考えていなかった」そうだ。

そこで、いかにユーザーに楽しんでもらうかの環境づくりを考えたという。「外出していてもスマホなどでチェックしたり、若年層も部屋でドラマを観たいなど、リアルタイムで番組を観たいというニーズがあるんです」と蜷川氏は説明した。

そのようなリアルタイム配信の試みは2018年より行われていた。総務省も関わった実証実験として、「2018 FIFAワールドカップ」のロシア大会をライブ配信している。同年には民法5系列でマスター連携での配信も試行した。

さらに2020年には民法5系列で同じ時間帯での配信もテスト。同年には日テレ系列3局にて、プライム帯にてトライアルの配信を行うなど、着々とリアルタイム配信の準備を整えていた。

こうして検証を重ねる中で、リアルタイム配信の開発課題も浮かび上がってきた。

たとえばバックエンドシステムはテスト段階では外部のパートナーに構築と運用を続けていた。しかし、TVerのサービスが拡大する中で、外部に運用を任せたままでは対応のスピードや柔軟性に問題があった。

また番組配信に必要なのは広告枠だ。スムーズに違和感なく広告挿入も必要となった。特に同時接続数が増え、負荷がかかった時でも安定してCMを打てるようにすることも課題となった。

さらにリアルタイム配信ならではの機能の導入も考えられた。地上波テレビでリモコンでチャンネルを変えるみたいにできるザッピング(※)のUIや、本配信の時間から遅れても、番組の最初からチェックできる追っかけ再生といった機能の導入が求められた。

他にも放送の緊急編成に対応できるシステム構築や、サービスの信頼性を担保する監視レベルについても課題があった。

以上の課題に関して、バックエンドシステムは内製へと切り替えることでスピード感を出す対応を行う。だがそれ以外の対応ではいくつかの点で対応が現実的ではなかった。

そこでリアルタイム配信の部分にPLAYに支援を求める方針にしたという。「PLAYに依頼したのは、配信業界随一の技術力とコミット力が決定打でした」と蜷川氏は振り返った。

※ザッピング・・・テレビを視聴している際にリモコンを操作してチャンネルをしきりに切り替える行為のこと。

PLAYと共同したリアルタイム配信の構造

上図のオレンジの部分がPLAYが関わるフロー。青色がTVerの関わるフロー

こうしてTVerとPLAYが共同することで、リアルタイム配信のワークフローが構築される。続いてはその配信ワークフローについて解説された。

まず放送局プレイアウトから。番組配信時間や出演者をまとめたものをCMS(※)に送るメタ入稿というシステムを取っている。TVer側がメタ入稿を正式に承認すると、APIというソフトウェアやプログラム同士をつないでいるインターフェースを介してアプリやWebにて番組配信が承認される。

その後、放送局プレイアウトから映像のインジェストが送られ、TVerのアプリやWebにて映像と音声のストリーミングが行われるというのが、リアルタイム配信の流れだ。

※CMS・・・Contents Management Systemの略。webをはじめとするデジタルチャネルに、コンテンツを制作、編集、公開するためのソフトウェア

こうしたリアルタイム配信において、先述の「広告の挿入」と「同時接続数が増えた時の負荷」といった課題は、PLAYの提供するオンライン動画配信プラットフォーム「STREAKS」をワークフローに組み込むことによって解決が測られている。

「STREAKSはサービスの安定度と安全性に大きく貢献している」と穂坂氏、蜷川氏は評価している。

あとの課題はアクセス負荷だ。アクセス負荷がどこで発生するかを予測するのは海千山千の現場でも難しいらしい。

対策として日々のリクエスト数と負荷の状況をチェックし、負荷データを元にサーバー台数を調整して安定した稼働を目指しているという。

そこまで対策を立てていても、突如としてアクセス負荷がかかることがある。

たとえば講演で上がった『silent』のように、ドラマの1話が反響となった影響でアクセス数が前週よりも跳ね上がってしまうケースが挙げられた。

またスポーツ中継の延長のように地上波での放送終了後、TVerで中継の続きを観られるケースでも大量のアクセスがかかるという。このケースではテレビ放送終了後、瞬間的に通常の10倍ものリクエストが発生してしまうそうだ。

対策として出演者の情報や放送の枠がいつ切れるかという情報、TVer限定で観れるものかといった情報からアクセス負荷を予測するとのこと。

この予測はエンジニアだけでは難しいため、PRチームとも連携し「何が跳ねるコンテンツなのか」を社内で共有して準備していくのだという。

実現したリアルタイム配信で分かったこと

株式会社TVer サービス事業本部 プロダクトタスクマネージャー 穗坂怜氏

こうして2022年には正式に民法5系列でリアルタイム配信が開始され、今年4月には1年を迎えようとしている。

実際に配信を始めて分かったこととして「ドラマは一刻も早く観たいというニーズがある」だ。今までの地上波のテレビでは、家族と一緒に観るニーズがあったが、現在は世の中と一緒に観るニーズに変わったという。

こうした状況について、蜷川氏は「ドラマの感想がすぐに出るので、それをユーザーも味わいたい。共感を得たい思いを感じましたね」と評している。穂坂氏も「リアタイしたいって表現があるように、あるドラマはぐっとアクセスが上がります」と補足した。

特にリアルタイム配信の効果が大きかったのは年末年始だという。「通常時の配信に比べて、倍以上のユーザー数を記録しました」と蜷川氏は振り返った。

中でも若年層がTVerリアルタイム配信を利用していたそうだ。蜷川氏は「たとえば家族がリビングのテレビで紅白歌合戦を観ている一方で、スマホのTVerで他番組をチェックするという使い方をしたのではないか」と分析していた。

リアルタイム配信の今後

リアルタイム配信の今後については、蜷川氏は「ユーザー視点でのわかりやすさがもっと必要ではないか」と語った。現状ではリアルタイム配信をやっている番組とやっていない番組があり、分かりにくい点はまだ残っている。

またリアルタイム配信もテレビを「なにか面白い番組やってないかな」と、とりあえずつけるように、TVerでもユーザーの趣味嗜好に合ったものに出会ってもらうようにしたいそうだ。

蜷川氏はTikTokで趣味嗜好に合った動画がサジェストされる例を挙げ、番組もそのようになってほしいという。「TVerアプリを起動したら、何かに出会えるというのがリアルタイム配信の今後ですね」と蜷川氏はまとめる。

講演の終わりにはオンラインでの番組リアルタイム配信の環境が進んだことについて、テレビ業界全体についての環境の変化も言及された。

「いよいよテレビというデバイスは、テレビ局だけのものではないんですね」と蜷川氏は指摘。

Fire TV Stickを例に、動画配信サービスをテレビでも観られるようになったことを上げ、「TVerのテレビ対応もいつかやらないといけない」と蜷川氏は語った。その技術的な準備はPLAYとともに進めていくという。

デバイスの問題として、「3時間もスマホアプリで番組を観る人は少ない」ということで、「大きな画面を持つテレビで観ることに意味があるという、ユーザーの趣味嗜好も出てくるのではないか」と蜷川氏は予測する。TVerのテレビ対応の構想もそのあたりがポイントのようだ。

講演のまとめとして、蜷川氏は「僕らは多くの方に観てもらうことを専売特許としています」と語る。「テレビは全員が共通して何か体験するコンテンツ。テレビを担ってきた役割は情報格差などなく国民全員に楽しんでもらうことです」と述べ、今後もTVerに力を入れていく旨を語り、講演を締めた。

TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
EDIT_菅井泰樹 / Taiki Sugai(Vook編集部)

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