ここではN-RAWの編集とカラーコレクション、カラーグレーディングについて触れていきたいと思います。Zモニターレビューの第三弾です。
概要編で述べた通り、N-RAWは複数のNLE(ノンリニア動画編集ソフト)で扱う事ができますが、多くの方はDaVinci Resolveの使用が前提だと思いますので、本記事でもDaVinci Resolveを使った内容にしています。
本記事は③の編集/グレーディング編ですが以下の他の記事と併せてご覧いただければ幸いです。
レビュー内容(全4部 概要/撮影/編集/マニアック編)
①概要編
②撮影編
③編集/グレーディング編(本記事)
④マニアック編
と併せてご覧いただければ幸いです。
動画作例
すでに概要編、撮影編で紹介していますが、今回お借りしたZ 8で撮影した3つの作例をこちらでも紹介します。
作例Vol.1
作例Vol.2
作例Vol.3
作例Vol.4
いずれも時間をかけず、グレーディングと呼べないほどシンプルに現像し色を触り編集したものです。
筆者の編集環境
Nikon Z 8のN-RAW素材の編集・グレーディングを行ったPCは以下の環境です。Mac Studio 2023のM2 Maxモデルで、一般的な事務用PCよりは高価ではありますが、メモリは標準の32GBなので動画編集マシンとしては決して贅沢な環境ではありません。
また、編集やカラーグレーディングを行ったソフトは前述の通りDaVinci Resolve STUDIO 18.6になります。
お断りしておく点として私の表示環境は
・FHDモニタx2台
・プレビューモニター4K
の計3台のモニタで編集・グレーディング作業を行っています。
なので8K素材を扱うからと言って8Kの再生環境があるわけではありません。



視聴環境が4Kなのに8Kで撮影する意味があるかと疑問に思われる方もおられるかもしれませんが、
・8Kオーバーサンプリング効果による超高精細4K映像が制作できる
・8Kからの切り出しは構図の再構築などのポスト処理の自由度が高い
・将来の8Kパネル導入時に備えた編集
など、8K撮影する意味は多分にあります。さらに8K映像は写真に切り出したとしても大伸ばしできる3600万画素相当の情報量をもっていますので、撮影した映像を写真プリントとして使いたいという場合にも有効です。
ストレージに関しては作業用のSSD2TBをメインに使用しました。編集が完了した時点で、大容量のHDDにバックアップを取り、SSDを消去する流れとなります。
DaVinci Resolve STUDIOでの設定
DaVinci Resolve STUDIOでのグレーディング環境の設定はいくつかありますが、私の環境を説明いたします。

DaVinci ResolveはN-RAWの現像処理から編集、カラーグレーディングまでを一本で完結できるだけでなく、モーショングラフィックや音楽やナレーションの調整を行うMA(マルチオーディオ)の機能を統合したソフトながら安価であり、N-RAW素材を最大限活かすならばこれ一択といえるほどのものです。
プロジェクト設定
基本的には下記の動画の後半で紹介されている設定のままです。
引用:The Next Generation Video Tools – Working with N-Log and Z 9 by Nikon Asia
基本的に今回はプロジェクトの設定として
・DaVinci YRGB Color Maneged
を使用しています。この設定を行うとDaVinci Resolveはファイル(N-RAW)に埋め込められたメターデータに応じて出力カラースペースに応じた出力を自動的に行ってくれるものです。
他にもグレーディングのノードに純正LUTを当てる方法などもありますが、今のところこの方法が一番わかりやすく失敗の無い方法として採用しました。
出力カラースペースはMacの場合多くの方のチュートリアルでRec.709-Aを推奨されていますが、これでどんな場合でもこれ良いのかは正直現段階で私自身答えが出ていません。私自身2ヶ月前までWindows環境で書き出しを行っていたということもありこの部分は自信がないない所です。少なくとも書き出し後のファイルがMac上でプレビューした際やYoutubeにアップした際にMacで視聴する分において大きなトーンのズレが無いことは確認をしていますが、個人的に興味があるところなので今後検証をしてみたいところです。
RAWパレットによる現像設定
DaVinci ResolveでのRAWファイル現像は、カラーページのRAWパレットで行うことができます。
一番左のカラムでは
・レンズの歪曲補正(設定できないレンズもある)
・周辺減光補正
の2つが可能です。

この2つは通常他の動画のRAWファイルでは出てこない設定ですのでN-RAWのために実装されているものです。なお、今回使用したレンズのうちNIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRだけがLens Distortionの設定が可能となりました。NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sに関してはボディ内部で歪曲収差補正がなされていて、補正後のデータがRAWに焼き付けられている可能性もあります。と言うのも、RAWで撮影した場合と、通常のH.265などのコーデックで撮影した場合の画角は寸分違わず同じだったからです。これが本当であればかなり「手間が省ける仕様」と言えます。
周辺減光補正に関してもデフォルト値がレンズや画角によって設定されている様ですが、やや注意点があります。本件に関しては最後の「マニアック編」で解説していますが、撮影した露出状況によっては若干不自然な結果を生む可能性がありますので、カラーコレクション・グレーディング時はデフォルト値が設定されているからと言って安易にLens Vignetteをそのまま適用することは避けた方がいいかと思います。
次にRAWパレットの右側のカラムの部分です。

・色温度
・ティント
・露出
・シャープネス
・ハイライト
これらはスチルの現像ソフトでもお馴染みのパラメータかと思います。普段H.265/264でグレーディングする際に使われるプライマリーパレットで色温度やティントを調整するかと思いますが、RAWパレットでは高精度にカラーバランスを保ったまま調整が可能になります。

グレーディングに関して
N-RAW(階調モード:N-Log)に関してはDaVinci YRGB Color Manegedを設定した時点でRec.709への変換が完了していますので、そのままでも美しい映像が得られます。色を使っての演出が不要なケースはそのまま書き出してもなんら問題ないケースがほとんどです。
ただし、その映像はややスチルのトーンを感じさせるものであり、少し硬い印象をうけるものです。それらを少し軟調にする処理を共通して行っています。映画調に見せたかったVol.3ではハイライトを抑え気味にしつつ、ノイズを気にしながら暗部の締まりを緩くするように調整しています。

また、グレーディングに関しては体勢が高い事がわかっていますので機会があれば、今後N-RAWを使った実験的なグレーディングを行いつつ記事にしたいと思います。
作例でのグレーディング
実は作例Vol.1、Vol.2はほとんどグレーディング作業は行なっていません。というのもZ 8で撮影したN-RAWが単なるRec.709変換でどんな画が撮れるのかをお見せするのが目的の一つですので比較的画(絵)作りに関しては大した作業は行なっていません。

ただし、RAWパレットで行える部分に関してはカット毎に露出、ホワイトバランス、シャープネスなどのパラメータ調整を行なっています。
要はRAWパレットだけでほぼ完成させている動画になります。
使いたいクリップを並べた際に、まず明るさの調整をする必要がありますが、RAWパレットの露出を調整するだけで綺麗にトーンが収まるのがRAWで作業する圧倒的な利点です。概要編、撮影編でも触れていますが、私は多くのケースで露出をかなり明るめに撮影していますので、この露出調整がすぐに終わる点が圧倒的に「ラク」なのです。

作例Vol.3に関しては先の作例Vol.1、Vol.2に加えて映像の雰囲気に馴染ませるためにビネット処理を行いました。レンズの特性以上に周辺減光を強めていますので、レンズの作例の観点としてはご覧いただかない方が良いかと思います。

また、より軟調に見せるためにトーンカーブ調整を主に行っています。
ノイズリダクションに関して
ノイズリダクションの必要性
RAWのクリップを等倍で再生するとわかりますが、RAW動画は比較的ノイジーです。一方H.265/H.264やProResのN-RAW、ProResRAW以外の圧縮コーデックはカメラ内部でノイズ処理が行われています。階調モードISO感度にもよりますが、いわゆる通常撮影に比べてノイズ処理が映像品質を高める上で必要になってきます。ISO2000以上ではよほどオーバー露光で撮影&現像時マイナス補正しない限りノイズ感が出ます。ですが、そのノイズの先に見えるディテールは非常に豊かです。ノイズ処理は少なからず必要になるN-RAWですが、ある種ディテールとノイズの残し具合はユーザーにゆだねられています。

ノイズリダクションの設定
ノイズリダクションの設定は大きく2つ存在します。一つは時間的ノイズ除去、もう一つは空間的ノイズ除去です。
時間的ノイズ除去はフレームに跨って解析を行いランダムノイズを除去するアルゴリズムになります。
空間的ノイズ除去は1フレーム内でノイズを解析して除去するスチルのノイズ除去をフレーム毎に適用するものです。
後者に比べて前者はメモリを消費しやすく、処理も重いことから私が使うケースは稀で、今回の作例も後者の空間的ノイズ除去のみでノイズリダクションを行いました。
Z 8ではISO2000以上の高感度撮影や暗部のレベルを極端に持ち上げる様な処理を行った場合はノイズリダクションを強めにかける必要があります。もちろん、どこまでノイズレベルが許容できるかは個人の主観であったり、再生する環境(Youtube/Vimeoなどの再エンコードが前提のネット視聴、再エンコード無しでの上映)に依存します。データレート(ビットレート)が高いまま視聴、上映ができるのであればノイズリダクションは少し控えめに設定しても問題ない事が多いという認識です。
Youtubeなど再エンコードが前提の視聴環境であれば、再エンコードの際にブロックノイズの発生原因となるため、NEL上でのノイズ処理は行ったほうが良いと思います。
Youtubeにアップロードした作例①のノイズリダクションの設定はISO2000であれば概ね輝度/クロマ共に14あたりに設定しました。もう少しあげても差し支えありませんが、極端にこの数値を上げるとディテールが失われていくので今回の映像に関してはこの程度が妥当と判断しました。
ノイズリダクションと再生パフォーマンス
N-RAWに限ったことではありませんが、ノイズリダクションは再生・書き出しのパフォーマンスに大きく影響します。N-RAWは非RAWコーデックとは異なりカメラ内部でのノイズリダクションが適用されないため、高感度領域ではノイズリダクションが必要になるコーデックです。すなわち再生パフォーマンス・書き出しパフォーマンスがN-RAWを運用していくために重要なファクターと言えます。
ここではN-RAW8K60p素材を8K24pタイムラインに配置した場合の再生パフォーマンスを調べてみました。一通りグレーディングを行ったクリップに対し、ノイズリダクションの設定は空間的ノイズ除去を速度優先で適用しています。
この場合の再生パフォーマンスを調べてみます。

ノイズリダクション適用時再生フレームレート
プロキシ解像度 フル:平均8.5フレーム
プロキシ解像度 1/2:平均18.5フレーム
プロキシ解像度 1/4:全クリップほぼ23.976フレーム

Z 8では軽量なプロキシメディアを生成する機能がありますが、私の環境で8K24p/30pタイムラインで映像を制作する上においてはカメラ本体のプロキシメディアはほぼ必要がないと感じました。実際、今回の作例を制作する上ではプロキシ解像度1/4の設定で編集を行いました。
また、高解像度で映像を確認したいのであれば一時的にノイズリダクションをOFFすれば4K解像度にてほぼコマ落ちなく再生できます。
ノイズリダクションOFF時再生フレームレート
プロキシ解像度 フル:平均15フレーム
プロキシ解像度 1/2:概ね23.976フレーム
プロキシ解像度 1/1:全クリップ23.976フレーム
なお、グレーディングはクオリファイアーやマスクは多用せず、比較的シンプルにプライマリーだけで完結している状態です。よって複雑な処理を行った場合は上記よりも再生パフォーマンスが落ちる可能性はあります。そのため、是非次の節を参考にしてサンプルをダウンロードしてご自身の行うグレーディングにPCの処理が耐えられるかを確かめる事をお勧めします。
自分のPCがN-RAW再生・編集に耐えられるかを確認する
N-RAWはRAWながら比較的動作が軽快なRAW動画コーデックです。ファイルサイズこそ大きいですが、デコードの負荷は比較的低いと感じました。ですが、それは環境に依存するもので、かつその感想は私の主観でしかありません。カラーグレーディングを行った際の再生パフォーマンスなどを含めると実際に自分の環境でパフォーマンスを確認するより他はありません。
そこで、下記のサイトよりN-RAWのサンプルをダウンロードしてご自身の環境が再生・編集・グレーディングに耐えられるか否かを確認することができます。

グレーディング耐性に対するインプレッション
これは撮影編でも述べていますが、露出を±3段ほど変更するのであれば平気なRAWですので当然グレーディング耐性も高いわけです。特にトーンカーブをかなり弄ったとしても破綻のない画が得られるのはRAWならではと言えます。また、ホワイトバランスを色温度とティントで変更したとしてもカラーバランスを保ってくれるのも「RAWならでは」の特権です。RAWでなければホワイトはターゲットに合わせられたとしても全体的なカラーバランスは崩れる事が多いのでやはりRAWはグレーディングをはじめるまでの事前処理が圧倒的に楽なのです。
その代わりデータ量はかなりのものになります。
よって長尺の映像をRAWで撮るというのはメディアコストに響いてきます。よってRAWは短いクリップを繋ぎ合わせるようなショート動画でとことんグレーディング作業を行える作品と非常に相性がいいと感じます。
ISO感度に対する耐性
なお、高感度耐性に関して少し触れておきます。高感度耐性は感度を上げた際のメインとなる被写体の明るさの状況によって許容できる感度が大きく変わります。
つまり感度を上げて十分明るくなる様な一様光が画角に収まる状況であれば高感度で撮影してもノイズが目立ちにくく、画角全体に薄明かりが広がる様な被写体であれば高感度に対してノイズが浮きやすい状況になります。つまり、ISO感度に対する耐性と言うのは被写体に大きく依存します。
ノイズ処理がカメラ内部で行われないN-RAWの場合、前述の通りISO2000以上では後処理によるノイズリダクションの必要性があると記載しましたが、概ねISO4000くらいまではノイズリダクションの併用でディテールも残りクリーン映像を得る事ができると感じました。
また、下記のようにある程度被写体の照度が確保できるような状況ではISO6400でも問題なく使用できる印象です。

書き出しのパフォーマンスと気付き
Mac STUDIOでの書き出しテストを行なっていた時に気付いたのは、書き出しはH.264よりもHEVC(H.265)の方が速いという点です。

Mac STUDIO以外の環境の方は書きだし速度に不満がある場合は、エンコード設定を複数試してみるとよいかもしれません。
尚、Mac STUDIOを使っても8K映像のノイズリダクションやPNG合成を含んだ書き出しはかなり負荷が高く、概ね6fps以下の書き出し速度となります。つまり8K24pで4分の映像を書き出したい場合は、その4倍の16分以上の時間がかかる事になりますが、8Kが4Kの4倍の情報量を持っていることを鑑みるとそれでも結構速いという印象を持ちました。

N-RAW編集/グレーディング編のまとめ
N-RAWは、広く普及しているRAWフォーマットBlackmagic RAWに比べてディテールが豊富であると感じました。これは実際には同じ解像度をもつ両コーデックを比較したわけではないので、あくまで感想と捉えていただければと思います。
両者ともホワイトバランスや露出の調整の自由度が高く利便性の高いコーデックです。私の推測ですが、後者はカメラ内でディベイヤー処理まで部分的に行う「半生のRAW」に対し、N-RAWは「生のRAW」という特性の違いがディテール再現力の高さとして現れているのかもしれません。
N-RAWの現像はスチルの現像を行うが如くシンプルに行えるので 、 編集環境さえ揃えばスチル撮影をメインにしているカメラマンの方も扱いやすいものだと思います。
以前は、スチルのカメラマンから聞かれた言葉として「動画はスチルの画質に大きく劣る」と言ったものがありました。ですが、それらは完全に過去のものです。スチルと同等のダイナミックレンジを有しながら解像度、フレームレートも十分すぎる8K60pのN-RAWはスチルのユーザーにこそ挑戦してもらいたいと思うものです。
もちろんファイルサイズが大きい、PCの負荷が大きい、編集に時間がかかるという部分はスチルの様にいかないと思いますが、クオリティはスチルに劣るものではありません。被写体をスチルで撮るついでに動画でも残せばそれは立派な映像作品となる可能性を秘めていますし、8KRAWは新たな映像の世界を誘ってくれるものだと思います。
先にも述べた通りN-RAWで動画撮影する場合の利点は、撮影編でも述べたように、露出を変更したとしてもトーンを維持することができる点です。RAWで撮影すると「高画質な映像が撮れる」と思われがちですが、それはある意味正しく、ある意味間違っています。高精度にトーンを保った状態で露出を変更したり、トーンを高精度に変更したい場合においては画質を担保したままそれらができるので「高画質」であると言えます。そのRAW収録を内部収録という形で実現したZ 8は非常に素晴らしいと言えます。
sumizoon@SUMIZOON
一眼動画黎明期より動画撮影にハマって今に至る 映像好きのサラリーマンです。 STUDIO SUMIZOONの人 https://www.youtube.com/user/sumizoon
コメントする