こんにちは。映像やデザインを手がけるクリエイティブスタジオ、株式会社IDENCEの駒井です。
実写映像の監督・撮影・カラーグレーディングを担当しています。
今回は、そんな僕がDavinci Resolveの隠れ(?)便利機能、HDRホイールの魅力を、実例を交えながら皆様にお伝えします。
謎の新機能 HDRホイール
2021年にDavinci Resolve17のアップデートと共にHDRホイールが登場して3年が経とうとしていますが、「これまでのプライマリー/Logホイールと何が違うのか?」「パネルがやけに複雑でよくわからない」と、あまりHDRホイールを使わずに来た方も多いのではないでしょうか?
実は僕もその一人だったのですが、HDRホイールのパワーを知ってからは毎日その偉大さに平伏しながらカラコレをする日々です。
何がすごいのか
HDRホイールのすごさは、物理的に正確という点にあります。
これにより、
・高精度な露出/WBの補正
・露出段数ベースの露出補正
・スチル用編集ツールのようなハイライト、シャドー補正
などの操作を、既存のツールよりもより早く正確に行うことができます。
どうしてこれが可能なのかというと、
それはHDRホイールがカラースペースアウェアなツールだからです。
これは、例えば、LUTを使う際に、素材のカラースペースやガンマ(rec709,Log C4,Slog-3,etc..)にそれぞれ対応したLUTを使うのと同様に、露出やホワイトバランスの調整の際も、異なるカラースペース・ガンマにそれぞれ対応した方法で調整するということです。
これにより、既存のツールでは難しかった、
高精度で実際のカメラの挙動に忠実な調整や、
何より、直感的な操作での調整が可能になります。
実演:高精度な露出、WBの補正
一般的に、Logガンマの素材の全体的な露出・WBの補正には、オフセットを使うのがメジャーですが、HDRホイールのglobalを使用することで、より高精度に露出・WBを調整することができます。
今回は、露出アンダーな素材や色温度の設定を大きく間違えた素材を、オフセットとHDRホイールで調整し、それぞれどのような結果になるかご紹介します。
例1:露出アンダーな素材の補正
適正露出/適正WB
2段アンダー
HDRホイールで補正
オフセットで補正(暗部が浮いてしまう)
例2 色温度の補正
適正露出/適正WB
@2500K
HDRホイールで補正
オフセットで補正(暗部に補正がかかりすぎる)
HDRホイールの方が自然な結果に
ご覧のように、オフセットを使った補正では、シャドウ部分が浮いてしまったり、意図しない色かぶりが生まれてしまっているのがわかります。
それに対し、HDRホイールを使った補正では、カメラ内での調整かのような自然な補正ができています。
この差は補正の量が大きいほど顕著になるため、露出・WBを大きく変更する必要がある時に特に有効です。
※オタク向け
なぜこのようなことが起きるかというと、LogガンマのToeと呼ばれる暗部のロールオフと、オフセットの挙動に原因があります。
toeと言うのは、Logガンマのシャドウ部に設定されている信号のロールオフのことで、これがあることで従来のフィルムスキャンと似た挙動になり、フィルムのスキャンに慣れているカラリストが自然に作業できるようになっています。
しかし、一般的にLogフォーマットの映像の補正に使われるオフセットの操作はデータを一様に上下(オフセット)させますが、その際に、Toeの部分のデータとそれ以外の部分で必要な操作量が異なることに対応できないため、画像のような暗部の浮き(Toe部分が必要以上に明るくなってしまっている)や、シャドウの色かぶり(Toe部分に必要以上の逆補正がかかってしまう)が起きます。
HDRホイールであれば、適切なガンマ、カラースペースを設定することで、toeを含めたガンマカーブの特性に合わせたデータの操作が自動で行われ、暗部に対する追加の補正が不要になります。LGGを使うことでも暗部の階調を保ちつつ露出調整することはできますが、その場合前後のショットとのマッチを気にしつつ作業する必要があります。
※ACES CCのようなToeを持たないLogガンマでは、オフセット使用時のシャドウ部のズレは起きません。
便利ポイント2:スチル用編集ツールのようなハイライト、シャドー補正
HDRホイールでは、スチル用編集ツールに近い感覚でハイライト、シャドー補正をすることができます。
これは一見従来のLogホイールでも出来ることのように思われるかもしれませんが、実はそうではありません。
Logホイールの場合
Logホイールは、閾値を軸に、それを超える値を折り曲げるように調整するため、スチル編集ツールのハイライト・シャドウ補正の感覚で使ってしまうと、意図しないコントラストの低下や黒浮きなどが発生してしまいます。
HDRホイールの場合
それに対して、HDRホイールは、閾値を超える値をオフセット=コントラストなどに影響しない形で調整出来るため、より自然な形で調整が可能です。
さらに、「ノーマルを基準に、〇段オーバー/アンダーな範囲」と言うように、より細かく補正することも可能です。
~実践編~
ここまで読んでHDRホイールいいかも?と思った方向けに、簡単にHDRホイールの使い方をご説明します。
使う前に:カラースペースの設定
先述のように、HDRホイールの強みはそれぞれのカラースペース/ガンマに対応した補正にあるため、
普段お使いのカラーマネジメントの設定に合わせて、いずれかの方法でHDRホイールメニュー内のガンマ/カラースペースの設定が、作業ガンマ/カラースペースと一致するように設定をする必要があります。
今回は、Slog3/SGamut3.cineの素材なので、そのように設定します。
ただし、これはお試し用の方法で、右上メニューからの設定はこのクリップのこのノードのみに適用されており、毎回設定し直すか、このノードをパワーグレードに保存するなどの手順が必要になるため、常用にはあまり向いていません。
おすすめ設定
個人的には、タイムラインカラースペースを設定することで、HDRホイールのメニューはデフォルトの「Use Timeline」で問題なくなるため、そのようにしています。
画像:Davinci YRGBの場合(今回は素材に合わせています)
画像:RCMの場合(任意のタイムラインカラースペース)
おすすめパネル設定
HDRホイールは、デフォルトではこのようにいくつものゾーンが表示されており、パネルが混雑しています。
これは、暗部明部ともに3段階以上のゾーンに分割されているためです。
画像:デフォルト状態
こんなに多くのゾーンを使うことはあまりないので、僕はデフォルトでダーク(-1.5stop以下)/ハイライト(-1.5stop以上)/グローバル(全体)の3つのみが表示されるようにしています。
画像:設定後
右上のメニューから bank global with color wheelsを有効にすることでglobalが左寄せになり、minipanelのgainリングを使用して操作できるようになります。(OFFSETモードを有効にすることでも操作できます)
終わりに
HDRホイールを気に入っていただけた方は、ぜひご家族、ご友人にその素晴らしさについてお伝えください。
補足
※簡略化のために本文では割愛してしまった機能などについての補足をとりとめなく書くコーナーです。
・HDRホイールは、BaselightにもBase Gradeと言う同様の機能があります。活用法などは共通する部分もあるので、興味がある方はBase Gradeに関するドキュメント、映像もご覧いただくのがおすすめです。
・HDRホイールのコントラストは、プライマリーのコントラストとは違い、18%グレーがピボットである。リニアである。RGBではなく輝度である等の違いがあります。
・HDRホイールの色温度,ティントの調整にはChromatic Adaptationの技術が組み込まれているため、プライマリーのtempやオフセットとは挙動が異なります。
・B/Ofsと言う項目はブラックオフセットという機能でフレアやフィルターワークなどで影響された黒レベルを補正することができます。(BaselightではFlareと呼ばれています)
・RAW/リニアの素材はリニアなデータなためそもそも露出、WBがRAW設定やゲインホイールから高精度に調整できるためあまり恩恵がないかもしれませんが、Log素材でもRAW同様の高精度(調整の効果自体に関して)の調整ができるのがHDRホイールの強みです。(HDRホイールはリニアにも対応しています)
・このほかにも様々な特長や機能があります。詳しくは公式のドキュメントなどをご覧ください🙇♂️
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