6月1日から、雲海酒造の主力商品の本格芋焼酎「木挽BLUE」新TV-CMとして、吉田 羊を起用した「ロックもソーダもよくばりブルー」が放映された。
CMは夕方のマジックタイム、吉田 羊が広い窓辺で夕暮れ時の景色を眺めながら、少し早めの時間から「木挽 BLUE」のロックを幸せそうに楽しんでいる様子が映し出される。
——やがて夜が深まり 赤い光 から 青い光 へ。
街の明かりが点灯し始める頃には、気分を変えて「木挽 BLUE」のソーダ割りを選ぶ。グラスに弾ける泡に黄昏時から夜に変わる空を透かすシーンを挟み、シズル感を見事に表現している。
特別な空間ではなく、日常の中で木挽BLUEと過ごす、ちょっといい1人飲みの時間を描き出しているCMだ。
撮影はソニーPCLの「清澄白河BASE」内のバーチャルプロダクション(以下、VP)スタジオが使用され、リアルともグリーンバックともちがう印象的なシーンに仕上がった。
今回は、監督・演出を担当した石黒愛氏(以下、石黒)、プロデューサーの横田祐介氏(以下、横田)を迎え、本CMのワークフローやVPだから成しえた魅力的な演出について聞いた。
▲木挽BLUE ロックもソーダもよくばりブルー篇 TVCM15秒
企画制作:博報堂+博報堂プロダクツ/CD:田中竜太/企画:中村裕子/C:山田紘也/AD:永松 綾子/AD・デザイナー:内藤 藍/Pr:横田祐介/PM:村地洋祐/演出:石黒 愛/撮影:新出 一真/照明:小林 仁/美術:堀江あすか/シズル:青木啓仁/CG:福岡二隆/VPプロデューサー:荒井勇雄/編集:入澤大志郎(オフライン)、 佐藤 仁(オンライン)/音楽:秦 陽子/MIX:大平雅之/ST:梅山弘子/HM:paku☆chan/出演:吉田 羊
15秒で2つの時間帯を描く
本CMは2023年2月頭に撮影された。1つのシチュエーションから2つの時間帯を描くという企画趣旨からVPを使った表現の可能性に挑みたいという石黒氏と横田氏の思いもあり、2人にとって初の試みであるVPを用いることとなった。
▲左から、監督 石黒 愛氏、プロデューサー 横田祐介氏。共に、博報堂プロダクツ
マジックタイムを美しく表現したい
CMの中で描きたかったのは、特別な“ハレの日”ではなく、あくまで日常のワンシーンである“ケ”だった。
ケの中で木挽BLUEと過ごす"いい1人飲み"の時間を過ごす。このコンセプトの中で、石黒監督と横田氏には「時間を忘れられる幸せを描きたい」という思いがあった。
企画を進めていく段階で最終的に残ったのが、夕焼けのマジックタイムの時間帯で飲んでいるというシチュエーションと、夜のシチュエーションを描くというものでした。
同じ部屋のシチュエーションから2つの時間帯を描きたいというのが企画としてありました。
石黒:
マンションの窓際に座り、お酒を飲んでいるというイメージは、企画の序盤から出来上がっていました。海外で見るようなシンプルな窓枠で、外の風景が切り取られてそれが絵画のように見えるようなイメージを目指しました。
窓から見える景色に引き込まれるような画づくりで、マジックタイムを美しく表現することには特にこだわりがあった。
15秒の中で夕景から夜景へと切り替わることで、時間が過ぎることを忘れて1人の時を楽しむ”ちょっと幸せな時間”を描いた。
VPでやる意味を考える
マジックタイムを描く上で、いろんな手法がありますが、VPを使うのはどうかと演出プランに移る前に相談したんですね。
横田Prは同期ということもあって、相談がしやすかった。2人とももともとVPに興味があったので、それありきで演出コンテを書いていきました。
企画当初はもちろんVP以外の可能性も模索された。VPを使わない従来の方法でマジックタイムを実現する方法は、主に2つある。
1つ目は、実際にロケを組んで撮影を行う方法。ロケ当日の日の周りがわからない状況で、短いマジックタイムを撮るのは非常にリスクがあった。
2つ目は、背景をグリーンバックで撮って合成するという手法だ。グリーンバックでは予算は抑えられるが、背景がない状態で撮影するので演出の難易度が上がる。
今回撮影では夕方の少し仕事が早く終わった気持ちや、ちょっと嬉しい時間帯に飲んでいる顔の表情、夜がちょっと深まったほろ酔いの表情のつくり方など、短いシーンの中に色々な機微を盛り込みたかった。
また、LEDウォールを使ったVPの手法は、ロケ撮影が難しいマジックタイムというシチュエーションとも相性が良かったという。
VPはグリーンバック撮影よりも予算がかかるので、「結局これだったら合成でも作れるよね」ということで却下されがち。スタッフの熱量と興味が高かったからこそ実現できた撮影でした。
プロデューサーの立場として、VPを採用する事によってクオリティが上がるなら取り入れたいと思っていました。なかなかチャンスに巡り合えていませんでしたが、今回はとてもいい機会でした。
VPは事前の準備が全て
撮影データの後からでも調整ができるグリーンバック合成などとちがい、VPでは撮影時に完成された画づくりが必要だ。そのため、VP撮影の肝は事前の準備にある。
企画決定から撮影までの時間は短かったがメインとなるマジックタイムの背景にはやはりこだわりがあった。
従来の合成では物足りない。クオリティ優先で路線変更
予算の関係で当初は、アリネガ(ストックムービー)を使って背景の景色を作ろうと思っていたんですが、スタジオに行って仮にアングルを切ってみたら、ハマってくる素材がなくて。そこから、それに合う背景を探して撮るという工程に変更しました。
ロケーションの決定には、都心までの距離や撮影スポットの高さ、日の向きと画角の関係性など様々な観点で理想を突き詰めた。
最終的には、代々木上原で早朝に朝焼けを撮り、逆再生で夕焼けを演出することになったが、ベストな朝焼け空をカメラに収めるために石黒監督とカメラマンが粘り、4日間ほど早朝の撮影を行ったのだという。
VPでやる意味に徹底してこだわる
VPを検討する上では「やっぱりこれは合成でいいのでは」という考えとは常に向き合う必要がある。VPだからできる表現を盛り込むために、チームメンバーだけでなくソニーPCLとも打ち合わせを重ね、VPでやる意味を突き詰めた。
夕景をタイムラプスで撮ったことで、夕方から夜に変わるというシームレスな表現を入れました。あとは、映り込みが合成よりもすごく綺麗に表現できるという点が、VPの活かしどころ。グラスがたくさん画面に入るように演出の中に入れるなど、検証しました。
衣装の色もプリプロダクションの段階で決定した。テストの段階で候補となる衣装の色を複数用意して検証し、衣装の色は決め打ちで臨んだ。また、今回はVPの背景が主役になるので、美術は極力シンプルにするのを心がけた。
VPはLEDウォールに背景が映るので、光源としての存在感が強いことも特徴だ。光が顔に影響するため、演者の座る角度も考える必要がある。こういった光の生かし方も、撮影前に徹底的に検証された。
LEDウォールでしかできなかったシズル感
Vook編集部@Vook_editor
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